低用量ピルは、避妊だけでなく月経痛やPMSの改善など、多くの女性の生活を支える存在です。その中でも「ドロエチ(ドロスピレノン配合ピル)」と「マーベロン(デソゲストレル配合ピル)」は人気の高い2種類。どちらも効果的ですが、成分や副作用、体質との相性に違いがあります。本記事では、医師監修レベルの専門知識をもとに、両者の特徴を詳しく比較し、自分に合ったピル選びのポイントを解説します。
1. ドロエチとマーベロンの基本情報
1-1. ドロエチとは?
ドロエチは、ドロスピレノン(Drospirenone)とエチニルエストラジオール(Ethinylestradiol)を有効成分とする第4世代の低用量ピルです。
代表的な製品には「ヤーズ(YAZ)」「ヤーズフレックス」「ドロエチ配合錠」などがあります。これらはいずれも排卵抑制効果とPMS改善効果を両立したピルとして知られています。
ドロエチの特徴
- 第4世代プロゲステロン(ドロスピレノン)を採用
従来のピル(第2・3世代)に比べてアンドロゲン作用(男性ホルモン様作用)が非常に少ないため、体毛の増加やニキビの悪化といった副作用が起きにくいのが特徴です。 - 抗ミネラルコルチコイド作用(利尿作用)
ドロスピレノンには、体内の水分バランスを整える作用があります。月経前や排卵期に起きやすいむくみや体重増加を軽減できる点が他のピルにはないメリットです。 - 抗アンドロゲン作用
皮脂の過剰分泌を抑えることで、ニキビ・脂性肌の改善にもつながります。皮膚科領域でも補助治療として用いられることがあります。 - PMS(月経前症候群)・PMDD(月経前不快気分障害)に適応
精神的なイライラ、情緒不安定、集中力の低下などのメンタル面の不調にも効果が期待され、医師によるPMS治療の第一選択薬として処方されるケースもあります。
ドロエチの服用形態
- 28日タイプ(24錠+4錠):24日間のホルモン錠+4日間のプラセボ錠(偽薬)で構成。
- ヤーズフレックスタイプ:最長120日間の連続服用が可能。月経回数を減らしたい女性に人気です。
このように月経回数をコントロールできる柔軟性もドロエチの特徴の一つです。
ドロエチの適している人
- むくみ・体重変化が気になる人
- PMSやPMDDで心身の不調が強い人
- ニキビや肌荒れを改善したい人
- 生理周期を安定させたい人
一方で、ドロスピレノンはカリウム保持作用を持つため、腎機能障害や高カリウム血症のある人は服用に注意が必要です。
1-2. マーベロンとは?
マーベロンは、デソゲストレル(Desogestrel)とエチニルエストラジオールを配合した第3世代の低用量ピルで、国内外で長年にわたって使用されている信頼性の高い薬剤です。
日本ではオランダのOrganon社製品として知られ、後発医薬品(ジェネリック)には「ラベルフィーユ」があります。
マーベロンの特徴
- **第3世代プロゲステロン(デソゲストレル)**を採用
黄体ホルモンとしての作用が安定しており、アンドロゲン作用が極めて低いため、肌や髪への悪影響が少ないのが特徴です。 - ホルモンバランスの安定化効果
生理周期を整え、月経痛や出血量を減らす働きがあります。初めてピルを服用する女性にも使いやすく、避妊と生理コントロールの両立を目指せます。 - 肌改善効果が高い
皮脂分泌を抑える作用があり、ニキビ・脂性肌の改善を目的に服用する女性も多いです。 - 長期使用実績が豊富
欧米では何十年にもわたって使用されており、安全性データが蓄積されている点も安心材料です。
マーベロンの服用形態
- 21錠タイプ:21日間服用+7日間休薬(合計28日周期)
- 28錠タイプ(21+7):7日間はプラセボ錠(偽薬)で、休薬期間を間違えにくい構成
服用スケジュールがシンプルで、初心者でも続けやすいのが特徴です。
マーベロンの適している人
