「手足口病」と聞くと、保育園や幼稚園で流行する“子どもの夏風邪”というイメージを持つ方が多いでしょう。
しかし、実際には大人も感染し、時に子どもより重い症状を引き起こすことがあります。
特に子どもを育てている親、保育士、看護師、幼稚園の先生など、子どもと接触する機会が多い方は感染リスクが高く、家庭内感染の原因となることも少なくありません。
また、ウイルスの種類によっては冬でも感染例が報告されており、季節を問わず注意が必要です。
大人がかかると、高熱や全身の強い倦怠感、痛みを伴う口内炎、手足の激しい発疹など、日常生活に支障をきたすケースも見られます。治るまで1〜2週間かかる場合もあり、仕事を休まざるを得ないこともあるでしょう。
この記事では、
- 大人が感染した際の特徴的な症状
- 発症から回復までの流れ
- 治療法と自宅でできるケア
- 家族への感染を防ぐ方法
- 再感染や免疫のしくみ
まで、医療的な観点から詳しく解説します。
正しい知識を持つことで、感染拡大を防ぎ、早期回復を目指すことができます。
1. 手足口病とは?原因ウイルスと感染経路
手足口病は、エンテロウイルス属(コクサッキーウイルスA16型、A6型、エンテロウイルス71型など)によって引き起こされる感染症です。
感染者の唾液・鼻水・便・水疱液などにウイルスが含まれており、接触や飛沫を通じて人から人へ感染します。
主な感染経路
- 飛沫感染:咳やくしゃみなどで空気中に拡散
- 接触感染:皮膚やおもちゃ、タオルなどから感染
- 糞口感染:ウイルスを含む便に触れ、手指を介して口に入る
感染力は非常に強く、発症前からウイルスを排出していることもあります。
そのため、家庭や保育園、職場での二次感染が起こりやすいのが特徴です。
2. 大人の手足口病の特徴と子どもとの違い
大人の方が症状が重く出やすい理由
手足口病は子どもに多い感染症ですが、大人がかかると子どもよりも症状が重く、長引く傾向があります。
その背景には、主に次の2つの要因が関係しています。
- ウイルス型の違いによる再感染
子どもの頃に一度感染して抗体を持っていても、手足口病を引き起こすウイルスは複数の型(コクサッキーA16型、A6型、エンテロウイルス71型など)が存在します。
異なる型のウイルスに再感染した場合、体内の免疫が十分に働かず、新たに発症することがあります。 - 大人特有の免疫反応の強さ
免疫が成熟している大人では、ウイルスに対する免疫反応が強く出ることで、発熱・痛み・倦怠感などが激しく現れやすいのです。
つまり、「免疫力が高い=軽症になる」とは限らず、免疫反応の“過剰さ”が症状を悪化させることもあります。
また、疲労・睡眠不足・ストレスなどで免疫機能が一時的に低下していると、感染後のウイルス排除が遅れ、症状が長引く傾向があります。
主な症状
大人が手足口病に感染した際の代表的な症状は次の通りです。
子どもと比べて発熱の程度が高く、皮疹の範囲も広いのが特徴です。
- 38〜39℃の高熱(子どもよりも高温・長期間続く傾向)
- のどの痛み・口内炎(飲食が困難になるほどの痛み)
- 手のひら・足の裏・口周囲の水疱性発疹(かゆみや痛みを伴う)
- 強い倦怠感・頭痛・関節痛(風邪のような全身症状)
- 回復期の手足の皮むけ(落屑)
- まれに手足のしびれ・爪の変形や脱落(A6型感染で報告あり)
発疹は手足のほか、肘・膝・臀部・指の間などにも現れることがあり、見た目の不快感だけでなく、衣服や靴に触れるたびに痛みを感じることもあります。
また、口内炎が多数できるため、水すら飲みにくくなる脱水症状に注意が必要です。
子どもとの比較表
| 項目 | 子ども | 大人 |
| 発熱 | 軽度(37〜38℃) | 高熱(38〜39℃) |
