

腰痛と聞くと、まず整形外科的な原因──椎間板ヘルニアや筋肉の疲労などを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、実は婦人科疾患が隠れているケースも少なくありません。特に、慢性的な腰痛や下腹部痛が繰り返し起こる場合には、子宮や卵巣のトラブルが影響していることもあります。この記事では、腰痛と婦人科疾患の関係を医学的観点から詳しく解説し、受診の目安や適切な対応についてご紹介します。
1. 腰痛と婦人科疾患の関連性とは?
腰痛と聞くと、一般的には「ぎっくり腰」「椎間板ヘルニア」「筋肉の疲労」といった整形外科的な病気を想像する方が多いでしょう。しかし、女性特有の臓器である子宮や卵巣に異常が生じても、腰痛という形で症状が現れることがあります。これは、骨盤内に存在する臓器と腰部の神経・血流が密接に関わっているためです。
骨盤内の構造と痛みの伝わり方
- 神経のつながり:子宮や卵巣からの痛みの刺激は、腰や下腹部に分布する神経を通じて脳に伝達されます。そのため、臓器自体の異常であっても「腰が痛い」と感じることがあるのです。
- 血流や炎症の影響:子宮筋腫や卵巣腫瘍が大きくなると、血流のうっ滞や炎症が起こり、腰部に鈍痛や圧迫感を生じることがあります。
- ホルモンの作用:女性ホルモンの変動は靭帯や筋肉の柔軟性に影響を与えます。特に月経前後はホルモンの影響で骨盤周囲の痛みが増し、腰痛を感じやすくなります。
婦人科的要因による腰痛の特徴
整形外科的な腰痛と異なり、婦人科疾患が原因の場合には以下のような特徴が見られることがあります。
- 月経周期と連動して痛みが強くなる
- 下腹部痛や不正出血を伴う
- 排尿・排便時、性交時に痛みを感じる
- 鎮痛薬を飲んでも改善が乏しい
- 慢性的に続く鈍い痛みが中心である
このように、婦人科疾患が引き起こす腰痛は、整形外科的なものと比べて「周期性」や「随伴症状」が特徴的です。
見逃されやすい背景
腰痛はありふれた症状であるため、「疲れや姿勢のせい」と考えてしまいがちです。しかし、症状が長引く、あるいは月経や女性特有の症状と関連が見られる場合には、婦人科的な要因を疑うことが大切です。特に子宮内膜症や子宮筋腫などは初期段階では腰痛のみが目立つこともあり、受診が遅れると病気が進行してしまうケースもあります。
2. 腰痛を引き起こす代表的な婦人科疾患
腰痛の原因が婦人科疾患にある場合、その多くは子宮や卵巣に関連する病気です。整形外科的な腰痛と区別がつきにくいことも多く、婦人科特有の症状と併せて理解することが重要です。以下に代表的な疾患を解説します。
子宮内膜症
子宮内膜症は、子宮内膜に似た組織が本来の子宮内膜以外の部位(卵巣、骨盤腹膜、直腸周囲など)に発生する疾患です。
- 特徴的な症状
- 強い月経痛(鎮痛薬が効きにくい)
- 慢性的な腰痛や下腹部痛
- 不妊症の原因となることもある
- 強い月経痛(鎮痛薬が効きにくい)
- 腰痛が起こる理由
月経のたびに異所性の子宮内膜組織も剥がれて出血します。その血液が骨盤内に炎症を起こし、神経を刺激することで腰痛を引き起こします。特に月経時や排卵時に腰の奥が重だるく痛むのが特徴です。
子宮筋腫
子宮筋腫は子宮の筋肉にできる良性腫瘍で、成人女性の20〜30%に発生するといわれるほど頻度が高い疾患です。
- 特徴的な症状
- 過多月経や不正出血
- 貧血、疲労感
- 骨盤の圧迫感や腰痛
- 過多月経や不正出血
- 腰痛が起こる理由
特に後壁側に発達した筋腫は、腰椎や骨盤周囲の神経を圧迫します。また、大きな筋腫は子宮全体を重くし、骨盤底筋や腰椎に負担をかけるため、慢性的な腰痛の原因となります。
卵巣腫瘍
卵巣に発生する腫瘍には、良性から悪性までさまざまな種類があります。初期には自覚症状が乏しいため、腰痛が唯一のサインになることもあります。
- 特徴的な症状
- 下腹部の張り感
- 月経異常
- 腰痛や下肢のしびれ(進行した場合)
- 下腹部の張り感
- 腰痛が起こる理由
腫瘍が大きくなると骨盤内の神経や血管を圧迫し、腰や下肢への放散痛を生じます。悪性腫瘍では進行が早いため、腰痛が続く場合は注意が必要です。
