「性行為がすぐに終わってしまう」「パートナーを満足させられない」――そんな悩みを抱える男性は少なくありません。早漏(早発射症)は、性交時間が本人やパートナーにとって不十分である場合に診断され、男性性機能障害の中でも頻度が高い症状です。近年は、薬物療法と行動療法を組み合わせることで、多くの方が改善を実感しています。本記事では、専門的な視点から「薬」と「練習法」の具体的な選択肢を紹介し、安心して改善に取り組むための実践的なヒントをまとめます。
1. 早漏の定義と原因を理解する
1-1. 早漏の医学的定義と診断基準
早漏(早発射症:Premature Ejaculation, PE)は、世界保健機関(WHO)や国際性医学会(ISSM)でも正式に定義されている性機能障害です。
主に以下の3つの要素で診断されます:
- 潜時(挿入から射精までの時間:IELT)が短いこと
一般的には、膣挿入後 約1分以内で射精に至る 場合が診断の基準とされます。 - コントロール感の欠如
「射精を自分の意思で遅らせることができない」と本人が感じている状態です。 - 精神的苦痛や人間関係への影響
本人やパートナーが性生活に満足できず、心理的なストレスや関係性の悪化を招く場合が多いです。
このように、単なる「早い射精」ではなく、本人の苦痛やパートナーとの関係に影響するかどうかが医学的に重要なポイントです。
1-2. 一次性(生まれつき)と二次性(後天性)
- 一次性早漏(生涯型)
性体験の初期から常に早漏傾向があるタイプです。多くは脳内セロトニンの働きに関わる遺伝的要因や、射精反射の感受性が高いことが背景にあります。 - 二次性早漏(獲得型)
ある時期までは問題なかったが、途中から症状が出始めるタイプです。生活習慣の乱れ、ストレス、前立腺や泌尿器疾患、あるいはED(勃起不全)との併発が原因で発症することがあります。
1-3. 心理的要因
- 不安や緊張:性行為に対する過度の緊張や失敗経験のトラウマ
- 自己評価の低下:パートナーを満足させられないという劣等感
- パフォーマンス不安:「長く持たせないといけない」という強迫観念が逆に早漏を招く
心理的な影響は大きく、特に若い世代で目立ちます。
1-4. 身体的要因
- 神経系の過敏性:陰茎亀頭部の感覚が過敏である
- セロトニン機能の低下:射精を制御する神経伝達物質セロトニンが十分に働かない
- 内分泌・泌尿器疾患:慢性前立腺炎、甲状腺機能亢進症などが早漏に関与することがあります
- EDとの関連:勃起を維持できない不安から射精を急いでしまうケースもあります
1-5. 生活習慣や外的要因
- 睡眠不足や疲労:自律神経のバランスが乱れ、射精反射の抑制力が低下する
- 飲酒・喫煙:血流や神経伝達に悪影響を与える
- 運動不足:骨盤底筋や下半身の筋力低下は射精コントロール力の低下につながる
1-6. まとめ:複合的要因の重なり
早漏は、単一の原因ではなく 心理・身体・生活習慣が複雑に絡み合って発症するケースが大半 です。そのため、治療にあたっては「薬」だけではなく、「練習法」や「生活改善」といった多角的アプローチが必要になります。

2. 薬による早漏改善法
早漏の薬物療法は、大きく分けて ①射精を遅らせる薬(神経系に作用) と ②間接的に改善する薬(勃起や自信をサポート) の2種類に分かれます。
ここでは代表的な薬の種類ごとに「作用機序・効果・副作用・注意点」を整理します。
2-1. SSRI系薬剤(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
作用機序
- セロトニンは脳内で「射精反射を抑制するブレーキ役」として働きます。
- SSRIは、セロトニンを神経細胞から再取り込みするのを阻害し、シナプス間隙の濃度を高めることで 射精の遅延 をもたらします。
代表薬
- ダポキセチン(Dapoxetine)
服用後1〜2時間で効果が出る「短時間作用型」。世界60か国以上で承認されていますが、日本では未承認。 - その他、パロキセチン・セルトラリン・フルオキセチンなど抗うつ薬として承認済みの薬も、オフラベルで早漏治療に使われることがあります。
効果
- 臨床試験では、挿入から射精までの時間(IELT)が2〜3倍に延長したという報告あり。
- 即効性のあるダポキセチンは、必要なときだけ使用できる点が利便性高い。
副作用と注意点
- 吐き気、頭痛、下痢、眠気など。
- 抗うつ薬として使用する場合は毎日服用が必要になるため、性行為の予定に合わせた使い分けが難しい。
- 他の薬(特に抗精神薬や心臓薬)との併用には注意。