| 発疹 | 小さく限局的 | 広範囲・痛みを伴う |
| 口内炎 | 軽度で食事可能 | 激しい痛みで摂食困難 |
| 経過 | 3〜5日で回復 | 1〜2週間続くことも |
| 倦怠感 | 少ない | 強く日常生活に支障 |
| 重症化 | まれ | 髄膜炎・神経症状を伴うことも |
大人特有の症状と注意点
大人の場合、手足の強い痛みやしびれが特徴的で、仕事や家事が困難になるケースも珍しくありません。
とくにコクサッキーA6型による感染では、発疹が大きく水疱化し、破裂後に痕が残ることもあります。
さらに、回復期に次のような症状が出ることもあります。
- 手足の皮膚がむける(落屑)
- 爪が一時的に剥がれる・変形する(爪甲脱落症)
- 微熱やだるさが1〜2週間続く
これらはウイルスによる炎症反応の後遺的変化であり、多くは自然に治癒しますが、爪変形が続く場合は皮膚科受診が推奨されます。
重症化のリスク
大人の手足口病は、基本的に自然治癒する病気ですが、まれに髄膜炎・脳炎・心筋炎といった神経・循環器系の合併症が報告されています。
次のような症状がある場合は、すぐに医療機関を受診してください。
- 高熱(39℃以上)が3日以上続く
- 頭痛や嘔吐、意識の混濁がある
- 首の後ろが硬い(項部硬直)
- 胸の痛みや息苦しさがある
これらはウイルスが中枢神経や心筋に影響を及ぼしている可能性があり、入院治療が必要になる場合もあります。
生活への影響と社会的配慮
発疹が目立つ部位に出やすいため、外見的なストレスも少なくありません。
さらに、痛みにより手が使いづらくキーボード操作や家事が困難になることもあり、
「軽い感染症」と侮ると長期欠勤・体力低下を招くこともあります。
無理に出勤・外出せず、安静・休養を優先することが、回復を早める最も確実な方法です。
3. 発症から回復までの経過を時系列で解説
手足口病の潜伏期間は2〜5日間です。
発症から回復までの一般的な経過は次の通りです。
| 日数 | 症状の流れ |
| 1〜2日目 | 微熱・のどの痛み・だるさが出る |
| 2〜4日目 | 口内炎や発疹が現れ、痛みが増す |
| 5〜7日目 | 発疹がピークを迎え、水疱がかさぶたに変化 |
| 8〜10日目 | 熱が下がり、皮がむけ始める |
| 10〜14日目 | 徐々に回復、発疹跡が残ることも |
重要なのは、症状が治ってもウイルスは便から2〜4週間排出され続ける点です。
つまり治った後も、家庭内感染防止のための手洗いは欠かせません。
4. 大人の手足口病の治療法と家庭でできるセルフケア
4-1 まず押さえるポイント
- 特効薬はありません。治療は痛み・発熱・かゆみ・脱水への対症療法が中心。
- **水分補給と休養が最優先。**口内炎で飲みにくい時は、少量を高頻度で。
- **無理して出勤しない。**症状が落ち着くまで安静に。
- 二次感染と脱水を防ぐケアが回復を早めます。
4-2 受診の目安(大人)
次のいずれかがあれば早めに受診を。
- 39℃前後の高熱が3日以上続く/悪寒戦慄が強い
- 水分がほとんど飲めない、尿量が明らかに少ない、ふらつき
- 激しい頭痛・嘔吐・意識もうろう・項部硬直(神経合併症のサイン)
- 胸痛・息切れ・動悸(心筋炎の可能性)
- 皮疹が広範囲で腫れ・膿・強い痛みを伴い、熱がぶり返す(細菌の二次感染疑い)
- 妊娠中、免疫抑制剤内服中、腎・肝疾患などの基礎疾患がある
4-3 医療機関での治療(対症療法)
- 解熱鎮痛:原則はアセトアミノフェンを第一選択。
- 胃腸障害・腎機能への負担や脱水時のリスクを考え、**NSAIDs(イブプロフェン等)の自己判断での連用は控えめに。**抗血小板薬・抗凝固薬内服中の方は特に注意。
