夏に流行することが多い「手足口病」。手や足、口の中に小さな水ぶくれができ、特に口内炎の痛みが強く、水分や食事が摂れなくなることがあります。お子さんが泣き続け、食べられない姿を見るのはとてもつらいもの。本記事では、小児科専門の視点から、手足口病における「水分補給の工夫」や「食事療法の具体例」について詳しくご紹介します。家庭でできる対処法を知ることで、お子さんの回復を早めることができます。
1. 手足口病とは?症状と基本知識
手足口病は、エンテロウイルス属(特にコクサッキーウイルスやエンテロウイルス71など)によって引き起こされるウイルス性疾患で、主に5歳以下の乳幼児に多く見られます。夏季に流行しやすく、感染力も非常に強いため、保育園や幼稚園などの集団生活の場で広まりやすい病気です。
主な症状
- 口の中(舌・頬・のど)にできる水疱性の口内炎
- 手のひら、足の裏、膝や臀部の小さな発疹
- 発熱(微熱から高熱まで個人差あり)
- 食欲不振、元気消失、よだれの増加
- 爪が脱落することも(特にA6型)
発症から3〜7日程度で自然に回復するケースが多いですが、口内炎による痛みのために「飲めない・食べられない」状態が続くと、脱水や栄養不良を招く恐れがあるため注意が必要です。
2. なぜ水分補給が難しくなるのか?
手足口病で最も苦しむ症状の一つが「口内炎による激しい痛み」です。特に小さなお子さんは痛みをうまく言葉で表現できないため、泣いたり食べ物や飲み物を拒否したりすることでしか不快感を示すことができません。
● 口内炎の特徴
手足口病による口内炎は、いわゆるアフタ性口内炎と呼ばれる小さな潰瘍で、次のような部位に出現します。
- 舌の先端や側面
- 上あご(硬口蓋)
- 頬の内側(頬粘膜)
- のどの奥(咽頭部)
- 唇の裏側
これらの部位は、飲食物が通過する際に直接刺激が加わりやすく、「ヒリヒリ」「しみる」などの強い痛みを感じさせます。複数の潰瘍が同時にできると、常に痛みを感じてしまうため、自然と食事や水分を拒否するようになるのです。
● 子どもの心理的反応
- 「一度飲んで痛かった」→「もう飲みたくない」と強く拒否
- 「飲もうとするたびに泣く」→親も与えるのが怖くなる
- 「無理に与えようとすると、ストレスが増幅」→悪循環に陥る
このように、身体的な痛み+心理的な不安によって、水分補給が難しくなるのが大きな特徴です。
● 特に飲めない時間帯
- 朝起きた直後:寝ている間に口が乾き、口内炎が刺激されやすい
- 夜間の就寝前:疲労で痛みに敏感になりがち
- 熱が高いとき:体調そのものが悪く、飲む気力が低下
このような時間帯は無理をせず、飲めるタイミングを見計らって対応することが大切です。
3. 脱水を防ぐための飲み方・飲ませ方の工夫
手足口病では、口内炎が痛くて「水分を取れない」という状況が続くと、脱水症状を起こすリスクが高まります。とくに発熱や発汗があると体内の水分は急速に失われます。
● 脱水症状のチェックポイント
以下のような兆候が見られたら脱水の可能性があります:
| 症状 | 判断ポイント |
| 尿が少ない | 半日(6〜8時間)以上出ていない |
| 唇が乾燥 | ひび割れ、舌が白っぽい |
| 涙が出ない | 泣いても涙が出ない |
| ぐったりしている | 活気がない、反応が鈍い |
| 手足が冷たい | 血流が悪化、ショックの前兆になることも |
こうした状態が見られた場合は、すぐに小児科を受診してください。
● 飲ませ方の工夫(年齢別に)
【乳児(0〜1歳)】
- スポイトやシリンジ(注射器型)で少量ずつ口の奥に垂らす
- 哺乳瓶や乳首の形を変えることで痛みを軽減できることも
- 冷ました母乳やミルクをこまめに与える
【幼児(1〜3歳)】
- ストローで一口ずつ
- 小さなスプーンで1口ずつ与える(アイススプーンが便利)
- 凍らせたゼリーをスプーンで砕いて少しずつ与える
- ゼリー飲料や冷やしたスポーツ飲料を試してみる
【園児〜学童(3歳以上)】
- コップで飲むのがつらい場合は、紙パックやストローに変えてみる
- 氷をなめさせることで口内の痛みを和らげる
- 好きな味・冷たさを本人に選ばせて「自己決定感」を持たせると協力的に
● 飲みやすいおすすめ飲料(目的別)
| 飲み物 | 特徴 | 用途 |
| 経口補水液(OS-1など) | 脱水予防に最適。点滴の代わりになることも。 | 脱水の疑いがあるとき |
| 冷たい麦茶 | カフェインゼロで刺激も少ない。日常的に使える。 | 体調が安定しているとき |
