子どものマイコプラズマ肺炎、レントゲン検査と診断の流れ

2025.10.07

子どもの咳が長引くとき、「マイコプラズマ肺炎ではないか」と心配になる親御さんは少なくありません。マイコプラズマ肺炎は一般的な風邪とは異なり、特徴的な咳や発熱が続くのが特徴です。診断には胸部レントゲン検査や血液検査が重要な役割を果たします。本記事では、マイコプラズマ肺炎の診断の流れを詳しく解説し、受診時に知っておきたいポイントを紹介します。

1. マイコプラズマ肺炎とは?その特徴と流行時期

マイコプラズマ肺炎は、**マイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)**という細菌に似た非常に小さな病原体によって引き起こされる呼吸器感染症です。
一般的な肺炎に比べて比較的軽症で済むことが多いものの、しつこく長引く咳が特徴で、学業や日常生活に支障をきたすこともあります。

年齢層

主に5〜14歳の学童期の子どもに多く見られます。
乳幼児では感染しても軽い風邪程度で済むことが多い一方で、学童期以降では肺炎に進行しやすくなります。

感染経路

主な感染経路は飛沫感染接触感染です。
咳やくしゃみに含まれる飛沫を吸い込むことで感染が広がり、家庭内や学校など人が密集する環境で流行しやすくなります。
また、マイコプラズマは乾燥した環境でも一定時間生存できるため、ドアノブや玩具を介した間接的な感染も起こり得ます。

潜伏期間

マイコプラズマ肺炎の**潜伏期間は2〜3週間程度(およそ1〜4週間)**と、一般的な風邪に比べて長いのが特徴です。
感染してからすぐに発症するわけではなく、しばらくの間は症状がほとんど現れないこともあります。
潜伏期間の終盤になると、軽い喉の痛みやだるさ、微熱が出始め、徐々に乾いた咳(空咳)が目立つようになっていきます。

流行時期

流行は**秋から冬(10〜1月頃)**にかけて多く見られますが、年間を通じて発生しています。
数年おきに全国的な流行を繰り返す傾向があり、4〜5年周期で大規模な流行が起こることもあります。
特に、保育園・小学校・部活動など、子ども同士が密に接触する環境では集団感染が起こりやすく、家庭への持ち込みによって家族全員が感染するケースも少なくありません。

初期症状

初期段階では、風邪に似た軽い症状から始まります。

  • のどの痛み
  • 軽い咳やくしゃみ
  • 微熱(37〜38℃程度)

しかし、数日〜1週間ほど経つと咳が次第に強くなり、夜間に発作的に出るようになります。
この「長引く咳」がマイコプラズマ肺炎の最も特徴的なサインです。
熱は比較的長く続きますが、高熱というよりも中等度の発熱が長引くことが多く、解熱剤で一時的に下がっても再び発熱する場合があります。

補足:家庭や学校で注意すべき点

潜伏期間中も、咳やくしゃみを通じて他人に感染させる可能性があります。
そのため、学校や園で感染者が出た場合は、集団内でのマスク着用や手洗いの徹底が重要です。
また、家庭では同居家族が感染しないよう、タオルやコップの共用を避けるなどの対策が有効です。

2. マイコプラズマ肺炎の主な症状と受診の目安

マイコプラズマ肺炎では、感染初期は「ただの風邪かな?」と思うような軽い症状から始まることが多いですが、数日経つにつれて咳が強くなり、夜間に激しくなる傾向があります。一般的なウイルス性の風邪と異なり、症状が長引くことが特徴です。

