百日咳(ひゃくにちぜき)は、咳が長引く感染症として知られています。ワクチンの普及により一時は減少しましたが、ここ数年、子どもから大人まで幅広い年齢層で再び流行が見られるようになりました。「最近は感染者数が落ち着いたのでは?」と感じる方も多いかもしれませんが、実際のデータや流行状況を見ると注意が必要です。本記事では、百日咳の最新感染動向、検査を受けるべきタイミング、そして早期発見の重要性について詳しく解説します。
1. 百日咳とは?原因菌と感染の仕組み
百日咳は**ボルデテラ・パータシス(Bordetella pertussis)**という細菌によって起こる呼吸器感染症です。
強い咳が長期間続くのが特徴で、特に乳幼児に感染すると重症化するリスクがあります。
感染経路
主な感染経路は飛沫感染で、咳やくしゃみなどによって細菌が空気中に飛び散り、それを吸い込むことで感染します。
潜伏期間は7〜10日程度ですが、この期間中も他人に感染させる可能性があり、早期発見が重要です。
2. 現在の感染者数の傾向:流行は落ち着いたのか?
厚生労働省の感染症発生動向調査によると、百日咳は周期的に流行を繰り返す感染症です。
ワクチンの効果により一時的に患者数が減少しても、免疫の低下やウイルス変異によって数年ごとに増加傾向を示します。
最近のデータ(2024〜2025年)
- 2024年の後半には一時的な流行が確認され、特に中高生や成人層での感染報告が増加しました。
- 2025年現在はやや落ち着いているものの、局地的な流行が続いています。
- ワクチン未接種の乳幼児や免疫が薄れた大人が家庭内感染の媒介となるケースも報告されています。
つまり、「感染者数が減ったから安心」というわけではなく、地域ごとの発生状況を注視することが大切です。
3. 百日咳の症状:普通の咳との違い
百日咳の初期症状は風邪に似ており、見分けがつきにくいのが特徴です。
しかし、咳の特徴や経過の長さで違いが明確になります。
主な症状の段階
- カタル期(1〜2週間):鼻水、軽い咳、微熱など風邪のような症状。
- 痙咳期(2〜6週間):連続した激しい咳発作(スタッカート様咳)。咳の後に「ヒュー」と音を伴う吸気。
- 回復期(2〜3週間):咳が徐々に軽くなるが、体力の低下や二次感染に注意。
特に乳児では咳発作によって無呼吸発作やチアノーゼを起こすことがあり、緊急対応が必要です。
4. 検査を受けるべきタイミングとは?
百日咳は早期診断・早期治療が鍵です。
次のような場合は、できるだけ早く小児科や内科を受診しましょう。
検査を受ける目安
- 咳が2週間以上続いている
- 咳発作が強く、夜間に眠れない
- 咳の後に嘔吐や息苦しさを感じる
- 家族や周囲に百日咳と診断された人がいる
- 乳幼児や妊婦が家庭内にいる場合
主な検査方法
- PCR検査:鼻や喉のぬぐい液から菌の遺伝子を検出。最も確実。
- 抗体検査:感染後の抗体上昇を確認。感染の証明に有用。
- 培養検査:培地で菌を増やす方法。精度は高いが時間がかかる。
特にPCR検査は発症初期に有効であり、早めの受診が診断精度を高めます。
5. 治療法と早期対応の重要性
百日咳は細菌感染であるため、抗菌薬治療が基本です。
発症初期(カタル期)に治療を開始すれば、症状の軽減や他者への感染拡大を防ぐことができます。
主な治療法
- マクロライド系抗菌薬(クラリスロマイシン、エリスロマイシンなど)
→ 菌の増殖を抑制し、感染期間を短縮。 - 支持療法:安静、十分な水分補給、加湿による喉の保護。
- 重症例:入院管理下での酸素療法や点滴。
また、家族内感染防止のために、同居家族への予防投薬が行われる場合もあります。
6. 再感染とワクチンの重要性
百日咳は一度感染しても免疫が一生続くわけではありません。感染やワクチンで得られる免疫は5〜10年程度で低下するため、思春期や成人期に再感染するケースが増えています。
そのため、百日咳を確実に予防するためには、**定期予防接種に加えて、成人期での追加接種(ブースター接種)**が非常に重要です。

■ 現在の日本のワクチン制度:5種混合ワクチン(DPT-IPV-Hib)とは
近年では、日本でも**「5種混合ワクチン(DPT-IPV-Hib)」が導入されています。
これは、従来の「四種混合ワクチン(DPT-IPV)」にHibワクチン(インフルエンザ菌b型)**を加えたもので、1回の接種で以下5種類の感染症を同時に予防できます。
| 予防できる感染症 | 病原体 | 主な合併症・リスク |
