「避妊に失敗した」「生理予定日が近いけど不安」など、いざという時の緊急避妊としてアフターピル(緊急避妊薬)を使う女性は増えています。
しかし、「何度も使っても大丈夫?」「生理に影響はあるの?」と心配する声も少なくありません。
この記事では、アフターピルの繰り返し使用による体への影響やリスク、正しい使い方について、医療の専門的な視点から解説します。
1. アフターピルとは?基本の仕組みを理解しよう
アフターピル(緊急避妊薬)は、避妊に失敗したあとに妊娠を防ぐためのホルモン薬です。コンドームの破損や装着忘れ、避妊なしの性行為など、「妊娠の可能性が高い」と判断された場合に用いられます。
通常の避妊方法とは異なり、妊娠が成立する前の段階で、ホルモンの働きを一時的に操作することで妊娠を防ぐのが特徴です。
● どうやって妊娠を防ぐのか?3つのメカニズム
アフターピルは、服用のタイミングや女性の生理周期によって、複数の作用を発揮します。
- 排卵の抑制・遅延
排卵前に服用した場合、黄体ホルモンを一時的に増やすことで「まだ排卵しない」と脳に信号を送り、排卵を遅らせます。これにより、精子が生きている間(約5日間)に受精する可能性を減らします。 - 受精の阻害
排卵後や排卵直前に服用した場合、卵管内の環境を変化させ、精子と卵子が出会いにくくします。これにより、受精そのものを防ぐ効果が期待できます。 - 受精卵の着床阻害
もし受精が起きてしまった場合でも、子宮内膜が着床しにくい状態になるため、妊娠の成立を防ぐと考えられています。
ただし、この作用は「流産を誘発するものではない」点が重要です。アフターピルは、妊娠が成立した後には効果を示さない薬です。
● 日本で使用されている主なアフターピルの種類
日本で承認・使用されているアフターピルには、主に以下の2種類があります。
| 名称 | 有効成分 | 服用期限 | 特徴 | 入手方法 |
| レボノルゲストレル錠(ノルレボ・エラワン・ジェネリックなど) | レボノルゲストレル(黄体ホルモン) | 性行為後72時間以内(できるだけ早く) | 副作用が少なく、最も一般的に処方される。72時間以内なら約85〜95%の避妊効果。 | 医師の処方(対面・オンライン診療) |
| ウリプリスタル酢酸エステル錠(エラ) | プロゲステロン受容体調節薬 | 性行為後120時間(5日以内) | 排卵直前でも効果を示す。ホルモン受容体に直接作用するため、避妊効果が高い。 | 医師の処方(処方施設限定) |
特に近年は、オンライン診療や24時間対応クリニックの普及により、夜間や休日でも比較的スムーズにアフターピルを入手できる環境が整っています。
ただし、市販薬としてドラッグストアで自由に購入できる国もある一方、日本では原則として医師の診察・処方が必要です。
● 効果を最大限に高めるための服用タイミング
アフターピルの避妊効果は、服用までの時間が短いほど高くなります。
WHO(世界保健機関)のデータによると、性行為から24時間以内に服用すれば約95%、48時間以内で約85%、72時間を超えると70%以下に下がると報告されています。
一刻も早く服用することが、最も確実な避妊につながります。
また、服用後に2時間以内に嘔吐した場合は、薬が十分に吸収されていない可能性があるため、再服用が必要になることがあります。
副作用として軽い吐き気を感じる方もいますが、食後に服用するなどの工夫で軽減可能です。
● アフターピルは「避妊薬」ではなく「緊急避妊薬」
多くの女性が誤解しがちなのが、「アフターピル=避妊薬」という認識です。
実際には、アフターピルは**通常の避妊法がうまくいかなかったときに、一時的に妊娠を防ぐ“緊急処置”**に過ぎません。
低用量ピル(OC)のように排卵を抑えて妊娠を長期的に防ぐものではなく、ホルモンを一時的に高濃度で投与するため、繰り返し使うと体への負担が大きくなるのが現実です。
● アフターピル使用後の注意点
服用後は、多くの人で2〜3週間以内に生理様の出血が見られます。これが避妊成功のサインとされますが、もし3週間経っても出血がない場合や、生理予定日から1週間以上遅れている場合は、妊娠検査を行うことが推奨されます。