主な症状

  • 38℃前後の発熱(長引くことが多い)
    発熱は3〜5日程度続くことが多く、一度下がっても再び上がる“波のある熱”が見られることもあります。解熱剤で一時的に落ち着いても、再発熱する場合は注意が必要です。
  • 頑固で乾いた咳(特に夜間や明け方に強くなる)
    初期は喉に違和感を感じる程度ですが、日を追うごとに「コンコン」という乾いた咳が強くなり、夜間や早朝に咳き込み眠れないこともあります。発作的に続く咳が特徴で、ひどい場合は吐き戻しを伴うこともあります。
  • 倦怠感・食欲不振
    微熱や咳が長く続くことで体力を消耗し、全身のだるさや食欲の低下を訴える子どもも多く見られます。特に学童期では、学校生活への影響が大きくなります。
  • 胸の痛みや息苦しさ
    咳の繰り返しにより胸部に痛みを感じたり、呼吸が浅くなることがあります。小さいお子さんでは「胸が痛い」と言えず、肩で息をしたり、遊びの途中で動きを止める様子が見られることもあります。

咳が長引く理由

マイコプラズマは気道粘膜に付着して炎症を起こすため、治療後も気道の過敏状態が数週間残ることがあります。そのため、「熱は下がったのに咳だけ続く」というケースが多く見られます。これは再感染ではなく、気道の回復過程による反応です。

受診の目安

次のような症状がある場合は、早めの小児科受診をおすすめします。

  • 咳が1週間以上続いている
  • 発熱がある、または再び熱が上がった
  • 夜間の咳がひどく眠れない
  • 食欲が落ち、水分摂取が難しい
  • 息苦しそうにしている、呼吸が早い
  • 胸の痛みを訴える、顔色が悪い

特に、学校や園でマイコプラズマ肺炎が流行している時期に同様の症状がある場合は、自己判断せず早期に医療機関で検査を受けましょう。

早めに受診するメリット

マイコプラズマ肺炎は、抗菌薬が効く病気です。
早期に診断・治療を行うことで、

  • 症状の悪化や長期化を防げる
  • 家族やクラスメイトへの感染拡大を抑えられる
  • 体力低下や脱水などの二次的な合併症を防止できる

という大きな利点があります。
放置すると、咳が1か月以上続いたり、重症肺炎に進行するケースもまれにあります。
「少し長い風邪かも?」と思った段階で受診しておくことが、結果的にお子さんの回復を早め、家庭全体の安心につながります。

3. 診断に使われる主な検査

3-1. 聴診と問診

医師はまず聴診器で呼吸音を確認します。マイコプラズマ肺炎の場合、特徴的な「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった音が聞こえることもあります。問診では、咳の期間・発熱の経過・周囲の感染状況などが重視されます。

医療

3-2. 胸部レントゲン検査

胸部レントゲンは、肺の炎症の有無や広がりを確認するために行われます。

  • マイコプラズマ肺炎では、スリガラス状の陰影斑状の影が見られることが特徴です。
  • 一般的な細菌性肺炎に比べると、影が広範囲に薄く広がる傾向があります。

レントゲン画像は診断の重要な手がかりになりますが、他のウイルス性肺炎と似ることもあるため、血液検査や迅速検査と組み合わせて総合的に判断します。

3-3. 血液検査

白血球数やCRP値(炎症反応)を調べ、細菌感染との違いを見極めます。
マイコプラズマ感染では白血球の増加は軽度で、CRPも中等度に上昇することが多いです。

3-4. 迅速診断・PCR検査

喉のぬぐい液からマイコプラズマ抗原検査PCR検査を行い、感染の有無を特定します。PCR検査は精度が高く、近年では多くの医療機関で導入されています。

4. レントゲン検査の意義と注意点

レントゲンはマイコプラズマ肺炎の診断に欠かせない検査ですが、単独では確定診断できないこともあります。

4-1. レントゲンで分かること

  • 肺の炎症の範囲と重症度
  • 他の肺疾患(気管支炎・ウイルス性肺炎・気胸など)との鑑別
  • 回復過程での改善状況の確認

4-2. 放射線被曝への配慮

小児の場合、放射線の影響を最小限にするため、必要最小限の撮影範囲で行われます。防護エプロンを着用し、安全に配慮して実施されます。1回の撮影で受ける放射線量は極めてわずかであり、健康への影響はほとんどありません。

