血管腫(赤あざ、いちご状血管腫、単純性血管腫など)は、見た目や機能面での悩みを抱える方が多い皮膚疾患です。治療を検討するとき、「どれくらいの費用がかかるか」「通院期間はどのくらいになるか」は、最も気になるポイントでしょう。本記事では、最新の保険制度・診療報酬制度を踏まえながら、レーザー治療や併用治療の一般的な費用・通院回数・期間の目安、注意点を専門的かつ実践的に整理してお伝えします。
1. 血管腫治療にかかる費用の考え方
費用を決める主な要因
血管腫治療における費用は、次のような要因で大きく変動します:
- 治療方式・装置タイプ(レーザーの種類、波長、性能など)
- 病変の形状・範囲・深度(平坦型か盛り上がり型か、深部への拡がりなど)
- 施術回数(1回で終わるか、複数回必要か)
- 併用治療(薬物療法、外科的併用、管理コストなど)
- 保険適用か自由診療か
- クリニック・医療機関の立地・設備・ブランド力
従って、具体的な見積もりは医師の診察・計画に依存しますが、「目安」を知っておくことは重要です。
保険診療 vs 自由診療
日本では、血管腫のうち 単純性血管腫・いちご状血管腫・毛細血管拡張症 などが 健康保険の適用対象疾患 として認められており、レーザー治療が保険診療で行われるケースがあります。
ただし、「保険適用可」といっても、 診療報酬制度・点数設定 や 治療間隔制限・加算規定 などが関係してくるため、自由診療との差異を理解しておく必要があります。
令和6年(2024年4月)には、皮膚科レーザー処置の診療報酬が改定され、色素レーザー照射法の点数が 2,170点 → 2,712点 に引き上げられました。
このような診療報酬制度の変動を踏まえながら、以下で実際の費用目安を見ていきましょう。
2. 日本の保険制度と診療報酬制度の変遷
レーザー処置の診療報酬改定(令和6年度)
- 色素レーザー照射療法(皮膚科処置 J054‑2)について、1回あたり 2,712点 の算定が可能になりました。
- 照射面積が10 cm²を超える場合、10 cm²ごとあるいはその端数毎に 500点ずつ加算 する制度が定められています。ただし、最大 8,500点 の加算が上限とされています。
- Qスイッチ付きレーザー照射療法(色素系レーザー装置)にも、照射面積別の点数設定が存在します(例:4 cm²未満、4~16 cm²、16~64 cm²など)
これにより、保険診療でのレーザー照射コストが従来より上昇する傾向にあります。
レーザー治療における「算定間隔・加算規定」
- レーザー治療は「一連の処置」として 3か月に1回 の算定間隔が原則とされています。つまり、同じ部位に3か月未満で複数回治療を行っても、点数上は1回分として扱われることがあります。
- 3歳未満の小児に対しては 乳幼児加算(2,200点) を追加算定できる規定があります。
- なお、保険適用のレーザー対象疾患として、単純性血管腫・苺状血管腫・毛細血管拡張症などが明記されています。
こうした制度を踏まえると、保険診療での “実質自己負担額” を見積もる際には上記点数・加算規定・部位や面積を組み合わせて計算する必要があります。
3. レーザー治療の費用目安(保険適用・自由診療)
以下に、保険適用ケースおよび自由診療ケースの費用目安を示します。ただし、あくまで「目安」であり、実際の見積もりは診察後に確認すべきです。
保険適用ケースの自己負担額目安
単純性血管腫(赤あざ)に対する保険適用例
- 山手皮膚科クリニックの例:10 cm²以下 → 約 2,172点 → 自己負担(3割)で 8,140円 程度
- 照射面積の拡大に伴って、20 cm²以下 → 3,212点、30 cm²以下 → 3,712点…と段階的に点数が上がり、自己負担額も増加します
- 秋葉原スキンクリニックでも、単純性血管腫・苺状血管腫などに対して 保険で V ビームレーザー治療が可能 と明言されています
このように、保険適用の場合、10 cm² 程度の範囲なら 7,000〜10,000円前後 が自己負担額の目安となります(3割負担時)。
保険適用時の留意点
- 点数上限や加算規定の影響を受ける
- 3か月未満の再照射は算定できない(算定上“1回分”として扱われる)