- ニキビや肌荒れを改善したい人
- 生理周期を安定させたい人
- 月経痛が強い人
- 初めてピルを服用する人
マーベロンはバランス型ピルといえる存在で、副作用が比較的少なく、肌質や月経リズムを整えたい女性に多く選ばれています。
1-3. 両者の開発背景と医療現場での位置づけ
- **マーベロン(第3世代)**は、1970~80年代にかけて開発された比較的古いタイプのピルで、安全性と安定性が評価されています。
- **ドロエチ(第4世代)**は、マーベロン以降に開発された新世代ピルで、ホルモンバランスへの影響をより軽減し、PMSやむくみなどの“女性特有の悩み”に寄り添う進化型として登場しました。
日本では近年、女性の社会進出や生活リズムの多様化に伴い、**「避妊だけでなく生活の質(QOL)を上げる目的」**でピルを選ぶ女性が増加。
この傾向の中で、ドロエチは「感情・体調の安定を求める層」に、マーベロンは「美容・生理痛改善を求める層」に支持されています。
1-4. 医師の見解
産婦人科医の多くは、
- 「PMSやむくみが強い場合はドロエチを優先」
- 「初めてのピルや肌改善目的にはマーベロンを推奨」
といった使い分けをしています。
ただし、ピルの効果は個人差が大きく、3か月ほど服用して自分の体質との相性を確かめることが一般的です。副作用の出方や気分変動を見ながら、医師が種類を切り替えることもあります。
1-5. まとめ:基本情報の比較表
| 比較項目 | ドロエチ | マーベロン |
| 世代分類 | 第4世代ピル | 第3世代ピル |
| 黄体ホルモン成分 | ドロスピレノン | デソゲストレル |
| 主な特徴 | むくみ・PMS改善、精神的安定 | 肌荒れ・月経痛改善、美容効果 |
| 服用タイプ | 24+4錠/連続服用タイプあり | 21+7錠タイプ |
| 医師の主な処方理由 | PMS・PMDD治療 | 生理痛・避妊・肌改善 |
| 向いている人 | 気分の波や体のむくみが気になる人 | 初めてピルを服用する人、美容重視の人 |
2. 成分の違いと作用機序
低用量ピルの主成分は、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)です。
どちらも女性の体内で重要な働きを持つホルモンであり、人工的に補うことで排卵を抑え、避妊やホルモンバランスの調整を行います。
しかし、この「黄体ホルモン」の種類によって、ピルごとの特徴や体への影響が大きく異なります。
ドロエチとマーベロンを分ける最大の要因は、この黄体ホルモンの違いにあります。
2-1. 共通成分:エチニルエストラジオール(Ethinylestradiol)
両方のピルに含まれるエチニルエストラジオールは、卵胞ホルモンの一種で、排卵の抑制・子宮内膜の維持・月経周期の調整を担います。
この成分が一定量体内にあることで、脳下垂体から分泌される**FSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体形成ホルモン)**の分泌が抑制され、卵胞が成熟せず排卵が起こらない状態になります。
つまり、どちらのピルも
「体を一時的に“妊娠中のようなホルモン状態”にして、排卵を止める」
という仕組みで避妊効果を発揮します。
さらに、子宮内膜を薄く保つことで受精卵が着床しにくくし、頸管粘液を粘稠化して精子の侵入を防ぐ作用もあります。
2-2. ドロエチの主成分:ドロスピレノン(Drospirenone)
(1)化学的特徴
ドロスピレノンは、天然の黄体ホルモンである「プロゲステロン」と化学構造が近く、抗ミネラルコルチコイド作用と抗アンドロゲン作用を持つ特殊な成分です。
これは従来のピルにはほとんど見られなかった性質であり、「第4世代プロゲステロン」と呼ばれる所以です。
