セックスレスを解消するための実践的アプローチ

夫婦

パートナーとの身体的な関係がなくなって久しい――。このような「セックスレス」の状態に悩んでいるカップルは、決して少なくありません。厚生労働省の調査によると、日本では夫婦の約4割が1か月以上性交渉をしていないというデータもあり、現代社会における一般的な悩みとなりつつあります。セックスレスは単に性生活がないということにとどまらず、心のすれ違いや信頼関係の希薄化、自己肯定感の低下など、深い問題を引き起こすことがあります。本記事では、セックスレスを解消するための原因の理解と、今日からできる実践的アプローチを、心理学・医療・コミュニケーションの観点から解説します。

 

1. セックスレスの定義と現状

まず、セックスレスとは何かを明確にしておきましょう。日本性科学会の定義によると、「配偶者またはパートナーとの性交渉が1か月以上ない状態で、今後もないと予想される場合」をセックスレスとしています。

【セックスレスの現状】

  • 20代〜50代夫婦の約40〜50%が該当(厚労省・関連調査)
  • 長期的な交際カップルでも同様の傾向
  • 性欲の不一致、育児や仕事による疲労、精神的ストレスなどが主な要因

このように、セックスレスは一時的なものではなく、慢性化することでパートナーシップ全体に悪影響を及ぼす可能性が高まります。

2. セックスレスの主な原因を知る:4つの側面

セックスレスを解消する第一歩は、原因の理解です。以下のように4つの観点から要因を整理することが有効です。

【1】身体的・健康的な要因

  • 性欲の減退(加齢、ホルモン低下、体調不良など)
  • 勃起不全、性交痛などの性機能障害
  • 出産後の身体の変化やホルモンバランスの乱れ
  • 薬剤(抗うつ薬、降圧剤など)による副作用

【2】心理的・感情的要因

  • パートナーへの不満や怒りの蓄積
  • 自己否定感、体型や加齢に対するコンプレックス
  • 性行為へのネガティブな体験やトラウマ

【3】環境的・社会的要因

  • 育児や介護による時間的・精神的余裕の欠如
  • 長時間労働や生活リズムのズレ
  • プライバシーの確保が難しい住環境

【4】関係性の変化

  • 愛情や信頼関係の希薄化
  • セックスに対する期待のズレ(回数・タイミング・スタイル)
  • 長年の慣れによるマンネリ化

原因は一つではなく、複数の要因が絡み合っているケースが多いのが実情です。

 

3. セックスレスを解消する実践的アプローチ

ここからは、実際に取り組めるアプローチを具体的に紹介していきます。

【1】会話のきっかけを作る

セックスレスの改善において、最も重要なのはオープンなコミュニケーションです。しかし、セックスの話は恥ずかしさや不安を伴うため、避けがちになります。

【実践ポイント】

  • 責めずに「自分の気持ち」を主語にして話す(例:「最近、あなたともっと触れ合いたいと感じてる」)
  • タイミングは落ち着いた日常の中で、リラックスできる空間で
  • まずは「スキンシップが減って寂しい」など、ソフトな表現から入る

【2】スキンシップを日常化する

セックスに直結しなくても、日常的な身体的接触が心の距離を縮めるきっかけになります。

【推奨される行動例】

  • 寝る前のハグや手をつなぐ習慣
  • 一緒にお風呂に入る
  • 肩や腰を軽くマッサージしてあげる

こうした行動は、オキシトシンという「愛情ホルモン」の分泌を促し、自然と性欲や親密感を高める効果が期待されます。

【3】性生活の再構築を提案する

「前のように戻す」のではなく、「今の自分たちに合ったスタイルを作る」という視点が大切です。

【具体的な提案方法】

  • セックスの定義を再構築する(=挿入にこだわらず、触れ合いやキスも含める)
  • プレッシャーをかけず、リラックスを優先した雰囲気づくり
  • 性に関する情報を一緒に学び直す(書籍・カップル向け講座など)
 

