予期せぬ妊娠は、女性の人生に大きな影響を与える可能性があります。望まない妊娠は身体的・精神的な負担だけでなく、進学や就職、ライフプランにも関わる重大な問題です。そんな時に「最後の砦」となるのが、緊急避妊薬であるアフターピルです。
アフターピルは性交後でも妊娠を防ぐことができる数少ない手段ですが、その効果は「いつ服用するか」によって大きく変わります。早ければ早いほど妊娠阻止率は高く、遅れるほど効果は低下してしまうため、知識と行動力が問われます。
本記事では、アフターピルの種類や効果の持続時間、副作用、入手の方法や費用、服用後に注意すべきこと、さらに患者さんからよく寄せられる20以上の質問を詳細に解説します。婦人科医の視点から、安心して正しく使える知識をお届けします。
1. アフターピルとは?
アフターピルは、避妊に失敗した際に妊娠を防ぐために服用する「緊急避妊薬」です。通常の避妊方法は、事前に準備をしておく必要がありますが、アフターピルは「性交後でも効果がある」という点が最大の特徴です。
妊娠の成立は、①卵巣から卵子が排卵され、②精子と受精し、③受精卵が子宮内膜に着床する、という一連の流れで成り立ちます。アフターピルは、この流れをどこかで断ち切ることで妊娠を阻止します。
- 排卵を抑制・遅延させる
卵子が放出されなければ妊娠は成立しません。アフターピルはホルモンの作用により排卵を遅らせる効果を持ちます。 - 受精の阻害
精子と卵子が出会えなければ受精は起こりません。アフターピルは子宮頸管粘液の性質を変化させ、精子の通過を妨げます。 - 着床の阻止
万が一受精しても、受精卵が子宮内膜に着床できなければ妊娠は成立しません。アフターピルは子宮内膜の状態を変化させ、着床しにくい環境を作ります。
日本で利用できる2種類
- レボノルゲストレル錠(LNG)
世界的に標準とされており、日本でも最も多く使われています。性交後72時間以内の服用が条件です。 - ウリプリスタル酢酸エステル錠(UPA)
比較的新しい薬で、性交後120時間(5日間)まで効果があります。排卵直前でも効果を示す点が強みです。
このようにアフターピルは「時間との戦い」であり、早く飲めば飲むほど成功率が高まります。
2. 効果はいつまであるのか
アフターピルの効果は服用のタイミングに大きく依存します。
レボノルゲストレル錠(LNG)
性交後72時間以内の服用で効果があります。特に24時間以内であれば妊娠阻止率は90%以上に達します。48時間以内で約85%、72時間以内で約80%程度とされ、時間が経過するごとに成功率は下がっていきます。
ウリプリスタル酢酸エステル錠(UPA)
性交後120時間(5日間)まで服用できるため、レボノルゲストレルよりも長い猶予があります。排卵直前でも排卵を抑制できるため、より強力な効果が期待できます。
時間経過による変化
- 24時間以内:効果は最も高い
- 48時間以内:高い効果が維持されるが低下が始まる
- 72時間以内:レボノルゲストレルの有効期限
- 120時間以内:ウリプリスタルの有効期限
結論として、アフターピルは「できるだけ早く」飲むことが最も重要です。
3. 副作用と注意点
アフターピルは安全性が高い薬ですが、副作用が全くないわけではありません。
よくある副作用
- 吐き気・嘔吐:最も多い副作用。服用後2時間以内に吐くと薬の効果が失われる可能性があり、再服用が必要です。
- 頭痛・めまい:ホルモン変化による一時的な症状。
- 倦怠感・眠気:身体がだるく感じる。休養で改善。
- 乳房の張り:ホルモンによる一過性の変化。
- 不正出血・月経の乱れ:次の生理が早まったり遅れたり、不正出血が出る場合があります。
稀な副作用
- 血栓症:単回使用ではほとんどリスクはありませんが、持病がある方は注意。
- 強い腹痛:子宮外妊娠などの可能性もあるため、異常を感じたら必ず受診してください。
注意点
- 常用は避ける(体調不良や月経不順の原因に)
- 他の薬との相互作用(抗てんかん薬などは効果を弱める)
- 100%避妊できるわけではない(排卵後では無効なこともある)
4. 入手方法と費用
日本ではアフターピルは市販薬ではなく、必ず医師の処方が必要です。
婦人科外来での処方
もっとも確実で、即日受け取れるのがメリットです。ただし診療時間が限られているため、夜間や休日は受診が難しい場合があります。
救急外来
休日や夜間に対応してもらえる場合がありますが、すべての病院で常備しているわけではありません。
オンライン診療
近年増えてきた方法で、スマホやPCで診察を受け、自宅に配送してもらえます。ただし配送まで1〜2日かかるため、性交後の時間を考慮する必要があります。
費用の目安
- レボノルゲストレル錠:5,000〜15,000円
- ウリプリスタル酢酸エステル錠:8,000〜20,000円
※自由診療であるため医療機関ごとに価格差があります。

5. 服用後の流れと確認方法
アフターピルを服用したからといって、完全に安心できるわけではありません。
- 月経が1週間以上遅れた場合:妊娠検査薬で確認が必要です。
- 不正出血があっても効果の証拠ではない:避妊成功を判断する根拠にはなりません。
- 妊娠の可能性が否定できないとき:早めに婦人科を受診してください。
6. よくあるQ&A
Q1. アフターピルを飲めば必ず妊娠を防げるのですか?
