子どもが突然の発熱やしつこい咳に悩まされ、「マイコプラズマ肺炎」と診断されるケースが増えています。特に学童期の子どもを中心に集団生活の場で流行しやすいこの感染症は、家庭内での対応や予防が回復と再感染防止の鍵となります。本記事では、マイコプラズマに感染した子どもへの適切な家庭ケア、周囲への感染予防、登園・登校の目安まで、小児科医の監修をもとに詳しくご紹介します。
1. マイコプラズマ感染症とは?
マイコプラズマ感染症は、「マイコプラズマ・ニューモニエ」という細菌に似た微生物によって引き起こされる呼吸器感染症です。特に5歳〜15歳の子どもに多く見られ、秋から冬にかけて集団生活の場で流行しやすくなります。
マイコプラズマは通常の細菌より小さく、ウイルスと同様に抗生物質の効果が限定的なため、診断と治療が難しいケースもあります。また、咳が長引くのが大きな特徴で、熱が下がっても咳だけが数週間続くことも少なくありません。
2. 主な症状と発症の経過
感染から2~3週間の潜伏期間を経て、次のような症状が現れます:
- 38〜39℃の発熱(3日以上続くことが多い)
- 激しい乾いた咳(特に夜間に悪化)
- 頭痛、全身倦怠感
- 喉の痛み
- 鼻水(少なめ)
注意点:
インフルエンザや風邪と似ているため、最初は見分けがつきにくいことがあります。咳が1週間以上続いたり、夜間に悪化する場合は、マイコプラズマの可能性も考えて受診が必要です。
3. 診断と治療方法
診断方法:
- 聴診器での診察(異常音が聞こえない場合もあり)
- 抗原検査、血液検査、胸部レントゲン
- マイコプラズマ特異抗体(IgM)の検査
治療:
一般的な風邪薬や抗菌薬が効かないため、**マクロライド系抗菌薬(クラリスロマイシンなど)**を使用します。ただし、耐性菌の増加により、ミノサイクリン系やニューキノロン系に変更されることもあります(年齢により使用制限あり)。
4. 家庭での看病ポイント
マイコプラズマ感染症の回復を支えるには、症状別の適切な対応と、子どもの状態に応じた柔軟なケアが重要です。以下では、症状ごとの看病のポイントを具体的に解説します。
◾ 発熱時の対処法
- 体温管理:38.5℃以上の高熱が続く場合、解熱剤の使用を検討します。一般的にはアセトアミノフェン(カロナールなど)が使用されますが、医師の指示を必ず守りましょう。
- 冷却の工夫:首、わきの下、足の付け根などを冷やすことで体温を下げるサポートが可能です。氷枕や保冷剤はタオルで包み、肌への直接接触を避けましょう。
- 水分補給:熱によって体内の水分が失われやすいため、こまめに水分を補給します。経口補水液(OS-1など)が推奨されます。
◾ 咳が強いときのケア
- 姿勢の工夫:咳込みやすいときは、上体を少し起こして寝かせると楽になります。ベッドの背もたれを上げる、座布団を重ねて傾斜をつけるなどの工夫が効果的です。
- 加湿と換気の両立:部屋の湿度を50~60%程度に保ちつつ、定期的な換気で空気をリフレッシュします。加湿器や濡れタオルの使用が有効です。
- 咳止めの使用:市販薬の安易な使用は避け、必ず医師の処方に従ってください。特に2歳未満は慎重な判断が必要です。
◾ 食欲がないときの対応
- 消化にやさしいメニューを:おかゆ、うどん、野菜スープなど、胃腸に負担をかけない食事を少量ずつ与えます。
- 無理をさせない:食べられないときは無理に食べさせず、水分補給を優先しましょう。
- 好みを活かす:ゼリーやフルーツなど、子どもが食べやすいものを活用するのも一案です。
◾ 休養環境の整備
- 照明を落とし静かな環境に:咳が続く子どもは夜間の睡眠が浅くなりがちです。リラックスできる環境を心がけましょう。
- スマホやテレビの制限:刺激が強い画面は睡眠の質を下げるため、寝る前は避けましょう。
- トイレ・水分・体温チェックは就寝前に:夜間の咳で何度も起きるのを防ぐため、事前の準備が大切です。

5. 登園・登校の目安と注意点
マイコプラズマ感染症の子どもがいつ登園・登校を再開できるかは、保護者にとって非常に悩ましいポイントです。
◾ 基本の復帰基準
- 解熱してから24時間以上経過している
- 全身状態が良好である(活気がある、食事が摂れる)
- 咳が他児に影響しない程度に軽減している
これらを満たしていれば、登園・登校が可能とされています。
◾ 学校や園への連絡のコツ
- 症状の経過を詳細に報告:熱の有無、咳の程度、服薬の内容、医師の診断名など。
