はじめに
近年、ED(勃起不全)に悩む男性は増えており、自分で気づく第一歩として「セルフチェック」が非常に重要です。早期発見・早期対応により、QOL(生活の質)の改善だけでなく、動脈硬化や糖尿病など潜在的な健康リスクの発見にもつながります。本稿では、経験豊富な筆者が専門性を持って「セルフチェック」の方法・受診の目安・具体的対策までを包括的にまとめました。
1. EDとは何か?(定義と原因を整理)
- EDは、「3ヶ月以上にわたり、性交に十分な勃起を得られない状態」と定義されます
- 主な原因には、内因性(血管・神経・ホルモン性)と心理的要因(ストレス・不安)があります
- 約30%が心理的因子、70%以上が身体的要因とされます。
2. なぜセルフチェックが大切か
- 米国マサチューセッツ加齢男性研究(MMAS)では、単一の質問による自己評価がI IEFや他の尺度と高い相関(r=0.71~0.78, P<0.001)を示し、簡便なスクリーニング法として有効とされました
- また簡易Erection Hardness Score(EHS)も、臨床試験での信頼性・妥当性が確認されています
3. EDセルフチェック10項目(質問リスト)
下記項目を「セルフチェック」として、段階的に確認してください(過去3ヶ月間を対象に回答):
- 朝や夜間、無意識に自発的勃起があるか?
- 性交を試みた際に、十分な硬さの勃起を得られるか?
- 勃起を維持できる時間はどの程度か?
- 勃起の硬さをEHS(0〜4)で評価すると?
- 勃起や性交に対する自信は?(例:I IEF‑5 Q15)
- 勃起や性交の際、不安や緊張を感じる?
- 日常生活(運動・睡眠・食事)に最近大きな変化があるか?
- 喫煙・飲酒・薬剤(特に抗うつ薬・降圧薬)を常用しているか?
- 糖尿病・高血圧・心血管疾患などの既往・リスクはあるか?
- 精神的ストレスやうつ傾向はないか?
- 性行為への満足度はどうか?(例:I IEF評価)
- 勃起の途中で萎えてしまうことがあるか?
4. チェック結果の見方とセルフ判定の目安
- EHSスコア:3(性交には十分だが完璧ではない)、4(完全に硬い)なら一般的に良好。ただし継続性に注意
- 朝勃ちがない+自己評価で中等度以下の場合、器質的EDの可能性高し。早めの受診を検討。
- I IEF‑5の点数が5~7点など重症域なら専門受診の目安。MMASの単一質問でも、重症セルフ報告は臨床的EDと高い一致率(likelihood ratio ≈ 8.6~12.7)
5. 受診の目安
以下に該当する場合は泌尿器科・内分泌科・性機能外来など専門医受診を推奨:
- セルフチェックでEHSが低スコア(0〜2)が多数
- 朝勃ちや夜間勃起が皆無
- 飲酒・喫煙・薬物などリスク因子あり
- 糖尿病・高血圧・脂質異常の管理状況不良
- 性行為への不安、ストレス、うつ症状がある
6. 医師による診断で用いられる検査・評価
- 問診・既往歴:性機能、生活習慣、服薬歴
- 身体診察:ペニス・睾丸・前立腺・血流感覚
- 実験的検査:ホルモン値、血液・尿検査、ドプラー超音波
- 心理評価:うつ・不安のスクリーニング、必要に応じて性専門カウンセリング
7. 初期対策とセルフマネジメント
① 生活習慣改善
- 有酸素運動(週150分以上)、筋力トレーニング、体重管理
- 喫煙・過度な飲酒・肥満の改善がEDと関連する報告あり

② メンタルヘルスケア
- 性的不安やパフォーマンスストレスへの対策:呼吸法・心理療法・カップルセラピー
- 精神的な要因はEDの30%以上に関連あり
③ 薬物療法(医師の診断後)
④ 先進的治療
- 低エネルギー衝撃波療法(Li‑ESWT):血管新生を促進し、器質性EDの改善例報告あり
8. 長期フォローと目標設定の重要性
- AUAガイドラインでは、患者と医師の間で目標と期待を共有し、満足度と治療継続率を向上させることが推奨されています
- EHSやI IEFを定期的に記録・評価し、変化を確認しましょう。
9. よくある誤解と注意点
- 「年齢のせいだから仕方ない」と放置されがちですが、EDは生活習慣や病気のシグナルでもあります。早期対応で症状改善が期待できます。
- セルフチェックはあくまで目安。重症や持続症状があれば、必ず医療機関を受診してください。
10. EDセルフケアQ&Aコーナー
| 質問 | 回答(セルフチェック・理解) |
| Q1. EHSスコア4でも勃起が途中で弱くなる 場合は? | 維持力を別質問でチェックし、EHSが高くても維持不能なら受診判断材料に。 |