- 胃腸障害・腎機能への負担や脱水時のリスクを考え、**NSAIDs(イブプロフェン等)の自己判断での連用は控えめに。**抗血小板薬・抗凝固薬内服中の方は特に注意。
- 口内炎対策:アズレン含嗽薬、粘膜保護材、歯科口腔用ステロイド軟膏(医師の判断)など。
- 強いかゆみ:抗ヒスタミン薬(眠気ありのタイプは就寝前に)。
- 脱水時:点滴を含む補液。
- 二次感染:細菌合併があれば抗菌薬(ウイルスそのものには無効)。
メモ:抗ウイルス薬や特異的免疫療法は一般に適応外です。
4-4 市販薬の選び方
- 解熱鎮痛:アセトアミノフェン単剤を基本に。用法・容量厳守。
- うがい薬:刺激の少ないタイプを。しみる場合は常温の水やアズレン含嗽に切り替え。
- 外用:破れた水疱・びらん部に刺激性の強い消毒薬は避ける(しみて悪化)。石けんと流水で十分。
- かゆみ止め:内服の抗ヒスタミン薬は運転・機械作業に注意。外用は冷感タイプや保湿中心で。

4-5 自宅でのセルフケア
① 水分補給(最優先)
- 経口補水液(ORS)・麦茶・薄めのスポーツドリンクなどを一口ずつ頻回に。
- 冷たすぎ・熱すぎは痛みを増やすことがあるため常温が飲みやすい。
- カフェイン・アルコールは脱水を悪化させるため避ける。
② 食事(口内炎対策)
- やわらかく滑らか:おかゆ、豆腐、ポタージュ、ヨーグルト、プリン、ゼリー。
- 避ける:辛い・酸っぱい・塩分濃い・揚げ物・炭酸。
- コツ:食前に含嗽→局所麻酔効果のある口腔ジェル(医師に相談)→食事→食後うがい。
③ 皮膚・発疹ケア
- ぬるめのシャワーで清潔を保ち、入浴は短時間。
- かゆみが強い部位は冷却(保冷材はタオルで包む)。
- 破れた水疱はこすらず、清潔ガーゼで軽く保護。
- 爪は短く。掻破→二次感染を防ぐ。
- 保湿は低刺激の乳液・ワセリンで。刺激性のある化粧水・アルコールはNG。
④ 口腔ケア
- やわらかい歯ブラシ+低刺激歯磨剤。
- しみる部位は無理に磨かず、食後は水またはアズレンでうがい。
- 熱い飲食物・アルコール系うがいは避ける。
⑤ 休養と生活
- 睡眠を最優先。発熱・痛みが強い日は完全休養を。
- 室温20–24℃、湿度40–60%でのどへの刺激を最小化。
- 喫煙は悪化要因。治るまで控える。
4-6 してはいけないこと(悪化・長期化の原因)
- 水疱をつぶす/剥く(二次感染・瘢痕の原因)。
- 強い消毒の多用(組織障害で治りが遅れる)。
- 高濃度アルコールだけに頼る環境消毒(エンテロウイルスは塩素系が有効)。
- 脱水状態でのNSAIDs連用(腎負担)。
- 無理な出勤・運動・サウナ(体力消耗)。
4-7 家庭内の衛生
- 手洗い:トイレ後・オムツ交換後・調理前後・帰宅時に石けんで20秒以上。
- 共有物を分ける:タオル・食器・寝具。スマホやドアノブはこまめに拭く。
- トイレ・洗面台:**塩素系(次亜塩素酸ナトリウム0.05%)**で拭き上げ。
- 目安:家庭用漂白剤(約5%)を100倍に薄める。換気と手袋を忘れずに。
- 目安:家庭用漂白剤(約5%)を100倍に薄める。換気と手袋を忘れずに。
- 便からのウイルス排出は2〜4週間続くため、治癒後もしばらく継続。
4-8 出勤・外出再開の目安(大人)
- 発熱なし・全身状態が良好・口内炎で飲食支障なし・露出部の水疱が乾燥/被覆できること。
- 医療・保育・飲食などハイリスク職種は職場ルールや産業医の指示に従う。
4-9 よくある悩みへの即効ヒント
- 「夜、かゆくて眠れない」:就寝1時間前に入浴→保湿→就寝前だけ抗ヒスタミン薬(要注意事項確認)。
- 「水分がしみる」:常温の経口補水液をストローで。氷を口に含んでから飲むと楽。
