「避妊に失敗してしまったかもしれない」と思ったとき、多くの女性が不安を抱えます。望まない妊娠は心身への負担だけでなく、将来のライフプランにも大きな影響を及ぼしかねません。そんな緊急時に女性を支える手段が「緊急避妊薬(アフターピル)」です。性交後でも妊娠を防げる大切な薬ですが、その一方で「副作用はあるのか」「体に悪影響は残らないのか」といった疑問や不安を抱く人は少なくありません。
実際、アフターピルを服用した後に吐き気や頭痛、不正出血などを経験する人は一定数存在します。しかし、多くは一時的なもので自然に改善します。とはいえ、正しく理解せずに使用すると不安が増してしまい、必要なときにためらいが生じるかもしれません。
本記事では、緊急避妊薬の副作用と体への影響を、婦人科の専門的視点からわかりやすく整理します。一般的に見られる副作用からまれな症状、月経への影響、将来の妊娠力への影響までを詳しく解説し、安心して活用できるようにサポートします。
1. 緊急避妊薬とは?基礎から理解する
緊急避妊薬の役割
緊急避妊薬(アフターピル)は、避妊がうまくいかなかった場合や避妊をしなかった性交後に妊娠を防ぐための薬です。低用量ピルのように毎日服用するものではなく、あくまで「緊急時にのみ」使用する薬であることが特徴です。
妊娠は、①卵子の排卵、②精子と卵子の受精、③受精卵の着床、という流れで成立します。緊急避妊薬は、この過程のいずれかを阻害することで妊娠を防ぎます。
日本で利用できる種類
日本で一般的に用いられるのは次の2種類です。
- レボノルゲストレル錠(LNG)
性交後72時間以内に服用する必要があり、WHOでも標準的に推奨されています。日本の多くの医療機関で第一選択として処方されています。 - ウリプリスタル酢酸エステル錠(UPA)
性交後120時間(5日以内)まで効果が期待できる薬で、排卵直前でも作用するのが特徴です。LNGよりも新しい世代の薬であり、海外では広く使われています。
いずれの薬も「できるだけ早く服用する」ことが成功率を高める最大のポイントです。
2. 緊急避妊薬の主な副作用
緊急避妊薬はホルモンを一時的に高用量で摂取する薬であるため、体が急激な変化に反応し、副作用が出る場合があります。
吐き気・嘔吐
最も多い副作用で、特に服用から数時間以内に起こることがあります。もし2時間以内に嘔吐してしまうと薬が吸収されず、効果が得られない可能性があるため再服用が必要です。医師に連絡して対応を仰ぐことが大切です。
頭痛・めまい
ホルモン変動によって一時的に起こります。通常は軽度で数日以内に改善しますが、強い頭痛が続く場合は医療機関の受診を検討しましょう。
倦怠感・眠気
全身のだるさや急な眠気を訴える人もいます。十分な休養で改善することが多いですが、日常生活に支障が出る場合もあるため注意が必要です。
乳房の張り・違和感
女性ホルモンの急増により乳腺が刺激され、一時的に張りや痛みを感じることがあります。
不正出血
服用後数日〜1週間以内に予定外の出血が起こる場合があります。これはホルモンバランスが乱れたことによる自然な反応で、多くは一時的です。ただし出血量が多い場合は医師の診察が必要です。
3. 月経周期への影響
緊急避妊薬は女性の月経周期に影響を与えることがあります。
生理のタイミングの変化
次の生理が数日早まる、または遅れることがあります。多くの場合は1サイクルで戻りますが、不安が強い場合は婦人科で相談するのが安心です。
経血量や性質の変化
出血量が増える・減る、経血の色が変化するといったケースも見られます。これも一時的な変化であり、長期的に続くことはほとんどありません。
長期的な影響は?
