避妊に失敗したとき、望まない妊娠を防ぐために使用されるのが「アフターピル(緊急避妊薬)」です。
しかし、いざ必要なときに「費用はいくら?」「保険は使える?」「薬局で買えるの?」と疑問を感じる方も多いでしょう。
この記事では、アフターピルの費用相場、保険適用の有無、薬の種類ごとの違い、そして費用を抑えるためのポイントについて、婦人科の専門知識に基づいて詳しく解説します。
1. アフターピルとは?目的と種類の基本
アフターピル(緊急避妊薬)は、避妊に失敗したあとに妊娠を防ぐために服用する医薬品です。
「性交後に飲む避妊薬」と聞くと不安に感じる方も多いですが、アフターピルは世界中で安全性と有効性が認められた医薬品であり、医師の指導のもと正しく使用することで高い効果を発揮します。
◆アフターピルの仕組み:妊娠成立を防ぐ3つのメカニズム
アフターピルが妊娠を防ぐ主な仕組みは以下の通りです。
- 排卵の抑制・遅延
アフターピルの主成分であるレボノルゲストレルやウリプリスタル酢酸エステルは、排卵を抑える作用があります。
すでに卵胞が成熟していても、排卵を数日遅らせることで精子と卵子が出会うタイミングをずらし、受精を防ぎます。 - 受精の阻害
子宮頸管の粘液を変化させて精子の侵入を妨げるほか、卵管の動きを遅くして受精を成立しにくくします。 - 受精卵の着床阻止
万が一受精が起こっても、子宮内膜の厚さや性状を変化させることで、受精卵が着床しづらい状態にします。
これらの複合的な作用によって妊娠の成立を防ぐのがアフターピルの基本的なメカニズムです。
ただし、すでに着床している場合には効果がないため、「中絶薬」とは全く異なる薬である点を理解しておくことが重要です。
◆アフターピルが必要になる代表的なケース
アフターピルの使用が検討される主なケースは次のような状況です。
- コンドームが破れたり外れたりした
- 低用量ピルの飲み忘れ・嘔吐による効果減弱
- 避妊をしないまま性交を行った
- 性暴力被害を受けた場合
これらの状況では、性交後できるだけ早く服用することが成功のカギになります。
服用までの時間が短いほど効果が高く、24時間以内の服用では妊娠阻止率が約95%以上と報告されています。
◆アフターピルの種類と特徴
アフターピルには大きく分けて2種類があり、それぞれに効果の持続時間や費用、副作用の傾向が異なります。
| 種類 | 主成分 | 服用期限 | 妊娠阻止率 | 主な特徴 |
| レボノルゲストレル錠(ノルレボ・ジェネリック) | レボノルゲストレル | 性交後72時間以内 | 約84〜95% | 日本国内で承認されている標準的なアフターピル。副作用が少なく、吐き気も軽い。 |
| ウリプリスタル酢酸エステル錠(エラワン) | ウリプリスタル酢酸エステル | 性交後120時間以内 | 約98% | より長時間効果が持続。排卵直前でも高い避妊効果が期待できる。 |
※妊娠阻止率は服用時期・体質・服用環境によって変動します。
どちらの薬も「性交後できるだけ早く服用すること」が重要です。
72時間(3日)を過ぎても服用できる薬(エラワン)は便利ですが、国内で取り扱う医療機関が限られています。
◆副作用と安全性について
アフターピルは一般的に安全性が高い薬ですが、ホルモン量が通常の低用量ピルより多いため、次のような一時的な副作用が見られる場合があります。
- 吐き気・嘔吐
- 頭痛
- めまい
- 倦怠感
- 生理の時期が早まる、または遅れる
副作用は服用後24時間以内に一時的に出ることが多く、ほとんどは自然に治まります。
もし2時間以内に嘔吐してしまった場合は、薬が十分に吸収されていない可能性があるため、再服用が必要になることもあります。
医師の指導のもと正しく服用すれば、重大な健康被害を起こすリスクは極めて低いとされています。
◆「アフターピル=危険」ではない理由
一部では「アフターピルを飲むと体に悪い」という誤解が見られますが、実際には世界保健機関(WHO)や日本産科婦人科学会も安全性を正式に認めています。
一度きりの服用でホルモンバランスが長期的に乱れることはほとんどなく、正しい使用法を守れば身体への負担は最小限です。
ただし、短期間で何度も服用するのは望ましくありません。
月経周期が不安定になり、避妊効果も低下する恐れがあるため、緊急避妊はあくまで「非常用」と捉え、普段は低用量ピルなどの日常的な避妊法を取り入れることが推奨されます。
◆アフターピルと低用量ピルの違い
| 比較項目 | アフターピル | 低用量ピル |
| 使用目的 | 緊急避妊(性交後) | 日常的な避妊(予防) |