2-2. 局所麻酔薬(リドカイン/プリロカイン)
作用機序
- 陰茎亀頭の感覚神経を軽く麻痺させ、過敏な刺激を抑える。
- 神経が過敏に反応しているタイプの早漏に有効。
使用方法
- クリーム・スプレータイプを性行為の10〜20分前に塗布し、その後洗い流して使用するのが一般的。
効果
- 即効性があり、薬を塗布したその日から効果を実感できる。
- 多くの臨床試験で 射精までの時間を2〜4倍延長することが確認されている。
副作用と注意点
- 感覚が鈍くなりすぎると勃起力低下や性的快感の低下を招く場合がある。
- パートナーの膣や口腔に薬剤が付着すると麻痺感を与えてしまうリスクあり。
- 適切な量と使用方法を守ることが大切。
2-3. PDE5阻害薬(ED治療薬:バイアグラ、シアリス、レビトラ)
作用機序
- 勃起を促す薬(血流改善)。
- 射精自体を遅らせる作用はないが、「勃起を維持できる安心感」により早漏が間接的に改善することがある。
効果
- 単独使用では射精時間延長効果は限定的。
- しかし、SSRIや局所麻酔薬との 併用で効果が相乗 するケースが多い。
副作用と注意点
- 顔のほてり、頭痛、動悸、鼻づまりなど。
- 心臓疾患で硝酸薬を服用している人は併用禁止。
2-4. トラマドール(弱オピオイド鎮痛薬)
作用機序
- 鎮痛薬として使われるが、セロトニンとノルアドレナリンの再取り込み阻害作用を併せ持ち、射精を遅らせる効果がある。
効果
- 一部の臨床試験では、服用により射精潜時が約3〜4倍に延長。
副作用と注意点
- 吐き気、便秘、眠気。長期使用で依存性リスクがあるため、第一選択薬ではなく補助的な位置づけ。
2-5. サプリメント・漢方薬
代表例
- 亜鉛:精子形成やテストステロン代謝に関与。欠乏時は性機能低下を招く。
- アルギニン:一酸化窒素(NO)の産生を促進し、血流改善に寄与。
- 漢方薬:補中益気湯や八味地黄丸など、体力回復や血流改善を目的として処方されることもある。
効果
- 医学的エビデンスは限定的だが、体調改善や補助的役割として取り入れられる。
2-6. 薬物療法の選び方と併用戦略
- 軽度〜中等度の早漏:局所麻酔薬 → 自宅で簡単に試せる
- 根本的改善を希望:SSRI系薬剤 → 医師処方が必要
- ED合併あり:PDE5阻害薬 + SSRI or 麻酔薬 → 両方の悩みに対応
- 補助的サポート:サプリや漢方薬 → 生活習慣改善と組み合わせて
3. 練習法による改善アプローチ
3-1. スタート&ストップ法
性刺激を高めた状態で一旦停止し、射精感が収まってから再開する方法です。繰り返すことで射精コントロール力を鍛えることができます。
3-2. スクイーズ法
射精直前に亀頭下部を軽く圧迫し、射精反射を抑える方法です。パートナーと一緒に行うことで、性生活のコミュニケーション改善にもつながります。
3-3. 骨盤底筋トレーニング(PC筋トレ)
骨盤底筋(恥骨尾骨筋)を鍛えることで射精をコントロールしやすくなります。排尿を途中で止める感覚で筋肉を収縮させ、10秒間保持する練習を繰り返すのが基本です。
3-4. マインドフルネスと呼吸法
早漏は「緊張」と「焦り」によって悪化する傾向があります。深い呼吸法や瞑想を取り入れることで、心身のリラックスを促し、持続力の向上が期待できます。
4. 生活習慣の見直しが鍵
4-1. ストレス管理
ストレスホルモンであるコルチゾールは性機能を低下させる原因になります。規則正しい睡眠や趣味の時間を確保し、リフレッシュできる環境を整えましょう。
4-2. 食事と栄養
魚やナッツ類に含まれるオメガ3脂肪酸、肉や卵に豊富な亜鉛、ビタミンB群は性機能を支える栄養素です。バランスの取れた食生活が改善の土台となります。
4-3. 運動習慣
適度な有酸素運動は血流改善に役立ち、筋力トレーニングは男性ホルモンの分泌を促します。特にスクワットやプランクなど骨盤周囲を鍛える運動が効果的です。
5. 医師に相談する重要性
市販薬やインターネット情報だけで独自に改善を試みるのはリスクを伴います。
- 薬の副作用や禁忌の確認
- 他の疾患(前立腺炎、うつ病など)の見落とし防止
- パートナーとの関係性を考慮した治療計画
専門医の診察を受けることで、安全かつ効果的に改善を進められます。
まとめ:薬と練習法の併用で持続的改善を
早漏は恥ずかしい問題と捉えられがちですが、薬物療法と練習法を組み合わせることで、多くの方が改善を実感しています。ポイントは「原因に合わせたアプローチ」と「生活習慣の見直し」です。まずは気軽に医師へ相談し、自分に合った改善プランを見つけることが大切です。