アフターピルは高い妊娠阻止効果を持っていますが、残念ながら100%妊娠を防げるわけではありません。たとえばレボノルゲストレル錠では性交後24時間以内の服用で約90%以上の妊娠阻止率が報告されていますが、時間の経過とともにその効果は低下します。さらに、すでに排卵が起きていた場合や受精が成立していた場合には効果を発揮できません。そのため、服用後も月経が予定より遅れた場合には必ず妊娠検査薬で確認する必要があります。アフターピルは「非常に頼りになるが万能ではない薬」という位置づけで理解することが大切です。
Q2. 未成年でもアフターピルを処方してもらえますか?
未成年者でもアフターピルの処方は可能です。医療的には年齢による制限はなく、必要があれば誰でも使用できます。ただし一部の医療機関では保護者の同意を求めるケースもあり、対応はまちまちです。未成年者の場合、正しい性教育や避妊の理解が十分でない場合も多いため、医師は丁寧な説明を行うことが一般的です。「緊急避妊薬に頼るよりも、普段から避妊をどう行うか」を一緒に考えることが重要であり、性教育の一環として処方される意味合いも大きいのです。
Q3. 授乳中に服用しても大丈夫ですか?
授乳中のアフターピル使用は、薬の種類によって注意点が異なります。レボノルゲストレルは母乳への移行が少ないとされており、比較的安全と考えられていますが、服用後24時間は授乳を控えるよう指導されることがあります。一方、ウリプリスタル酢酸エステルは母乳への移行性が完全には解明されていないため、授乳中は慎重に判断する必要があります。授乳中の方が服用を検討する場合には、必ず医師に相談し、授乳の一時中断が必要かどうかを確認してください。
Q4. 服用後に吐いてしまった場合、どうすればいいですか?
アフターピルは服用後2時間以内に嘔吐すると、薬が十分に吸収されない可能性があります。その場合は効果が失われてしまうため、再度服用する必要があります。もし2時間以上経過してから吐いた場合は、ある程度吸収が進んでいると考えられるため追加服用は不要とされます。吐き気が強い人には、事前に制吐薬を処方することもあります。服用後に嘔吐が起こった場合は、必ず医師に連絡して指示を仰ぐことが安心です。
Q5. アフターピルを飲んだあとの生理はどうなりますか?
アフターピルの服用後は、ホルモンの影響で月経周期が変化することが多く、次の生理が数日早まったり、逆に遅れたりします。また、予定外の不正出血が見られる場合もあります。これは薬による一時的なホルモンバランスの乱れであり、ほとんどは自然に回復します。ただし、予定日から1週間以上遅れた場合は妊娠の可能性を否定できないため、必ず妊娠検査薬で確認しましょう。
Q6. 繰り返し使うと体に悪い影響はありますか?
単回の使用で長期的な悪影響が残ることはありません。しかし、短期間に繰り返し服用すると月経周期が大きく乱れ、不正出血や貧血、ホルモンバランスの崩れによる不調が出やすくなります。また、精神的な不安や「次もピルを飲めばいい」という油断から、避妊の意識が低下してしまうことも問題です。緊急時に限って使用し、普段は低用量ピルやコンドームなど、安定した避妊方法を選択するのが望ましいです。
Q7. 太っていると効きにくいというのは本当ですか?
近年の研究では、BMIが高い女性でアフターピルの効果が低下する可能性が指摘されています。特にレボノルゲストレル錠は体重が70kg以上またはBMIが30以上の女性では妊娠阻止率が下がる傾向が報告されています。一方、ウリプリスタル酢酸エステルはその影響が比較的少ないとされます。体格によって選ぶべき薬の種類が変わる可能性があるため、医師と相談の上で適切な薬を選択することが大切です。
Q8. アフターピルを飲んだ後に性行為をしたらどうなりますか?
