婦人科に関するよくある誤解とその正しい理解

Posted on 2025年 8月 8日 女性医療スタッフ

「婦人科=妊婦が行くところ」そう思っていませんか?実は、婦人科はすべての年代の女性にとって、健康維持や不調の早期発見に欠かせない重要な診療科です。しかしながら、婦人科に関しては未だに多くの誤解や偏見が存在し、それが受診のハードルを高くしている要因にもなっています。本記事では、婦人科にまつわる代表的な誤解とその正しい理解を、専門的な視点から丁寧に解説します。

1. 誤解① 婦人科は妊婦や出産を控えた人だけが行く場所?

正しい理解:婦人科はあらゆる年齢の女性の健康を守る科です

「妊娠していないから」「まだ若いから」「閉経したから」などの理由で婦人科の受診を避ける女性は少なくありません。しかし、婦人科は思春期から更年期以降のあらゆるライフステージにおける女性の健康を守る診療科です。

主な対象となる症状や相談内容:

  • 月経不順や生理痛、過多月経などの月経トラブル
  • おりものの異常や性感染症
  • 子宮筋腫、卵巣嚢腫、子宮内膜症などの疾患
  • 更年期障害(ホットフラッシュ、イライラ、不眠など)
  • 子宮頸がん検診や卵巣がんスクリーニング

たとえ自覚症状がなくても、定期的な検診を通じて疾患の早期発見や予防が可能です。妊娠・出産に限らず、婦人科は「女性のかかりつけ医」としての役割を果たしているのです。

2. 誤解② 婦人科の検診は痛いし恥ずかしいから行きたくない

正しい理解:最新の医療と配慮で、安心して受診できる環境が整っています

婦人科診察には抵抗感を持たれる方も多く、「痛い」「恥ずかしい」というイメージが先行しがちです。しかし、近年は医療機器や診察室の設備も進化し、プライバシーや心理的負担への配慮が行き届いています。

よくある誤解と実際の対応:

  • 内診は必ず行うの? → 症状や年齢、検査目的に応じて、必ずしも内診が必要とは限りません。
  • 男性医師が診るの? → 女性医師を希望できるクリニックも多く、スタッフも女性中心の施設が増えています。
  • 診察はどんな姿勢でするの? → 専用の診察台はカーテンで仕切られ、医師と目を合わせることなく検査が進められます。

また、婦人科診療では不安や疑問を率直に相談することが重要です。恥ずかしさから受診を先延ばしにすることで、深刻な病気を見逃すリスクもあるため、早めの受診を心がけましょう。

3. 誤解③ 月経痛は我慢するもの?市販薬で対処すればいい?

正しい理解:つらい月経痛には医療的な介入が有効です

「生理痛くらいで病院に行くのは大げさ」と考える人もいますが、それは大きな誤解です。激しい月経痛や日常生活に支障をきたすような症状は、子宮内膜症や子宮筋腫などの疾患が隠れている場合があります。

月経痛に対する医療的アプローチ:

  • 鎮痛剤の適切な処方と服用指導
  • ホルモン療法(低用量ピル、黄体ホルモン剤など)
  • 超音波検査による子宮・卵巣の状態確認
  • 子宮内膜症や筋腫に対する外科的治療

婦人科を受診することで、原因を明らかにし、より適切な治療が可能になります。「我慢することが美徳」といった考え方は、現代医療の視点からは見直すべきものです。

市販薬での対処には限界がある

市販の鎮痛剤(イブプロフェン、ロキソプロフェンなど)を使用する方も多いですが、毎月痛みに耐えながら薬を飲み続けるのは根本的な解決にはなりません。痛みの背景には、ホルモンバランスの乱れや病気の可能性が潜んでいることもあるからです。

例えば、子宮内膜症は子宮内膜に似た組織が子宮以外の場所に発生し、月経のたびに出血を繰り返すことで、炎症や癒着を引き起こします。症状が進行すると、月経時以外にも慢性的な下腹部痛や性交痛、不妊の原因にもなり得ます。市販薬で一時的に痛みを抑えていても、病状が進行してしまうリスクがあるのです。

また、子宮腺筋症子宮筋腫なども、月経痛の背景として非常に多く見られます。特に30代以降に発症率が高く、出血量の増加や貧血、圧迫感などを伴うケースもあります。放置すると手術が必要になる場合もあるため、早期の診断と治療がカギとなります。

低用量ピルは月経痛の根本治療にも有効

最近では、低用量ピル(LEP製剤)が月経痛の治療薬として広く活用されています。排卵を抑えることで、子宮内膜が厚くならず、月経に伴うプロスタグランジン(痛みを引き起こす物質)の分泌も抑制されるため、痛みの軽減に加え、出血量の減少や周期の安定化といったメリットがあります。

特に月経困難症の診断がつけば、保険適用の対象となる薬剤もあり、経済的な負担を抑えながら継続的な治療が可能です。また、低用量ピルは将来的な子宮内膜症の予防にも寄与することが知られており、QOL(生活の質)の向上に直結する治療法といえます。

ピル

自分の月経痛を「当たり前」にしないで

月経痛の感じ方は個人差が大きく、友人や家族と比べて「これくらいは普通」と思い込んでしまう人も少なくありません。しかし、「痛み」は体からの重要なサインです。

次のような場合は、早めに婦人科を受診しましょう:

  • 鎮痛剤を飲んでも痛みが続く
  • 学校や仕事を休むほどの強い痛みが毎月ある
  • 経血量が異常に多い、レバー状の塊が多い
  • 生理以外の時期にも下腹部痛がある
  • 急に生理痛がひどくなった

自分の体を過小評価せず、専門医に相談することで、適切なケアと安心を得ることができます。月経痛を我慢せず、「痛みは治療できるもの」という認識を持つことが、すべての女性にとっての健康の第一歩です。

4. 誤解④ 閉経したら婦人科にはもう行かなくてよい?

