マイコプラズマ流行期に気をつけたい習慣

2025.09.08

秋から冬にかけて、子どもの間で流行しやすい感染症のひとつが「マイコプラズマ肺炎」です。高熱や長引く咳を特徴とし、学校や園で集団感染を起こすことも少なくありません。特に流行期には、家庭での予防習慣や早めの対応が大切になります。この記事では、マイコプラズマ感染の特徴や予防のために心がけたい生活習慣、受診の目安についてわかりやすく解説します。

1. マイコプラズマ肺炎とは?その特徴を知ろう

マイコプラズマとはどんな病原体?

マイコプラズマ肺炎を引き起こす原因は、マイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae) という病原体です。通常の細菌と異なり「細胞壁」を持たないため、ペニシリンなど細胞壁に作用する一般的な抗菌薬は効きません。そのため診断や治療の選択に工夫が必要となります。また、ウイルスと違って自己複製できるため、細菌とウイルスの中間的な存在と表現されることもあります。

どんな人に多いの?

マイコプラズマ肺炎は全年齢で発症しますが、特に 5歳〜15歳の学童期の子どもに多く みられます。乳幼児では軽症で済むこともありますが、小学生以上では頑固な咳や高熱が出やすい傾向があります。また、大人でもかかることがあり、親子で感染するケースも少なくありません。

典型的な症状

  • 高熱:38〜39℃台の発熱が数日以上続くことが多い
  • :乾いた咳が強く、夜眠れないほど続く。発症から1〜2週間続くこともある
  • 全身症状:頭痛、倦怠感、筋肉痛などインフルエンザに似た症状が出ることもある
  • 喉の違和感:咽頭炎として始まり、のちに肺炎へ進行するケースもある

特に咳の長さが特徴的で、「2週間以上咳が止まらない」と受診して判明することがよくあります。

合併症に注意

大多数は適切な治療で回復しますが、ごく一部では重症化や合併症が見られることがあります。

  • 重症肺炎:肺の広い範囲に炎症が広がる
  • 喘息のような呼吸困難:小児では気道過敏性を引き起こすことがある
  • 皮膚症状:発疹や紅斑、多形紅斑(口や手足に発疹が出ることがある)
  • 神経症状:まれに脳炎や髄膜炎

こうした合併症は多くはありませんが、「ただの風邪」と放置せず、長引く症状があれば早めに小児科で相談することが大切です。

感染の広がり方

マイコプラズマは飛沫感染・接触感染の両方で広がります。咳やくしゃみによる飛沫だけでなく、手すりや机などに付着した病原体からも感染するため、学校や園で集団感染が起こりやすいのです。潜伏期間は 2〜3週間 と長いため、「誰からうつったか分かりにくい」という特徴もあります。

2. 流行期に気をつけたい生活習慣

マイコプラズマは完全に予防するのが難しい感染症ですが、日常生活の工夫で感染リスクを減らすことができます。特に以下の習慣を意識しましょう。

手洗いの徹底

外出から帰ったとき、食事の前後、トイレのあとには必ず石けんと流水で手を洗いましょう。アルコール消毒も有効ですが、マイコプラズマはアルコールにやや耐性があるため、石けんでの手洗いが基本です。

十分な睡眠と栄養

免疫力を高めるためには生活リズムが欠かせません。特に小学生以上は夜更かしが増えがちですが、睡眠不足は感染リスクを高めます。バランスの取れた食事と、体を休める習慣を心がけましょう。

マスクの活用

学校や園で咳が流行しているときは、マスクの着用が有効です。特に咳が出ているお子さんは、周囲にうつさないためにマスクを着けることが大切です。

換気を忘れない

寒い季節は窓を閉め切りがちですが、室内の空気がこもると感染リスクが高まります。1〜2時間ごとに5分程度でも換気する習慣をつけましょう。

3. 家庭でできる早期対応の工夫

マイコプラズマ肺炎は、初期の症状が一般的な風邪とよく似ているため、家庭での観察と早めの対応がとても重要です。子どもの体調の変化を細かく見極めることで、受診のタイミングを逃さずに済みます。ここでは、家庭でできる工夫を詳しく紹介します。

体調観察のポイント

  • 発熱の経過を確認する
    風邪の熱は1〜2日で下がることが多いのに対し、マイコプラズマ肺炎では3日以上高熱が続くケースが多くあります。解熱剤で一時的に下がってもすぐに再び発熱する場合は注意が必要です。
  • 咳の特徴を観察する
    乾いた咳が長引くのが特徴です。夜眠れないほどの咳や、会話が途切れるほど強い咳が続くときは受診を検討してください。
  • 呼吸の様子を見る
    呼吸が早い、ゼーゼー音がする、胸が大きくへこむ(陥没呼吸)がある場合は、肺炎の可能性が高まります。
  • 全身の状態を確認する
    食欲の低下、水分が取れない、ぐったりして元気がない、顔色が悪いなどの症状は重症化のサインになり得ます。

家庭でできるサポート

  • 十分な水分補給
    発熱や咳で体力を消耗しやすいため、脱水予防が大切です。経口補水液やスポーツドリンク、温かいスープなど、飲みやすい形でこまめに与えましょう。
  • 安静を保つ
    学校や習い事に無理に行かせず、体を休めることを優先してください。特に流行期は周囲への感染拡大防止にもつながります。
  • 室内環境を整える
    室温は20〜24℃、湿度は50〜60%を目安に調整しましょう。乾燥すると咳が悪化しやすいため、加湿器や濡れタオルを使って湿度を保つとよいでしょう。
  • 食事の工夫
    高熱時や食欲不振のときは無理に食べさせる必要はありません。消化の良いおかゆやうどん、ビタミン豊富な果物などを少量でも摂取できるよう工夫してください。
子ども 睡眠