骨盤内炎症性疾患(PID)
クラミジアや淋菌といった性感染症が原因で、子宮・卵管・卵巣に炎症が広がる病気です。急性期と慢性期で症状が異なり、慢性化すると腰痛や下腹部痛が長く続きます。
- 特徴的な症状
- 発熱、下腹部の強い痛み(急性期)
- おりものの異常、性交痛、腰痛(慢性期)
- 発熱、下腹部の強い痛み(急性期)
- 腰痛が起こる理由
炎症によって卵管や子宮周囲に癒着が生じると、骨盤全体の可動性が低下し、腰部にまで慢性的な痛みが広がります。
子宮腺筋症
子宮の筋層内に子宮内膜組織が入り込んで増殖する疾患で、子宮が全体的に腫れて硬くなるのが特徴です。
- 特徴的な症状
- 強い月経痛
- 過多月経
- 慢性腰痛や下腹部痛
- 強い月経痛
- 腰痛が起こる理由
子宮が硬く肥大すると骨盤内の圧力が高まり、腰椎や仙骨周囲に持続的な負担がかかります。また、炎症によって腰周囲の神経が刺激されることも要因です。
妊娠に関連するトラブル(妊娠合併症)
妊娠そのものでもホルモンの影響や子宮の増大により腰痛が出ますが、切迫流産や子宮頸管不全症など病的な背景がある場合もあります。
- 特徴的な症状
- 腰痛と同時に腹部の張りや出血
- 強い下腹部痛
- 腰痛と同時に腹部の張りや出血
- 注意点
妊娠中の腰痛は「よくあること」と軽視されがちですが、婦人科的リスクのサインである可能性もあるため、自己判断せず医師に相談することが大切です。
3. 腰痛と月経の関係
女性の腰痛には、月経周期が大きく関わっています。特に月経前後や排卵期に腰痛を訴える方は多く、ホルモンの変化や子宮の働きが原因であることが少なくありません。整形外科的な腰痛とは異なり、周期性を持つのが特徴であり、婦人科疾患を見分ける重要なサインになります。
月経前症候群(PMS)と腰痛
月経の数日前から心身に不調を感じる「月経前症候群(PMS)」は、腰痛の原因にもなります。
- 原因
- 黄体ホルモン(プロゲステロン)が増加することで、体内に水分がたまりやすくなり、骨盤周囲のむくみや張りが起こる
- ホルモンの変動による自律神経の乱れで痛みを感じやすくなる
- 黄体ホルモン(プロゲステロン)が増加することで、体内に水分がたまりやすくなり、骨盤周囲のむくみや張りが起こる
- 特徴
- 月経開始直前に腰の重だるさが出る
- 精神的な不安定さや頭痛、むくみなどを伴う
- 月経開始とともに症状が軽快する傾向
- 月経開始直前に腰の重だるさが出る
月経困難症と腰痛
月経時に強い腹痛や腰痛が起こる状態を「月経困難症」と呼びます。単純に子宮の収縮が強いために痛む場合(機能性月経困難症)と、子宮内膜症や子宮筋腫などの病気が背景にある場合(器質性月経困難症)があります。
- 機能性月経困難症
- 若年女性に多い
- 子宮内膜から分泌される「プロスタグランジン」が過剰に働き、子宮の収縮が強まることで痛みが腰に放散する
- 鎮痛薬で改善することが多い
- 若年女性に多い
- 器質性月経困難症
- 子宮内膜症、子宮筋腫、子宮腺筋症などが原因
- 腰痛の程度が強く、年齢とともに悪化する傾向
- 不妊や過多月経を伴うことがある
- 子宮内膜症、子宮筋腫、子宮腺筋症などが原因
排卵期の腰痛(排卵痛)
排卵期に一時的な腰痛や下腹部痛を感じる女性もいます。
- 原因
- 卵巣から卵子が放出される際に、卵巣表面が破れて出血や炎症が起こる
- その刺激が骨盤内の神経を介して腰部に痛みとして伝わる
- 卵巣から卵子が放出される際に、卵巣表面が破れて出血や炎症が起こる
- 特徴
- 月の真ん中(排卵期)に限定して腰痛が起こる
- 痛みは一時的で、数時間〜数日で軽快する
- 出血(排卵出血)を伴うこともある
- 月の真ん中(排卵期)に限定して腰痛が起こる
更年期と月経不順に伴う腰痛
更年期になると女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が減少し、月経周期が乱れてきます。この変化により、腰痛が目立つことがあります。
- 特徴
