妊娠を希望しているのに排卵がないときの対応

Posted on 2025年 9月 12日 女性 医者

妊娠を望んでいるのに思うように結果が出ない。そんなとき、多くの女性が最初に直面する疑問が「自分はきちんと排卵しているのだろうか?」というものです。排卵は妊娠の成立に不可欠であり、卵巣から成熟した卵子が放出されることで初めて受精のチャンスが生まれます。しかし、この排卵が起こらない「無排卵」や、排卵が不規則な「排卵障害」に悩む女性は少なくありません。実際に、不妊の原因の約30〜40%が排卵障害に関係しているといわれています。

さらに厄介なのは、「生理がある=排卵している」とは限らないことです。出血があっても排卵を伴わない「無排卵周期」は意外と多く、本人が気づかないまま時間を過ごしてしまうケースが多々あります。

本記事では、排卵がないときに考えられる原因を医学的に詳しく解説し、婦人科で行われる検査、治療法、生活改善の具体策までを包括的に取り上げます。さらに心理的ケアや社会的背景、よくある質問への回答もまとめ、妊娠を望む方が「次に何をすべきか」を理解できる実践的なガイドを目指しました。

排卵とは?〜妊娠の第一歩〜

排卵とは、卵巣内で成熟した卵子が卵胞から飛び出す現象を指します。この卵子は卵管采に取り込まれ、精子と出会えば受精が成立し、受精卵が子宮内膜に着床して妊娠が始まります。

排卵は月経周期の中間、つまり次の生理予定日の約14日前に起こることが多いですが、周期は21〜35日と幅があるため、必ずしも「14日目」とは限りません。 

排卵の仕組み〜HPO軸の連携〜

排卵は「視床下部–下垂体–卵巣軸(HPO軸)」の精密なホルモンネットワークにより制御されています。

1. 視床下部:GnRHを分泌し、下垂体を刺激

2. 下垂体:FSHとLHを分泌

    - FSH:卵胞を成長させる

    - LH:排卵を誘発する

3. 卵巣:卵胞から卵子が放出される

このリズムが崩れると、卵子は成熟しても飛び出せず、無排卵となります。

無排卵とは?〜生理があっても排卵していない可能性〜

無排卵とは、卵巣から卵子が放出されない状態です。

タイプ

無月経型:月経が完全に止まる

無排卵周期型:出血はあるが排卵は伴わない

後者は本人が気づきにくく、不妊原因として多く見られます。

排卵がない原因

1. ホルモンバランスの異常

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
女性の5〜10%に見られる。卵胞は多数あるが成熟せず排卵に至らない。インスリン抵抗性や男性ホルモン過剰が関与。

高プロラクチン血症
乳汁分泌ホルモンが高すぎると排卵が抑制される。下垂体腫瘍や薬の副作用でも起こる。

甲状腺疾患
甲状腺機能低下症ではプロラクチンが上昇しやすく、排卵障害につながる。

卵巣早期不全(POI)
40歳未満で卵巣機能が低下し排卵が止まる。自己免疫や遺伝、治療歴などが原因。

2. 生活習慣や体重の影響

急激なダイエット → 視床下部が排卵を抑制

肥満 → インスリン抵抗性がLHを高め、排卵を妨げる

強いストレス → コルチゾール増加でGnRH分泌が低下

睡眠不足 → メラトニン減少でホルモンリズムが乱れる

3. 加齢

卵子の数は出生時から減少し続けます。35歳を超えると急激に減少・劣化し、排卵の安定性も失われます。

排卵の有無を確認する検査

排卵の有無を確認するためには、いくつかの方法があります。最も基本的で簡便な方法から、専門的な検査まで、順を追って詳しく解説します。

基礎体温測定(BBT)

概要

基礎体温は、毎朝同じ時間に測定し、低温期と高温期の二相性を確認することで排卵の有無を判断する方法です。排卵がある場合、体温が0.3〜0.5度上昇し、その後高温期が2週間ほど続きます。

測定方法

  • 毎朝、起きた直後に測定します。測定は必ず基礎体温計を使用し、舌の下で測ります。
  • 体温を測ったら、その日の記録をグラフに記入していきます。できるだけ毎日同じ時間帯に測定することが重要です。

メリットとデメリット

  • メリット: 自宅で簡単にでき、コストもかからない
  • デメリット: 体調や睡眠の影響を受けやすく、排卵を見逃すこともあるため、確定的な判断には不十分

排卵検査薬(LHサージ検出)

概要

排卵検査薬は、尿中に含まれるLH(黄体形成ホルモン)を測定することによって、排卵のタイミングを予測します。LHの分泌が急増する時期を「LHサージ」と呼び、この時期に排卵が起こります。

使用方法

  • 検査薬に尿をかけ、表示された結果を確認します。陽性反応が出た場合、24〜36時間以内に排卵が予想されます。
  • 検査薬は通常、排卵予定日から逆算して数日間使用します。

