

「急に動悸がして息苦しくなる」「立ち上がった時にめまいがして不安になる」。このような症状を経験したことがある女性は少なくありません。これらの不調は一見すると心臓や自律神経の問題に思えますが、実は女性ホルモンのバランスの乱れが深く関わっていることがあります。月経周期、妊娠、更年期など女性のライフステージごとにホルモンは大きく変化し、それに伴って動悸やめまいといった症状が現れることがあります。本記事では、動悸・めまいと女性ホルモンの関係性について、婦人科的な視点から詳しく解説します。
1. 動悸・めまいの基礎知識
動悸とは?
動悸とは、通常は意識しない心臓の鼓動を「強く感じる」状態を指します。心臓が早く打つ、リズムが乱れる、胸の奥がドキドキするなど、さまざまな表現で訴えられます。一般的に以下のようなタイプがあります。
- 頻脈性の動悸:脈が速くなる(1分間に100回以上)ことで息苦しさを伴うこともある。
- 期外収縮による動悸:脈が一拍飛んだように感じ、その直後に強い心拍を覚える。
- 精神的要因による動悸:ストレスや不安によって交感神経が刺激され、脈が速くなる。
動悸は心疾患のサインであることもありますが、女性の場合はホルモン変動や自律神経の乱れによる一時的な現象も多いのが特徴です。
めまいとは?
めまいは「周囲が回転しているように感じる」または「自分の体がふらつく」といった感覚異常を指します。めまいは大きく分けて以下の3種類に分類されます。
- 回転性めまい:
自分や周囲がぐるぐる回るように感じるタイプ。内耳(前庭や三半規管)の異常で起こることが多く、吐き気や耳鳴りを伴うこともある。 - 浮動性めまい:
地面が揺れているように感じたり、ふらつくように感じる。血圧の変動や脳血流の不安定さ、自律神経の乱れが関与することがある。 - 立ちくらみ(失神性めまい):
急に立ち上がったときに一瞬クラッとする。血圧が一時的に低下する起立性低血圧が原因となる。
動悸とめまいの共通点
動悸とめまいは一見別々の症状に見えますが、実際には密接に関連しています。
- 動悸による心拍数や血圧の変動 → 脳への血流が一時的に減少 → めまいを引き起こす
- めまいの不安や緊張 → 交感神経優位 → 動悸が増える
つまり、両者は「悪循環」を形成しやすく、女性ホルモンの影響で自律神経が乱れやすい女性では特に起こりやすいのです。
女性に多い理由
男性よりも女性に動悸やめまいの訴えが多い背景には、女性ホルモンの変動が大きく関与しています。特に以下の場面で症状が強まる傾向があります。
- 月経前(PMS期)
- 妊娠初期や後期
- 更年期(閉経前後のホルモン減少期)
これらの時期にはホルモンの変動が自律神経や循環系に影響を与え、症状が現れやすくなります。
2. 女性ホルモンと体調の変化
女性ホルモンの基本的な役割
女性ホルモンは主に エストロゲン(卵胞ホルモン) と プロゲステロン(黄体ホルモン) の2種類に分けられ、それぞれ異なる働きを持っています。
- エストロゲン
・血管を柔らかく保ち、血流をスムーズにする
・自律神経の安定化に寄与する
・骨密度や皮膚の弾力維持に関与する - プロゲステロン
・妊娠を維持するためのホルモン
・体温を上昇させる作用
・水分を体内に保持し、むくみや倦怠感を生じやすくする
この2つのホルモンが周期的に増減することにより、女性の体調や心身のコンディションは大きく変化します。
月経周期とホルモン変動
女性の体調を理解するには、月経周期を切り離すことはできません。
- 卵胞期(生理後〜排卵前)
エストロゲンが増加する時期。心身ともに安定しやすく、比較的元気に過ごせる。 - 排卵期
エストロゲンがピークに達した後、排卵を境に急激に低下。体温が上がり始め、倦怠感や頭痛、めまいを訴える女性もいる。 - 黄体期(排卵後〜生理前)
プロゲステロンが優位となり、むくみ、眠気、気分の落ち込み、動悸などが出やすい。PMSの症状が強まる時期。 - 月経期