| 服用タイミング | 性交後できるだけ早く | 毎日同じ時間に服用 |
| 主な作用 | 排卵を抑制・遅延 | 排卵抑制・子宮内膜調整 |
| ホルモン量 | 多い | 少ない |
| 副作用の頻度 | やや多い | 少ない |
| 保険適用 | なし(自由診療) | 原則なし(例外あり) |
両者は「避妊を目的とする」という点で共通していますが、役割と使い方が大きく異なります。
アフターピルは「緊急避難的」な手段であり、日常的な避妊管理には低用量ピルの方が身体への負担が少なく、費用面でも継続しやすいという特徴があります。
◆服用の際の注意点と医師の役割
アフターピルの使用には、自己判断ではなく医師の診察が必要です。
服用前に月経周期や体調を確認し、妊娠していないか・持病との相互作用がないかを判断することが重要です。
また、アフターピルを服用しても100%の避妊は保証されません。
性交後3週間ほど経っても生理が来ない場合は、妊娠検査薬の使用または医療機関での妊娠判定を受けましょう。
2. アフターピルの費用相場
アフターピルの費用は、薬の種類・処方方法・クリニックの所在地・診察形態などによって大きく異なります。
「1万円前後」という情報を目にすることもありますが、実際には処方される薬の種類や診療内容によって5,000円〜20,000円ほどの幅があります。
ここでは、費用の内訳やタイプ別の相場、そして費用を左右する要因を詳しく見ていきましょう。
◆費用相場の全体像
まず、アフターピルにかかる費用の平均的な目安を表でまとめます。
| 区分 | 費用の目安(税込) | 内容・特徴 |
| レボノルゲストレル錠(国内正規品) | 約7,000〜15,000円 | 日本で標準的に使用される。安全性が高く副作用が少ない。 |
| ウリプリスタル酢酸エステル錠(エラワンなど) | 約12,000〜20,000円 | 性交後120時間以内に使用可。効果が高いが取扱いは限られる。 |
| 海外製ジェネリック(輸入品含む) | 約5,000〜9,000円 | 安価だが、輸入経路や品質に注意が必要。 |
| オンライン診療での処方 | 約7,000〜13,000円 | 自宅から受診可能。診察料・送料込みの価格設定が多い。 |
この価格には、診察料と薬代が含まれる場合と、別途請求される場合があります。
そのため、安く見えても診察料を加えると最終的には1〜2万円前後になるケースも珍しくありません。
◆費用の内訳:何にお金がかかるのか?
アフターピルを処方してもらう際には、次のような項目で費用が発生します。
- 診察料(1,000〜5,000円)
医師による問診や状態確認にかかる費用。自由診療のため、金額設定は各クリニックで異なります。
初診・再診・時間外対応などで加算されることもあります。 - 薬代(5,000〜15,000円)
薬そのものの費用。正規品かジェネリックか、また薬の種類によって価格が変わります。
たとえば、レボノルゲストレル錠を日中に通常診療で処方してもらう場合、
合計で7,000〜10,000円前後が目安となります。
◆薬の種類による価格差
アフターピルは主成分によって価格が異なります。
特に「服用期限の長さ」と「入手のしやすさ」が価格に影響します。
● レボノルゲストレル錠(ノルレボ・ジェネリック)
日本で最も一般的なアフターピルで、性交後72時間以内の服用が推奨されています。
ジェネリック医薬品も登場しており、8,000円程度で処方を受けられるケースもあります。
副作用が少なく、学生や若い世代にも選ばれやすい薬です。
● ウリプリスタル酢酸エステル錠(エラワン)
性交後120時間(5日)以内に服用でき、より長時間効果が持続します。
排卵直前でも避妊効果がある点が特徴で、妊娠阻止率も高いですが、
**国内での取り扱いが少なく、費用も高め(12,000〜20,000円前後)**です。
● 海外製ジェネリック
個人輸入サイトなどでも販売されていますが、品質の保証が難しく、
厚生労働省も「自己判断での輸入・服用は推奨しない」と警告を出しています。
価格が安く見えても、安全性・信頼性の面で医療機関からの処方を推奨します。
◆地域差とクリニックの違い
都市部と地方では、料金に差があることもあります。
例えば、東京や大阪などの大都市圏では自由診療の競争が激しく、
ジェネリックを7,000円前後で提供するクリニックも増えています。
一方、地方の個人医院や総合病院では、患者数が限られているため1万円以上が一般的です。
また、大学病院などでは取り扱いがない場合もあり、