5. 診断後の治療と経過

マイコプラズマ肺炎の治療では、主に**マクロライド系抗菌薬(クラリスロマイシンなど)**が使用されます。ただし、近年はマクロライド耐性菌も増加しており、**テトラサイクリン系(ドキシサイクリン)ニューキノロン系(レボフロキサシン)**が選択される場合もあります。

症状の改善までには数日〜1週間程度かかることが多く、咳だけが長く残ることもあります。これは気道の炎症が完全に治まるまで時間がかかるためで、再感染ではありません。

6. 家庭でのケアと再発予防

治療中は以下の点に注意して家庭でケアを行いましょう。

  • 水分をこまめに摂る
  • 咳がひどいときは加湿を心がける
  • 安静にし、十分な睡眠をとる
  • 学校や園への復帰は医師の指示に従う

また、手洗いやマスクの着用、咳エチケットを守ることで家庭内感染を防ぐことができます。

7. Q&A:疑問と専門医の回答

Q1. 咳が治らないのは再発ですか?
A. 多くは気道の炎症が残っているだけで、再感染ではありません。

Q2. 登園・登校はいつから可能?
A. 解熱後2〜3日経過し、咳が軽くなっていれば医師の判断で再開可能です。

Q3. 大人にも感染しますか?
A. します。特に免疫が低下している場合、重症化することもあります。

Q4. 咳が夜にひどくなるのはなぜ?
A. 夜間は副交感神経が優位になり、気道が狭くなるため咳が出やすくなります。

Q5. 入院が必要になるのはどんなとき?
A. 高熱が長引く、呼吸困難がある、水分摂取が困難な場合は入院が必要です。

Q6. 検査結果はどのくらいで出ますか?
A. 抗原検査は当日、PCR検査は数日で結果が出ます。

Q7. 再感染することはありますか?
A. 一度感染しても免疫が長く続かないため、再感染の可能性はあります。

まとめ:正確な診断で早期回復を

マイコプラズマ肺炎は、子どもに多い呼吸器感染症の中でも診断と治療のタイミングが特に重要な疾患です。発熱や咳が長引く場合、早期に医療機関を受診し、胸部レントゲンやPCR検査による正確な診断を受けることが、重症化を防ぐ鍵となります。

レントゲン検査は、肺の状態を「見える化」する非常に有効な手段です。肺の影の出方から炎症の進行度を把握し、抗菌薬の効果を確認することもできます。放射線量はごくわずかで、子どもの健康に悪影響を与える心配はほとんどありません。

治療では、マクロライド系抗菌薬が一般的に使用されますが、近年では耐性菌の増加が課題となっています。そのため、症状の改善が見られない場合には、早期に薬の変更を検討する必要があります。保護者としては、処方された薬を途中でやめないことが最も大切です。中途半端な服用は菌を残し、再燃や耐性化を招くことがあります。

また、家庭でのケアも回復を左右します。十分な睡眠と栄養、水分補給、室内の加湿、咳が強いときの体位調整など、環境を整えることが回復を早めます。特に夜間は咳が出やすいため、上体をやや起こして寝る工夫が有効です。

さらに、家庭内での感染予防も欠かせません。マイコプラズマは飛沫感染が主なため、手洗いやマスクの徹底、食器やタオルの共有を避けることで、家族への二次感染を防げます。

最後に、学校や園への復帰時期については、「熱が下がったから安心」と判断せず、必ず医師の指示を仰ぎましょう。医療機関で「登園・登校可能」の目安を示してもらうことが、再発や集団感染を防ぐうえで重要です。

早期発見・早期治療・正しいケアがあれば、マイコプラズマ肺炎は多くの場合、後遺症を残さずに回復します。
お子さんの健康を守るためにも、咳や発熱が続くときには迷わず受診し、必要な検査を受けることを心がけましょう。