ホルモン量が一気に低下し、自律神経の乱れや血圧変動が起こりやすい。めまいや立ちくらみの訴えが増える。
妊娠と女性ホルモン
妊娠するとホルモンバランスが大きく変化し、循環器や自律神経に影響を与えます。
- 妊娠初期:ホルモン分泌が急増し、眠気やめまい、動悸が出やすい。
- 妊娠中期〜後期:血液量が通常の約1.5倍に増加するため、心臓に負担がかかり動悸を感じやすい。
- 出産後:ホルモンが急激に低下し、自律神経失調や気分の変動、めまいが起こることもある。
更年期とホルモン変動
閉経前後の約10年間を「更年期」と呼びます。この時期にはエストロゲンの分泌が不安定となり、以下の症状がよく見られます。
- ホットフラッシュ(突然の発汗・のぼせ)
- 動悸・息切れ
- めまい・耳鳴り
- 睡眠障害や不安感
更年期障害の大きな特徴は「血管運動神経症状」と呼ばれる循環器系の不調であり、動悸やめまいは典型的なサインの一つです。
女性ホルモンと自律神経の相互作用
女性ホルモンは脳の視床下部に作用し、自律神経の働きを調節しています。ホルモンが急に増減すると、自律神経のバランスも乱れやすくなり、血圧や心拍のコントロールに影響します。これが「ホルモン変動による動悸・めまい」の直接的なメカニズムです。
3. 動悸・めまいを引き起こす婦人科関連要因


1. 月経前症候群(PMS)・月経前不快気分障害(PMDD)
月経前の黄体期には プロゲステロンが優位 となり、体温の上昇や水分保持作用が働きます。これにより血圧や脈拍が変動し、動悸やめまいを感じやすくなります。
- 典型的な症状
・胸のドキドキ感
・立ちくらみやふらつき
・むくみや倦怠感
さらに、PMSの重症型であるPMDDでは、精神的な不安やイライラが加わることで交感神経が過剰に働き、動悸が強まる傾向があります。
2. 更年期障害
閉経前後に起こる更年期障害は、エストロゲンの急激な低下が主な原因です。エストロゲンには血管を広げ、自律神経を安定させる作用がありますが、分泌が減ることで以下のような症状が出ます。
- 突然の動悸・息切れ
- ホットフラッシュ(顔のほてり、発汗)
- 頻繁なめまいや頭重感
更年期の動悸は、不整脈のように感じることも多く、不安感を伴うため生活の質を大きく低下させる要因となります。
3. 妊娠と出産に伴う変化
妊娠中は体内の血液量が増加し、心拍出量も約30〜50%増えるため、心臓への負担が増大します。その結果、安静時でも動悸を感じたり、立ちくらみを起こしやすくなります。
- 妊娠初期:ホルモンの急増による吐き気・めまい・動悸
- 妊娠後期:子宮が大きくなることで横隔膜が圧迫され、呼吸が浅くなり動悸を感じやすい
- 産後:ホルモンが急激に低下し、自律神経失調によるめまいや心拍異常感が出ることもある
特に妊娠高血圧症候群や貧血を合併した場合、動悸・めまいは危険なサインとなり得るため、注意が必要です。
4. 婦人科疾患による影響
子宮筋腫
- 過多月経を引き起こし、鉄欠乏性貧血 につながる
- 貧血が進行すると酸素不足により動悸・息切れ・めまいを強く感じる
子宮内膜症
- 慢性的な炎症や出血により体調が不安定に
- 疼痛ストレスが自律神経を乱し、動悸やふらつきを助長する
卵巣機能不全
- ホルモン分泌の乱れでエストロゲンが不足し、自律神経症状として動悸・めまいを起こす
5. 貧血との関連性
婦人科疾患に伴う 慢性的な出血(過多月経・不正出血) は貧血の大きな原因です。鉄不足による貧血では、血液の酸素運搬能力が低下し、脳や心臓が酸素不足に陥ります。その結果、以下の症状が出ます。
- 動悸(心臓が酸素不足を補うため拍動数を増やす)
- めまい(脳の酸素供給不足)
- 倦怠感や息切れ
6. ストレスとホルモンの相互作用
婦人科疾患やライフステージの変化は、精神的なストレスとも結びついています。ストレスが加わると副腎皮質ホルモンが分泌され、自律神経が乱れやすくなり、動悸やめまいの症状が悪化することがあります。
