思春期に起こりやすい婦人科トラブル

Posted on 2025年 9月 11日 女性 制服

思春期は心と体が急激に変化する時期であり、特に女性では初経を迎えることで婦人科的なトラブルが現れやすくなります。月経周期が安定しない、経血量が多すぎる、あるいは月経が止まってしまうなどの悩みは決して珍しくありません。さらに、ホルモンのアンバランスやストレス、生活習慣も影響しやすい時期です。本記事では、思春期に多く見られる婦人科トラブルの種類と原因、適切な対処法や受診の目安について詳しく解説します。

1. 思春期の身体変化とホルモンの役割

思春期は、女の子の体が「子どもから大人」へと大きく変化していく過渡期です。この時期には脳、内分泌系、生殖器が連動して成長し、女性特有の生理機能が確立されていきます。特に重要なのは、**視床下部―下垂体―卵巣系(HPO軸)**と呼ばれるホルモン分泌の仕組みです。

ホルモン分泌の仕組み

脳の視床下部は、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)を分泌します。これが下垂体前葉を刺激し、卵胞刺激ホルモン(FSH)や黄体形成ホルモン(LH)が分泌されます。これらが卵巣に作用し、エストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンが分泌され、体の変化を引き起こします。

  • エストロゲン:乳房の発達、骨や子宮内膜の成長、女性らしい体つきの形成に関与
  • プロゲステロン:排卵後に分泌され、妊娠に備えて子宮内膜を整える役割

このホルモンの分泌リズムが安定することで、規則正しい月経周期が確立されます。

身体の変化のステップ

思春期に見られる身体の変化は、Tanner(タナー)分類と呼ばれる発達段階で説明されることが多く、一般的に以下の順序で進みます。

  1. 乳房の発育(thelarche):最初に乳腺が発達し始める
  2. 陰毛の出現(pubarche):エストロゲンと副腎アンドロゲンの影響で陰毛が生える
  3. 急激な身長・体重の増加(growth spurt):成長ホルモンとエストロゲンの相互作用による
  4. 初経(menarche):平均的には日本では12歳前後で始まる

ただし、初経が来ても数年間は無排卵周期が多く、月経が不規則になるのは自然な現象です。

ホルモンのアンバランスによる影響

思春期初期はホルモンの分泌がまだ不安定で、以下のような症状が出やすい時期です。

  • 月経周期の乱れ(25日~40日以上の幅がある)
  • 無排卵による不正出血
  • 過多月経による貧血
  • 強い月経痛(原発性月経困難症)

これらは一時的なことも多いですが、生活習慣や体重の変動、精神的ストレスが加わると症状が悪化することがあります。

思春期と心理的側面

また、ホルモンの変化は身体だけでなく心の状態にも大きな影響を与えます。エストロゲンやプロゲステロンの変動は、自律神経や脳内神経伝達物質にも作用するため、気分の変動、イライラ、抑うつ傾向が見られることも少なくありません。これは**PMS(生理前症候群)**の初期症状として表れる場合もあります。

2. 思春期に多い月経トラブル

思春期の女の子が抱える悩みの多くは、月経に関連したものです。初経から数年はホルモン分泌がまだ安定していないため、月経周期や経血量、痛みの程度に個人差が大きく、しばしばトラブルと感じられます。以下に代表的なトラブルを挙げ、それぞれの特徴と注意点を解説します。

月経不順(不規則な生理)

思春期の月経不順は最も一般的な相談内容です。初経から3年程度は無排卵周期が多く、25〜40日と周期がバラつくことは珍しくありません。

  • 原因:卵巣機能が未成熟で、排卵が安定しないため
  • よくある症状:生理が2週間で来ることもあれば、2〜3か月空くこともある
  • 注意が必要なケース:3か月以上無月経が続く場合、甲状腺疾患、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、摂食障害などが隠れている可能性があります

過多月経(経血量が多すぎる)

「ナプキンが1〜2時間でいっぱいになる」「夜用ナプキンでも漏れてしまう」など、日常生活に支障が出る経血量は過多月経と呼ばれます。

  • 原因:ホルモン分泌の乱れによる排卵障害、子宮内膜の過形成
  • 影響:鉄欠乏性貧血を引き起こし、疲れやすい、めまい、動悸などの症状が出やすくなる
  • 対応:症状が強い場合は婦人科で血液検査を行い、鉄剤やホルモン療法が検討されます

過少月経(経血量が少なすぎる)

「おりもの程度しか出ない」「1日で終わってしまう」という場合は過少月経です。

  • 一時的には正常:思春期では排卵がないため、子宮内膜が十分に発育せず少量で終わることがある
  • 注意が必要な場合:急激な体重減少、ストレス、激しい運動が背景にあると、将来的な卵巣機能低下につながる可能性があります

無月経(生理が止まる)

3か月以上月経が来ない状態を続発性無月経と呼びます。思春期では以下の原因が多く見られます。

  • 体重減少性無月経:過度なダイエットや摂食障害による
  • ストレス性無月経:学校生活や人間関係のストレスが原因
  • 内分泌疾患:多嚢胞性卵巣症候群、甲状腺疾患、高プロラクチン血症など

長期間放置すると骨粗鬆症や将来の不妊につながるため、早めの診断・治療が大切です。

原発性月経困難症(強い生理痛)

初経から数年以内に始まる強い生理痛は、原発性月経困難症と呼ばれます。

  • 原因:子宮内膜から分泌されるプロスタグランジンという物質が過剰に作用し、子宮が強く収縮するため
  • 症状:下腹部痛、腰痛、吐き気、頭痛
  • 対応:市販の鎮痛薬で改善する場合もありますが、痛みが強く日常生活に支障がある場合は婦人科受診が推奨されます
  • 器質的疾患の可能性:子宮内膜症や子宮奇形などの病気が隠れているケースもあるため、痛みが強い場合は検査が必要です

