子どもが突然高熱を出すと、保護者の方はとても心配になりますよね。「ただの風邪かもしれないけれど、実はマイコプラズマ肺炎ではないか」と不安になる親御さんも少なくありません。マイコプラズマ感染症は、特に学童期のお子さんに多く見られる呼吸器感染症で、咳が長引いたり、高熱が続いたりするのが特徴です。本記事では、風邪やインフルエンザとの違いを踏まえながら、マイコプラズマの症状や見分け方、受診のタイミングについてやさしくご紹介します。
1. マイコプラズマとは？
マイコプラズマ肺炎の原因となる「マイコプラズマ・ニューモニエ」は、非常に特殊な細菌です。細菌とウイルスの中間のような存在と表現されることもあり、他の一般的な細菌とは大きく異なる特徴を持っています。
特徴
- 細胞壁がない
多くの細菌は細胞壁という“外側の鎧”を持っていますが、マイコプラズマにはそれがありません。そのため、ペニシリン系やセフェム系など「細胞壁を壊すタイプの抗生物質」が効かないのです。治療にマクロライド系（クラリスロマイシンなど）を使う理由はここにあります。 - 小さなサイズ
マイコプラズマは非常に小さいため、顕微鏡での確認や通常の細菌培養での検出が難しい病原体です。そのため、診断がやや複雑になり、症状や経過を総合的に判断する必要があります。
感染の広がり方
マイコプラズマは 咳やくしゃみのしぶき（飛沫） によって広がります。また、感染者が使った食器やタオルを介して 接触感染 することもあります。集団生活をする子ども同士では特に広がりやすく、学校や保育園での流行がしばしば報告されています。
かかりやすい年齢
- 乳幼児でもかかりますが、特に 5歳～15歳の学童期 に多く見られます。
- 思春期以降の大人も感染しますが、子どもほど重症化しにくい傾向があります。
- 逆に小さな赤ちゃんが感染した場合は、症状がはっきりしなかったり、重症化するケースもあるため注意が必要です。
季節性と流行
- マイコプラズマは 年間を通して発生 しますが、特に 夏から秋にかけて流行 することが多いとされています。
- 数年ごとに大きな流行を繰り返すのも特徴で、ニュースなどで「マイコプラズマ肺炎の流行」と取り上げられる年があります。
病気としての位置づけ
マイコプラズマは 「非定型肺炎」 と呼ばれる種類の肺炎の原因菌のひとつです。非定型肺炎とは、一般的な肺炎球菌などによる肺炎と比べて、症状やレントゲン所見がやや異なるタイプの肺炎を指します。特に「咳が長引く」「発熱が続くが、重症感は少ない」といった特徴があります。
2. 風邪・インフルエンザとマイコプラズマの違い
子どもの発熱と咳は、風邪やインフルエンザ、マイコプラズマなど多くの感染症で共通する症状です。そのため「ただの風邪だと思っていたら、実はマイコプラズマだった」というケースも少なくありません。ここでは、代表的な違いを整理します。
① 発症の仕方
- 風邪：だるさやのどの痛みから始まり、次第に鼻水・咳が出てきます。発熱は37～38℃程度で、1～3日で下がることが多いです。
- インフルエンザ：突然の高熱（38～40℃）が出て、頭痛・筋肉痛・全身の強い倦怠感を伴います。熱は3～5日程度続きます。
- マイコプラズマ：インフルエンザほど急激ではなく、比較的ゆるやかに発熱が始まります。38℃前後の熱が数日～1週間続くことがあり、徐々に咳が悪化していきます。
② 咳の特徴
- 風邪：軽い咳で、1週間程度で自然に軽快することが多いです。
- インフルエンザ：強い咳が出ることもありますが、全身症状が主で、咳だけが長引くことは少ないです。
- マイコプラズマ：最大の特徴は「頑固な乾いた咳」。夜間に咳き込んで眠れないほど続き、2～3週間も長引くケースがあります。
③ 全身症状の違い
- 風邪：全身のだるさは比較的軽度。食欲も数日で回復します。
- インフルエンザ：頭痛、筋肉痛、関節痛、強い倦怠感など全身症状が強い。
- マイコプラズマ：だるさや頭痛はあるものの、インフルエンザほど強くなく、学校に行けてしまう子もいます。ただし咳のために体力が消耗し、徐々に元気がなくなることが多いです。