ポイントまとめ
- PMSや更年期 → ホルモンの変動による自律神経症状
- 妊娠・産後 → 循環血液量の増加やホルモン低下による動悸・めまい
- 子宮筋腫・内膜症 → 過多月経や貧血を介して症状が現れる
- 卵巣機能不全 → ホルモン不足による自律神経の不安定化
4. 動悸・めまいと自律神経の関係
自律神経とは何か
自律神経は、私たちが意識しなくても体の働きをコントロールしている神経系です。心臓の拍動、血圧の調整、体温維持、消化・発汗などを司り、交感神経 と 副交感神経 の2つでバランスを保っています。
- 交感神経:活動・緊張モード(心拍数増加、血圧上昇、呼吸促進)
- 副交感神経:休息・リラックスモード(心拍数低下、血圧安定、消化促進)
このバランスが崩れると、心臓や血管の働きが不安定になり、動悸やめまいといった症状が出やすくなります。
女性ホルモンと自律神経のつながり
女性ホルモン(エストロゲン・プロゲステロン)は、脳の視床下部に作用して自律神経の働きをコントロールしています。
- エストロゲンの作用
・血管を拡張させて血流をスムーズにする
・自律神経のバランスを整える
→ エストロゲンが減少すると、血管の収縮・拡張が不安定になり動悸やめまいが起こりやすい - プロゲステロンの作用
・体温を上昇させる
・中枢神経に影響を与え、眠気や倦怠感を招く
→ 過剰に分泌されると、自律神経の過敏反応を引き起こす
つまり、女性ホルモンの変動は自律神経を直接的に揺さぶり、その結果「心臓がドキドキする」「立ちくらみがする」といった症状が現れるのです。
動悸が起こる自律神経メカニズム
自律神経が乱れると交感神経が優位になりやすく、以下のような反応が起こります。
- 交感神経の過剰興奮 → 心拍数増加 → 動悸を自覚
- 血管の収縮や拡張が不安定 → 血圧変動 → 脳血流不足
- 酸素供給の一時的低下 → めまいを誘発
とくに更年期やPMSなどホルモン変動が大きい時期は、自律神経が不安定になりやすく、動悸とめまいがセットで現れることが多いのです。
めまいが起こる自律神経メカニズム
めまいは血圧と脳血流のコントロール不良によって生じます。
- 交感神経が優位 → 急激な血圧上昇 → 一時的な脳血流過剰 → ふらつき
- 副交感神経が優位 → 血圧が下がる → 脳血流不足 → 立ちくらみ
また、ストレスや不眠などで自律神経が乱れると、内耳(平衡感覚を司る器官)にも影響を与え、耳鳴りや回転性めまいを伴うこともあります。
ストレスと自律神経の関係
精神的ストレスは自律神経に直結します。仕事・家庭・妊娠・更年期などのライフイベントによる不安や緊張は、交感神経を過剰に刺激し、動悸やめまいを強めます。さらに、ストレスホルモン(コルチゾール)が分泌されることで女性ホルモンの分泌リズムが乱れ、症状が慢性化することもあります。
自律神経の乱れを疑うサイン
- 動悸やめまいが時間帯や状況によって変動する
- 天候や気温の変化で症状が出やすい
- 強い緊張やストレスで心拍数が急上昇する
- 不眠や疲労感を伴っている
これらは「自律神経失調症」や「ホルモン変動に伴う自律神経症状」のサインであり、婦人科や内科での相談が推奨されます。
5. 受診の目安と検査の重要性
受診を考えるべき症状
- 動悸やめまいが頻繁に起こる
- 強い動悸が夜間に何度も出て眠れない
- 出血や月経異常を伴う
- 貧血症状(息切れ・だるさ)がある
検査方法
婦人科や内科では、以下のような検査が行われます。
- 血液検査(ホルモン値・貧血の有無)
- 心電図
- 超音波検査(子宮や卵巣の状態)
- 必要に応じてNIPT(出生前診断)や妊娠関連検査
6. 生活習慣でできる対策
規則正しい生活と十分な睡眠
鉄分・ビタミンを含む栄養バランスの取れた食事
適度な運動で自律神経を安定させる
カフェインやアルコールの過剰摂取を避ける
更年期症状にはホルモン補充療法(HRT)や漢方薬の活用も有効