まれに不正出血が起こることもありますが、多くは一時的なホルモン変化によるもので、時間とともに回復します。
● まとめ:正しい理解が「安心」につながる
アフターピルは、緊急時に女性の身体を守る大切な手段です。
一方で、「何度でも使える」「避妊薬の代わりになる」といった誤解も多く、正しい理解が求められます。
アフターピルの基本的な仕組みを知ることで、体に余計な負担をかけず、必要なときに安心して選択できるようになります。
2. 繰り返し使用はできる?安全性と注意点
アフターピルは、緊急時に妊娠を防ぐための有効な手段ですが、「もしもの時にまた使えば大丈夫」と繰り返し使用するのは注意が必要です。
医学的には複数回の服用は可能ですが、ホルモンバランスや生理周期に一時的な影響を与えるため、頻繁な服用は推奨されません。
● 「使ってはいけない」わけではないが、リスクを理解することが大切
アフターピルの主成分であるレボノルゲストレル(黄体ホルモン)やウリプリスタル酢酸エステルは、体に蓄積するタイプの成分ではありません。
したがって、数回の服用で肝臓や腎臓に重大な障害を及ぼす心配はほとんどありません。
実際、WHO(世界保健機関)も「繰り返し服用による明確な健康被害は報告されていない」としています。
しかし問題は、体のリズムが乱れることにあります。
ホルモンが強制的に変化することで、排卵や生理周期が一時的に狂い、
「生理が早まる」「予定より10日以上遅れる」「不正出血が続く」などの変化が起こることがあります。
これらは病気ではなく一過性の反応ですが、頻発すると自分の排卵時期が分からなくなり、次回以降の避妊タイミングを見誤る原因にもなります。
● ホルモンバランスへの影響は?
アフターピルは、体内のホルモン分泌を一時的に強く変動させる薬です。
特に、エストロゲンとプロゲステロンのバランスが急激に変化することで、次のような症状が見られることがあります。
- 頭痛、吐き気、めまい
- 乳房の張りや軽い痛み
- 下腹部の重さや倦怠感
- 感情の不安定さ(イライラや気分の落ち込み)
これらは通常、数日で落ち着きますが、短期間に繰り返すと症状が強まる傾向があります。
また、10代や20代前半など、まだホルモンバランスが安定していない女性では、周期の乱れが長引くこともあります。
● 「避妊失敗を繰り返す」背景にあるリスク
繰り返しの使用は、避妊法が安定していないことのサインでもあります。
コンドームの使用忘れや破損が頻繁に起きている場合、根本的な対策を見直す必要があります。
また、「毎回アフターピルを使えばいい」という考え方は、結果的に避妊の確実性を下げることになります。
なぜなら、アフターピルは排卵のタイミングによっては効果が十分に発揮されないことがあるからです。
特に、排卵直後に服用した場合は妊娠を防げない可能性があります。
繰り返し使ううちに「今回は効くかどうか分からない」という不安が生じ、精神的にも負担となるケースが多く見られます。
● 医師が推奨する「繰り返し使用を避ける理由」
医師が「アフターピルを常用しない方がよい」と伝える背景には、次のような理由があります。
- 月経周期の乱れによる避妊失敗リスクの増加
周期が安定しないことで排卵日を予測できず、思わぬタイミングで妊娠する可能性が高まります。 - 副作用の蓄積的な負担
吐き気・頭痛・出血などが毎回起こると、日常生活に支障が出ることがあります。 - 精神的なストレスの増大
「今回も妊娠していないだろうか」という不安が繰り返され、ストレスや不眠の原因となります。 - 避妊への油断や依存傾向
「あとで薬を飲めばいい」という意識が、避妊への責任感を低下させることにつながります。
● 繰り返し服用が必要になったときの対応
「今月2回目になってしまった」「どうしても服用が必要だった」
そんなときは、服用後に必ず婦人科を受診しましょう。
生理の乱れが続いていないか、妊娠が成立していないかを確認することができます。
また、医師は今後の避妊方法(低用量ピル・IUDなど)についても個別にアドバイスしてくれます。
もし同じ月に2回以上服用することが続くようなら、それは「ライフスタイルや避妊方法を見直す時期」と捉えましょう。