④ 持続期間
- 風邪：3～7日で軽快。
- インフルエンザ：熱は5日前後で下がることが多い。
- マイコプラズマ：熱は4～7日、咳は数週間続くこともある。
| 特徴 | 風邪 | インフルエンザ | マイコプラズマ |
| 発症の仕方 | 徐々に | 急激（数時間で高熱） | 比較的ゆるやかに始まる |
| 発熱の程度 | 37～38℃程度 | 38～40℃の高熱 | 38℃前後、長引くことあり |
| 咳の特徴 | 軽度、1週間以内 | 強いこともあるが短期間 | 乾いた咳が長期間続く |
| 全身症状 | 軽いだるさ | 頭痛・筋肉痛・強い倦怠感 | 軽度の倦怠感、咳で体力消耗 |
| 持続期間 | 1週間前後 | 5日前後で軽快 | 熱は数日、咳は数週間続く |
| かかりやすい年齢 | 幅広い | 幼児～学童 | 特に学童期に多い |
保護者の方へのアドバイス
- 「発熱が4日以上続いている」
- 「咳が夜眠れないほど強い」
- 「鼻水よりも咳が主体」
このようなときは、風邪よりもマイコプラズマを疑い、小児科で相談するのが安心です。
3. マイコプラズマの代表的な症状
マイコプラズマにかかった子どもに多く見られる症状を整理します。
- 発熱（37.5～39℃程度、数日続くことも）
- 乾いた咳（ゴホゴホと空咳のような咳が夜間に強まる）
- 倦怠感や頭痛
- 胸の痛み（強い咳が続いたとき）
- 稀に発疹や下痢など全身症状
中でも 「しつこい咳」 が最大の特徴です。風邪なら1週間以内に軽快することが多いのに対し、マイコプラズマでは2～3週間も咳が続くことがあります。
4. 自宅での見分け方と注意点
もちろん確定診断は医師による検査が必要ですが、ご家庭でチェックできるサインもあります。
- 熱が4日以上下がらない
- 咳が夜眠れないほど続く
- 食欲が落ちている
- 呼吸が苦しそうに見える
これらが揃うときは、マイコプラズマを含む肺炎の可能性を考え、医療機関の受診をおすすめします。特に ゼーゼー呼吸や顔色不良 が見られる場合は早急に受診してください。
5. 診断と治療
病院では胸部レントゲンや血液検査、迅速診断キットを用いて判断します。ただしマイコプラズマは検査で確定しにくいことも多いため、症状や経過を重視して診断されることもあります。
治療の基本は抗菌薬の内服です。小児には マクロライド系（クラリスロマイシンなど） がよく使われます。ただし耐性菌の増加も報告されており、効果が乏しい場合は別の系統の薬を検討します。
また、咳や発熱によるつらさを和らげるために、解熱剤や鎮咳薬が処方されることもあります。自宅では十分な水分補給と安静が重要です。
6. 受診の目安とご家庭でできること
マイコプラズマかどうかに関わらず、以下のようなサインがあれば早めに小児科へ相談してください。
- 発熱が続いている（3～4日以上）
- 咳がひどくて眠れない
- 呼吸が早い・苦しそう
- 顔色が悪い、元気がない
- 食事や水分がとれない
自宅でできるケアとしては、
- 水分をこまめに与える
- 加湿して咳を和らげる
- 十分な休養をとる
といった基本的なサポートが大切です。
7. マイコプラズマにかからないための予防法
予防接種はありませんが、日常生活でできる工夫はあります。
- 手洗い・うがいを習慣化する
- マスク着用（特に流行期や咳のあるとき）
- 十分な睡眠・バランスの良い食事で免疫力を保つ
- 学校や園で流行しているときは、早めに受診を心がける
家族内での感染も多いため、兄弟姉妹で同時期に体調を崩したら、同じ病気を疑って受診するのが安心です。
まとめ
子どもの発熱は多くの病気で見られるため、「マイコプラズマかも？」とすぐに見分けるのは難しいものです。しかし、長引く発熱としつこい咳 がそろったときには注意が必要です。風邪やインフルエンザとの違いを理解し、受診の目安を知っておくことで、安心して対応できます。
マイコプラズマは適切な治療を受ければ回復する病気です。保護者の方は不安になりすぎず、子どもの様子をよく観察しながら、早めに小児科へ相談してみてください。