- 「マスクが擦れて口周りが痛い」:内側にワセリン薄塗り、長時間連続使用を避けて交換。
ワンポイント
「回復を早める特効薬」よりも、脱水を作らない・二次感染を起こさない・体力を削らないことが最短ルート。
これだけで体感の回復スピードが大きく変わります。
5. 再感染や免疫の仕組みについて
手足口病は、複数のウイルス型が原因のため、一度かかっても再感染することがあります。
特に、近年流行している「コクサッキーウイルスA6型」は、従来と異なる症状(手足以外にも発疹が出るなど)を引き起こすため、免疫の持続が期待しにくいとされています。
免疫のポイント
- 型が異なれば再感染のリスクあり
- 感染後の抗体は一生続くとは限らない
- 疲労やストレスで免疫が低下すると再発の可能性も
したがって、過去に手足口病にかかった経験があっても、「免疫があるから安心」とは言えません。
6. 家族・職場での感染拡大を防ぐ方法
手足口病の感染力は発症前から治癒後まで持続します。
特に家庭や職場では、以下のような対策が重要です。
感染予防の基本
- 石けんで20秒以上の手洗い
- 共有タオルを避け、ペーパータオルを使用
- トイレ後やオムツ替え後は消毒を徹底
- ドアノブ・スマホなどの共用物をアルコール消毒
- 食器・寝具は分けて使用
職場復帰の目安
発熱や口内炎、発疹が完全に治まり、全身状態が安定してから。
医療従事者や保育士などは、感染拡大防止の観点から医師の判断を仰ぐことが望ましいです。
Q&A:大人の手足口病に関するよくある質問
Q1. 手足口病は何日で治りますか?
A. 通常7〜10日で回復しますが、発疹や皮むけは2週間続くことがあります。
Q2. 子どもからうつった場合、家庭内で注意すべきことは?
A. タオルや食器を分け、トイレ後の手洗いを徹底してください。
Q3. 発疹がかゆくて眠れません。どうすれば?
A. 保冷剤で軽く冷やすと痒みが和らぎます。市販のかゆみ止めは医師に相談を。
Q4. 発疹がかさぶたになっても他人にうつりますか?
A. 便中にウイルスが残るため、トイレ後の衛生管理は継続が必要です。
Q5. 妊娠中に感染した場合は?
A. 基本的に胎児への直接的な影響は少ないですが、高熱が続く場合は受診を。
Q6. 手足口病と似た症状の病気はありますか?
A. 水痘(みずぼうそう)や口唇ヘルペス、溶連菌感染症と似ています。医師の診断を受けましょう。
Q7. 免疫が弱いと重症化しますか?
A. はい。高齢者や糖尿病・がん治療中の方は重症化リスクが上がります。
Q8. 入浴はしてもいいですか?
A. 発熱がなく、発疹が破れていなければ可能です。湯船を共有しないように注意を。
まとめ
手足口病は、かつて「子どもの病気」とされてきましたが、近年は大人の感染例が増加しています。
原因となるウイルスの型が多様化し、季節を問わず発症する傾向があるため、油断は禁物です。
大人が感染すると、子どもよりも症状が重く、回復にも時間がかかるケースがあります。
口内炎による食事困難、手足の痛み、発熱による倦怠感など、生活の質が低下しやすいため、早期に正しいケアを行うことが重要です。
特に家庭内感染を防ぐには、手洗い・うがい・共用物の分離が効果的です。
発疹が治っても便からウイルスが排出され続けるため、2〜4週間の衛生管理継続を忘れずに行いましょう。
また、妊娠中や基礎疾患を持つ人、免疫が低下している人は重症化しやすいため、体調異変を感じたら早めに受診を。
正しい知識と冷静な対応が、自分と家族を守る最良の手段です。
「子どもが治ったから安心」ではなく、「家庭全体で予防」を意識して行動することが、再流行を防ぐカギとなります。
