乳房のしこりと乳房の病気は自己触診で早期発見【医師監修】

乳房のしこりと乳房の病気

乳房にしこりがある・乳頭から膿が出る・乳房が張るなど、乳房に起こるトラブルはさまざまです。また悪性のしこりであっても痛みや自覚症状のないケースも少なくありません。この記事では乳房のしこりと、考えられる疾患、自己触診の方法を医師が解説します。

乳房のしこりと乳房の病気

乳房(にゅうぼう)とは、胸部にある隆起した器官のことです。脂肪組織・線維組織によって形づくられ、その膨らみの中には乳汁を生成・分泌する乳腺があります。

乳房の病気はさまざまな種類があり、良性と悪性とに分けられます。多くの場合、良性とされていますが乳がんなど悪性腫瘍の発見が遅れることにより、乳房の切除や生命にかかわることも少なくありません。

また乳房のしこりや病気は女性だけでなく、男性も発症することから月に1回ほど自己触診をおこない異変に気づいた際は、すみやかに医師の診察を受けることが大切です。

乳房に生じる病気の種類と症状

乳房の病気と聞いて、多くの方が思い浮かべる病気は”乳がん”ではないでしょうか。しかし、乳房や乳頭に生じる病気はさまざまであり、しこりが生じるケース・発熱・倦怠感・膿をともなう症状などが挙げられます。

乳房の病気は約80〜90%が良性とされますが、たとえ痛みや発熱がなくとも乳房にしこりや、異常な張り感がある場合は早めに診察を受けましょう。

「しこり」とは

”しこり”とは腫瘤(しゅりゅう)のことです。皮膚や皮下組織、体内に生じるコブ状のデキモノとされています。しこりには良性と悪性があり、すべてのしこりが悪性腫瘍(がん)ではありません。しかし、良性のしこりが悪性へと変化するケースもあるため注意が必要です。

乳房に生じるさまざまな病気や症状

二次性徴

8〜9歳頃の女児に見られる乳房(乳頭部)のしこりは多くの場合、病気ではなく二次性徴による乳房の腫大です。軽微な痛みをともない片側だけに生じることもあり、男児に見られるケースも少なくありません。

乳腺症

乳腺症とは35歳前後の女性に多く見られる病態です。正常な乳腺が長期間、女性ホルモンの影響により増殖・萎縮を繰り返し硬結化することで、しこりとなります。痛みや乳頭分泌を生じ、月経前に症状が強くなることも少なくありません。厳密にいうと病気ではなく生理的変化の一環とされ、閉経後に減少します。

乳腺炎

乳腺炎は授乳期に多く発症し、うっ滞性乳腺炎と化膿性乳腺炎に分けられます。

うっ滞性乳腺炎とは授乳期に乳汁(母乳)の分泌量が、乳児の吸引量より多いことがおもな原因です。乳腺内に乳汁が溜まり、炎症することにより生じます。乳汁を排出することで改善するとされています。

一方、化膿性乳腺炎は授乳中の母親に発症することが多く見られる病気です。乳児に歯が生え始め、お母さんの乳頭(乳首)に細かな傷が生じ、乳児の口腔細菌による感染・炎症が原因とされています。乳房が腫れ、発熱をともなうケースもあり、この場合は授乳を中止し、抗生物質の投与や、症状によっては切開をおこない膿を排出します。

乳腺線維腺腫

思春期以降の若年女性に多く見られる良性腫瘍です。痛みのない小さなしこりであり、片側もしくは両側に発症します。また研究により、乳腺線維腺腫は腫瘍でなく炎症による過形成(細胞の増殖による組織の増大)であることが分かりました。

乳がんと間違えられることが多い乳腺線維腺腫ですが、しこりは乳がんと比較し、柔らかく弾力性があります。しかし触診で乳腺線維腺腫と、乳がんの区別をすることは難しいでしょう。一般的に乳腺線維腺腫が悪性腫瘍に変化することは少なく、超音波検査(エコー検査)によって診断・経過観察となります。

葉状腫瘍/悪性葉状腫瘍

葉状腫瘍(ようじょうしゅよう)は病名の通り、植物の葉っぱのように小さく無痛性の腫瘍が複数発生します。葉状腫瘍は稀な病変とされ、その頻度は乳房腫瘍全体のなかで0.3〜0.9%といわれています。乳腺線維腺腫と似た病変とされていますが、しこりが急速に大きくなり皮膚が破裂、腫瘤が露出するケースも見られます。

