百日咳ワクチン、接種時期と効果を解説

2025.10.03

百日咳は、乳児にとって命に関わる危険な感染症です。特に生後数か月の赤ちゃんは重症化しやすく、入院や集中治療が必要になることもあります。これを防ぐ最も有効な手段が「ワクチン接種」です。日本では四種混合ワクチンに含まれており、生後2か月からの接種が推奨されています。本記事では、百日咳ワクチンの仕組み、接種スケジュール、効果、副反応、さらに親が知りたい20以上の疑問をQ&A形式で詳しく解説します。

1. 百日咳とはどのような病気か

百日咳は ボルデテラ・パータシス(Bordetella pertussis) という細菌によって引き起こされます。強い咳発作が数週間から数か月にわたり続き、特に乳児では呼吸困難や無呼吸発作を伴い、入院や集中治療が必要になるケースも少なくありません。

主な症状

  • 持続的な発作性の咳
  • 吸気時に「ヒュー」という笛様音(whoop音)
  • 咳き込み後の嘔吐
  • 乳児ではチアノーゼや無呼吸

特に生後数か月の乳児は免疫が不十分であり、重症化・合併症(肺炎、脳症、けいれん)を起こすリスクが高くなります。そのため、早期に予防接種を行うことが非常に重要です。

2. 百日咳ワクチンの仕組みと種類

百日咳ワクチンには大きく分けて 全細胞ワクチン(wP)無細胞ワクチン(aP) の2種類があります。

  • 全細胞ワクチン(wP):不活化した百日咳菌全体を含む。免疫効果は高いが副反応が強い。
  • 無細胞ワクチン(aP):菌の一部成分(トキソイドや表面抗原)を精製して含む。副反応は軽いが、免疫の持続期間は短め。

日本では安全性を考慮して 無細胞ワクチン(aP) が導入され、四種混合ワクチンの一部として使用されています。

3. 接種スケジュールと対象年齢

日本の定期接種スケジュールでは、百日咳ワクチンは 四種混合ワクチン(DPT-IPV) に含まれ、以下のように接種が推奨されています。

  • 初回接種:生後2か月、3か月、4か月に3回
  • 追加接種:生後12〜18か月に1回
  • 就学前(5〜6歳頃)に追加接種(任意または地域によって実施)
  • 思春期・妊婦への追加接種:免疫減弱を補い、新生児への感染を防ぐ目的で推奨されている国もある

特に重要なのは 生後早期からの接種開始 です。乳児期に百日咳にかかると重症化のリスクが高いため、2か月時点での接種を遅らせないことが大切です。

4. 百日咳ワクチンの効果と免疫の持続性

百日咳ワクチンを接種すると、体内で抗体が産生され、百日咳菌に感染しても症状が軽減されます。

  • 初回3回接種+追加1回 で、おおよそ 90%前後の有効性
  • 感染を完全に防ぐわけではないが、重症化や死亡リスクを大幅に下げる
  • ただし免疫は5〜10年で低下するため、思春期や成人で再感染する例もある

このため、海外では ブースター接種 が推奨されており、特に妊婦への接種は生まれたばかりの新生児を守る有効な手段として注目されています。

5. 副反応と安全性

百日咳ワクチンは安全性の高いワクチンですが、まれに副反応が見られることがあります。

主な副反応

  • 注射部位の発赤、腫れ、硬結
  • 発熱(38℃前後)
  • 不機嫌、眠気

ごくまれに強いアレルギー反応(アナフィラキシー)が起こる可能性がありますが、発生頻度は極めて低く、医療機関での適切な対応が可能です。ワクチンの利益と比較すると、副反応のリスクは非常に小さいとされています。

6. 家族や妊婦への追加接種の重要性

乳児を守るためには、赤ちゃんの周囲の大人が感染源にならないことも重要です。

  • カコーニング戦略(cocooning):両親や兄弟姉妹、祖父母などが追加接種を受けることで、乳児への感染リスクを減らす
  • 妊婦への接種:妊娠27〜36週にTdapワクチンを接種することで、母体から胎児に抗体が移行し、生後すぐから乳児を守ることができる(海外で推奨、日本でも検討中)

7. 今後の課題と新しい動向

現在の百日咳ワクチンは安全性が高い一方で、免疫の持続が短いという課題があります。そのため、研究者たちは以下のような改良に取り組んでいます。

  • より長期間免疫が持続する新型ワクチンの開発
  • 鼻粘膜を介したワクチン(経鼻ワクチン)による感染予防
  • 組換えワクチンや新しい抗原の導入

これらの進歩により、将来的にはさらに効果的で安全な予防が可能になると期待されています。

医者

8. Q&A:百日咳ワクチンに関するよくある質問と回答

Q1. 百日咳ワクチンは何歳から接種できますか?

→ 生後2か月から可能です。初回は2・3・4か月の3回、その後12〜18か月で追加接種を行います。

Q2. 接種を遅らせるとどうなりますか?

→ 感染リスクが高まります。特に乳児は早期に免疫を獲得することが重要です。

Q3. ワクチンを打っても百日咳にかかりますか?

→ 完全には防げませんが、発症しても軽症化し、重症化を防ぐ効果が期待できます。

Q4. 兄弟が百日咳にかかっているときに接種してもいい?

→ 医師に相談が必要ですが、原則として体調が良ければ接種可能です。

Q5. ワクチンの副反応はどのくらい出ますか?