| Q2. 運動だけでよくなるの? | 研究では有酸素運動や体重管理が効果ありと報告。例えば心血管トレーニングが最も効果と評価されました。 |
| Q3. 精神的な原因があるかどうか? | 朝・夜の自然勃起があるなら、心理的な要因(不安、緊張)が関与している可能性。 |
| Q4. 自分で薬を買っていい? | 海外通販など無許可薬は副作用・偽薬の危険あり。必ず医師に相談の上処方薬を使用してください。 |
ここまでのまとめ
- 「セルフチェック」はEDの第一歩であり、気づき次第に生活改善や医療受診につなげることが肝要です。
- EHSスコアや単一質問式自己評価は、簡便ながら信頼できる指標であり、受診の目安になります。
- 生活習慣改善・メンタルケア・医師診療・治療の組み合わせで、多くのケースで改善が期待できます。
- 放置せず、セルフチェックと行動で一歩踏み出しましょう。
11. EDと生活習慣病の関連性
EDは単なる性機能の問題にとどまらず、生活習慣病や心血管疾患の早期サインである可能性があります。
- 糖尿病:血管内皮機能障害や神経障害がEDの大きな要因
- 高血圧・脂質異常症:血流障害により勃起力低下
- 動脈硬化:心筋梗塞や脳卒中の発症リスクと同じ血管病変がペニス動脈に先行して現れる「ペニスは血管のバロメーター」
セルフチェックで異常を感じたら、健康診断や血液検査も必須です。
12. セルフチェックから受診までのステップ
- 自宅でのセルフチェック
- EHSスコア、朝勃ちの有無、性生活の満足度を記録
- 過去3か月間の変化を観察
- EHSスコア、朝勃ちの有無、性生活の満足度を記録
- 生活改善の試み(2〜4週間)
- 睡眠時間の確保、運動習慣、禁煙・節酒
- ストレス軽減のためのリラクゼーション法
- 睡眠時間の確保、運動習慣、禁煙・節酒
- 症状が改善しない場合は受診
- 泌尿器科または男性外来での検査
- 血液検査、ホルモン測定、超音波などの評価
- 泌尿器科または男性外来での検査
- 医師による治療開始
- PDE-5阻害薬、カウンセリング、必要に応じて併用療法
- PDE-5阻害薬、カウンセリング、必要に応じて併用療法
13. パートナーとのコミュニケーションの重要性
EDは本人だけの問題ではなく、パートナーとの関係性にも影響します。
- 正直な話し合い:症状や悩みを共有することで心理的負担を軽減
- 協力してセルフチェック:一緒に症状を把握し、改善目標を設定
- 性生活以外のスキンシップを増やす:心理的安心感が改善に直結
研究でも、パートナーの理解がED治療の成功率を高めることが示されています。
まとめ
- EDセルフチェックは、早期発見と生活習慣改善の第一歩です。
- 朝勃ちの有無、EHSスコア、性生活の満足度を自宅で確認し、3か月以上続く異常は受診の目安となります。
- EDは、糖尿病・高血圧・動脈硬化などの生活習慣病と密接に関連し、全身の健康状態を映すバロメーターです。
- 生活習慣の改善+医師の診断+適切な治療で、多くの場合は改善が期待できます。
- パートナーと協力し、心理的負担を軽減することも成功の鍵です。
セルフチェックから始めて、一歩ずつ健康で自信のある毎日を取り戻しましょう。
【参考文献】
- Erection Hardness Scoreの妥当性と臨床応用について
- MMASによる単一質問セルフ評価とI IEFとの高い相関
- 生活習慣改善の効果に関する調査報告
- AUAガイドラインにおける診断と治療戦略の推奨
- 非器質性・器質性の原因区別、心理・身体要因のバランス
- Johannes CB et al. Development and validation of a single-question self-report of erectile dysfunction. Int J Impot Res. 2000;12(6):328-333.
- Rosen RC et al. International Index of Erectile Function (IIEF): A multidimensional scale for assessment of erectile dysfunction.
- Burnett AL et al. AUA Guideline: Erectile Dysfunction.
- BMC Urology 2023: 生活習慣改善による勃起機能改善のメタ解析











