性交後の出血の原因と注意点

Posted on 2025年 9月 10日 お腹

性交後に出血があると、多くの方が「大きな病気ではないか」と不安を抱きます。軽度の出血であっても、放置すると疾患の進行や妊娠への影響につながる場合もあります。特に婦人科領域では、感染症やホルモン異常、子宮頸がんの初期症状であることもあり、適切な判断が重要です。また妊娠初期の出血は流産や合併症のサインである可能性もあるため、NIPT(出生前診断)を検討する方にとっても重要なサインとなります。本記事では、性交後出血の主な原因と注意点、受診のタイミングについて、専門的な観点から解説します。

1. 性交後出血とは?基礎知識と頻度

性交後出血(せいこうごしゅっけつ)とは、その名の通り「性行為の後に膣や子宮から出血がみられる症状」を指します。多くの場合は性行為直後、あるいは数時間以内に出血が確認されることが多く、量や色は個人差があります。下着にうっすらと付着する程度の薄いピンク色の出血から、生理のように鮮血が流れるケースまで幅があります。

性交後出血が「特別な現象ではない」理由

性交後出血は決して珍しい現象ではなく、誰にでも起こりうる症状です。実際に、海外の疫学調査では、女性の約10〜15%が生涯のどこかで性交後出血を経験すると報告されています。特に若年層と更年期以降の女性に多く見られる傾向があります。

  • 若年層:子宮頸部の炎症(子宮頸炎)や性感染症による出血が多い
  • 更年期以降:女性ホルモン(エストロゲン)の低下によって膣粘膜が薄く乾燥し、わずかな摩擦で傷つきやすい

このように、性交後出血は必ずしも深刻な病気を意味するわけではありません。しかし一方で、子宮頸がんや異形成など重大な病気の初期症状である場合もあり、症状を軽視することは危険です。

出血のパターンと見分け方

性交後出血には、次のようなパターンがあります。

  • 少量の出血:膣粘膜の小さな傷や乾燥によるケースが多い
  • 繰り返す少量出血:慢性的な炎症やホルモンバランスの乱れが関与する可能性あり
  • 鮮血で量が多い出血:子宮頸部の病変(異形成やがん)や妊娠に関連するトラブルが疑われる

また、出血と同時に下腹部痛・腰痛・発熱・おりものの異常(悪臭や膿性の分泌物)がある場合は、感染症や炎症性疾患の可能性が高く、早急な婦人科受診が求められます。

性交後出血が「見逃せない」理由

性交後出血は日常的な軽度症状のひとつと思われがちですが、医学的には「不正性器出血(生理以外の出血)」に分類されます。不正出血の中でも性交後に限定して起こるケースは、婦人科の診断において重要な手がかりとなります。特に、子宮頸部の病変や性感染症は、性交による摩擦で血管が破れやすくなるため、性交後出血として現れることが多いのです。

頻度と受診の現実

性交後出血を経験しても、「一度きりだから」と放置してしまう女性は少なくありません。日本の調査でも、性交後出血を経験した女性のうち約半数が医療機関を受診していないとされています。しかし、繰り返す出血や鮮血の出血は見過ごしてはいけません。早期に婦人科を受診することで、感染症の治療や子宮頸がんの早期発見につながり、将来的な不妊や重篤な病気を防ぐことができます。

2. 性交後出血の主な原因

性交後出血は一時的なものから重大な疾患まで幅広い原因があります。ここでは代表的な原因を詳しく解説します。

2-1. 外傷や機械的刺激

膣や子宮頸部はデリケートな粘膜で覆われており、ちょっとした摩擦や衝撃でも傷つきやすい部位です。

  • 潤滑不足:性的興奮が不十分なまま性行為を行うと、膣粘膜が乾燥して摩擦による損傷が起こりやすいです。
  • 避妊具の使用:コンドームのラテックスによる摩擦や潤滑剤不足でも出血を引き起こす場合があります。
  • 出産・授乳後:ホルモンの影響で膣内が乾燥しやすく、微小な裂傷から出血することがあります。