(2)抗ミネラルコルチコイド作用(利尿作用)
一般的に、女性の体はエストロゲンの影響でナトリウムや水分をため込みやすい傾向があります。
ドロスピレノンは、腎臓でのナトリウム再吸収を抑制し、水分を体外に排出しやすくします。
そのため、月経前に起こりやすいむくみや体重増加を軽減できるのです。
つまり「ドロエチ=ホルモンバランスを整えつつ、余分な水分を排出してスッキリさせる」作用があるピルです。
(3)抗アンドロゲン作用(男性ホルモン抑制作用)
女性の体内にもわずかに分泌される**アンドロゲン(男性ホルモン)**は、皮脂分泌や体毛に関係します。
ドロスピレノンはこれを抑える作用があるため、ニキビ・脂性肌の改善や多毛症の緩和に効果的です。
(4)精神的安定への影響
PMSやPMDDの原因の一つは、ホルモン変動による神経伝達物質(セロトニンなど)の不安定化です。
ドロスピレノン配合ピルはホルモン変動を緩やかに抑制し、情緒不安定やイライラを改善する臨床データも報告されています。
2-3. マーベロンの主成分:デソゲストレル(Desogestrel)
(1)化学的特徴
デソゲストレルは第3世代の合成プロゲステロンで、前世代(レボノルゲストレルなど)に比べてアンドロゲン作用が大幅に抑えられた改良型です。
体内に入ると「エトノゲストレル」に変換され、強力に排卵を抑制します。
つまり、避妊効果が非常に安定して高いという点が特徴です。
(2)ホルモンバランスの安定化作用
デソゲストレルは、エストロゲンとの組み合わせにより子宮内膜を安定化させ、月経周期の乱れを整えます。
また、エストロゲンとのバランスが優れているため、出血量が減少し、生理痛が軽くなるケースも多いです。
(3)肌や髪への作用
アンドロゲン作用が少ないため、皮脂分泌抑制効果があり、ニキビや肌荒れ改善にも用いられます。
特に思春期以降の女性や、ホルモンバランスによる吹き出物に悩む女性に人気です。
(4)副作用の抑制
デソゲストレルは他の黄体ホルモンよりも血中半減期が長く、ホルモン濃度の変動が緩やかです。
このため、吐き気や情緒不安定といった副作用が少ないのも特長です。
2-4. 成分比較表
| 項目 | ドロエチ(ドロスピレノン配合) | マーベロン(デソゲストレル配合) |
| 世代分類 | 第4世代ピル | 第3世代ピル |
| 排卵抑制効果 | 強い | 非常に強い |
| 利尿作用 | あり(抗ミネラルコルチコイド作用) | なし |
| アンドロゲン作用 | なし(むしろ抑制) | ごくわずか |
| PMSへの効果 | 高い(ホルモン変動を抑える) | 中等度(症状緩和あり) |
| ニキビ改善効果 | 中等度 | 高い |
| むくみ軽減 | 明確な効果あり | 効果は限定的 |
| メンタル面への影響 | 安定化作用が強い | 変化は少ない |
2-5. 血中動態と代謝の違い
- ドロスピレノンは、服用後2時間ほどで血中濃度が上昇し、肝臓で主にCYP3A4酵素によって代謝されます。利尿作用を持つため、カリウム濃度が高い人は注意が必要です。
- デソゲストレルは、体内でエトノゲストレルに変換され、安定的にホルモン濃度を維持します。代謝の個人差が少なく、肝機能や体重の影響を受けにくいのが特徴です。
このため、むくみや体重変化を気にするならドロエチ、安定性と肌効果を重視するならマーベロンという棲み分けが可能になります。
2-6. 医学的観点から見た使い分け
| 状況 | 推奨されるピル |
| PMSや情緒不安定が強い | ドロエチ(精神面への効果が明確) |
| むくみや体重変化が気になる | ドロエチ(利尿作用あり) |
| 肌荒れ・ニキビが気になる | マーベロン(皮脂抑制効果) |
| 初めてピルを試す | マーベロン(安定性・実績が高い) |