- 月経周期が不規則になり、腰痛の発生も不安定になる
- 骨密度の低下や筋力低下が重なり、腰痛が慢性化しやすい
- ホットフラッシュや不眠などの更年期症状と併発する
- 月経周期が不規則になり、腰痛の発生も不安定になる
周期性腰痛を見分けるポイント
- 月経周期に合わせて繰り返すかどうか
- 下腹部痛や頭痛など、他の月経関連症状と同時に出ていないか
- 年齢やライフステージ(思春期・妊娠期・更年期)によって変化があるか
これらを把握することで、整形外科的な腰痛か、婦人科的な腰痛かを判断する助けになります。
4. 腰痛から婦人科受診を考えるべきサイン
以下のような症状を伴う腰痛がある場合は、早めに婦人科を受診することをおすすめします。
- 月経周期に合わせて腰痛が悪化する
- 下腹部痛や不正出血を伴う
- 排尿時や性交時に痛みを感じる
- 長期間、鎮痛薬を飲んでも改善しない腰痛
- 腰痛に加えて強い疲労感や貧血症状がある
これらは、単なる腰の不調ではなく婦人科疾患のサインである可能性があります。
5. 早期発見と検査の重要性
腰痛は日常的に多くの人が経験する症状であり、単なる疲労や姿勢の悪さとして片付けられがちです。しかし、その裏に子宮内膜症や子宮筋腫、卵巣腫瘍などの婦人科疾患が潜んでいる場合もあります。これらの疾患は、初期段階では腰痛や下腹部痛といった「よくある症状」しか示さないことが多いため、見逃されやすいのです。だからこそ、早期発見と適切な検査が非常に重要になります。


婦人科疾患を放置するとどうなるか
- 進行・悪化
子宮内膜症は放置すると癒着や不妊の原因になり、子宮筋腫は大きくなれば手術が必要になる場合もあります。卵巣腫瘍では悪性化のリスクがあるため、早期発見が鍵です。 - 生活の質の低下
慢性的な腰痛や過多月経により、日常生活や仕事に支障をきたすことがあります。 - 妊娠・出産への影響
婦人科疾患の多くは妊孕性に関わるため、早期の対応が将来の妊娠の可能性を守ることにつながります。
主な検査方法とその意義
- 問診・視診・内診
- 月経周期や腰痛の特徴、随伴症状を確認
- 内診で子宮や卵巣の大きさ、圧痛の有無を調べる
- 基本的な第一歩として重要
- 月経周期や腰痛の特徴、随伴症状を確認
- 超音波検査(エコー)
- 子宮筋腫や卵巣腫瘍の有無を確認できる
- 体への負担が少なく、妊娠中でも実施可能
- 子宮内膜症の疑いがある場合にも参考になる
- 子宮筋腫や卵巣腫瘍の有無を確認できる
- MRI検査
- 内膜症や腺筋症など、超音波では見えにくい病変を評価
- 腫瘍の性質や広がりを詳しく把握できる
- 内膜症や腺筋症など、超音波では見えにくい病変を評価
- 血液検査
- ホルモン値の測定(排卵障害や月経異常の評価に有用)
- 腫瘍マーカー(CA125など)で卵巣腫瘍や子宮内膜症の進行を推定
- ホルモン値の測定(排卵障害や月経異常の評価に有用)
- 細胞診・組織診
- 不正出血や子宮頸部異常がある場合に実施
- 子宮頸がんや子宮体がんの早期発見に直結
- 不正出血や子宮頸部異常がある場合に実施
受診を検討すべきサイン
腰痛が以下のような状態に当てはまる場合は、自己判断せず早めの婦人科受診が勧められます。
- 月経周期に合わせて繰り返し悪化する
- 鎮痛薬を飲んでも改善しない
- 下腹部痛や不正出血を伴う
- 腰痛に加えて貧血症状(めまい・倦怠感)がある
- 妊娠中に腰痛が強く出る
早期発見のメリット
- 治療の選択肢が広がる:軽症の段階なら薬物療法や低侵襲の処置で済む場合が多い
- 妊娠・出産のリスク低減:子宮や卵巣の機能を守ることにつながる
- 生活の質の向上:痛みや不快感を軽減し、仕事や家庭生活への影響を最小限に抑えられる
6. NIPTと婦人科疾患の関係
出生前診断であるNIPTは、主に胎児の染色体の異常を調べる検査ですが、検査を希望する妊婦さんの中には子宮筋腫や卵巣疾患を抱えている方も少なくありません。妊娠中の腰痛が婦人科疾患に由来するケースもあり、妊娠管理においては婦人科疾患とNIPTの両面からのアプローチが重要です。






