女性のライフサイクルにおいて、PMS(月経前症候群)や更年期は多くの人が経験する心身の大きな変化です。ホルモンバランスの乱れにより、頭痛やイライラ、不眠、動悸、ホットフラッシュといった多彩な症状が現れ、日常生活に支障をきたすことも少なくありません。
こうした症状を軽減する方法の一つとして注目されているのが、栄養補助食品としてのサプリメントです。医薬品のように即効性や治療効果を保証するものではありませんが、正しい知識と選び方を押さえることで、セルフケアの一環として有効に活用できます。
本記事では、PMSや更年期に効果が期待できる代表的なサプリメント成分を取り上げ、科学的な知見や注意点を交えながら詳しく解説します。
1. PMS・更年期に共通する症状とその背景
PMS(月経前症候群)と更年期は、どちらも女性ホルモンの変動に深く関係しています。ですが、その発生時期や症状の種類には違いがあります。まずは、それぞれのメカニズムや発症背景を理解することが、サプリメント選びや生活改善に役立ちます。
PMS(月経前症候群)の特徴と背景
PMSは、排卵後から月経が始まるまでの「黄体期」に現れる症状の総称です。エストロゲンとプロゲステロンという2種類のホルモンが急激に変動することで、心身にさまざまな不調が起こります。
特に以下の要因がPMSの発症に関わっていると考えられています。
- ホルモン変動による神経伝達物質の乱れ
セロトニンやドーパミンといった脳内物質が低下することで、気分の落ち込みやイライラが生じやすくなります。 - 水分・塩分の代謝異常
プロゲステロンの作用によって体内に水分が溜まりやすくなり、むくみや乳房の張りを引き起こします。 - 栄養不足や生活習慣の影響
ビタミンB6やカルシウム不足、睡眠不足、ストレスなどが症状を悪化させる要因となります。
日本産科婦人科学会の報告では、女性の約70〜80%がPMSを経験し、そのうち約5%は日常生活に強い支障をきたす「PMDD(月経前不快気分障害)」に該当するとされています。
更年期の特徴と背景
更年期とは、閉経をはさむ前後約10年間を指します。多くの女性が40代後半から50代前半にかけて迎えます。卵巣の働きが衰えることで、エストロゲン分泌が減少し、ホルモンバランスが大きく崩れます。
- 血管運動神経症状
ホットフラッシュ、のぼせ、発汗などが代表的で、突然体が熱くなったり、大量の汗をかいたりします。 - 精神的な症状
抑うつ、不眠、集中力の低下、感情の起伏の激しさなどが目立ちます。 - 長期的な健康リスク
エストロゲンは骨や血管の健康を守る役割を果たしているため、その低下により骨粗鬆症や動脈硬化のリスクが高まります。
日本人女性の平均閉経年齢は約50.5歳とされています。閉経前後の期間は心身ともに大きな変化が起こるため、サプリメントや生活習慣の工夫で症状を和らげることが重要です。
共通点と相違点
PMSと更年期は、いずれも「女性ホルモンの変動」が背景にありますが、発症時期や主症状は異なります。
- 共通点
- ホルモンの急激な変動により、自律神経や神経伝達物質の働きが乱れる
- 精神的・身体的な両面に症状が現れる
- 生活習慣や栄養状態の影響を受けやすい
- ホルモンの急激な変動により、自律神経や神経伝達物質の働きが乱れる
- 相違点
- PMSは20〜30代の若い世代にも起こりうるが、更年期は主に40〜50代が対象
- PMSは月経周期に関連して一時的に出現するのに対し、更年期は数年にわたり持続的に症状が現れる
- 更年期は将来的な生活習慣病リスクの増加とも結びつく
- PMSは20〜30代の若い世代にも起こりうるが、更年期は主に40〜50代が対象
このように、両者は「一過性」か「長期的」かの違いはあるものの、根本にはホルモンバランスの変動が存在します。したがって、サプリメントによってホルモン様作用を補ったり、神経伝達物質を安定させたりすることが、双方にとって有効なアプローチとなります。
2. ホルモンバランスをサポートする成分
女性の体調は、エストロゲンとプロゲステロンという2種類の女性ホルモンの影響を大きく受けています。これらのホルモンは月経周期や妊娠、更年期における身体の変化に深く関与しており、分泌量が乱れることでPMSや更年期特有の症状が現れます。サプリメントの中には、ホルモン様作用を持つ植物性成分や、ホルモンの働きを補助する栄養素があり、女性のライフステージにおけるセルフケアとして注目されています。
イソフラボン(大豆由来成分)
イソフラボンは大豆や大豆製品に含まれるポリフェノールの一種で、「植物性エストロゲン」と呼ばれるほど、エストロゲンに似た作用を持ちます。
- 効果
・更年期のホットフラッシュや動悸、発汗などの血管運動神経症状の軽減
