更年期の体重増加はなぜ起こる?

Posted on 2025年 9月 11日 体重

「更年期になってから体重が落ちにくくなった」「食事量は変わらないのにお腹まわりが気になる」──そんな悩みを抱える女性は少なくありません。更年期は、閉経前後のホルモンバランスの変化によって心身にさまざまな影響が現れる時期であり、体重増加や体型の変化もその一つです。単なる加齢のせいにするのではなく、女性ホルモンや代謝の仕組みを理解することで、適切な対応や予防が可能になります。本記事では、更年期の体重増加が起こるメカニズムや注意点、改善のための生活習慣、婦人科で相談すべきサインについて詳しく解説します。

1. 更年期における体の変化と体重増加の基礎知識

更年期は、閉経をはさんだ前後10年ほどの期間を指し、女性の体に大きな変化が訪れる時期です。特に45歳〜55歳頃に多くみられ、卵巣機能の低下に伴い女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンが大きく減少していきます。これらのホルモンは、生殖機能だけでなく、脂質や糖の代謝、血管や骨の健康維持にも深く関与しています。そのため、ホルモン分泌の低下は体重増加や体型の変化に直結します。

まず注目すべきは基礎代謝の低下です。基礎代謝とは、呼吸や体温維持など生命活動を支えるために消費されるエネルギー量のことですが、加齢とともに筋肉量が減ることで自然に落ち込みます。若い頃と同じ食事量でも消費エネルギーが減少しているため、余分なカロリーは脂肪として蓄積されやすくなります。

さらに、更年期には脂肪の分布の変化が起こります。エストロゲンは本来、皮下脂肪の蓄積を促しつつ内臓脂肪を抑える働きがありますが、このホルモンが減少すると脂肪は内臓周囲に集まりやすくなります。いわゆる「お腹太り」や「中年太り」と呼ばれる体型の変化は、この内臓脂肪の増加が大きな要因です。内臓脂肪は糖尿病や高血圧など生活習慣病のリスクを高めるため、美容面だけでなく健康面にも注意が必要です。

また、筋肉量の減少も見逃せません。運動不足や加齢によって筋肉が減ると、代謝低下が進むだけでなく姿勢の悪化や体のこわばりを引き起こし、活動量そのものが低下してしまいます。結果として、さらに消費エネルギーが減り、体重増加の悪循環につながります。

つまり、更年期の体重増加は「食べ過ぎ」や「運動不足」だけが原因ではなく、ホルモンの変化・代謝の低下・筋肉量減少・脂肪の分布変化といった生理学的な背景が複雑に絡み合っているのです。

2. 女性ホルモンと体重コントロールの関係

女性の体重コントロールに深く関わっているのが、エストロゲンとプロゲステロンという2つの女性ホルモンです。これらは妊娠や月経周期の調整だけでなく、代謝や脂肪の分布、食欲のコントロールにまで影響を及ぼしています。更年期になるとこれらのホルモン分泌が急激に減少するため、「更年期太り」と呼ばれる体重増加が起こりやすくなるのです。

エストロゲンの役割と減少による影響

エストロゲンは「脂肪燃焼をサポートするホルモン」とも言われ、インスリン感受性を高め、血糖値の急激な上昇を防ぐ働きがあります。このため、若い頃は食べ過ぎても脂肪が燃焼されやすく、体型を維持しやすいのです。ところが、更年期に入るとエストロゲンの分泌が低下し、脂肪が燃えにくく溜まりやすい体質へと変化します。特に内臓脂肪が増えやすくなり、腹部肥満やメタボリックシンドロームのリスクが高まります。

プロゲステロンの影響

もう一つの女性ホルモン、プロゲステロンは体内の水分保持や体温調整に関与しています。排卵後に分泌が増えるホルモンですが、更年期ではこの分泌も不安定になります。プロゲステロンの減少により、体内の水分バランスが崩れ、むくみやすくなることがあります。むくみは体重増加や体型の変化をさらに実感させる要因となり、見た目の変化に大きく関わります。

自律神経の乱れと食欲への影響

ホルモンバランスの崩れは、自律神経の働きにも影響を及ぼします。交感神経と副交感神経のバランスが乱れると、睡眠の質が低下したり、ストレスが強まったりすることがあります。これにより食欲が増加し、甘いものや高カロリー食に手が伸びやすくなります。いわゆる「ストレス食い」が起こりやすいのも、更年期に特有の体の反応です。

心理的要因と更年期太り

さらに、更年期は子育ての終了や社会的立場の変化など、心理的なストレスが重なる時期でもあります。精神的ストレスが過食や運動不足を招き、ホルモン変化と相まって体重増加が加速するケースも少なくありません。

このように、エストロゲンやプロゲステロンの減少、自律神経の乱れ、心理的ストレスが複合的に作用することで、更年期の体重コントロールは難しくなります。だからこそ、単なる食事制限や運動だけではなく、ホルモンバランスを考慮した総合的なケアが必要なのです。