| 薄めたスポーツ飲料 | 塩分・糖分バランスは経口補水液より弱い | 味に飽きたときの代替案 |
| 凍らせたゼリー | 冷たさ+のど越しで、食事代わりにも | 食事が全くできないとき |
4. 手足口病のときにおすすめの食事療法
「飲めるようになってきたら、食事も…」と思っても、まだ口内炎が残っている状態では、固形物や温かい料理がしみて食べられないこともあります。そのため、段階的に、やさしい食事からスタートするのがポイントです。
● 食事の再開タイミング
- 熱が下がってきた
- 水分が少しずつ摂れるようになった
- 機嫌が少し改善し、スプーンに興味を示す
→ このタイミングで「無理なく食べられるか」を観察しながら進めます。
● ステップ別:回復期の食事段階
【ステップ1】液体状の食事(のど越し重視)
- 経口補水液ゼリー
- 冷製スープ(じゃがいも、かぼちゃ)
- プレーンヨーグルト
- 豆乳や薄めた牛乳
【ステップ2】半固形でやわらかいもの(口内で溶ける)
- 冷やしおかゆ(塩分控えめ)
- 絹ごし豆腐(冷たくしてそのまま)
- ゼリー・プリン(砂糖控えめ)
- バナナのすりつぶし(痛みが軽いときのみ)
【ステップ3】軽く咀嚼できるもの(回復期)
- やわらかく煮たうどん(味薄め)
- 蒸しパン(温めずそのまま)
- 卵豆腐
- じゃがいも・かぼちゃのマッシュ
● 調理のポイント
- 味は極力薄めに(塩・しょうゆ・だしは控えめ)
- 常温〜やや冷たい温度で提供(温かすぎると痛みが悪化)
- つるっとした食感で飲み込みやすい形状に
- 刺激物は一切NG(柑橘、スパイス、炭酸、濃い味の加工品)
このように、回復にあわせて食事の内容を段階的に進めていくことで、子どもの負担を減らしながら栄養補給が可能になります。

5. 避けるべき飲食物とその理由
| 飲食物 | 理由 |
| オレンジ・グレープフルーツ | 酸味が強く口内炎を刺激 |
| カレー・キムチなどの香辛料 | 刺激が強すぎて痛みを悪化させる |
| 塩辛い味噌汁や漬物 | 塩分でしみる |
| 炭酸飲料 | 炭酸刺激で痛み増強 |
| 熱々のスープ・ご飯 | 高温が口腔粘膜を刺激 |
| パンやビスケット | パサつきがあり、飲み込みにくい |
食べられるかどうかは「口内の痛みの程度」によります。体調に合わせて調整してください。
6. 家庭でできる痛みの緩和と口内ケア
● 解熱鎮痛剤の使用
- アセトアミノフェン(カロナールなど)が一般的
- 解熱目的だけでなく、痛みの緩和にも有効
- 医師の指示に従って、就寝前などに使用すると眠りやすくなる
※イブプロフェン(ブルフェン)は医師に相談のうえで使用しましょう。
● 口腔内を冷やすケア
- 氷片を舐める
- 冷たい麦茶やゼリーを含ませる
- 清潔なガーゼを冷やして軽く口角を拭う
● 無理な口腔ケアは不要
歯磨きは、痛みがあるうちは中止してOKです。水で口をゆすぐだけでも十分です。
7. Q&A:親御さんからよくある質問に回答
Q1. 水分も食事も一切受けつけません。どうすれば?
→尿が6時間以上出ない、ぐったりしている、など脱水が疑われる場合はすぐに受診を。無理に食べさせようとせず、水分を1口ずつ試しましょう。
Q2. 食べられるようになるまでどれくらいかかる?
→平均3〜5日で回復傾向になります。食べられなくても、少しずつ水分が取れるようになれば心配ありません。
Q3. 経口補水液は飲ませてよいですか?
→はい。むしろ水分・電解質・糖分をバランスよく補給できるため、脱水予防には最適です。
Q4. 食事は無理に与えるべき?
→無理は禁物です。「食べたいものを食べられる分だけ」が基本です。痛みがひけば自然に食欲は戻ります。
Q5. お風呂に入れてもいい?
→発熱がなく、元気があるなら短時間の入浴は可能です。ただし、脱水状態にあるときは避けてください。
8. まとめ:焦らず見守り、少しずつ回復を支えるために
手足口病にかかった子どもにとって、最もつらいのが「飲めない」「食べられない」ことです。しかし、親が焦って無理に食べさせたり飲ませたりすると、子どもの苦痛はさらに増します。
まずは「少しでも飲めればOK」という気持ちで、1口ずつの水分補給からスタートしましょう。食事は回復の兆しが見えてから、のど越しのよいものから始めていけば十分です。
そして、脱水や高熱、ぐったりとした様子があれば迷わず小児科を受診してください。症状がつらい期間は短く、ほとんどのケースは1週間以内に自然回復します。お子さんの自然治癒力を信じて、やさしく見守ってあげましょう。
