男性ホルモン(テストステロン)の減少がED(勃起不全)に深く関与していることが、近年の研究によって明らかになっています。
加齢やストレス、生活習慣の乱れなどが原因でテストステロンが低下すると、性欲だけでなく、勃起機能、体力、精神面にもさまざまな影響が及びます。
この記事では、「男性ホルモン 不足 ED」の関係を科学的根拠をもとに解説し、改善のための具体的な方法を紹介します。
1. 男性ホルモン(テストステロン)とは
テストステロンは、男性ホルモンの中でも主要な役割を果たすホルモンで、
主に精巣で分泌されます。20代をピークに徐々に減少し、40代以降は年間1%ずつ減少するといわれています。
テストステロンには以下のような作用があります。
- 性欲(リビドー)の維持
- 勃起機能の調節
- 筋肉量や骨密度の維持
- 精神的な活力の維持
- 脂肪代謝の促進
これらの働きが低下することで、性機能障害やメンタル面の不調が現れやすくなります。
2. 男性ホルモンの不足とEDの関連
2-1. 勃起のメカニズムとテストステロン
勃起は、性的刺激による脳の興奮が神経を通じて海綿体へ血流を増加させることで起こります。
テストステロンはこの一連の過程に深く関わっており、十分なレベルがないと海綿体平滑筋の弛緩や血管拡張が不十分になります。
研究データ:
以下の研究で、低テストステロン血症がEDの有病率を高めることが報告されています。
Wu FCW et al. European Male Aging Study (EMAS)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18426875/
この調査では、総テストステロン値が8 nmol/L未満の男性でEDの頻度が有意に高くなると示されています。
2-2. 性欲低下と心理的ED
テストステロンが減少すると、性欲自体が著しく低下します。
その結果、性的刺激への反応性が鈍り、心理的な要因も重なって勃起に至らない「心理性ED」が併発するケースも少なくありません。
3. テストステロンが不足する原因
男性ホルモンの低下には様々な要因が関わります。
加齢
40代以降、テストステロンは自然に減少します。
肥満・糖尿病
内臓脂肪が多いと、アロマターゼという酵素によってテストステロンがエストロゲンに変換され、血中濃度が低下します。
慢性ストレス
コルチゾールの慢性的な上昇はテストステロン分泌を抑制します。
睡眠不足
深いノンレム睡眠が不足すると、夜間のテストステロン分泌が阻害されます。
飲酒・喫煙
過度の飲酒や喫煙も、男性ホルモンの分泌に悪影響を与えます。
4. 男性ホルモン不足の症状
EDのほか、以下の症状が同時に現れることが多いです。
- 性欲減退
- 朝立ちの減少
- 疲れやすい
- うつ症状
- 集中力低下
- 筋力低下
- 体脂肪増加
これらを総称してLOH症候群(加齢男性性腺機能低下症候群)と呼びます。

5. ED治療とテストステロン補充療法
5-1. PDE5阻害薬
ED治療薬(シルデナフィル、タダラフィルなど)は、血流改善を目的とします。ただし、テストステロンが極端に低い場合は十分な効果が得られないことがあります。
5-2. TRT(テストステロン補充療法)
近年、低テストステロンに伴うED改善に対しTRTが注目されています。
研究データ:
Corona G et al. Testosterone supplementation and sexual function: meta-analysis
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20410134/
このメタ解析では、TRTによって性欲と勃起機能が有意に改善することが示されています。
補充方法:
- 筋肉注射
- 経皮ゲル
- 経口薬
※日本では主に注射剤が用いられています。
6. 男性ホルモンを維持する生活習慣
EDの根本改善には生活習慣の見直しが重要です。
十分な睡眠
7時間以上の質の高い睡眠を確保する。
筋力トレーニング
週2回以上の筋トレがテストステロン分泌を促進します。
バランスの良い食事
亜鉛・ビタミンD・オメガ3を豊富に含む食品を意識する。
禁煙・節酒
テストステロン代謝の正常化に繋がります。
ストレスマネジメント
マインドフルネスや適度な趣味が有効です。
7. ここまでのまとめ
テストステロンの低下は、性欲減退やEDの重要なリスク因子です。
加齢は避けられませんが、生活習慣の改善や必要に応じた医療的アプローチで十分に対処可能です。