4. 性機能や性欲の低下への医療的対応

もし性欲や性機能の低下がセックスレスの主要因であれば、医療機関での相談が有効です。

【男性の場合】

  • **勃起不全ED)**に対して、PDE5阻害薬(バイアグラ等)が選択される
  • **加齢性テストステロン低下症候群(LOH症候群)**の疑いがある場合、血液検査やホルモン補充療法が行われる

【女性の場合】

  • 閉経後の性交痛や性欲低下には、ホルモン補充療法や潤滑剤の使用が勧められる
  • 産後のホルモン変動に対するカウンセリングや婦人科的ケアも有効

性の悩みは「恥ずかしい」と感じがちですが、近年は性機能外来や女性外来、夫婦外来などの専門窓口が増えており、安心して相談できる環境が整っています。

5. 専門家の支援を受ける選択肢

改善のためには、医療的アプローチに加えて、心理・対人関係の専門家の支援が役立つ場合もあります。

【主な支援の選択肢】

  • 夫婦カウンセリング:セックスに限らず、信頼関係全般の再構築をサポート
  • 性機能セラピー:専門的な性教育と段階的アプローチを用いた支援
  • 臨床心理士・精神科医による支援:うつ病や不安障害が関係している場合の対応

自力での解決が難しいと感じたら、「誰かに頼ること」も立派な行動のひとつです。

 

6. 男女で異なる「性の悩み」とその向き合い方

セックスレスの背景には、男女で異なる悩みや心理的ブロックが存在します。パートナーの視点を理解することは、改善への大きな第一歩です。

【男性に多い悩みや背景】

  • 勃起不全や射精の不安
  • パフォーマンスに対するプレッシャー
  • 精神的疲労やストレスで性欲が湧かない
  • セックスを断られることで自尊心が傷つき、誘えなくなる

【女性に多い悩みや背景】

  • 性交痛(腟の乾燥、加齢やホルモン変化による)
  • 育児や仕事で「性的モード」に切り替えられない
  • 体型や加齢に対する自己イメージの悪化
  • 相手に対して「異性としての魅力を感じない」と感じることも

このような違いを「性差」ではなく、「役割や感性の違い」として認識することで、否定ではなく理解と共感をベースにした関係性が築かれやすくなります。

 

7. 子育て中のカップルに多いセックスレスの事情と対策

妊娠・出産・育児を経験したカップルの多くが、一時的または長期的なセックスレスに直面します。これは生理的・心理的に自然なことであり、罪悪感を持つ必要はありません。

【よくある要因】

  • 出産後のホルモンバランスの乱れ(特にエストロゲン・プロラクチンの変動)
  • 子ども中心の生活リズムにより、夫婦だけの時間が消失
  • 授乳や睡眠不足による慢性的な疲労
  • 女性側の身体的な変化(腟の痛み、体型の変化など)による性的な自己否定感
  • 「親になったことで、性欲を抱いてはいけない」と感じてしまう心理的葛藤

【対策としてできること】

  • 子どもが寝た後の短時間でも「二人きりの会話の時間」を確保する
  • セックスを再開する前に、まずは手をつなぐ・ハグをするといったスキンシップを回復する
  • 女性側が抱える不安や恐怖をパートナーが否定せず、丁寧に受け止めることが鍵
  • 子どもを預けて「デート」をするなど、恋人としての距離感を意識的に再設定する
ハートベッド