→ この場合の出血は一過性で軽度ですが、繰り返すと粘膜炎症に発展することもあります。

2-2. 感染症(性感染症・炎症性疾患)

性交後出血の背景に、性感染症が隠れているケースも少なくありません。

  • クラミジア感染症:若い女性に多く、子宮頸部に炎症を起こしやすい。症状が軽いため放置されやすいが、不妊の原因にもなる。
  • 淋菌感染症:膿のようなおりもの、排尿痛を伴い、子宮頸部から出血しやすい。
  • トリコモナス膣炎:泡立った黄緑色のおりものと強いかゆみを特徴とし、膣粘膜の炎症で出血が起こりやすい。
  • 細菌性膣症やカンジダ症:膣内の自浄作用が崩れ、粘膜が炎症を起こすことで出血につながる。

→ 感染症は治療を怠ると慢性炎症や不妊、さらには骨盤内炎症性疾患に進展するため、早期の検査・治療が重要です。

2-3. 子宮頸部の異常(前がん病変・がん)

性交後出血で最も注意が必要なのが、子宮頸部の病変です。

  • 子宮頸部異形成(前がん病変):がんになる前段階で、症状が出にくいが性交後出血が唯一のサインとなることがある。
  • 子宮頸がん:性交時の摩擦で病変部の血管が破れ、接触出血を起こしやすい。特に進行がんよりも初期の段階で出血が出やすいとされる。

近年は HPV(ヒトパピローマウイルス)感染 が子宮頸がんの主な原因とされ、定期的な子宮頸がん検診やHPV検査の受診が推奨されています。性交後出血は「検診を受けるべきサイン」と考えてよいでしょう。

2-4. ホルモンバランスの乱れ

女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)のバランスは膣や子宮頸部の粘膜の状態に大きく影響します。

  • 更年期:エストロゲン低下で膣の乾燥・萎縮が起こり、性交後に出血しやすい。
  • 低用量ピルの使用:服用初期に不正出血が出ることがある。
  • ストレスや生活習慣の乱れ:ホルモン分泌に影響し、周期的でない出血や性交後の粘膜脆弱性につながる。

→ この場合はホルモン補充療法や生活習慣の改善で改善が期待できます。

2-5. 妊娠に関連する出血

性交後出血は妊娠の有無を確認するうえでも重要なサインです。

  • 妊娠初期:着床出血やホルモン変化で少量の出血がみられることがある。
  • 切迫流産:子宮内で出血が起こっている可能性があり、安静や治療が必要なケースもある。
  • 子宮外妊娠:卵管内に受精卵が着床し、性交の刺激で破裂や出血が誘発される危険がある。

妊娠を希望している方や妊娠の可能性がある方は、性交後出血があった場合は速やかに医療機関を受診する必要があります。

ハートを持つカップル

2-6. 良性腫瘍・その他の原因

性交後出血の原因には、良性の病気も含まれます。

  • 子宮頸管ポリープ:子宮頸部にできる良性腫瘍で、性交刺激で出血しやすい。
  • 子宮内膜症・子宮筋腫:子宮内膜の異常増殖や筋腫による粘膜の脆弱化で出血する場合がある。
  • 血液凝固異常:血友病や抗凝固薬内服中の患者では、少しの刺激で出血が長引くことがある。

3. 性交後出血と妊娠・NIPTとの関連性

性交後出血は、妊娠に関する重要なサインになることがあります。特に妊娠初期は子宮やホルモン環境が変化しやすいため、少量の出血が起こるケースもあれば、流産や子宮外妊娠といった重大なトラブルの兆候である場合もあります。ここでは妊娠との関連性と、出生前診断(NIPT)とのつながりについて詳しく解説します。

3-1. 妊娠初期の性交後出血

妊娠初期(妊娠0〜12週頃)は、子宮内膜や子宮頸部が柔らかく血流が豊富になるため、わずかな刺激でも出血しやすくなります。

  • 生理的な出血:着床やホルモンの影響による少量の出血。通常は自然に止まり、大きな問題はないことが多い。
  • 切迫流産のサイン:鮮血やレバー状の血の塊が出る場合、流産のリスクが高まる。下腹部痛や腰痛を伴うことも多い。
  • 子宮外妊娠:卵管に受精卵が着床し、性交による刺激で破裂や大量出血を引き起こす危険がある。早期発見が不可欠。

