はじめに
ED(勃起機能障害)は、多くの男性が一度は経験する可能性のある健康課題です。国内外の調査では、中高年層だけでなく20〜30代でも一定数の発症が報告されています。しかし、実際に医療機関を受診する人はごく一部にとどまり、多くの人が「恥ずかしい」という心理的ハードルから受診を先延ばしにしてしまいます。
現在のED治療は、薬物療法から機器治療、さらには再生医療に近い先進治療まで多岐にわたっており、適切に行えば生活の質(QOL)を大きく改善することが可能です。本稿では、来院前に知っておくべきポイントを10項目以上に整理し、最新のエビデンスをもとにわかりやすく解説します。
1. EDの定義と現状
EDは「性交に十分な勃起が得られない、または維持できない状態が少なくとも3カ月以上続くこと」と定義されています。国内調査では、中等症以上のEDは40代後半から急増し、60代では半数以上に認められるとされています。
近年は若年層の発症も増えており、ストレス社会や生活習慣の変化が影響していると考えられています。
2. 恥ずかしさの心理的背景
EDは性的な悩みであることから、恥ずかしさや自己否定感を抱きやすい症状です。しかし、誰にでも起こり得る生理現象であり、全身の健康状態を示す“サイン”でもあります。
心理的なためらいによる受診の遅れは、生活の質の低下やパートナーシップへの影響だけでなく、糖尿病や心血管疾患の早期発見の機会を逃すリスクもあります。受診は決して恥ずかしいことではなく、むしろ健康管理の一環と考えることが大切です。
3. 来院前に確認しておくとよいこと
初めて受診する際は、以下を把握しておくと診察がスムーズです。
- 勃起の硬さや持続時間(EHSやSHIMなどの自己評価尺度が有効)
- 夜間や早朝の勃起の有無
- 糖尿病や高血圧、脂質異常症などの既往歴
- 喫煙・飲酒習慣、ストレスの有無
これらを整理しておくと、原因が器質性か心理性かを医師が判断しやすくなります。
4. 第一選択となる内服薬(PDE5阻害薬)
シルデナフィル(バイアグラ)、タダラフィル(シアリス)、バルデナフィル(レビトラ)などが代表的です。これらは陰茎海綿体の血流を改善し、性的刺激があったときに自然な勃起を助けます。
国内の臨床試験では、シルデナフィル投与群で性交成功率が7割以上に改善した報告があります。副作用は頭痛、ほてり、鼻づまりなど軽度なものが中心ですが、心臓病の薬(硝酸薬)との併用は禁忌です。
5. 内服薬が使えない場合の陰圧式補助器具
薬が使えない場合や十分な効果が得られない場合、陰茎にカップを装着して空気を抜き、血流を誘導する「陰圧式勃起補助具(真空ポンプ)」が有効です。リングで血流を保持することで勃起を維持できます。
国内の研究でも9割以上で満足度の高い結果が得られており、副作用は軽度の内出血程度です。
6. 体外衝撃波治療(ショックウェーブ)
近年注目される低出力体外衝撃波治療(Li-ESWT)は、陰茎の血管新生を促し、自然な勃起力を改善する新しい治療です。
ヨーロッパのガイドラインでも、軽度から中等度の血管性EDに対して効果が期待できるとされています。薬を使わずに改善したい患者や、慢性期の血管性EDに向く選択肢です。
7. 外科的治療:陰茎プロステーシス
薬や機器で効果が得られない場合の最終手段として、陰茎に人工的なインプラントを挿入する手術があります。可動式と非可動式があり、手術後の満足度は非常に高く、性生活の自立が可能となります。
ただし手術のハードルは高く、感染などのリスクを伴うため、十分な説明と納得が必要です。
8. 心理療法・カウンセリング
心因性EDでは、心理的な不安や過去の失敗体験が主因となることがあります。セックスセラピーや認知行動療法など、専門家による心理療法を組み合わせることで改善が期待できます。
特に若年層やストレス性のEDでは、薬物療法と心理療法の併用が効果的です。
9. サプリメント・補完療法の位置付け
