乳児期は免疫機能がまだ十分に発達しておらず、さまざまな感染症にかかりやすい時期です。その中でも百日咳は「百日も続く咳」と呼ばれるほど長引き、乳児にとっては呼吸困難や無呼吸発作など命に関わる合併症を引き起こす可能性のある危険な感染症です。近年ではワクチンによる予防が進んでいますが、家庭や地域での感染防止対策も欠かせません。本記事では、乳児が注意すべき百日咳の特徴、感染経路、家庭での予防法、そして保護者ができるサポートについて詳しく解説します。
1. 百日咳とは?乳児におけるリスク
百日咳(Pertussis)は、ボルデテラ・パータシス菌による急性呼吸器感染症です。特徴的なのは発作性の咳で、特に乳児においては重症化しやすい点が問題です。
- 咳が止まらず無呼吸発作を起こすことがある
- 酸素不足によるチアノーゼ(顔色が紫色になる)を伴う場合がある
- 肺炎やけいれん、脳症といった合併症のリスク
乳児は咳の勢いで呼吸が止まってしまうことがあり、大人や年長児と比べて症状が急速に悪化するのが特徴です。
2. 乳児に見られる百日咳の症状と特徴
乳児の百日咳は典型的な「ヒューッ」という笛のような吸気音が出ないこともあり、診断が難しい場合があります。
- 初期(カタル期):鼻水や軽い咳が続き、風邪と区別しにくい
- 痙咳期:連続的な咳発作、咳後の嘔吐、無呼吸
- 回復期:徐々に改善するが、咳は数週間から数か月残ることがある
咳の長さや強さは年齢によって異なり、特に乳児では症状が重く現れる点に注意が必要です。
3. 百日咳の感染経路と家庭での広がり方
百日咳は、非常に感染力が強い呼吸器感染症であり、家庭内での二次感染率は 70〜80%以上 に達すると言われています。特に乳児にとっては重症化しやすいため、感染経路の理解が不可欠です。
主な感染経路
- 飛沫感染
- 咳やくしゃみで飛び散った飛沫を周囲の人が吸い込むことで感染。
- 1〜2メートル以内の距離で感染しやすい。
- 咳やくしゃみで飛び散った飛沫を周囲の人が吸い込むことで感染。
- 接触感染
- 感染者の手に付着した菌が、ドアノブ・食器・タオルなどを介して他者へ伝播。
- 乳児が口に手を入れる行動が多いため、家庭内での接触感染が起こりやすい。
- 感染者の手に付着した菌が、ドアノブ・食器・タオルなどを介して他者へ伝播。
家庭で広がりやすい理由
- 大人の症状が軽い:大人は風邪程度の軽い咳で済むことが多く、感染に気付かないまま乳児にうつしてしまう。
- 濃厚接触:授乳・抱っこ・寝かしつけなど、乳児と家族が密接に関わるため、感染リスクが高い。
- 兄弟姉妹からの感染:保育園や学校で感染した年長児が、免疫の弱い乳児に持ち込むケースも多い。
4. 百日咳の診断方法と小児科受診の流れ
百日咳の診断には以下の検査が用いられます。
- PCR検査:遺伝子を検出する方法で感度が高い
- 抗原検査:迅速診断が可能だが感度は低い
- 血清抗体検査:感染の有無を確認できるが急性期には不向き
小児科受診時には「咳の期間」「発作の有無」「嘔吐や無呼吸の有無」「家族内での流行状況」を医師に正確に伝えることが重要です。

5. 治療と家庭での看護ポイント
医療機関での治療
- 抗菌薬投与:マクロライド系抗菌薬(アジスロマイシン、クラリスロマイシンなど)が第一選択。菌の排出を抑えることで周囲への感染を防ぐ。
- 乳児や重症例:呼吸状態が不安定な場合は入院し、酸素投与や点滴治療が行われる。
家庭での看護の実際
- 呼吸を楽にする工夫
- 咳き込み時には体を起こしてあげると呼吸がしやすい。
- 睡眠中は枕を少し高めにして気道を確保。
- 咳き込み時には体を起こしてあげると呼吸がしやすい。
- 室内環境の調整
- 加湿器などを用いて湿度40〜60%を保ち、咳を和らげる。
- 換気を行い、空気を清浄に保つ。
- 加湿器などを用いて湿度40〜60%を保ち、咳を和らげる。
- 水分補給
- 咳で嘔吐しやすいため、少量をこまめに与える。
- 経口補水液などを活用し、脱水を予防。
- 咳で嘔吐しやすいため、少量をこまめに与える。
- 観察のポイント
- 顔色(チアノーゼの有無)、呼吸のリズム、咳後の無呼吸発作がないかをチェック。
- 異常があればすぐに医療機関へ連絡。
- 顔色(チアノーゼの有無)、呼吸のリズム、咳後の無呼吸発作がないかをチェック。
- 薬の管理
- 抗菌薬は自己判断で中断せず、処方通りに最後まで服用。
- 解熱剤や鎮咳薬は必ず医師の指示に従う。
- 抗菌薬は自己判断で中断せず、処方通りに最後まで服用。
6. 家庭でできる百日咳の予防法
家庭内感染を防ぐための基本対策
- マスクの徹底
- 感染者と接する家族は必ずマスクを着用。
- 乳児には基本的にマスクは使用できないため、周囲が徹底することが重要。
- 感染者と接する家族は必ずマスクを着用。
- 手洗い・手指衛生
- 食事や授乳の前、トイレ後、咳や鼻をかんだ後は必ず石けんで20秒以上洗う。
- アルコール消毒も有効。