このように「生理的な範囲か病的な出血か」を見極めるためには、必ず医師による診察が必要です。

3-2. 妊娠中期・後期の性交後出血

妊娠中期以降は通常、子宮頸部が安定しているため出血は少なくなります。しかし次のような病態に注意が必要です。

  • 前置胎盤:胎盤が子宮口を覆っている場合、性交による刺激で出血が起こりやすい。大量出血や母子の命に関わることもある。
  • 常位胎盤早期剥離:胎盤が予定より早く剥がれる疾患で、強い腹痛や大量出血を伴う。緊急の対応が必要。

妊娠中の性交は必ず主治医に相談し、医師の許可がある場合にのみ行うことが推奨されます。

3-3. 妊娠を希望する方にとっての性交後出血

妊娠を希望している女性にとって性交後出血は、排卵やホルモン異常のサインである可能性があります。例えば、黄体機能不全やホルモン分泌の乱れがあると、着床しにくい環境となり、妊娠の成立に影響する場合があります。繰り返す出血がある場合は、妊娠前の段階から婦人科でホルモン検査や超音波検査を受けることが望ましいです。

3-4. 性交後出血とNIPT(出生前診断)との関連性

NIPT(新型出生前診断)は、母体の血液から胎児の染色体異常のリスクを調べる検査です。妊娠10週以降に受けられ、染色体異常を高精度で判定できることから注目されています。

性交後出血そのものがNIPTの結果に影響を与えることはありません。しかし、以下のような関連があります。

  • 妊娠継続の可否との関係:性交後出血が流産や子宮外妊娠のサインである場合、NIPTを受ける前に母体と胎児の状態を確認することが優先される。
  • 妊娠初期の不安増加:出血を経験すると「胎児に異常があるのでは?」と考え、不安を背景にNIPTを希望する妊婦さんも多い。
  • 検査時期の調整:妊娠初期の不安定な時期に大量出血や安静指示がある場合、NIPTの受検スケジュールを変更する必要がある。

つまり、性交後出血は「妊娠の安定性」と密接に関わる症状であり、NIPTの受検計画を立てる際にも考慮すべき重要な因子の一つと言えます。

3-5. 妊娠と性交後出血で注意すべきこと

  • 出血が少量でも、繰り返す場合や痛みを伴う場合は早急に受診する。
  • 妊娠初期の大量出血は流産や子宮外妊娠の可能性が高い。
  • NIPTを検討する場合、まずは母体の健康状態と妊娠経過の安定が前提となる。

4. 受診の目安と検査

性交後出血があった場合、以下のような状況では早急な婦人科受診が推奨されます。

  • 出血量が多い、または繰り返す場合
  • 下腹部痛や発熱を伴う場合
  • 妊娠の可能性がある場合
  • 過去に異形成や子宮頸がんの指摘を受けている場合

主な検査

  • 内診・経膣エコーによる子宮・卵巣の確認
  • 子宮頸部細胞診(子宮頸がん検査)
  • HPV検査
  • 性感染症検査
  • 血液検査・ホルモン測定

5. 自宅でできる対策と予防

  • 潤滑剤を適切に使用し、粘膜への負担を減らす
  • 不特定の性行為を避け、性感染症を予防する
  • 定期的な婦人科健診を受ける
  • 妊娠中は主治医の許可を得たうえで性行為を行う

6. まとめ

性交後の出血は一時的なものから重大な疾患のサインまで幅広く、軽視することは危険です。特に子宮頸部の異常や性感染症、妊娠初期のトラブルなどは、早期に対応することで予後が大きく変わります。妊娠を希望する方やすでに妊娠中の方は、NIPT(出生前診断)を検討する際にも、母体の健康状態を最優先に考えることが大切です。性交後に出血が続く場合や不安を感じる場合は、自己判断せずに早めに婦人科を受診し、適切な検査と治療を受けましょう。