不正出血

排卵が不安定なために子宮内膜が厚くなり、周期以外の出血が起こることもあります。ほとんどは一時的なものですが、頻繁に出血がある場合や大量出血の場合は受診が必要です。

3. 婦人科疾患として注意すべきトラブル

思春期における月経トラブルの多くは一過性のホルモンバランスの乱れによるものですが、中には婦人科疾患が背景に隠れている場合があります。見過ごすと将来の生殖機能や全身の健康に影響を及ぼすこともあるため、正しい知識と早期発見が重要です。

無月経

思春期の無月経には「原発性無月経」と「続発性無月経」があります。

  • 原発性無月経:15歳を過ぎても初経がない状態
     → 子宮や卵巣の発育不全、染色体異常、ホルモン分泌異常などが原因となることがあります。
  • 続発性無月経:一度月経が始まった後、3か月以上停止している状態
     → 思春期では過度なダイエット、摂食障害、ストレス性無月経が多く見られます。

長期の無月経は骨密度低下を招き、将来の骨粗鬆症や不妊のリスクを高めるため、早めの受診が必要です。

卵巣嚢腫

思春期でも卵巣に嚢胞(液体の袋)ができることがあり、多くは「機能性嚢胞」と呼ばれる自然に消失する良性のものです。しかし、大きくなったり破裂・ねじれ(茎捻転)を起こすと急激な下腹部痛や嘔吐を伴い、緊急手術が必要になることがあります。

  • 症状:下腹部の張り、しこり感、不正出血、急な激痛
  • 注意点:嚢腫の種類によっては悪性腫瘍の可能性もあるため、経過観察や定期的な超音波検査が推奨されます。

子宮奇形・発育不全

まれに思春期の段階で子宮の形成異常発育不全が判明することがあります。

  • 症状:無月経、強い月経痛、不妊の原因となることもある
  • 種類:双角子宮、中隔子宮、無子宮症など
  • 診断:超音波やMRIによる画像診断が必要

このような異常は、見た目や初経の遅れだけでは気づきにくいため、月経トラブルが続く場合には専門的な検査が勧められます。

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)

近年、思春期にも増えているのが**多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)**です。

  • 特徴:排卵が起こりにくく、卵巣に小さな嚢胞が多数できる
  • 症状:月経不順、無月経、ニキビや多毛症、肥満傾向
  • 影響:長期的に放置すると不妊の原因や生活習慣病のリスクが高まる

思春期にニキビや体重増加と月経異常が同時に見られる場合、早めに婦人科での評価が必要です。

子宮内膜症

本来は20代以降に多い病気ですが、思春期から子宮内膜症が発症するケースもあります。子宮内膜が子宮の外に発生し、慢性的な炎症や癒着を引き起こす疾患です。

  • 症状:強い月経痛、慢性的な骨盤痛、経血量の増加
  • リスク:進行すると卵巣チョコレート嚢胞を形成し、不妊の原因になることもある
  • 診断:超音波や腹腔鏡検査が行われることがあります

思春期から痛みが強い場合、「年齢のせい」とせず、子宮内膜症の可能性も念頭に置くことが大切です。

性感染症(STI)

思春期後半からは、性感染症のリスクも考慮が必要です。特にクラミジア感染症は若い女性に多く、無症状のまま進行し、不妊や卵管炎の原因となることがあります。

  • 予防:正しい知識の普及と予防教育が不可欠
  • 受診の重要性:性交渉歴のある思春期女性に下腹部痛や不正出血がある場合はSTIの可能性も視野に入れます

4. 心身のストレスと婦人科トラブルの関係

思春期は学校生活、人間関係、受験などストレス要因が多く、自律神経やホルモンバランスの乱れにつながりやすい時期です。特に心因性無月経は、心理的ストレスが原因で月経が止まってしまう代表的なトラブルです。
また、体重の増減や過度の運動習慣も影響し、ホルモン分泌の低下を招くことがあります。

5. 受診の目安と婦人科でできること

次のような症状がある場合は、早めに婦人科を受診することが推奨されます。

  • 初経から3年以上経過しても月経周期が安定しない
  • 経血量が多すぎて日常生活に支障がある
  • 3か月以上月経が来ない
  • 強い腹痛や貧血症状を伴う
  • 急な下腹部の痛みやしこりを感じる

婦人科では、問診・超音波検査・血液検査などを行い、必要に応じてホルモン療法や鉄剤治療を行います。若年女性に配慮した診療が行われるため、安心して相談できます。

婦人科

6. 家庭でできるセルフケアとサポート

バランスの取れた生活習慣

十分な睡眠、適度な運動、栄養バランスの取れた食事は、ホルモンバランスを整える基本です。特に鉄分・カルシウム・ビタミンDは積極的に摂取することが推奨されます。

ストレスマネジメント

趣味やリラクゼーションを取り入れ、心身をリフレッシュすることが大切です。家族や友人とのコミュニケーションも、心理的サポートとして有効です。

家族の理解

思春期の体の変化は本人にとって大きな不安材料です。保護者が「恥ずかしいことではない」と理解を示し、早めの受診を勧めることが、健康を守る第一歩となります。

まとめ

思春期は女性の一生の健康を左右する重要な時期であり、この時期に起こる婦人科トラブルは決して珍しいものではありません。月経不順や過多月経、無月経などは一時的な場合もありますが、放置すると将来的な生殖機能や健康に影響を及ぼす可能性があります。
家庭でのセルフケアとともに、必要に応じて婦人科を受診することで、安心して思春期を過ごすことができます。思春期のトラブルは「よくあること」と軽視せず、専門家と連携しながら適切に対応することが大切です。