緊急避妊薬の単回使用で将来的に妊娠力が下がることはありません。不妊症のリスクが増えるという科学的根拠もなく、安心して利用できます。ただし、繰り返し使用すると月経不順や貧血につながることがあるため、あくまで緊急時のみに限定して使うべきです。
4. 稀に見られる重い副作用
一般的に緊急避妊薬は安全性が高いとされていますが、まれに重い副作用が起こることもあります。
血栓症
ホルモン薬を使う以上、血栓症のリスクは完全にはゼロではありません。ただし緊急避妊薬は短期間の使用であるため、その発症率は極めて低いと考えられています。
強い腹痛
万が一、子宮外妊娠が成立していた場合などに強い腹痛が現れることがあります。この場合は速やかに医療機関を受診する必要があります。
5. 服用後の注意点と受診の目安
緊急避妊薬を服用したからといって「絶対に安心」というわけではありません。以下の点に注意してください。
- 次回の月経が予定日から1週間以上遅れた場合は妊娠検査薬を使用する。
- 不正出血は必ずしも避妊成功の証拠ではない。
- 吐き気や頭痛はよくある副作用だが、強い胸痛、息苦しさ、片足の腫れなどがある場合は血栓症の可能性があるため直ちに受診する。
- 短期間に何度も使用するのは避け、普段は低用量ピルやコンドームで避妊すること。
6. 将来の妊娠や健康への影響
「緊急避妊薬を飲むと妊娠しにくくなるのでは?」という不安を抱く人は多いですが、科学的な研究ではそのような事実は示されていません。単回使用で卵巣や子宮の機能に長期的な悪影響を与えることはなく、将来の妊娠力が損なわれる心配はありません。
ただし、繰り返し使用による月経不順やホルモンバランスの乱れが続けば、間接的に健康を害する可能性はあります。そのため、あくまで「緊急時の手段」であることを忘れず、普段の避妊は安定した方法を選ぶことが重要です。

7. よくあるQ&A:緊急避妊薬に関する疑問に答える
Q1. 緊急避妊薬を飲めば必ず妊娠を防げますか?
緊急避妊薬は高い妊娠阻止効果を持っていますが、100%ではありません。たとえばレボノルゲストレル錠は性交後24時間以内の服用で約90%以上、72時間以内で約80%程度とされます。ウリプリスタル錠は性交後120時間まで有効ですが、それでも妊娠を完全に防ぐことはできません。すでに排卵後で受精や着床が進んでいた場合には効果が期待できないため、「できるだけ早く服用すること」が成功率を高める最大のポイントです。
Q2. 未成年でも処方を受けられますか?
はい、未成年者でも緊急避妊薬の処方は可能です。医学的には年齢による制限はなく、必要があれば誰でも服用できます。ただし医療機関によっては保護者の同意を求める場合もあり、地域差や方針によって対応が異なります。未成年の場合は避妊や性教育についての理解が十分でないことも多いため、医師が丁寧に説明するケースが一般的です。「緊急避妊薬に頼らないための避妊方法」を一緒に考えることも大切なプロセスとなります。
Q3. 授乳中に服用しても大丈夫ですか?
授乳中の使用は薬の種類によって対応が異なります。レボノルゲストレルは母乳への移行が少なく、比較的安全と考えられています。ただし服用後24時間程度は授乳を控えるよう指導される場合があります。ウリプリスタルは母乳への移行性が不明確であるため、授乳中には推奨されないことがあります。授乳中の女性は必ず医師に相談し、授乳の一時中断が必要かどうかを確認してください。
Q4. 服用後に吐いてしまった場合はどうすればいいですか?
服用後2時間以内に嘔吐してしまうと薬が十分に吸収されず、効果が失われる可能性があります。この場合は速やかに医師へ連絡し、再服用が必要かどうかを確認してください。2時間以上経過してからの嘔吐であれば、ある程度吸収されていると考えられるため、追加服用は不要とされます。吐き気が強い人には、事前に制吐薬を処方することもあります。
Q5. 服用後の生理はどう変化しますか?
緊急避妊薬の影響で次の生理は数日早まったり、逆に遅れたりすることがあります。経血量や色が変わることもありますが、多くは一時的な変化で、1サイクル経過すれば通常の周期に戻ります。ただし予定日から1週間以上遅れた場合は妊娠の可能性を否定できないため、必ず妊娠検査薬で確認しましょう。
Q6. 繰り返し使用すると体に悪いですか?
単回の使用で長期的な健康被害が残ることはありません。しかし短期間に何度も服用すると、ホルモンバランスが乱れて月経不順や不正出血が長引くことがあります。また、避妊意識が低下して「また飲めばいい」と考える習慣につながることも問題です。緊急避妊薬はあくまで「緊急時の最後の手段」であり、普段は低用量ピルやコンドームといった安定した避妊法を選択すべきです。
Q7. 体重やBMIによって効果が変わるって本当ですか?
近年の研究では、BMIが30を超える女性や体重が70kg以上の女性では、レボノルゲストレルの効果が下がる可能性があると報告されています。一方、ウリプリスタルはその影響が少ないとされます。体格によって薬の選択が変わる可能性があるため、医師に自分の体重やBMIを伝えた上で適切な薬を選んでもらうことが重要です。
Q8. アフターピルを飲んだ後に再度性交渉をしたら避妊効果はありますか?
緊急避妊薬はあくまで「服用前の性行為に対して妊娠を防ぐ」薬であり、服用後の性交渉を防ぐ効果はありません。そのため、服用後に再び性行為を行う場合は必ずコンドームなどの避妊具を使用する必要があります。「一度飲んだから安心」という考えは誤解であり、新たな妊娠リスクを避けるために追加の避妊対策を行うことが不可欠です。
Q9. 緊急避妊薬を飲むと将来の妊娠に影響はありますか?
