アレルギー症状に悩む方にとって、原因を正しく特定することは適切な治療と生活改善の第一歩です。皮膚科で実施されるアレルギーテストには、即時型に対応するプリック/皮内テストと、遅延型に対応するパッチテストがあります。本記事では、それぞれの目的、手順、準備・注意点、結果の活用法まで、専門家の視点で丁寧に解説します。
Ⅰ.アレルギーテストの意義と種類
● アレルギーテストが果たす役割
アレルギー症状を引き起こす原因(アレルゲン)を正確に特定することで、不要な食物制限や薬物使用を回避できます。陰性結果も確定診断に役立ち、症状の原因が別にあることを明らかにすることができます。
● 主なテストの種類と特徴
- プリックテスト/スクラッチテスト(即時型)
皮膚の表面にごく微量のアレルゲンを刺入し、15~20分以内に膨疹(膨れる反応)が出るか確認。 - 皮内テスト(更に感度高い即時型)
注射器で皮内に0.02mL程度注入し、15–20分後に反応を評価。より高い感度ですがアナフィラキシーのリスクもあるため慎重に実施。 - パッチテスト(遅延型/接触性皮膚炎の診断)
背中に多数のアレルゲンを含むパッチを貼布し、48時間後およびさらに24–48時間後に判定。化粧品、金属、保存料などによる遅延反応を調べる。
Ⅱ.検査前の準備と注意点
● 問診と薬剤の確認
・検査前に、アレルギー症状、家族歴、既往歴、職場・生活環境などを問診
・抗ヒスタミン薬やNSAIDs、特定の抗うつ薬、ステロイド外用薬などは数日前〜2週間前に使用中止が必要
● 施行条件と制限
・重度湿疹や急性皮膚疾患の患者、高いアナフィラキシーリスクのある方は検査対象外または慎重に判断。
・妊婦、小児、高齢者などにも配慮が必要です。
Ⅲ.各テストの具体的な手順
● プリックテスト(即時型)
- 前腕内側をアルコールで消毒し乾燥
- 水溶性マーカーでグリッドや番号を記す
- アレルゲン液、陽性/陰性コントロール液を滴下
- ランセット針で直角に軽く刺入(出血なしに注意)
- 約15分後、膨疹径・紅斑径を測定し陽性判定(例:陽性コントロールの半分以上など)
- アルコール洗浄し記録、医師による結果解釈
● 皮内テスト
- 検査目的と注意点を説明
- 注射液・対照液を準備/前腕を消毒
- 表皮と真皮の境界に注射(約2‑3mm、0.02mL)
- 15〜20分後に、膨疹・発赤を評価し膨疹径を測定(ノギス使用可)
- 遅延型反応(Ⅳ型)は5〜6時間後、24〜48時間後に再評価
● パッチテスト(遅延型)
- 背中に25〜150種のアレルゲンを含むパッチを貼布(密着テープ使用)
- 48時間固定後、第一回判定(貼布除去)
- さらに24–48時間後の再判定(必要なら7日後再評価も)
- 発赤・浮腫・丘疹などの反応を評価し、遅延型アレルギーを特定

Ⅳ.検査結果の見方と活かし方
● 即時型判定の指標
膨疹径が陽性コントロールの半分以上、あるいは明らかな反応の場合 “陽性”と判断。偽陽性もあり得るため、別の検査や臨床所見との照合が必要。
● 遅延型判定と対応
パッチテストで陽性であった化学物質や成分は、日用品や化粧品などに含まれる可能性が高く、回避指導や製品選びのアドバイスに直結。
● 治療・生活指導への反映
陽性アレルゲンの回避法、薬物療法(抗ヒスタミン・ステロイドなど)、免疫療法、環境改善(ハウスダスト対策など)を個別に提案。適切に管理することで症状の軽減、再発予防、生活の質(QOL)向上に寄与。
Ⅴ.検査の安全性と限界
● 安全管理のしくみ
皮内テストでは、アナフィラキシーに備えて医療機器やアドレナリン製剤を常備し、緊急対応可能な体制で行われるのが標準的。
● 精度と偽陽性・偽陰性の可能性
肌状態や薬剤影響、アレルゲン抽出液の品質で偽陰性や偽陽性結果が出ることがあり、補助的に血液検査(特異的IgE測定)を併用することもあります。
Ⅵ.なぜ皮膚科でのアレルギーテストが重要か
- 原因特定の精度向上:適切な検査法により、アレルギー症状の原因を的確に把握できる
- 無駄な制限・治療の回避:誤った自己診断や過剰な薬物使用を防げる
- QOL向上や再発防止:環境・行動の調整で再発頻度を低減し、日常生活を安定させる
- 専門医による安全管理:緊急対応可能な医療体制下での実施により、安心して検査を受けられる
Ⅶ.検査を受ける際のよくある疑問と不安への対処
● 検査は痛いのか?