| 生理周期をコントロールしたい | 両方可(目的に応じ選択) |
2-7. 成分から見る“自分に合うピル”の考え方
ピル選びの鍵は「どの症状を改善したいか」を明確にすることです。
- 感情の波・むくみ・PMS重視 → ドロスピレノン配合ピル(ドロエチ)
- 肌改善・生理痛・避妊安定性重視 → デソゲストレル配合ピル(マーベロン)
両者とも避妊効果はほぼ同等であるため、最終的には体質・生活リズム・優先したい症状で選ぶことが重要です。

3. 効果の違い:避妊・PMS・肌への影響
① 避妊効果
どちらも排卵抑制・子宮内膜の変化・頸管粘液の粘稠化により、99%以上の高い避妊効果を示します。
ただし、服用忘れや嘔吐・下痢などがあると効果が低下するため、毎日の服用を習慣化することが重要です。
② PMS(月経前症候群)の改善
ドロエチは、ホルモンの変動による情緒不安定やむくみ、頭痛といったPMS症状に強く作用します。
抗アルドステロン作用により体内の水分バランスを整え、**「イライラ」「むくみ」「胸の張り」**などを軽減します。
マーベロンもPMSの軽減に有効ですが、どちらかといえば肌荒れ・生理痛・月経量の改善効果が得られやすい傾向です。
③ 肌への影響
マーベロンの黄体ホルモン(デソゲストレル)は、皮脂分泌を抑制する働きがあり、ニキビ治療の補助としても用いられます。
ドロエチも抗アンドロゲン作用を持ちますが、むくみ・体重変化への効果がより顕著です。
4. 副作用の比較と注意点
| 項目 | ドロエチ | マーベロン |
| 主な副作用 | 吐き気、頭痛、乳房の張り、気分変化 | 吐き気、頭痛、体重増加、乳房の張り |
| むくみ | 改善される傾向 | 一部の人で出やすい |
| 情緒不安定 | 改善される | 稀に一時的な落ち込みあり |
| ニキビ・肌荒れ | 改善傾向 | 改善効果が強い |
| 注意点 | 血栓症リスク(とくに喫煙者) | 血栓症リスク(共通) |
両者とも低用量ピルのため安全性は高いですが、血栓症リスクは完全にはゼロではありません。特に喫煙者や35歳以上の方は、医師の指導のもとで服用を検討する必要があります。
5. 向いている人・選び方の目安
| 状況 | 向いているピル |
| むくみ・PMSがつらい | ドロエチ |
| ニキビ・肌荒れを改善したい | マーベロン |
| 生理痛が重い・周期を整えたい | マーベロン |
| 気分の波・イライラが気になる | ドロエチ |
| 体重増加が気になる | ドロエチ(利尿作用あり) |
選び方のポイント
- 美容面重視ならマーベロン
肌トラブルが気になる人に適しています。 - PMSやむくみ重視ならドロエチ
体調や気分の安定を求める人におすすめです。
どちらも数ヶ月の服用で体質との相性を見極めることが大切です。
6. 医師に相談すべきケース
ピルは自己判断で選ぶより、医師の問診・血液検査を受けた上で適切な種類を決めることが安全です。
次のような症状がある方は特に注意が必要です。
- 高血圧、糖尿病、脂質異常症がある
- 喫煙習慣がある
- 片頭痛(特に閃輝暗点を伴う)がある
- 家族に血栓症の既往がある
医師はリスク因子を確認した上で、服用量・種類・開始時期を調整します。オンライン診療でも相談可能です。
7. まとめ
ドロエチとマーベロンは、どちらも優れた低用量ピルですが、作用の特徴には明確な違いがあります。
- ドロエチ:むくみ・PMS改善に強く、ホルモン変動に敏感な人向け
- マーベロン:肌荒れ・生理痛改善に効果的、美容目的にも人気
ピル選びは「何を改善したいか」「どんな副作用を避けたいか」を明確にすることが鍵です。体質やライフスタイルに合った選択を行い、医師と相談しながら継続することで、より快適で健康的な毎日を送ることができます。