メリットとデメリット

  • メリット: 排卵日を的確に予測できる
  • デメリット: PCOSの人は常にLHが高めなので、誤判定が生じやすい

経膣超音波検査

概要

経膣超音波検査は、卵巣内の卵胞の成長や排卵後の黄体を観察するために用いられます。卵胞のサイズや発育状況をモニタリングし、排卵が近づいているかどうかを確認できます。

検査の流れ

  • 初診時に卵巣を観察し、小さな卵胞(約5mm)を確認
  • 排卵前には卵胞が20mm程度に達し、卵胞内に液体が溜まることを確認
  • 排卵後、卵胞は消失し、黄体が形成されるのが特徴です

メリットとデメリット

  • メリット: 排卵の状態を直接確認できるため、最も信頼性が高い
  • デメリット: 定期的に通院し、検査を受ける必要がある

ホルモン採血(血液検査)

概要

ホルモン採血は、排卵に関与するホルモンの値を測定する検査です。月経周期ごとにホルモンが変動するため、タイミングに合わせた採血が重要です。

月経3日目の採血

  • FSH(卵胞刺激ホルモン): 卵巣予備能や排卵の働きに関係
  • LH(黄体形成ホルモン): 排卵を促すホルモン
  • E2(エストロゲン): 卵胞の成長に伴い増加

排卵期の採血

  • LHサージ: 排卵前に急激に増加
  • E2: 排卵前にピークに達する

黄体期の採血

  • プロゲステロン: 排卵後の黄体から分泌され、妊娠をサポートする

メリットとデメリット

  • メリット: ホルモンの状態を正確に測定でき、排卵や内分泌異常を判断できる
  • デメリット: 採血のタイミングが重要で、1回の採血だけでは判断が難しい場合がある

AMH(抗ミュラー管ホルモン)検査

概要

AMHは、卵巣に残っている卵子の数を反映するホルモンです。卵巣の予備能を測定する指標として使用され、将来の妊娠可能性を示唆するものとなります。

判定基準

  • 高値(5ng/mL以上): PCOSなど、卵巣に残る卵胞が多い状態
  • 低値(1ng/mL以下): 卵巣機能が低下している、加齢の影響

メリットとデメリット

  • メリット: 卵巣予備能を数値化でき、早期に卵巣機能を評価できる
  • デメリット: AMHだけでは妊娠の可能性を完全に示すわけではない

MRI検査

概要

MRIは、主に高プロラクチン血症の原因として下垂体腫瘍(プロラクチノーマ)を確認するために用いられます。腫瘍がある場合、プロラクチンの過剰分泌を引き起こし、排卵を妨げることがあります。

メリットとデメリット

  • メリット: 下垂体腫瘍の有無を診断できる
  • デメリット: 費用が高く、全例に必要な検査ではない

検査のまとめ

これらの検査を通じて、排卵が起こっていない原因を特定することができます。自分に合った検査を選び、婦人科での診断を受けることが大切です。以下は検査の流れです:

  1. 基礎体温で月経周期の確認
  2. 超音波で卵胞の発育や排卵の確認
  3. ホルモン採血で内分泌のバランスをチェック
  4. 必要に応じて AMHMRI を使用して卵巣の予備能や内分泌系を評価
医療

排卵がないときの治療法

排卵がない場合、治療法は多岐に渡ります。お薬を使用して排卵を促す方法から、生活習慣の改善、最終的にはART(人工授精や体外受精)などがあります。治療法を段階的に見ていきましょう。

排卵誘発剤

クロミフェン(クロミッド)

最も一般的な排卵誘発剤で、経口薬です。卵巣を刺激して排卵を促します。副作用として子宮内膜が薄くなることがありますが、比較的使用しやすい薬です。

レトロゾール

PCOSの患者にも有効で、副作用が比較的少ない薬です。クロミフェンと比べて卵巣への負担が少ないため、女性に優しい薬剤として人気です。

注射製剤(FSH、hCG)

強力に排卵を誘発する注射薬です。多胎妊娠のリスクが高く、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクもありますが、高い成功率が期待できます。

メリット・デメリット

  • メリット: 排卵を確実に引き起こすことができ、タイミング療法と合わせて妊娠のチャンスが広がる
  • デメリット: 副作用やリスクが伴うため、医師の指導のもとで使用する必要がある

生活改善とセルフケアの詳細

排卵がない場合、治療だけでなく、日常生活を見直すことも非常に重要です。生活習慣を改善することで、ホルモンバランスが整い、排卵が改善する可能性が高くなります。ここでは、食事・運動・睡眠・ストレス管理など、妊活において効果的な生活改善策を詳しく紹介します。

食事の改善

妊活中の食事は、ホルモンバランスを整え、卵巣機能をサポートするために非常に大切です。栄養バランスを意識して、体に必要な栄養素を十分に摂取することが大切です。

必要な栄養素とその役割

  • 葉酸:卵子の発育を促し、受精後の発育をサポートします。緑黄色野菜やレバーに豊富です。妊娠を希望する女性は、葉酸を十分に摂ることが推奨されます。
  • 鉄分:鉄分は卵巣の健康をサポートし、血液中の酸素を運ぶ役割があります。鉄分を含む食品には赤身肉やレバー、豆類が挙げられます。
  • ビタミンD:卵巣機能をサポートするビタミンです。日光を浴びることで生成されるため、外出して日光浴をすることも大切です。サプリメントで補う方法もあります。
  • オメガ3脂肪酸:抗炎症作用があり、ホルモンバランスを整えるために有効です。青魚や亜麻仁油に多く含まれています。
  • ビタミンE:卵子の質を改善し、卵巣の健康を守る働きがあります。ナッツやアボカドなどに多く含まれています。