- 小児(3歳未満など)には乳幼児加算が入る可能性あり
- 保険診療で扱われないレーザー装置・方式(特に高性能機器・自由診療専用機器を使う治療など)は、別途自由診療扱いとなることがあります
自由診療ケースの費用例
自由診療(保険適用外)のレーザー治療では、クリニックによって料金設定は大きく異なります。以下は実例ベースの参考値です:
- 肌クリニック大宮:YAG 血管系レーザー、1回 4,500円(税込)(+別途診察料1,500円)
- 老人性血管腫(美容皮膚科扱い):1個あたり 8,800円/回 を掲示しているクリニックもあります
- 大手皮膚科クリニックの自由診療メニューでは、1 cm²あたり 12,000~19,000円程度といったレンジも見られます
- 美容クリニックの施術価格表(レーザー治療・色素治療など)を参考に、照射部位サイズごとの料金設定が多く見られます
自由診療の場合は、「範囲・回数・使用装置(高性能レーザーなど)」で費用が大きく変わるため、事前の見積もり確認が不可欠です。
4. 通院回数・通院期間の目安と要因
レーザー治療における通院回数・期間は、治療対象血管腫の性質・深度・広がり、使用装置、反応性、再発リスク、併用治療の有無などに左右されます。以下に “目安” としてよくみられるケースを整理します。
通院回数・期間の典型例
| 対象 | 通院回数 | 期間(目安) | 主な備考 |
| 単純性血管腫(保険適用レーザー治療) | 3〜6回程度 | 1〜2年程度 | 各回 3か月以上間隔を空けることが多い |
| 盛り上がりの少ない赤あざ(美容レーザー) | 2〜5回 | 半年〜1年 | 効果を見ながら回数調整 |
| いちご状血管腫(表在型) | 数回(2〜5回) | 半年〜1年 | 成長期や退縮期の動態を考慮 |
| 老人性血管腫(美容目的) | 1〜2回 | 数週間〜数ヶ月 | 範囲・数次第で変動 |
| 複雑型・深部型・大型血管腫 | 多回(5〜10回以上または長期間) | 2〜数年 | 深部治療や再通過への対応が必要になることも |
要因別の影響
- 治療方式・装置性能:高出力・深達度レーザーやピコ秒レーザーなどは反応性が高く、回数を抑えられるケースがあります
- 病変の種類・深さ:浅層性・平坦な血管腫は反応しやすく回数を抑えられるが、深部・盛り上がり型は回数が増える傾向
- 再発・再通過:一度閉塞した血管が時間経過で再通過する可能性があり、追加治療が必要になる場合も
- 患者の皮膚状態・年齢:若年者・皮膚薄い症例はレーザー反応性が高く、少ない回数で改善しやすい
- 併用治療(薬物療法、圧迫療法等):併用することで治療効果を補強し、回数や期間を短縮できることもあります
特に、保険診療では「3か月間隔」という制約もあるため、通院頻度が限定される点は念頭に置く必要があります。
通院スケジュール例
例えば、単純性血管腫を保険適用で治療するモデルケースとしては、以下のようなスケジュールがあり得ます:
- 初診・診察・治療方針決定
- 第1回レーザー治療
- 3か月後に効果判定 → 第2回照射
- 3か月後に効果判定 → 第3回照射
- 以後、反応良好なら追加治療なし、反応不十分なら追加照射
- 最終確認・フォロー(定期診察)
この流れであれば、1年以上かけて3回~5回程度通院する可能性があります。
5. 併用治療・例外ケースのコスト・期間
レーザー治療単独では難しいケース、あるいは機能的リスクがあるケースでは、併用治療や例外的な戦略が採られます。こうしたケースでは費用・期間がさらに延びたり変動したりするので注意が必要です。
プロプラノロール内服併用(乳児血管腫など)
- 乳児血管腫では、プロプラノロール内服療法(ヘマンジオル®)が第一選択になることが多く、レーザー治療は表面調整や併用として使われることがあります
- 内服治療を行う場合、定期的なモニタリング(血圧・心拍・糖代謝チェックなど)が必須であり、その診察・検査コストが上乗せされます
- 入院措置やモニタリング設備のあるクリニックでは、初期コストがさらにかかる可能性もあります
大型・深部血管腫、複雑型
- 深部血管腫や複雑な血管網を持つものでは、レーザー単独では改善困難な部位が残ることが多く、外科切除や塞栓治療、血管内治療などを併用することがあります