→ 発赤や腫れ、発熱などが一時的に出ることがありますが、多くは軽度です。

Q6. 強い副反応(アナフィラキシー)が出る確率は?

→ 極めてまれで、数十万回に1回程度とされています。

Q7. 妊婦が百日咳ワクチンを打つのは安全ですか?

→ 海外では妊娠後期(27〜36週)に推奨されており、母体と胎児の両方にメリットがあります。

Q8. 日本でも妊婦への百日咳ワクチン接種はできますか?

→ 日本では現時点で定期接種対象外ですが、必要に応じて任意接種を行う医療機関もあります。

Q9. 追加接種は本当に必要ですか?

→ はい。免疫は数年で弱まるため、就学前や思春期のブースター接種が推奨されます。

Q10. 百日咳は大人もかかりますか?

→ かかります。大人では軽症の咳で済むことが多いですが、乳児への感染源になります。

Q11. 百日咳ワクチンを接種済みでも咳が続いたら?

→ 百日咳や他の呼吸器感染症の可能性があるため、受診が必要です。

Q12. 他のワクチンと同時接種できますか?

→ 可能です。四種混合ワクチンはヒブ、小児用肺炎球菌ワクチンなどと同時に接種されることが多いです。

Q13. ワクチンを打たないとどうなりますか?

→ 百日咳に感染するリスクが高まり、乳児では重症化し命に関わる危険があります。

Q14. 百日咳にかかったことがある人も接種は必要?

→ 自然感染の免疫も数年で弱まるため、ワクチン接種が推奨されます。

Q15. 咳止めで百日咳は治りますか?

→ いいえ。百日咳は抗菌薬治療が必要で、ワクチンが最も有効な予防策です。

Q16. ワクチン接種後に発熱したらどうすれば?

→ 多くは一時的な反応です。解熱剤で対応可能ですが、39℃以上が続く場合は受診してください。

Q17. 持病がある子でも接種できますか?

→ ほとんどの場合可能ですが、てんかんや免疫不全などがある場合は医師と相談が必要です。

Q18. 百日咳ワクチンは何回接種する必要がありますか?

→ 日本では4回(初回3回+追加1回)が標準で、その後ブースターを追加する場合があります。

Q19. 海外渡航時に追加接種は必要ですか?

→ 渡航先で流行がある場合や長期滞在する場合は、追加接種を検討します。

Q20. 大人が百日咳ワクチンを受けるメリットは?

→ 乳児への感染を防ぐ「カコーニング効果」があり、家庭内での感染拡大を抑えられます。

Q21. 百日咳ワクチンとNIPT(出生前診断)に関係はありますか?

→ 直接の関連はありませんが、妊婦が百日咳ワクチンを接種することで、生まれる赤ちゃんを守るという点で、同じく「安心して出産を迎える準備の一環」といえます。

Q22. 乳児期に百日咳にかかると後遺症はありますか?

→ 重症例では脳症やけいれんによる神経後遺症が残ることがあります。ワクチンによる予防が重要です。

まとめ:百日咳ワクチンの重要性と今後の展望

百日咳は、単なる咳の病気ではなく、特に乳児にとっては命に関わる深刻な感染症です。発作的に続く咳は呼吸困難やチアノーゼ、時には無呼吸発作を引き起こし、重症例では肺炎や脳症を合併することもあります。そのため、日本を含む多くの国で百日咳ワクチンは定期接種の柱として位置づけられています。

百日咳ワクチンの接種によって感染を完全に防ぐことはできませんが、最も重要な効果は 「重症化を防ぎ、死亡リスクを大幅に減らすこと」 にあります。特に生後2か月からの早期接種は、免疫のない赤ちゃんを守るための最初の防波堤です。初回の3回接種と追加の1回を確実に行うことで、乳児期に強固な免疫を作り上げることができます。

しかし、無細胞ワクチンの宿命として、免疫の持続性は長くありません。思春期や成人になると再び免疫が低下し、軽症の百日咳を発症して乳児へ感染を広げる「隠れた感染源」となるリスクがあります。このため、海外では思春期や妊婦への追加接種が標準化されつつあり、日本においても今後さらなる導入が期待されています。特に妊婦への接種は、母体から胎児へ抗体を移行させ、生後すぐの赤ちゃんを守る「パッシブイミュニティ(受動免疫)」を与える有効な手段として世界的に注目されています。

副反応については、一時的な発熱や接種部位の腫れといった軽度な反応が多く、重篤な副作用は極めてまれです。医学的なリスクと比較しても、ワクチンのメリットは圧倒的に大きいといえます。ワクチンを受けない選択によって乳児が百日咳に感染し、重症化するリスクの方がはるかに高いのです。

さらに、百日咳ワクチンは「家族全体で取り組む予防策」であることも忘れてはいけません。両親や兄弟姉妹、祖父母が追加接種を行うことで、乳児を守る「カコーニング戦略」が実現します。感染症予防は個人だけでなく、家庭や地域全体の協力によって大きな効果を発揮します。

今後は、免疫の持続期間を延ばす新しいワクチンの開発や、経鼻型ワクチンなど新しい投与法が研究されており、より効果的で持続的な予防が可能になると期待されています。

総じて、百日咳ワクチンは単なる予防手段ではなく、「赤ちゃんの命を守るための最も確実な保険」 です。親として、そして社会全体として、スケジュール通りの接種を徹底し、必要に応じて追加接種を行うことが、未来の子どもたちを守る大切な一歩となります。