

子宮筋腫は、子宮に発生する良性の腫瘍であり、30代から40代の女性を中心に多く見られる婦人科疾患です。大半が無症状ですが、月経過多や下腹部の張り、不妊の原因となることもあり、早期発見と適切な対応が求められます。この記事では、子宮筋腫の種類や診断方法、日常生活への影響、治療法の選択肢までを詳しく解説し、婦人科での適切な対応と、健康管理のヒントをお届けします。
1. 子宮筋腫とは?その基本的な特徴と原因
◆子宮筋腫の定義と発生メカニズム
子宮筋腫とは、子宮の筋層に発生する良性腫瘍で、筋細胞が異常に増殖して腫瘤(しゅりゅう)を形成する状態を指します。腫瘍とはいっても悪性化することは非常にまれで、女性ホルモン、特にエストロゲンの影響を強く受けて成長することがわかっています。
◆発症年齢と発生頻度
子宮筋腫は、30代後半から40代の女性に多く見られ、閉経後は自然に縮小する傾向があります。婦人科健診で偶然発見されるケースも多く、40歳以上の女性の約6割に筋腫が見られるという報告もあります。
◆発生要因
明確な原因は解明されていませんが、以下のような要素が関係しているとされています:
- 女性ホルモン(エストロゲン)の影響
- 遺伝的要因
- 肥満
- 妊娠・出産歴の有無
これらが複合的に作用し、筋腫の形成を促すと考えられています。
2. 子宮筋腫の主な種類と発生部位
子宮筋腫は、発生する部位によって3つのタイプに分類されます。それぞれのタイプによって症状や治療方針が異なるため、正確な診断が必要です。
◆① 筋層内筋腫(もっとも一般的)
子宮の筋肉の層(筋層)内に発生する筋腫で、全体の約70%を占めるとされます。ある程度の大きさになるまでは無症状ですが、進行すると子宮全体が大きくなり、圧迫症状や過多月経などを引き起こすことがあります。
◆② 漿膜下筋腫
子宮の外側(漿膜)に向かって突出する筋腫です。比較的症状は軽い傾向にありますが、大きくなると膀胱や直腸を圧迫し、頻尿や便秘などの症状を招くことがあります。
◆③ 粘膜下筋腫
子宮内膜に向かって発生するタイプで、月経異常や不正出血、不妊の原因になることが多く、小さなサイズでも強い症状が出やすいのが特徴です。
3. 子宮筋腫の代表的な症状と日常生活への影響
子宮筋腫は必ずしも症状を伴うわけではありませんが、筋腫の大きさや発生する位置、数によっては日常生活にさまざまな支障をきたします。特に、進行するまで自覚症状が出にくいため、気づいたときには症状が重くなっているケースも少なくありません。ここでは、代表的な症状とその影響について詳しく解説します。
◆月経に関する症状
月経過多・月経困難症
経血量が通常よりも増える、または月経期間が長引くケースが多く見られます。大量の出血により、慢性的な鉄欠乏性貧血を引き起こすこともあり、倦怠感や動悸、息切れが日常的に現れる場合もあります。特に粘膜下筋腫がある場合は症状が顕著で、ナプキンを頻繁に交換しなければならないなど、生活の質が大きく低下することもあります。
不正出血
月経のサイクル以外のタイミングで少量〜中等量の出血が見られることがあります。出血が続く場合は感染症や他の疾患が関与している可能性もあるため、早めの婦人科受診が推奨されます。
◆下腹部の圧迫感や痛み
筋腫が大きくなることで下腹部に圧迫感や張りを感じるようになります。場合によっては骨盤内の臓器を圧迫し、頻尿や便秘、排便時の違和感などを引き起こすことがあります。さらに、筋腫が急速に大きくなった場合や位置によっては、強い下腹部痛や腰痛が出るケースもあり、生活に支障を及ぼすことも少なくありません。
◆妊娠・出産への影響
子宮筋腫は、その種類や位置によっては妊娠や出産にも影響を及ぼすことがあります。たとえば、粘膜下筋腫は子宮内膜の形状を変えてしまい、受精卵の着床を妨げる原因になることがあります。また、妊娠中に筋腫が急激に大きくなり、腹部の張りや痛み、流産や早産のリスクが高まる場合もあります。ただし、すべての筋腫が妊娠や出産に悪影響を及ぼすわけではなく、無症状のまま健康な妊娠・出産を迎える方も多いです。そのため、妊娠を希望している場合には、医師と相談しながら定期的に経過観察を行い、必要に応じた治療計画を立てることが大切です。
このように、子宮筋腫の症状は多岐にわたり、軽度なものから日常生活に大きな影響を及ぼすものまで幅広く存在します。少しでも異変を感じたら、早期の診断と適切な対応が重要です。
4. 婦人科での診断方法と検査の流れ
子宮筋腫の診断は、婦人科での問診と画像検査によって行われます。正確な診断が、適切な治療選択につながります。
◆問診と内診
まずは、月経の状況、出血の程度、痛みの有無などを確認する問診が行われます。続いて、子宮や卵巣の大きさ・形を触診する内診によって、筋腫の有無を推測します。
◆超音波検査(経腟エコー)