- 食事や授乳の前、トイレ後、咳や鼻をかんだ後は必ず石けんで20秒以上洗う。
- 咳エチケット
- 咳やくしゃみの際はティッシュや肘で口を覆う。
- 使用済みティッシュはすぐに処分。
- 咳やくしゃみの際はティッシュや肘で口を覆う。
- 物品の共有を避ける
- 食器、コップ、タオル、寝具を共有しない。
- 哺乳瓶は毎回洗浄・消毒を徹底。
- 食器、コップ、タオル、寝具を共有しない。
ワクチンで守る
- 日本では四種混合ワクチンに百日咳成分が含まれており、生後3か月から接種が始まる。
- 乳児を守るために、両親や祖父母など周囲の大人が追加接種(Tdapワクチン)を受けることも有効。
家庭環境の整備
- 部屋の湿度を適切に保つことで咳を和らげる。
- 定期的に換気を行い、空気中の菌を減らす。
- 感染が疑われる家族は乳児との濃厚接触を避ける。
7. ワクチン接種の重要性とスケジュール
なぜワクチンが重要なのか
百日咳は抗菌薬治療で菌の排出を抑えることはできますが、咳そのものをすぐに止めることはできません。また、乳児は重症化リスクが高く、合併症や死亡例も報告されています。したがって、最も効果的な対策は「かからないようにする=予防接種」です。
- 免疫の未熟な乳児を守る唯一の方法:母体からの移行抗体は不十分で、生後数か月の乳児は感染に非常に弱い状態。
- 集団感染防止:接種率が下がるとすぐに流行が起こるため、社会全体での接種が重要。
日本での接種スケジュール
日本では百日咳は 四種混合ワクチン(ジフテリア・百日咳・破傷風・ポリオ) に含まれています。
- 初回接種:生後 3か月〜12か月未満 の間に3回(20〜56日間隔)
- 追加接種:初回終了から概ね1年後(通常は1歳半頃)に1回
- 就学前(5〜6歳頃)に二種混合ワクチン(DT)で追加免疫
- 思春期や成人では免疫が弱まるため、ブースター接種(Tdap)が推奨される国もある
保護者・周囲の大人の追加接種
乳児はワクチン未接種または接種回数が不十分なため、周囲の大人が感染源になるケースが多いです。
- 両親・祖父母・兄姉が追加接種を受けることで、乳児を守る「コクーン戦略」が有効です。
8. 乳児を守るための生活習慣と環境整備
ワクチンに加え、日常生活での工夫が感染防止につながります。
生活習慣の工夫
- 十分な睡眠:免疫機能を保つために乳児の睡眠リズムを整える。
- 栄養管理:母乳やミルク、離乳食をバランスよく与えることで抵抗力を高める。
- 人混みを避ける:流行期(冬〜春)や感染症が流行している地域では、人の多い場所への外出を控える。
家庭内環境の整備
- 適切な湿度(40〜60%):咳を和らげ、気道粘膜を保護する。
- 十分な換気:窓を開ける、換気扇を回すなどで菌の滞留を防ぐ。
- 清潔な生活空間:ドアノブ・テーブル・おもちゃなど、乳児が触れるものを定期的に清拭。
家族の行動で守る
- 咳や風邪症状がある家族はマスクを着用し、乳児との接触を最小限にする。
- 来客にも「手洗い・マスク」をお願いし、感染を家庭に持ち込まない工夫をする。
9. よくあるQ&A
Q1. 乳児が咳をしているとき、必ず百日咳を疑うべきですか?
A. いいえ。乳児の咳の原因には風邪やRSウイルス、アレルギーなどさまざまな要因があります。ただし「咳が2週間以上続く」「咳発作後に嘔吐する」「呼吸が止まるように見える」といった特徴があれば、早めに小児科を受診してください。
Q2. 兄姉が百日咳と診断された場合、乳児はどうすべきですか?
A. 同居している乳児は高リスク群です。症状がなくても医師に相談し、予防的に抗菌薬投与が検討される場合もあります。
Q3. ワクチンを打っても百日咳にかかることはありますか?
A. あります。ただし、ワクチンを接種している場合は症状が軽く済み、重症化を防ぐ効果が期待できます。
Q4. 大人がかかるとどんな症状ですか?
A. 大人では「風邪のような咳が長引く程度」で済むことが多く、本人も気づかないまま乳児に感染させることが多いです。そのため、咳が長く続く大人は早めの受診が望まれます。
Q5. 家庭で使える市販薬で予防や治療はできますか?
A. 百日咳は市販薬で治療することはできません。抗菌薬が必要となるため、必ず医師の診断を受けてください。
10. まとめ
百日咳は「百日も続く咳」と言われるほどしつこい感染症であり、特に乳児にとっては命に関わる危険性があります。
- 百日咳の特徴:発作性の咳、咳後の嘔吐、無呼吸発作、チアノーゼ
- 検査と診断:PCR検査が最も確実で、早期に受診することが大切
- 治療:抗菌薬で感染拡大を防止し、家庭では湿度管理・水分補給・体位の工夫でサポート
- 予防:ワクチン接種を計画通りに進め、家庭全体で感染対策を徹底
- 保護者へのメッセージ:長引く咳を「ただの風邪」と軽視せず、早めに小児科へ相談することが子どもの命を守る第一歩
乳児を百日咳から守るには、家庭での予防+医療機関での適切な対応+社会全体でのワクチン接種率の維持が欠かせません。