アレルギーテストの中でも、プリックテストやパッチテストはほとんど痛みを感じない検査です。プリックテストでは皮膚表面に非常に浅く針を入れるだけで、出血を伴うこともほぼありません。皮内テストは微量の液体を皮膚内に注射するため、わずかな痛みを感じることもありますが、通常の注射に比べれば刺激は軽微です。
特に小児や痛みに敏感な方には、医療スタッフが丁寧に説明を行い、心理的ストレスを軽減できるよう配慮します。不安が強い場合は、事前に医師や看護師に相談することをおすすめします。
● 検査後に跡が残ったり、かゆみが続くことはあるか?
即時型テストでは反応があった部位にかゆみや赤みが残ることがありますが、ほとんどの場合は数時間〜1日程度で自然に消退します。パッチテストでは反応が強いと発赤や小さな水疱が出ることもありますが、通常は外用薬や冷却処置で対処可能です。
ただし、過去に重度のアレルギー反応やアナフィラキシーを経験している方は、検査後も一定時間院内で観察を行うことがあります。自己判断で掻いたり薬を塗る前に、必ず医師の指示を仰ぎましょう。
Ⅷ.検査後の対応と生活への活かし方
● 陽性だった場合の対応
検査結果が陽性であった場合は、アレルゲン回避が基本となります。例えば、ダニやハウスダストが原因であれば、寝具のカバーを防ダニ仕様に変更したり、こまめな掃除を習慣づけることが推奨されます。
食物アレルギーの場合は、食品成分表の確認、代替食材の提案、外食時の注意点など、管理栄養士のサポートも重要です。
また、花粉症など季節性のアレルギーでは、飛散時期の外出制限やマスクの着用、空気清浄機の使用といった具体的な対策が効果的です。
● 陰性だった場合の次のステップ
陰性であっても、症状が持続する場合は別の疾患が疑われる可能性があります。たとえば、自己免疫疾患やストレス性の皮膚症状、薬疹などが鑑別対象になります。そのため、検査結果と照らし合わせた上で、必要に応じて他の診療科との連携(アレルギー専門医、内科、精神科など)を検討します。
医師と共に今後の検査・治療計画を立てることが大切です。アレルギーテストは「ゴール」ではなく、よりよい診断と治療の「スタート地点」とも言えます。
Ⅸ.保険適用・費用と検査を受けられる医療機関の探し方
● 検査にかかる費用と保険適用
アレルギーテストは、医師が必要と判断した場合には健康保険が適用されます。保険診療内では自己負担3割で実施され、プリックテストや皮内テスト、パッチテストなどはそれぞれ検査項目数によって費用が異なります。
【一例(保険診療・3割負担)】
- プリックテスト:約2,000~4,000円
- パッチテスト:約3,000~6,000円(使用パッチ数による)
- 血液検査(特異的IgE検査):1項目あたり数百円〜
初診料・再診料や薬剤処方料が加算される場合もあるため、事前に医療機関に確認しておくと安心です。
● 信頼できる医療機関を選ぶポイント
アレルギーテストを受けるには、皮膚科またはアレルギー科のある医療機関が適しています。特に以下の点をチェックして選ぶとよいでしょう。
- アレルギー専門医(日本アレルギー学会認定医)が在籍しているか
- テスト項目の多さ・精度・判定の丁寧さ
- 過去の口コミや医療機関ホームページの情報が明確か
- 小児対応の可否(子どものアレルギーは成長と共に変化するため特に重要)
また、花粉症やアトピー性皮膚炎、喘息、蕁麻疹などの診療実績が多い医療機関では、テスト後の治療提案の質も高い傾向にあります。
Ⅹ.アレルギーテストを通じて得られる「気づき」と「安心」
アレルギーは目に見えない相手との戦いです。何が原因か分からないまま不調に悩まされるのは、日常生活の質を著しく下げてしまいます。正確な診断を受けることで、「避けるべきもの」「心配しなくてよいもの」が明確になり、自分の体を正しく理解できるようになります。
特に小児や高齢者は、症状を適切に言語化できないことが多く、検査結果が医療者だけでなく家族にとっても大きな手がかりとなります。アレルギーテストを通じて、自己管理能力を高め、ストレスの少ない生活を送ることが可能になります。