受診を判断する目安

次のような状態が見られた場合は、早めの小児科受診が推奨されます。

  • 高熱が3日以上続く
  • 強い咳で夜眠れない、呼吸が苦しそう
  • 水分がとれず、尿の回数が減っている
  • 顔色が悪くぐったりしている
  • 発疹や耳の痛みなど、他の症状が併発している

受診までにできる準備

診察をスムーズに進めるために、次の情報をメモして持参するとよいでしょう。

  • 発熱の開始日と最高体温
  • 咳や鼻水などの症状が出始めた時期
  • 解熱剤や市販薬の使用状況
  • 家族や学校での流行状況

これらの情報は医師が診断を行う上で重要な手がかりになります。

4. 診断と治療について知っておこう

マイコプラズマ肺炎は、症状が一般的な風邪やインフルエンザと似ているため、家庭で見極めることは難しい感染症です。小児科では、いくつかの検査や診察の方法を組み合わせて総合的に判断します。また、治療では薬の選び方や家庭でのサポートが重要になります。ここでは診断と治療の流れを詳しく解説します。

医師による診察の流れ

まずは医師が症状の経過を丁寧に聞き取ります。発熱が何日続いているか、咳の強さや持続時間、食欲や睡眠の状態などが重要な情報です。そのうえで以下のような診察が行われます。

  • 聴診:胸の音を聴くことで、気道や肺に炎症があるかを確認します。マイコプラズマ肺炎では「ゴロゴロ」「ゼーゼー」といった典型的な音が出にくいことも多く、逆に診断を難しくしている特徴があります。
  • 喉や鼻の診察:咽頭炎や鼻炎を合併していないか確認します。

補助検査

症状や診察だけでは確定できない場合、次のような検査が行われることがあります。

  • 胸部レントゲン
    肺に白い影(浸潤影)があるかどうかを確認します。マイコプラズマ肺炎では比較的片側の肺に淡い影が見られることが多いのですが、症状の強さに比べて影が軽度という特徴もあります。
  • 血液検査
    炎症の程度を示すCRPや白血球数を調べます。マイコプラズマ肺炎では、通常の細菌性肺炎ほど白血球が増えないことが多いのが特徴です。
  • 迅速検査(抗原検査・PCR検査)
    近年ではマイコプラズマの抗原や遺伝子を調べる検査キットが利用されるようになりました。特にPCR検査は精度が高いですが、すべての医療機関で行えるわけではありません。

これらの情報を総合して診断が下されます。

治療の基本:抗菌薬

マイコプラズマ肺炎はウイルス性の風邪とは違い、抗菌薬による治療が必要です。ただし、ペニシリン系やセフェム系は効かないため、以下の薬が選ばれます。

  • マクロライド系(クラリスロマイシン、アジスロマイシンなど)
    小児に最もよく使われる第一選択薬です。比較的安全性が高く、飲みやすいシロップもあります。
  • テトラサイクリン系(ミノサイクリンなど)
    マクロライド耐性菌の場合に用いられることがあります。ただし歯の着色や骨の影響が懸念されるため、8歳未満の子どもには原則使用しません。
  • ニューキノロン系(レボフロキサシンなど)
    中高生や大人に対して、マクロライドが効かない場合に使用されることがあります。小児では慎重に使われます。

マクロライド耐性菌への対応

近年、マイコプラズマ肺炎の患者さんの中で「マクロライド耐性菌」が増加しています。これは、クラリスロマイシンやアジスロマイシンが効きにくいタイプの菌です。耐性菌では発熱や咳が長引きやすく、医師が薬を変更して対応します。保護者としては「薬を飲んでいるのに熱が下がらない」と不安になることがありますが、必ず医師に経過を伝えて相談してください。

対症療法と家庭でのサポート

薬物療法に加えて、家庭でのケアも大切です。

  • 解熱剤:発熱によるつらさを和らげ、食欲や睡眠を助けるために処方されることがあります。
  • 咳止め:強い咳で眠れない場合に使用することもありますが、基本的には咳は痰を出す自然な反応なので、必要に応じて医師が判断します。
  • 水分補給:脱水を防ぐために経口補水液などをこまめに摂らせましょう。
  • 安静と休養:学校や園は症状が改善するまで休ませ、体力回復を優先することが大切です。

入院が必要になるケース

ほとんどは外来治療で回復しますが、以下の場合には入院が検討されます。

  • 呼吸困難が強い
  • 水分が全くとれず、点滴が必要
  • 高熱が続き体力消耗が著しい
  • 合併症が疑われる

5. 子どもを守るために家庭でできること

最後に、家庭で意識したい習慣をまとめます。

  • 規則正しい生活で免疫力を高める
  • 手洗い・うがいを徹底する
  • 流行期は人混みを避ける
  • 咳や熱があるときは無理をせず休む

保護者が「ただの風邪」と軽く考えず、咳や発熱の様子を丁寧に観察することが、重症化を防ぐ大切なポイントです。

まとめ

マイコプラズマ肺炎は、流行期になると学校や園で広がりやすい感染症です。完全に防ぐことは難しいものの、家庭での生活習慣や早めの受診で重症化を防ぐことができます。特に「長引く咳」と「高熱」が続く場合は注意し、迷ったら早めに小児科を受診しましょう。

子どもたちが元気に過ごせるように、日々の習慣を見直して流行期を乗り切りましょう。