L-シトルリンやトランスレスベラトロールなど、血流改善を期待するサプリメントが研究されています。一部の報告では補助的効果が示唆されていますが、医薬品に比べると効果は限定的です。
また、鍼や漢方などの補完療法は明確な科学的根拠が十分ではなく、自己判断での使用は推奨されません。必ず医師と相談しながら取り入れましょう。

10. 生活習慣の改善は必須
EDは生活習慣病と深く関連しています。運動不足、肥満、喫煙、過剰飲酒、睡眠不足はいずれもリスク要因です。
- 適度な有酸素運動(週3回以上)
- 禁煙
- 野菜・魚を中心としたバランスの取れた食事
- 睡眠の確保
これらの習慣改善は、EDの改善だけでなく心血管疾患予防にもつながります。
11. 診察で行われる主な検査
- 血液検査(血糖・脂質・テストステロンなど)
- 勃起評価アンケート(SHIM、IIEF)
- 心電図、血圧測定
- 必要に応じて夜間勃起測定や陰茎血流のドプラー検査
これらを基に原因を特定し、最適な治療プランを立てます。
12. 副作用と注意点
内服薬は比較的安全ですが、頭痛、ほてり、鼻づまり、消化不良などが出ることがあります。
重度の心疾患や低血圧、硝酸薬使用中の方は服用できません。自己判断での市販薬・個人輸入は健康被害のリスクが高く、必ず医師の処方を受けることが安全です。
13. 来院から治療までの流れ
初診では、問診・血液検査・必要に応じた陰茎血流の評価などを行い、EDの原因を器質性・心因性・混合型に分類します。
その後、以下のようなステップで治療が進みます。
- 生活習慣の見直しと基礎疾患の管理
高血圧・糖尿病・脂質異常症などのコントロールはED改善の基本です。 - 第一選択治療(内服薬)
PDE5阻害薬を少量から試し、副作用の有無を確認します。 - 第二選択治療(機器療法や心理療法)
薬が効かない場合や心理的要因が強い場合に追加されます。 - 外科的治療や再生医療
難治性EDや高度な器質性EDに対して検討されます。
治療法は患者の年齢・背景疾患・希望に応じてカスタマイズされます。
最も重要なのは、「一人で抱え込まないこと」です。医師との対話を通して最適なプランを一緒に作りましょう。
14. 恥ずかしさを軽減する受診の工夫
ED受診に抵抗を感じる方は、次の工夫で心理的負担を減らせます。
- 泌尿器科・ED専門クリニックを選ぶ
プライバシーに配慮した予約制や個室対応が多く、安心して相談できます。 - 初診前に問診内容をメモする
生活習慣、服薬状況、勃起の状態をまとめることでスムーズに話せます。 - オンライン診療を活用する
初診からオンラインで対応可能なクリニックもあり、来院前のハードルを下げられます。
EDは心身の健康サインでもあるため、早めの相談が生活の質向上につながります。
15. パートナーとの向き合い方
ED治療を成功させるには、パートナーとの協力が重要です。
- 正直な気持ちを共有する
- 無理に性交渉を強要せず、コミュニケーションを重視する
- 治療方針を一緒に理解することで心理的負担が減る
「恥ずかしい」から隠すのではなく、「健康のために一歩踏み出す」と考えることが、二人の関係改善にもつながります。
16. まとめ:一歩踏み出す勇気が健康を守る
EDは加齢や生活習慣病だけでなく、ストレス社会や不規則な生活の影響も受けます。
- 恥ずかしさを乗り越えることが第一歩
- 受診で原因を特定し、適切な治療を受けることが改善への近道
- 生活習慣の改善と並行することで、より高い治療効果を得られる
健康と自信を取り戻すために、今日からでも医師への相談を検討しましょう。
参考文献
- 日本泌尿器科学会「ED診療ガイドライン」第3版
- Kurosawaら, 低出力衝撃波療法に関する国内報告, Int J Urol
- 国内シルデナフィル臨床試験報告(性交成功率77%)
- ビガー2020陰圧式補助器具に関する多施設研究報告
- 厚生労働省 eJIM 補完療法評価資料