勃起不全が気になる方は、早めに泌尿器科や男性更年期外来に相談することが大切です。
健康的な生活と医療サポートを組み合わせて、充実した性生活とQOLの維持を目指しましょう。
8. 男性ホルモンと心血管疾患リスクの関係
テストステロンは性機能だけでなく、全身の健康に重要な役割を担っています。
低テストステロンは以下の疾患リスク上昇と関連が報告されています。
- メタボリックシンドローム
- 2型糖尿病
- 動脈硬化
- 骨粗しょう症
研究データ:
米国の観察研究によると、低テストステロン値の男性は心血管イベント発症率が高く、死亡率も増加する傾向が確認されました。
Khazaei M et al. Testosterone Deficiency and Cardiovascular Risk
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31141287/
このように「EDは単なる性機能の問題ではなく、男性の健康リスクの警鐘」であると認識されるようになっています。
9. ED治療薬だけでは不十分なケース
PDE5阻害薬(バイアグラなど)は血流を増加させるだけの作用です。
もしテストステロンが極端に不足していれば、薬を服用しても下記の問題が残ります。
- 性欲の著しい減退
- 勃起までの時間が長い
- 勃起維持が困難
- 治療効果のばらつきが大きい
そのため、ED治療を行う際は、ホルモン検査を併用して総合的にアプローチすることが推奨されています。
10. TRT(テストステロン補充療法)の注意点
TRTは非常に有効な治療ですが、全ての患者に適応できるわけではありません。下記のリスクに注意が必要です。
- 前立腺がん既往歴
- 重度の心不全
- 多血症(赤血球増多症)
- 重度の睡眠時無呼吸症候群
治療を希望する場合は、泌尿器科専門医による精査が不可欠です。血液検査・PSA値測定・超音波検査などを行い安全性を確認します。
11. 患者体験事例
事例:50代男性(会社員)
「40代半ばから朝立ちが減り、ED治療薬を試したものの効果が今ひとつでした。
専門外来で血液検査を受けたところ、テストステロンが基準値以下で、TRTを併用することに。
3ヶ月ほどで性欲も戻り、薬の効きも安定しました。
もっと早く相談すれば良かったと実感しています。」
このように、ED治療薬単独では限界があり、ホルモン補充がカギになるケースも多いのです。
12. よくある質問(Q&A)
Q1:テストステロン補充療法を始めると、一生続けないといけませんか?
A:一生継続する必要はありません。一定期間補充することで体調が改善し、その後休薬するケースもあります。ただし、再び低下した場合は再開が必要です。
Q2:サプリメントや漢方薬で男性ホルモンは増やせますか?
A:亜鉛・ビタミンD・マカなどを含むサプリは補助的な役割に留まります。著しいテストステロン低下には医療的な補充が必要です。
Q3:ED治療薬とTRTは併用できますか?
A:はい。多くの場合、併用することでED治療薬の効果が増強されます。ただし、医師の指導のもと調整が必要です。
13. 最新の研究動向とテストステロンの可能性
近年、テストステロン補充は単なるED治療を超え、以下の研究が進んでいます。
- 筋肉量増加による転倒予防
- 認知機能改善
- 抑うつ症状の軽減
Shores MM et al. Testosterone and Depression
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21764772/
精神面と身体面を同時にケアする「男性の統合的ヘルスケア」が注目されています。
14. 男性ホルモンとEDに向き合うために
もし以下のような症状が重なっている場合、単なる加齢ではなくテストステロン低下の可能性が高いです。
- 朝立ちが減った
- 勃起が持続しない
- 性欲が減退した
- 疲労感や無気力が強い
「恥ずかしい」「年のせいだから仕方ない」と放置せず、一度ホルモン検査を受けることをおすすめします。
15. まとめ
EDは単に性生活だけの問題ではありません。
男性ホルモンの不足が原因であれば、健康全体に影響が及ぶ「警告サイン」です。
- PDE5阻害薬だけで効果が不十分な方はホルモン検査を
- 生活習慣改善と併行した治療が重要
- 泌尿器科専門医への相談を早めに行う
「男性ホルモン 不足 ED」という視点で正しく理解し、治療・予防を進めることが、人生の質を大きく左右します。