正しい理解:更年期以降も婦人科でのケアが重要です

閉経を迎えると、婦人科の必要性がなくなると思われがちですが、実際には更年期障害や婦人科系のがんリスクが高まる時期でもあります。特に子宮体がん、卵巣がん、膣炎、尿漏れなどの症状は閉経後に多く見られます。

更年期以降に多い症状と婦人科の対応:

  • のぼせ、動悸、めまいなどの更年期症状
  • 性交痛や外陰部のかゆみ・乾燥感
  • 尿もれや頻尿などの排尿トラブル
  • 骨粗しょう症の進行リスク

ホルモン補充療法(HRT)やライフスタイル指導により、QOL(生活の質)を大きく向上させることが可能です。年齢を重ねたからこそ、婦人科との継続的な関係が大切になるのです。

5. 誤解⑤ 婦人科で性感染症の相談をするのは恥ずかしい

正しい理解:性感染症の診療も婦人科の重要な役割の一つです

性感染症(STD)は、放置すると不妊症やがんのリスクを高める重大な疾患です。特にクラミジア感染は無症状のことも多く、早期発見と治療が重要です。婦人科はこうした感染症の診断・治療・パートナーへの対応も含めて、総合的にサポートする場です。

婦人科でのSTD対策:

  • 定期的な検査(クラミジア・淋菌・HPVなど)
  • 感染症に合わせた抗生物質治療
  • ワクチン接種(HPVワクチンなど)
  • 性に関する相談支援(コンドームの使い方など)

性感染症は「誰でもかかり得る」もの。予防と早期対応のためにも、婦人科の活用が推奨されます。

「恥ずかしい」と感じる背景には、性に対する誤ったタブー意識がある

性感染症に関する相談に対して「恥ずかしい」「不道徳だと思われるのでは」と感じるのは、日本社会に根強く残る性へのタブー意識が原因のひとつです。しかし、性感染症は性交渉の経験がある人であれば誰でも感染し得るものであり、道徳的な問題ではなく医学的な問題です。

さらに、性感染症はパートナーから無自覚にうつされることもあり、感染経路を問わず、「体調の変化に気づいたとき、すぐに受診する」ことが大切です。医師や看護師は専門職として対応しており、性に関する内容を相談することを特別視したり、偏見を持ったりすることはありません。

婦人科で相談できる主な性感染症とその特徴

婦人科では以下のような感染症について相談・検査・治療が可能です:

感染症名主な症状備考
クラミジア感染症おりもの異常、下腹部痛、性交痛、無症状も多い放置すると不妊や骨盤内感染症の原因に
淋菌感染症おりもの増加、排尿痛、出血男女ともに感染しやすく、再感染も多い
尖圭コンジローマ外陰部や肛門周囲のいぼ状の突起HPV感染による。がんのリスクも
性器ヘルペス水ぶくれ、痛み、発熱初感染は症状が強く、再発しやすい
トリコモナス膣炎泡状のおりもの、かゆみ、においパートナー治療も必要なことが多い

これらの多くは検査で簡単に診断ができ、治療も確立されています。性感染症は「知らないまま放置すること」が最も危険なのです。

HPV感染と子宮頸がん:ワクチンと定期検診の重要性

特に近年、注目されているのが「HPV(ヒトパピローマウイルス)」の感染です。HPVは性交渉によってほぼ100%の人が一度は感染するといわれており、子宮頸がんの原因の約9割を占めるとされています。

現在は、小学校高学年から接種できるHPVワクチン(ガーダシル、シルガードなど)により、予防が可能です。また、20歳以上の女性を対象とした子宮頸がん検診を受けることで、がんの早期発見ができます。

婦人科ではこうしたワクチン接種の相談やスケジュール管理も行っており、性感染症に関する総合的なサポートが可能です。

性に関する相談こそ、専門医と一緒に考えるべき課題

婦人科は、「生理」や「妊娠」だけでなく、性の健康を守る拠点でもあります。性感染症の予防、パートナーとの関係性、避妊の方法、性に伴う不安など、医師に相談することで正しい知識と安心を得ることができます。

性感染症に対して「自分は関係ない」と思っている方ほど、無症状感染のリスクがあります。自分を守るためにも、将来の妊娠や健康を守るためにも、恥ずかしさに負けず一歩踏み出すことが重要です。

まとめ:誤解を解き、もっと身近な婦人科へ

婦人科は妊娠や出産だけに限らず、思春期から老年期まで、すべての女性の健康をサポートする大切な診療科です。間違った認識や恥ずかしさから受診をためらうのではなく、正しい情報をもとに積極的に相談・検査を受けることが、将来の健康への第一歩になります。

多くの誤解を解き、「婦人科=身近で頼れる存在」という意識が広がることを願ってやみません。まずは、年に一度の婦人科検診から始めてみてはいかがでしょうか。