科学的な根拠に基づく限り、単回使用が将来の妊娠力に影響を及ぼすことはありません。卵巣機能や子宮内膜は一時的に変化しますが、次の周期には通常に戻ります。不妊症になるリスクが高まることもなく、安心して利用できます。ただし、繰り返しの使用によりホルモンバランスの乱れが続けば、間接的に妊娠しにくい状態になる可能性はあります。そのため緊急避妊薬は非常時に限定して使用すべきです。
Q10. 緊急避妊薬で性感染症も防げますか?
いいえ。緊急避妊薬は妊娠を防ぐ薬であり、性感染症(HIV、梅毒、クラミジア、淋菌など)を予防する効果は一切ありません。唯一、性感染症を防ぐのはコンドームです。妊娠と感染症は別のリスクであり、アフターピルを服用したからといって性感染症の心配がなくなるわけではありません。性病リスクがある場合は、必ず医療機関で検査を受けることが推奨されます。
まとめ
緊急避妊薬(アフターピル)は、予期せぬ妊娠を防ぐために女性を支える「最後の砦」として非常に重要な役割を果たしています。性交後でも妊娠を防げるという点で心強い存在ですが、その効果や副作用について正しい理解を持つことが大切です。ここまで見てきたように、緊急避妊薬の服用は体に一時的な変化をもたらし、吐き気や頭痛、倦怠感、不正出血、月経周期の乱れといった副作用が出ることがあります。しかし、これらの多くは一過性であり、数日から数週間のうちに自然に改善していきます。長期的に健康へ深刻な影響を与えることはほとんどなく、科学的にも「単回使用で将来の妊娠力に悪影響はない」とされています。
ただし、注意すべき点もあります。まず第一に、緊急避妊薬は「時間との勝負」であるということです。レボノルゲストレル錠は性交後72時間以内、ウリプリスタル錠は120時間以内の服用が有効とされていますが、できる限り早く飲むことで妊娠阻止率は大幅に高まります。つまり、服用が遅れるほど効果が下がるため、迷わず迅速に行動できるかどうかが成功の鍵を握ります。
次に、副作用への対処です。吐き気や嘔吐が起こった場合、とくに服用後2時間以内に吐いてしまったときは、薬が吸収されていない可能性があるため再服用が必要となります。また、強い頭痛や腹痛、息苦しさ、足の腫れなど重い症状が出た場合には血栓症などのリスクがあるため、ただちに医療機関を受診することが重要です。このように、副作用が出る可能性を理解したうえで備えておくことで、不安を最小限に抑えることができます。
さらに大切なのは「繰り返しの使用を避ける」ことです。緊急避妊薬はあくまで非常時のための薬であり、日常的に使うことを前提とした薬ではありません。繰り返し使用するとホルモンバランスが乱れて月経不順や体調不良を引き起こしやすくなり、精神的な負担も大きくなります。普段からの避妊には、低用量ピルやコンドームなど、確実かつ継続的に利用できる方法を選ぶことが望ましいでしょう。
また、忘れてはならないのが「性感染症予防」です。緊急避妊薬は妊娠を防ぐ薬であって、性感染症を予防する効果は一切ありません。クラミジアや淋菌、HIVといった感染症のリスクは避けられないため、性行為の際にはコンドームを併用することが必須です。妊娠と性感染症は別のリスクであることを正しく理解しておく必要があります。
日本においては、緊急避妊薬は市販薬として自由に購入できるわけではなく、医師の診察と処方が必要です。婦人科や救急外来、オンライン診療などで入手できますが、自由診療であるため費用には差があります。万が一に備えて、自分がどこで緊急避妊薬を入手できるのかを事前に調べておくことは、大きな安心につながります。欧米諸国のように薬局での購入が可能な国と比べ、日本はまだアクセス性に課題を残していますが、だからこそ事前の情報収集が重要になります。
結論として、緊急避妊薬は「正しく理解し、必要なときにためらわず使えば非常に頼りになる薬」です。副作用は多くが一時的で安全性は高く、将来の妊娠への影響もありません。ただし、万能の避妊法ではなく、緊急時に限定した使用にとどめるべきです。日常的な避妊はパートナーと話し合いながら低用量ピルやコンドームを併用し、妊娠と性感染症の両方から自分を守る意識を持つことが大切です。
緊急避妊薬は女性の健康と人生を守る強力な味方です。しかし、その力を最大限に発揮するためには、正しい知識、迅速な判断、そして冷静な行動が不可欠です。「もしも」のときに慌てないよう、今から情報を備えておくこと。それが、女性自身の安心と自己決定権を守る最も確実な方法なのです。