婦人科で最も一般的に行われる画像検査で、筋腫の大きさや位置、数を視覚的に確認できます。被曝がなく、短時間で実施できるのが特徴です。
◆MRI検査
筋腫の性状や周囲臓器との関係を詳しく調べるために、MRIが行われることもあります。手術を検討する場合には、より正確な情報を得る目的で使用されます。
5. 子宮筋腫の治療法と選択肢
子宮筋腫の治療には、大きく分けて薬物療法と手術療法の2つの選択肢があります。さらに、症状が軽い場合には経過観察で対応するケースもあります。治療方針は、筋腫の大きさや位置、症状の程度、年齢、そして妊娠の希望の有無によって大きく変わります。ここでは、それぞれの治療法の特徴や注意点を詳しく解説します。
① 経過観察
症状がほとんどない、または軽微で日常生活に支障がない場合は、積極的な治療を行わず定期的な検査で経過を観察する方法が選ばれます。
3〜6か月ごと、または年に1〜2回の超音波検査や診察で筋腫のサイズや数の変化を確認し、症状が進行しないかを見極めながら管理します。
ただし、筋腫が急速に大きくなるケースや、月経過多・貧血・強い痛みなどの症状が出てきた場合には、速やかに次の段階の治療を検討する必要があります。


② 薬物療法
薬物療法は、症状の緩和や筋腫の縮小を目的として行われ、主にホルモンバランスを調整する治療が中心です。手術を回避したい方や、妊娠を希望しているが一時的に症状を抑えたい方に向いています。
ホルモン療法(GnRHアゴニスト、LEP製剤など)
女性ホルモン(エストロゲンやプロゲステロン)の分泌を抑えることで、筋腫を縮小させる治療法です。特に手術前の準備として筋腫を小さくする目的で使用されることが多いです。ただし、長期使用によって骨密度が低下するリスクがあるため、6か月程度の短期間使用が推奨されます。
対症療法(鎮痛薬・止血薬など)
月経痛の緩和や月経量のコントロールを目的に、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や止血薬が用いられます。根本的に筋腫を小さくすることはできませんが、症状を和らげ、日常生活の質(QOL)を保つサポートになります。
薬物療法は体への負担が比較的少ない一方で、治療を中止すると症状が再発しやすいという特徴があるため、長期的な治療計画を医師と立てることが重要です。
③ 手術療法
薬物療法で改善が見られない場合や、症状が強く日常生活に大きな支障をきたしている場合には手術療法が検討されます。手術にはいくつかの方法があり、妊娠の希望や筋腫の状態に応じて最適な術式が選ばれます。
筋腫核出術(子宮温存手術)
筋腫だけを摘出する手術で、妊娠を希望する女性に最も適した方法です。開腹手術のほか、体への負担が少ない腹腔鏡手術や、子宮内にできた粘膜下筋腫には子宮鏡手術が用いられます。ただし、筋腫を完全に取りきることが難しい場合があり、再発のリスクが残る点には注意が必要です。
子宮全摘出術
症状が重く、再発を完全に防ぎたい場合には、子宮をすべて摘出する方法が選ばれます。妊娠を希望しない女性に向いており、術後は筋腫の再発がないという大きなメリットがあります。手術には開腹法・腹腔鏡法・膣式法など複数の方法があり、体への負担や回復期間は術式によって異なります。
薬物療法・手術療法のいずれを選ぶ場合も、自分の年齢、将来の妊娠・出産の希望、症状の程度を総合的に踏まえて検討することが大切です。医師と相談しながら、自分のライフスタイルに合った治療法を見つけることが、長期的な健康管理につながります。
6. 妊娠を希望する方への対応と選択肢
子宮筋腫を抱える女性の中には、妊娠や出産を望む方も少なくありません。妊娠の可否や治療のタイミングは、慎重な判断が求められます。
◆妊娠への影響の有無
粘膜下筋腫や大きな筋層内筋腫があると、着床障害や流産リスクが高まる可能性があります。一方で、症状が軽度な場合には治療せずに妊娠が成立することもあります。
◆治療と妊娠の両立
妊娠を希望する場合は、筋腫核出術を優先的に検討します。ただし、術後の子宮の回復期間や再発のリスクも考慮し、タイミングを計ることが大切です。婦人科専門医と相談しながら、長期的な視点で対応を決定します。
まとめ:子宮筋腫は「知ること」から始まる健康管理
子宮筋腫は、決して珍しい病気ではありません。むしろ、多くの女性が直面する可能性のある身近な疾患です。しかし、症状がないからといって放置してよいわけではなく、定期的な婦人科検診を受け、異常の早期発見につなげることが大切です。治療の選択肢も豊富にあるため、自身のライフスタイルや将来の希望に応じた最適な方法を選ぶことができます。
婦人科は、トラブルが起きたときだけでなく、将来に備えるためにも訪れる場所です。子宮筋腫という病気を正しく理解し、自分の体と丁寧に向き合うことで、より健やかな人生を歩む一歩となるでしょう。