アフターピルはあくまで「服用前の性行為に対して妊娠を防ぐ」薬です。服用後に新たに性行為を行った場合、その行為に対する避妊効果は保証されません。特に排卵が近い場合は妊娠の可能性が残るため、アフターピル服用後の性行為には必ずコンドームなど別の避妊方法を用いる必要があります。「飲んだからしばらくは安心」と考えるのは誤りであることを理解しておきましょう。
Q9. 将来の妊娠に影響しますか?
アフターピルの単回使用が将来の妊娠力(卵子の質や子宮環境)に悪影響を及ぼすという科学的根拠はありません。服用後の排卵や子宮機能は通常どおり回復します。したがって、緊急避妊薬を使ったことが原因で不妊になる心配は不要です。ただし、繰り返し使用による月経不順や貧血が長期化すれば間接的に妊娠しづらい状態になる可能性もあるため、常用は避けるべきです。
Q10. アフターピルは性病(性感染症)も防げますか?
アフターピルは妊娠を防ぐ薬であり、性感染症(HIV、梅毒、クラミジア、淋菌など)を防ぐ効果は一切ありません。コンドームは唯一、妊娠と性病の両方を予防できる避妊具です。アフターピルを飲んだからといって性感染症のリスクが減るわけではないため、避妊と感染症予防の両面からコンドームの使用は欠かせません。もし性感染症が疑われる場合は、アフターピルの服用に加えて必ず検査を受ける必要があります。
まとめ
アフターピルは、避妊に失敗した際に妊娠を防ぐための「緊急避妊薬」として、多くの女性を救ってきた非常に重要な医薬品です。しかし、どんなに優れた薬であっても「いつ服用するか」という時間の要素に強く左右されることを忘れてはいけません。性交後できるだけ早く服用することが何よりも重要であり、時間が経つほど妊娠阻止効果は下がっていきます。レボノルゲストレル錠は72時間以内、ウリプリスタル酢酸エステル錠は120時間以内が服用可能とされていますが、最も効果的なのは性交から24時間以内に服用することです。つまり、アフターピルは「いざという時に迅速に行動できるかどうか」が成功の鍵となるのです。
また、副作用についても正しい理解が必要です。吐き気や頭痛、不正出血といった一時的な副作用はよく見られますが、多くは自然に改善し、長期的な悪影響が残ることはありません。ただし、服用後2時間以内に嘔吐してしまった場合は効果が失われる可能性があるため、再度の服用が必要になります。また、繰り返し使用は月経不順や体調不良を招く恐れがあるため、緊急時に限定して使用し、普段は低用量ピルやコンドームなどの安定した避妊方法を取り入れるべきです。
入手に関しては、日本ではまだ市販薬としては認められておらず、必ず医師の処方が必要です。婦人科外来、救急外来、オンライン診療など複数のルートがあるものの、自由診療であるため医療機関によって費用に差があります。いざという時に備えて、自分がどこでアフターピルを入手できるのかを事前に調べておくことは、女性にとって大きな安心材料となるでしょう。
さらに強調しておきたいのは、アフターピルは妊娠を防ぐ薬であって、性感染症を予防するものではないという点です。性行為による感染症のリスクは常に存在し、アフターピルではそのリスクを排除することはできません。性感染症を防ぐにはコンドームの使用が必須であり、「妊娠予防」と「感染症予防」を切り離して考えないことが大切です。
アフターピルは、女性が自分の人生を守るための「最後の砦」として確かに有効です。しかし同時に、社会的にも正しい性教育とアクセスの改善が求められています。海外では薬局で直接購入できる国もあり、女性が自分の意思で迅速に対応できる環境が整いつつあります。一方、日本ではまだ医師の診察が必要であり、制度的な制限が残っています。今後の制度改革によって、女性がより安全に、迅速に薬を入手できる仕組みが整うことが期待されます。
結論として、アフターピルは「正しく理解し、適切に活用すれば非常に頼りになる薬」です。ただし、これはあくまで緊急避妊の手段であり、日常的な避妊法の代替にはなりません。妊娠や性感染症を防ぐためには、普段からパートナーと避妊について話し合い、低用量ピルやコンドームといった方法を組み合わせていくことが理想です。
万が一のときに慌てずに済むように、情報を正しく理解し、準備をしておくこと。それが、女性の身体と人生を守る最も大切なステップです。アフターピルの知識を「もしもの備え」として持っておくことは、決して特別なことではなく、女性の健康と自己決定権を支える大切な選択なのです。