- こうなると、麻酔費用・手術費用・入院費・術後管理コストなどが別途かかるケースがあり、総合的な期間・費用は大幅に大きくなる可能性があります
保険適用外レーザー・高性能機器使用
- 自由診療専用の高性能レーザー装置(ピコ秒レーザー、ハイブリッド装置など)を使う場合、1回あたりのコストが高くなる代わりに回数が抑えられるケースもあります
- ただし、このような機器の使用は保険適用外となることが多く、全額自己負担となります
これらの例外ケースを念頭に置きつつ、自分のケースがどの類型に近いかを事前に医師と相談しておくことが大切です。
6. 費用を抑えるポイント・注意点
治療費用を最適化し、無駄を抑えるためには、次の点に留意するとよいでしょう。
- 保険適用が可能かどうかをまず確認する
単純性血管腫や苺状血管腫など保険適用対象疾患であれば、可能な限り保険診療で行うのがコスト抑制につながります。 - 面積を小さく抑えた段階で治療を始める
病変範囲が小さいうちにレーザーを当てることで、必要な回数や出力を抑えることができ、費用軽減につながることがあります。 - 照射間隔を適切に保つ
過度に短い間隔で照射しても、効果判定がつきにくいため3か月間隔を守ることが合理的です。 - 併用治療を検討する
薬物療法や圧迫療法等を併用できるケースでは、それらを併用することでレーザー回数を減らすことも可能です。 - クリニックを複数比較する
レーザー装置・技術・立地・運営コストが異なるため、複数の医療機関で見積もりを取るのが望ましい。 - 見積もり・明細を確認する
レーザー機器使用料・麻酔・クーリング装置代・ガーゼ・軟膏代など、細かい加算項目が含まれている場合もあるため、見積もり内容を明確に確認しましょう。 - 医療費控除を活用する
治療費が一定額を超える場合、確定申告で 医療費控除 を申告できる可能性があります(特に自由診療の場合)
これらを踏まえて治療計画を立てることで、コスト負担をできるだけ抑えながら効果を得ることが可能になります。

7. よくある質問(Q&A)
Q1. レーザー治療の初診料・再診料は別途かかるの?
A. はい、通常は別途診察料(初診・再診料)が必要となります。自由診療クリニックではこの診察料が数千円程度設定されていることが多いです。
Q2. 保険適用なのに自由診療扱いと告げられることはある?
A. はい。保険適用条件を満たさないケースや、保険適用機器ではない装置を使う場合、自由診療扱いとなる可能性があります。
Q3. 3か月未満で複数回レーザー照射したらどうなる?
A. 点数算定上は “一連の処置” として扱われ、1回分の処置点数としてしか算定されないことがあります。
Q4. 通院が遠方でも可能ですか?
A. 通院頻度が一定間隔(例:3か月)になるケースが多いため、遠方でも月1〜2回程度の通院ペースであれば対応可能なケースもあります。ただし、診察日程やクリニックのスケジュール調整などを考慮する必要があります。
Q5. 子ども(乳幼児)の場合、費用や通院はどう変わる?
A. 3歳未満では乳幼児加算が算定可能であり、点数が加算されます。
また、乳児血管腫ではプロプラノロール内服併用や入院モニタリングが必要なケースもあり、通院回数・検査回数が増えることがあります。
8. まとめ・実践アドバイス
- 血管腫治療の費用は、「保険適用か自由診療か」「面積・深度・回数」「併用治療の有無」などで大きく変動します。
- 保険診療可能な赤あざ(単純性血管腫・苺状血管腫など)ならば、10 cm² 程度の範囲であれば自己負担額は数千〜1万円前後が目安です。
- 自由診療では、1回あたりの料金が数千円〜数万円・数万円以上と幅が広く、装置やクリニックによって大きく異なります。
- 通院回数・期間は多くのケースで 3〜6回、1〜2年程度 が目安。ただし、深部型・複雑型・再発リスク例ではより長期・多回になることも。
- 費用を抑えたいなら、早期治療・面積を小さく始める・併用治療活用・複数クリニック比較が鍵
- 見積もりは必ず詳細を確認し、治療方針・期間・追加費用リスクを医師に質問しておくことをおすすめします。