3. 更年期太りに伴う健康リスク

更年期の体重増加は、単に見た目や体型の問題にとどまらず、女性の健康に深刻な影響を及ぼす可能性があります。特に「内臓脂肪の増加」が中心となる更年期太りは、生活習慣病や心血管疾患などの重大なリスク因子となるため注意が必要です。

生活習慣病のリスク上昇

内臓脂肪は単なるエネルギーの貯蔵庫ではなく、炎症性物質(サイトカイン)を分泌し、全身に悪影響を及ぼします。更年期に増える内臓脂肪はインスリン抵抗性を高め、糖尿病の発症リスクを急激に上げます。また、脂質代謝異常を引き起こし、血中コレステロールや中性脂肪が増加することで脂質異常症につながります。さらに高血圧も併発しやすくなり、いわゆる「メタボリックシンドローム」の状態に陥るケースも少なくありません。

心血管疾患への影響

エストロゲンは血管を柔軟に保ち、動脈硬化を予防する役割を果たしてきました。しかし、更年期でエストロゲンが減少すると血管の保護機能が弱まり、そこに内臓脂肪の増加が重なることで動脈硬化が加速します。その結果、心筋梗塞や脳梗塞といった心血管疾患のリスクが閉経後の女性で急激に上昇するのです。男性と比べて心疾患リスクが低かった女性が、更年期以降に男性と同等、あるいはそれ以上になることも珍しくありません。

骨粗しょう症との関連

体重増加と骨粗しょう症は一見逆の問題に思えますが、更年期には両者が同時進行する可能性があります。エストロゲンの減少は骨密度を急激に低下させ、骨粗しょう症を引き起こします。体重が増えても骨がもろくなっているため、転倒や骨折のリスクが高まり、日常生活に大きな影響を及ぼします。

精神的・生活の質(QOL)への影響

体重増加は健康だけでなく、精神面にも影響します。体型の変化に対する自己嫌悪や社会的ストレスは、更年期特有の気分の落ち込みや不安症状を悪化させることがあります。その結果、活動意欲が低下し、運動不足や過食へとつながり、さらに体重増加を招くという悪循環が生まれやすくなります。

4. 更年期の体重増加を防ぐ生活習慣

更年期の体重増加はホルモンバランスや代謝の変化による自然な現象ですが、適切な生活習慣を取り入れることで進行を防ぎ、健康的な体を維持することが可能です。ポイントは「食事」「運動」「睡眠・ストレス管理」の3本柱を意識することです。

食事改善:ホルモンと代謝を支える栄養バランス

更年期の食事は「量を減らす」よりも「質を高める」ことが大切です。

  • たんぱく質をしっかり摂る:筋肉の維持には肉・魚・卵・大豆製品などをバランスよく取り入れることが必須です。
  • 糖質コントロール:白米やパンなど精製された糖質は血糖値を急上昇させやすいため、玄米や全粒粉などに置き換えると良いでしょう。
  • 良質な脂質を摂取:青魚やアボカド、ナッツに含まれる不飽和脂肪酸は動脈硬化予防にも役立ちます。
  • 食物繊維を意識:野菜・海藻・きのこ類をしっかり摂取することで腸内環境が整い、肥満や生活習慣病の予防につながります。
栄養

運動習慣:筋肉を守り代謝を上げる

運動は更年期の体重管理に最も有効な方法の一つです。

  • 筋トレで基礎代謝維持:特に下半身の筋肉は全身の代謝に大きく関与するため、スクワットやランジなどの筋トレが効果的です。
  • 有酸素運動で脂肪燃焼:ウォーキング、スイミング、軽いジョギングを週150分程度続けると、内臓脂肪の減少に役立ちます。
  • 柔軟性を保つストレッチやヨガ:自律神経を整え、ストレス緩和にも効果があります。

睡眠とストレスケア:ホルモンバランスを整える

睡眠不足や強いストレスは食欲を増進させるホルモン(グレリン)の分泌を促し、逆に食欲を抑えるホルモン(レプチン)を減らします。その結果、過食に繋がりやすくなります。

  • 就寝前のスマホ使用を控える:ブルーライトは睡眠の質を下げます。
  • リラックス法を取り入れる:深呼吸、アロマ、軽いストレッチなどで副交感神経を優位にしましょう。
  • 趣味や交流の時間を確保:精神的な満足感がストレス食いを防ぎます。

「小さな積み重ね」が体を変える

更年期の体重管理は一時的なダイエットではなく、無理のない生活習慣を長く続けることが鍵です。毎日の食事・運動・睡眠の質を少しずつ整えることで、ホルモン変化に負けない体づくりが可能になります。

5. 婦人科で相談すべきタイミング

更年期の体重増加は自然な変化の一部ですが、以下の場合は婦人科での相談が推奨されます。

  • 急激な体重増加や体型変化がある
  • 不正出血や周期の乱れを伴う
  • 動悸・発汗・強い倦怠感など他の更年期症状が強い
  • 健康診断で生活習慣病のリスクを指摘された

婦人科では、ホルモン補充療法(HRT)や漢方治療、生活指導を通じて更年期の体重増加に包括的に対応することが可能です。