食事のポイント

  • バランスの良い食事:肉、魚、野菜、果物、穀物をバランスよく摂取しましょう。
  • 低GI食品:血糖値を安定させるために、低GI(グリセミック指数)食品を意識的に摂取すると良いでしょう。例えば、全粒粉のパンや玄米など。
  • 加工食品を控える:加工食品や過度な糖分摂取を避け、自然の食材を中心にした食事を心がけることが大切です。

運動の習慣

運動はホルモンバランスを整え、血流を改善するため、妊活にも非常に効果的です。しかし、過度な運動は逆効果になることがあるため、適度な運動が重要です。

適切な運動量

  • 有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、水泳など)は週に150分程度を目標に行いましょう。
  • 筋力トレーニング:週に2〜3回、軽い負荷で筋力トレーニングを行うと、血流が改善され、ホルモンの分泌が安定します。

運動の効果

  • インスリン感受性の改善:肥満やPCOSによるインスリン抵抗性を改善します。
  • 血流の改善:卵巣や子宮への血流が増え、排卵をサポートします。
  • 精神的なリフレッシュ:運動はストレス解消にも効果的で、心身ともに健康を維持できます。

睡眠とストレス管理

ホルモンバランスを整えるためには、規則正しい生活と十分な睡眠が不可欠です。また、ストレスが排卵に与える影響も大きいため、適切にストレスを管理する方法を身につけることが大切です。

睡眠の重要性

  • 規則正しい睡眠:毎日7〜8時間の良質な睡眠を確保しましょう。特に、夜11時から2時の間はホルモン分泌が活発になるゴールデンタイムです。
  • 寝室の環境改善:静かな環境、暗い部屋、快適な温度で寝ることが、睡眠の質を高めます。

ストレス管理法

  • リラクゼーション:深呼吸や瞑想を取り入れることで、自律神経を整え、ストレスを減少させます。
  • マインドフルネス:今この瞬間に集中し、ストレスを軽減させる方法です。日々の生活に取り入れてみましょう。
  • 趣味の時間:自分の好きなことをしてリラックスすることが、精神的なバランスを整えるために重要です。

心理面と社会的背景

妊活において、心理的なサポートや周囲の理解も非常に重要です。排卵がないと、女性は「自分のせいで妊娠できないのではないか」という不安に駆られることがあります。しかし、無排卵は決して女性のせいではなく、治療を受けることで改善できる場合が多いのです。

心理的サポート

  • カウンセリング:不妊治療の精神的負担を軽減するために、専門のカウンセラーに相談することが有益です。
  • パートナーとの協力:妊活は夫婦で取り組むべきプロジェクトです。お互いにサポートし合い、共に乗り越えることが大切です。

社会的背景

  • 晩婚化:日本をはじめ多くの国では、女性の晩婚化が進んでおり、35歳を過ぎると卵巣機能が低下しやすくなります。
  • 不妊治療の社会的支援:不妊治療に対する理解が深まってきている一方で、まだまだ社会全体でのサポートが十分でないこともあります。職場や家庭での支援体制が重要です。

よくある質問(Q&A)

Q1. 生理があっても排卵しないことはありますか?
A. はい、あります。無排卵周期では、月経のような出血があるものの実際には排卵していないことが多いです。

Q2. 排卵誘発剤を使い続けても大丈夫?
A. 医師の指導のもとで使用する限り、排卵誘発剤は安全に使用できますが、長期使用に関しては医師と相談が必要です。

Q3. 生活改善で排卵は戻りますか?
A. 生活習慣の改善(食事、運動、睡眠)によって、ホルモンバランスが整い、排卵が戻ることがあります。ただし、治療と併用が必要な場合もあります。

Q4. 妊娠までの期間はどれくらいかかりますか?
A. 妊娠までの期間は個人差がありますが、治療開始後3ヶ月以内に成果が出ることが多いです。焦らずに取り組むことが重要です。

Q5. 妊娠するためには夫婦でどのように協力するべきですか?
A. 妊活は夫婦で協力して取り組むことが大切です。夫の精子検査も受け、治療法や生活改善においてお互いに支え合いましょう。

まとめ

妊娠を希望しているけれど、排卵がないことに悩んでいるあなた。無排卵があっても、決して諦める必要はありません。現代の医療技術では、無排卵を改善する方法が多くあります。生活改善と治療を並行することで、妊娠の可能性は十分に広がります。

排卵がないということは、あなた一人の問題ではありません。夫婦で協力し合い、専門医のサポートを受けながら、一歩ずつ前進していきましょう。自分自身を大切にし、焦らず取り組むことが妊娠への近道です。