| ジフテリア(D) | ジフテリア菌 | 喉の腫れ、呼吸困難、心筋炎 |
| 百日咳(P) | ボルデテラ・パータシス菌 | 長期の咳発作、無呼吸、脳症 |
| 破傷風(T) | 破傷風菌 | 筋肉のけいれん、呼吸停止 |
| ポリオ(IPV) | ポリオウイルス | 麻痺、運動障害 |
| Hib感染症 | インフルエンザ菌b型 | 髄膜炎、喉頭蓋炎、敗血症 |
百日咳を含むDPT-IPV-Hibワクチンは、小児期に重症化しやすい5つの感染症を包括的に防ぐ非常に重要なワクチンです。
■ 接種スケジュール(日本)
日本では、生後2か月から予防接種を開始し、以下のスケジュールで接種します。
| 区分 | 接種時期 | 内容 |
| 初回接種(3回) | 生後2か月〜1歳未満 | 20〜56日の間隔で3回接種 |
| 追加接種(1回) | 初回完了から12〜18か月後 | 免疫を強化し長期保護を確立 |
これらの接種により、幼児期の重症感染を予防します。
しかし、時間の経過とともに免疫が低下するため、成人になってからの追加接種が重要です。
■ 成人期のブースター接種(Tdapワクチン)
百日咳の免疫は、10年程度で低下するとされています。
そのため、思春期以降や成人では**Tdap(破傷風・ジフテリア・百日咳混合ワクチン)による追加接種(ブースター接種)**が推奨されています。
成人期の接種推奨者:
- 最後の百日咳ワクチン接種から10年以上経過した人
- 医療従事者(患者との接触が多い)
- 家庭内に乳幼児がいる成人(家庭内感染防止のため)
これにより、大人自身の発症を防ぐだけでなく、**家庭内感染を防ぐ“コクーン戦略”**としても有効です。
■ 「コクーン戦略」とは?
「コクーン戦略」とは、赤ちゃんを守るために周囲の大人がワクチンを接種するという考え方です。
百日咳の乳児感染の多くは、母親・父親・祖父母など家族からの感染が原因です。
そのため、家族全員がTdap接種を受けることで、「ワクチンの繭(コクーン)」のように乳児を感染から守ることができます。
■ 予防接種を受け忘れた場合
もし子どもの頃に接種を受けていない、または記録が不明な場合は、医療機関で接種歴を確認し、再接種を検討しましょう。
血液検査で抗体価を調べ、必要に応じてワクチンを再接種することも可能です。
7. 感染を防ぐためにできること
百日咳の感染予防には、日常生活での基本的な衛生対策も効果的です。
- 咳エチケット(マスク、ティッシュで口を覆う)
- 手洗い・うがいの徹底
- 体調不良時の外出・登園・登校を控える
- 定期的な予防接種とワクチンの確認
8. Q&A:百日咳に関するよくある質問と専門的な回答
Q1. 百日咳はどの季節に多いのですか?
A. 一年を通して発生しますが、初夏から秋にかけて報告が増える傾向があります。集団生活が再開する時期(新学期など)に感染が拡大することもあります。
Q2. 百日咳の潜伏期間はどのくらいですか?
A. 平均的には7〜10日程度です。潜伏期間中にも感染力があり、発症前から家族にうつすこともあります。
Q3. 百日咳と普通の風邪の咳はどう違うのですか?
A. 百日咳では、連続した咳発作のあとに**「ヒュー」という吸気音**が出るのが特徴です。咳が止まらず吐いてしまう、夜間に強くなるなどの特徴もあります。
Q4. 百日咳に感染するとどのくらい咳が続きますか?
A. 一般的には6〜8週間程度続きます。症状が治まっても、体力回復にはさらに時間がかかる場合があります。
Q5. 抗菌薬を飲めばすぐ治りますか?
A. 抗菌薬は感染拡大を防ぐ目的が主で、咳そのものをすぐに止める薬ではありません。ただし早期投与により症状が軽く済むことがあります。
Q6. 百日咳の登園・登校の目安は?
A. 抗菌薬を5日間以上服用し、咳が落ち着いたら登園・登校が可能です。医師の指示に従い、無理をせず安静を心がけましょう。
Q7. 百日咳はどれくらいで人にうつさなくなりますか?
A. 抗菌薬を開始して5日程度で感染力がほぼなくなるとされています。治療を始めるまでは外出や人との接触を避けましょう。
8. まとめ:感染状況を知り、早めの行動を
現在、百日咳の感染者数は一時期より減少傾向にありますが、完全に収束したわけではありません。
特に免疫が切れている成人やワクチン未接種の乳児では、重症化リスクが高いため、注意が必要です。
「ただの咳」と放置せず、2週間以上続く咳や夜間の発作があれば、早めに検査を受けましょう。
地域の感染状況を把握し、家族全員で予防意識を高めることが、百日咳を広げない第一歩です。