体の負担を減らし、安心して性生活を送るためには、“緊急避妊”を常用避妊に切り替えることが最善の選択です
3. 繰り返し使用によるリスクと限界

● 避妊失敗のリスクが高まる
アフターピルの避妊成功率は、性行為からの時間や服用時期によって異なります。
例えば、ノルレボ錠を**24時間以内に服用すれば約95%**の効果がありますが、72時間を過ぎると効果は大きく低下します。
また、服用後に嘔吐したり、他の薬の影響を受けたりすると、効果が減弱する可能性もあります。
頻繁に使用していると、「今回は大丈夫」と油断して服用タイミングが遅れ、結果的に避妊に失敗するケースも報告されています。
● 生理周期の乱れによる妊娠リスク
アフターピルの作用で排卵が遅れたり、生理がずれたりすると、次の排卵日が予測しづらくなります。
避妊なしの性行為を続けてしまうと、予期せぬタイミングで妊娠するリスクが高まるため、継続的な避妊法への切り替えが推奨されます。
● 精神的なストレスの増大
「また服用してしまった」「副作用が出ないか心配」といった心理的負担も無視できません。
ホルモンの変動による情緒不安定も重なることで、ストレスや不安が増すことがあります。
4. 繰り返し使用を避けるための避妊方法
アフターピルを何度も使うよりも、普段から確実な避妊を行うことが最も安全です。
以下のような方法を組み合わせると、避妊の確実性が高まります。
| 避妊方法 | 特徴 |
| 低用量ピル(OC) | 毎日服用で排卵を抑制。避妊率が高く、生理痛の軽減などの副効用もあり |
| コンドーム | 性感染症の予防にも有効。正しい装着方法を守ることが重要 |
| IUD(子宮内避妊具) | 長期間有効で、避妊効果が高い。出産経験のない女性も使用可能 |
| 避妊アプリや排卵管理 | 生理周期の把握に役立つが、避妊効果は限定的 |
「一時的に避妊したい」だけでなく、今後のライフプランに合わせた方法を婦人科医と相談することが大切です。
5. アフターピルを使う際の正しい対応と受診のタイミング
● 服用前に知っておくべきポイント
- 性行為後、できるだけ早く服用することが効果を高める
- 嘔吐があった場合は、2時間以内なら再服用が必要になる場合がある
- 他の薬(抗てんかん薬、漢方薬など)との併用で効果が下がることがある
● 服用後に医師へ相談すべきケース
- 生理が1週間以上遅れている
- 不正出血が続く
- 強い腹痛や発熱がある
- 何度もアフターピルを使用している
これらの症状がある場合、妊娠や子宮内の異常がないか確認するためにも、婦人科での受診を推奨します。
6. Q&A:よくある疑問
Q1. 1ヶ月に2回使っても大丈夫?
→ 生命に関わる危険はありませんが、ホルモンバランスが乱れ、生理不順や体調不良を招く恐れがあります。常用は避けましょう。
Q2. アフターピルを何回まで使っていい?
→ 「上限回数」はありませんが、毎月使うような頻度は望ましくありません。継続的な避妊方法への切り替えが勧められます。
Q3. 将来の妊娠に影響はある?
→ 一時的な服用では将来の妊娠能力に影響しません。ただし、頻繁な使用で周期が乱れると、一時的に排卵が不安定になることがあります。
Q4. 市販薬で買えるの?
→ 日本ではアフターピルは原則として医師の処方が必要ですが、オンライン診療などで迅速に受け取ることが可能です。
Q5. アフターピルの代わりになる方法は?
→ 緊急避妊としては唯一の方法ですが、普段からの避妊を意識することで、そもそも服用が不要になります。
7. まとめ:繰り返しの使用は「緊急時のみ」にとどめよう
アフターピルは、「もしもの時」に女性を守る大切な薬です。
しかし、繰り返し使用を前提にすると、体調の変化や避妊失敗のリスク、精神的なストレスを伴います。
本来の目的である「緊急避妊」に留め、日常的には低用量ピルやコンドームなど、継続的で確実な避妊法を選択することが重要です。
もしも不安なことがある場合は、婦人科やオンライン診療で気軽に相談してください。
自分の体を守るために、正しい知識と選択を重ねていきましょう。