「緊急時にすぐ手に入らない」という地域格差も問題視されています。
◆支払い方法と助成制度
アフターピルは自由診療のため、保険証がなくても受診できますが、
費用は全額自己負担となります。支払い方法は以下のようなパターンがあります。
- 現金支払い(一般的)
- クレジットカード・電子マネー対応(都市部のクリニックで増加中)
◆費用を安く抑えるためのポイント
- 事前に料金を確認する
クリニックの公式サイトで「薬代+診察料込みか」を必ず確認しましょう。 - ジェネリックを選ぶ
成分が同じで価格が安く、副作用もほぼ同等です。 - 平日昼間に受診する
夜間・休日の緊急対応では割高になることがあります。 - オンライン診療のキャンペーンを活用
新規割引や学生割など、期間限定の割引制度を利用すると費用を抑えられます。

3. 保険は使える?アフターピルと保険適用の関係
アフターピルは、現在の日本では保険適用外(自由診療)です。
理由は「避妊に失敗した後の自己判断による使用」という性質から、病気治療ではなく予防目的に分類されているためです。
したがって、費用は全額自己負担となります。
ただし、例外的に以下のようなケースでは医師の判断により一部保険が適用されることがあります。
- 強制的な性行為(性的暴行)に対して緊急的に処方される場合
- 医療機関が自治体の支援制度を利用している場合
一部の自治体(例:東京都、横浜市など)では、性暴力被害者に対してアフターピルを無料または低額で提供する支援制度を設けています。
こうした支援を受けるには、自治体窓口や医療機関での申請が必要です。
4. 日本と海外におけるアフターピルの費用・入手方法の違い
日本の現状
- 医師の処方が必要(市販薬としては購入不可)
- 保険適用外
- 費用は自費で7,000〜20,000円前後
- 医療機関が限られ、休日・夜間は入手しにくい
海外の現状
国によって制度は異なりますが、多くの国では薬局で購入可能です。
| 国 | 費用の目安 | 入手方法 |
| アメリカ | 約10〜50ドル(約1,500〜7,500円) | 薬局で販売(処方箋不要) |
| イギリス | 約10〜30ポンド(約2,000〜6,000円) | 薬局・オンラインで購入可 |
| フランス | 約7〜20ユーロ(約1,200〜3,000円) | 一部公的保険で無料提供あり |
| 韓国 | 約10,000〜20,000ウォン(約1,100〜2,200円) | 薬局で購入可、医師の相談推奨 |
海外では、アフターピルが「女性の健康を守る基本的な医薬品」として位置づけられています。
日本では2023年以降、薬局での販売(OTC化)を検討する動きが進んでおり、今後入手しやすくなる可能性があります。
5. 費用を抑えるためのポイント
アフターピルの費用を少しでも抑えるには、以下のポイントを押さえておくことが大切です。
(1)事前にクリニックの料金を確認する
同じ薬でもクリニックによって価格差があります。
診察料込みかどうか、時間外加算があるかなどを事前に確認しましょう。
(2)オンライン診療を活用する
自宅から医師の診察を受け、最短で翌日に薬が届くオンライン診療も増えています。
移動時間が不要で、夜間対応可能なサービスも多く、費用も比較的抑えられます。
(3)避妊の習慣を見直す
緊急避妊薬は繰り返し使用するものではありません。
日常的な避妊(低用量ピルやコンドーム併用など)を取り入れることで、結果的に費用負担を減らせます。
6. アフターピルの使用に関する注意点
- 服用は**できるだけ早く(72時間以内)**が重要
- 副作用として吐き気や頭痛、月経周期の乱れが出ることがある
- 生理が予定より1週間以上遅れた場合は妊娠検査が必要
- アフターピル服用後も、排卵が再開するまで避妊対策が必要
また、アフターピルは性感染症(STD)を防ぐ効果はありません。
不安がある場合は、HIVやクラミジアなどの検査も併せて受けることが推奨されます。
7. まとめ:正しい知識と早めの行動が大切
アフターピルは、望まない妊娠を防ぐための重要な選択肢ですが、費用は全額自己負担であり、日本では保険適用外です。
そのため、いざというときのために「どこで・いくらで入手できるか」を知っておくことが、自分を守る第一歩になります。
海外ではより気軽に入手できる国が多いものの、日本では医師の診察を通じて安全に服用できる体制が整っています。
今後の制度改正により、より多くの女性が安心してアフターピルを利用できる環境が広がることが期待されます。