- 医師の登園許可を求められる場合もある:とくに集団感染リスクがある園では、医師の診断書や意見書を求められることがあります。
◾ 無理をさせない判断
- 咳が完全に止まっていなくても、他人に移すほどの飛沫が出ない・体力的に問題ない状態であれば再登園可とされています。
- ただし、再登園後に体調が再度悪化するケースもあるため、最初の数日は様子を見ながら短時間の通園などに留める配慮も有効です。
6. 家庭内での感染予防対策
マイコプラズマは非常に感染力が強く、家庭内での二次感染が問題になることがあります。とくに小さな兄弟姉妹や高齢の同居家族がいる場合は注意が必要です。
◾ 基本の感染予防対策
| 対策項目 | 方法・注意点 |
| マスク着用 | 看病する大人もマスク着用。本人が2歳以上なら可能な範囲で着用。 |
| 手洗い | 外から帰った後、トイレ後、咳・くしゃみの後に手洗い(20秒以上)。 |
| 消毒 | アルコール消毒液または次亜塩素酸ナトリウムでドアノブ・おもちゃなどを定期消毒。 |
| 換気 | 1日3回以上、窓を開けて換気(1回5〜10分でも効果的)。 |
| 衣類・タオルの分別洗濯 | 患者が使った衣類・タオルは分けて洗濯。60℃以上のお湯での洗濯が理想。 |
| ゴミの処理 | 使用済みのティッシュは密封して即廃棄。 |
◾ 空間の工夫
- 寝室は別室が理想:可能であれば感染者と他の家族は寝室を分けましょう。
- 加湿と清拭を両立:ウイルス・菌が乾燥環境で活性化しやすいため、適度な加湿と清掃を行う。
7. 再感染・家族感染への対応
マイコプラズマ感染症には再感染や家庭内感染のリスクが常にあります。特に免疫力が低下している家族や、基礎疾患のある人がいる場合は注意が必要です。
◾ 再感染の理由とリスク
- 一度の感染では完全な免疫は得られないため、数年おきに再感染するケースも。
- 耐性菌が増えているため、薬が効きにくくなる可能性も再感染時にはあります。
◾ 家族感染を防ぐための追加対策
- 看病担当者の固定化:感染者に接するのは1人に絞り、他の家族との接触を最小限に。
- 家庭内ゾーニング:食事、トイレ、洗面所の使用タイミングをずらすなど、空間と時間を分ける意識を持つ。
- 早期発見・早期受診:家族に咳や発熱の症状が出た場合、すぐに医療機関に相談することが重要。
◾ 家族への免疫サポート
- 栄養バランスのよい食事:ビタミンA・C・E、亜鉛などの摂取で免疫をサポート。
- 十分な睡眠と規則正しい生活:免疫細胞の働きを保つため、特に子どもは早寝早起きを習慣に。
- ストレスを減らす工夫:感染症の看病中は家族全体が疲れがち。適度な休息を取り、心理的サポートも意識しましょう。
8. よくあるQ&A
Q1. マイコプラズマ肺炎と普通の風邪はどう違う?
→ 発熱が3日以上続き、乾いた咳が夜間にひどくなる場合はマイコプラズマの可能性があります。
Q2. 感染したら家族もすぐに検査すべき?
→ 症状が出た場合は医師に相談し、検査を検討してください。
Q3. 治療薬はいつから効き始める?
→ 抗菌薬投与から1~2日で熱が下がることが多いですが、咳はしばらく続くことがあります。
Q4. 咳が長引いていても登園してよい?
→ 熱がなく、生活に支障がない程度であれば可能ですが、園に事前相談を。
Q5. マスクは何歳から必要?
→ 2歳以上が目安。無理のない範囲で。
Q6. 入浴はいつから再開できる?
→ 解熱後で元気があるなら可能です。
Q7. 予防接種はある?
→ 現在マイコプラズマ肺炎に対する予防接種はありません。
Q8. 小学校で流行中。兄弟は登校して大丈夫?
→ 本人に症状がなければ登校可能です。
Q9. 抗菌薬が効かない場合は?
→ 耐性菌の可能性があるため、医師が別の薬を選択します。
Q10. 他の家族にうつる確率は?
→ 飛沫・接触次第ではありますが、予防策をとればリスクは減らせます。
9. まとめ:親ができること、すべきこと
マイコプラズマ感染症は、軽症でも咳が長引き、家庭での看病に長い時間がかかることが特徴です。親としては、子どもの体調管理はもちろん、感染を広げないための生活管理や、園・学校との連携も重要です。
特に大切なのは:
- 早期の受診と正しい診断
- 医師の指示に基づいた投薬と看病
- 感染予防の徹底(家庭内感染防止)
- 子どもの様子を見ながら無理なく登園・登校させる判断
子どもが元気を取り戻すまで、焦らず丁寧に寄り添っていきましょう。