良性・境界病変(良性とも悪性とも判断のつかない状態)・悪性の3つに分けられ、悪性葉状腫瘍の発生頻度は40代に最も多く、女性100万人中、約2.1人とされています。また良性であっても再発することがあり、再発時に悪性転化となるケースも少なくありません。

乳がん

乳がんの多くは、乳汁分泌をする乳腺小葉上皮(しょうようじょうひ)および乳管上皮(にゅうかんじょうひ)に発生します。乳がんの多くは痛みなどの自覚症状がありません。異常に気づかず放置することにより、がん細胞が他の臓器へ転移するケースも多く見られます。

また乳がんのなかにはパジェット病といい、乳頭・乳輪が赤くただれた病変が見られるものがあります。がん細胞が表皮にあるうちは、他の臓器への転移は少ないとされています。おもな治療法は外科切除となりますが、診断が遅れ病変範囲が広がってしまうと、その分、切除範囲は大きくなるでしょう。

なお乳がんは女性の悪性腫瘍(がん)のなかで、最も頻度が高いとされています。しかし女性だけでなく、男性でも乳がんを発症することがあるため、日頃より自己触診などセルフチェックをおこないましょう。

月1回の自己触診で乳房の異常を早期発見

万が一、乳房にしこりが発生していても、痛みなどの異常がない限り気づかないことが多いでしょう。2004年、厚生労働省により40歳以上を対象にマンモグラフィ検査による乳がん検診が原則としておこなわれています。検診間隔は2年に1度とされているので、その間は月1回の自己触診をおこない、乳房の異常の早期発見に努めることが大切です。

乳房のしこりセルフチェック法

乳がんは他のがんと異なり、自己触診により早期発見をすることができます。月1回、月経が終了した5日後くらいに自己触診をおこないましょう。

  1. 鏡の前で両腕を下げ、乳房と乳頭の位置や状態を確認
  2. 両腕をあげ、さまざまな角度から乳房の凹み・ひきつれなどを確認
  3. 乳頭に湿疹やただれ、分泌物が出ていないかを確認
  4. 仰向けに寝た状態で指の腹で左右の乳房・脇を軽く圧迫しながら、まんべんなくしこりを確認
  5. 左右の乳頭を軽く絞り、膿や血液などの分泌物がないかを確認

乳房のしこりの受診科とは

乳房のセルフチェックにより、しこりなどの異常が見られた際は乳腺外科(乳腺科)や、乳腺の診察をおこなっている形成外科を受診しましょう。

乳房に異常を感じたら乳腺外科・形成外科・皮膚科へ

乳房の病気はさまざまな病態があり、その多くは良性とされています。しかし、乳がんなどの悪性腫瘍であっても自覚症状に乏しく、診察や治療が遅れることにより乳がんが進行してしまうことも少なくありません。なお、乳がんは骨・脳・肺・肝臓に転移しやすいとされています。

全乳がんの1%程度であり極めて稀な男性乳がんの場合、見逃されることも多く、女性と比べ乳がんが進行した状態で診断されるケースが多いといわれています。これらのことから女性・男性問わず、乳房のセルフチェックを定期的におこなうことが大切です。

万が一、乳がんの診断を受けたとしても早期発見・治療をおこなうことで乳房の温存も可能です。マンモグラフィ検査などの定期検診と、月1回のセルフチェックを習慣にして、少しでも異常を感じた際はヒロクリニック形成外科・皮膚科へご相談ください。


【参考文献】

記事の監修者

ヒロクリニック 岡博史 先生

ヒロクリニック 岡博史 先生

“医療にITを組み合わせることで常に時代にアンテナをはり、
医療の可能性を最大限に広げ、新しい医療サービスの提供に取り組んでいます。”

経歴

1996 慶應義塾大学医学部 卒業             
2002 慶応義塾大学病院 皮膚科            
2008 ヒロ皮フ形成クリニック(H27年8月ヒロクリニックへ名称変更) 開院・院長就任
2010 医療法人社団福美会 設立・理事長就任
2011 株式会社Hiro Japan 設立・取締役就任(兼任)

資格

1996 医師免許取得
2003 皮膚科専門医 取得
2017 産業医 取得

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