・骨密度維持による骨粗鬆症予防
・PMS時の気分の安定化 - 注意点
過剰摂取はホルモンバランスに逆効果を及ぼす可能性があるため、上限量(1日70〜75mg程度)が推奨されています。サプリメントだけでなく、豆腐・納豆・豆乳などの食品とバランスよく取り入れることが重要です。
ブラックコホシュ
北米先住民が更年期障害に利用してきたハーブで、近年はサプリメントとして広く普及しています。
- 効果
・エストロゲン受容体に作用し、更年期のホットフラッシュ、発汗、不眠を改善
・PMSの気分変動や頭痛の軽減 - エビデンス
欧州では医薬品として認可されている国もあり、臨床研究で一定の有効性が報告されています。 - 注意点
長期使用による肝機能障害の可能性が指摘されており、既往歴がある人や他の薬を服用中の人は必ず医師に相談が必要です。
マカ
ペルーの高地で古来より食されてきた根菜。滋養強壮作用で知られ、ホルモンバランスの安定に寄与します。
- 効果
・PMSに伴う倦怠感や集中力低下の改善
・更年期の疲労感や性機能低下へのサポート
・ビタミン・ミネラルが豊富で、栄養補給にも優れる - 特徴
マカには直接的なエストロゲン様作用はありませんが、ホルモン分泌を調整する作用が期待されています。そのため、ホルモン療法ができない人のサポートとして注目されています。
チェストツリー(ヴァイテックス)
ヨーロッパで古くから「女性のハーブ」と呼ばれてきた植物。特にPMS対策として有効とされます。
- 効果
・プロラクチン分泌を抑制し、乳房の張りや頭痛を改善
・気分の不安定さやイライラの軽減 - 研究例
ドイツではPMS治療薬として承認されており、科学的根拠のあるサプリメント成分の一つです。 - 注意点
妊娠中・授乳中は使用を避けることが推奨されています。
レッドクローバー
マメ科植物で、イソフラボンを豊富に含むことから「天然ホルモン補充サプリ」として知られています。
- 効果
・更年期症状の軽減(特にホットフラッシュ)
・骨密度低下の抑制 - 特徴
大豆アレルギーのある人でも利用しやすい場合がありますが、効果の現れ方には個人差があります。
3. 精神的な安定に役立つ成分
セントジョーンズワート
軽度から中等度のうつ症状改善に効果があるとされるハーブ。PMSに伴う抑うつや不安、不眠に用いられることがあります。ただし、薬との相互作用が非常に多いため、服用中の薬がある場合は医師への相談が不可欠です。
GABA(γ-アミノ酪酸)
脳内の抑制性神経伝達物質として働き、リラックス効果や睡眠の質改善が期待されます。PMSや更年期のイライラや不眠のサポートに役立ちます。
テアニン
緑茶に含まれるアミノ酸で、リラックス作用があり、自律神経のバランスを整える効果が期待されています。ストレス軽減や睡眠改善に有効です。
4. 身体的な症状をサポートする成分
カルシウム・マグネシウム
骨粗鬆症予防や筋肉の緊張緩和に重要。PMSの頭痛や筋肉痛、更年期の骨量低下対策に欠かせません。
ビタミンB6
神経伝達物質の合成を助け、ホルモンバランスを整える働きがあります。PMSの精神的症状緩和に効果があるとされています。
オメガ3脂肪酸
青魚や亜麻仁油に多く含まれる必須脂肪酸で、炎症を抑え、心血管疾患予防や気分の安定に寄与します。
5. サプリメントの選び方と注意点
サプリメントを選ぶ際は以下のポイントを重視しましょう。
- 成分の安全性とエビデンス:臨床試験や公的機関の評価があるものを選ぶ。
- 配合量の明確さ:有効成分の含有量がきちんと表示されているか確認する。
- 相互作用のリスク:薬を服用している場合は特に注意し、必ず医師や薬剤師に相談する。
また、サプリメントはあくまで「補助」であり、生活習慣の改善と併用することで真価を発揮します。
6. 生活習慣との組み合わせで高める効果
サプリメントの効果を最大限に活かすためには、以下の習慣改善が欠かせません。
- バランスのとれた食事(野菜・魚・大豆製品の摂取)
- 適度な運動(有酸素運動+ストレッチ)
- 良質な睡眠(規則正しい生活リズム)
- ストレス管理(ヨガ、瞑想、趣味時間の確保)
これらをサプリメントと組み合わせることで、PMSや更年期の症状緩和により大きな効果を期待できます。

まとめ
PMSや更年期は、多くの女性が直面する心身の変化であり、その症状は多岐にわたります。サプリメントは医療的治療を置き換えるものではありませんが、科学的根拠に基づいた成分を正しく選び、生活習慣と併せて取り入れることで、症状緩和や生活の質向上に大いに役立ちます。
自分の体調やライフステージに合ったサプリメントを上手に活用し、医療機関での相談を並行して行うことが、安心で快適な毎日への第一歩となるでしょう。