8. 中高年・更年期世代の性:再構築のために必要な視点

40代〜60代以降になると、加齢による身体的変化や更年期症状がセックスレスの一因になることがあります。特に以下のような変化が問題を複雑化させます。

【男性】

  • 勃起力の低下、射精量・感覚の変化
  • テストステロンの減少による性欲低下
  • 長年の「誘って断られた」経験による萎縮や無力感

【女性】

  • 腟の乾燥・萎縮による性交痛(萎縮性膣炎など)
  • 更年期障害に伴う情緒不安定や倦怠感
  • 加齢による性的魅力の喪失感や羞恥心

この世代においては、「若い頃の性生活に戻す」ことを目標にするのではなく、加齢を受け入れたうえで“今の自分たちに合った親密さ”を再定義することが重要です。

【再構築のヒント】

  • 性交にこだわらず「愛撫やマッサージ、キス」などを通じて親密感を育む
  • 医療機関での性機能相談やホルモン療法の検討
  • 体への優しさを重視した潤滑剤や専用のジェルの活用
  • 性に対する期待値を再調整し、「無理にしない、でも距離は近づける」バランスを大切にする
 

9. セックスレスに取り組む際の“心構え”とマインドセット

セックスレスの解消には、「行為そのものを再開する」だけではなく、自分自身の心との向き合い方がとても大切です。

【意識しておきたいポイント】

  • 「愛がないわけじゃない」と認める
    → 性行為がない=愛情がないというわけではありません。形は変わっても関係が続いていることがすでに「愛」の証です。
  • 「誘えない」「断られたくない」の思い込みを和らげる
    → 過去の経験が行動を抑制している場合、言葉を変える・タイミングを見直すだけでも印象は変わります。
  • 小さな成功体験を積む
    → たとえば、手をつないで外出できた、目を見て笑い合えた、夜寝る前に一言「おやすみ」と言えたなど、小さなステップを積み重ねることが関係性の再生につながります。
  • 「正解はひとつではない」と受け入れる
    → 性に対する考え方は十人十色。性の頻度、スタイル、意味づけはカップルによって違って当然です。
 

10. カップルで実践できる“性のリハビリステップ”

いきなり性生活を再開しようとしても、互いに緊張してしまったり、違和感を抱くことはよくあります。そこで、セックスレス解消に向けて段階的に親密さを育てる「性のリハビリ」のステップをご紹介します。

【ステップ1】非性的なスキンシップの再開

  • ハグ、手をつなぐ、腕を組むなど「性的でない身体的接触」を増やす

【ステップ2】言葉による愛情表現

  • 「ありがとう」「お疲れ様」「うれしい」などのポジティブな言葉を意識的に伝える
  • 相手の外見や仕草を褒めることも効果的

【ステップ3】一緒に“気持ちよさ”を感じる時間を持つ

  • 散歩や映画、音楽など、「気持ちがほぐれる時間」を共有することで、性的関係の土台となる親密感が育ちます

【ステップ4】お互いの希望や悩みを小出しに話す

  • 「前はこんなことが嬉しかった」「実は少し不安があって…」など、過去と現在の気持ちを織り交ぜながら対話する

【ステップ5】身体的な再接触にトライする

  • 無理のない範囲で愛撫やキスを再開し、リズムが合えば性交を含む行為も自然に戻ることがあります

このようなステップを時間をかけて進めることで、無理なくセックスレスからの脱却が可能になります。

 

11. 最後に:性とは「生き方の表現」である

性とは、単なる肉体的な行為ではなく、「自分をどう表現し、誰かとどうつながるか」という生き方そのものでもあります。

  • セックスを再開することだけが目的ではない
  • 本当に目指すべきは、「パートナーと安心できる関係を築くこと」
  • 性の形は年齢・環境・気持ちによって変わっていく
  • 自分の気持ちを否定せず、柔軟に相手とすり合わせていく姿勢が大切

セックスレスは「問題」ではなく、「ふたりが再び向き合うための入り口」と捉えてください。誰かにとっての“当たり前”を押しつけるのではなく、自分たちにとって自然で心地よい関係性を再構築していくことが、最も実践的で持続可能なアプローチなのです。

あなたの歩幅で、できることから一つずつ。解消の先にある、新たな親密さと安心のかたちを、ぜひ見つけてください。

記事の監修者