手足口病流行期に親が知っておくべき  衛生習慣

2025.10.10

夏を中心に流行する「手足口病」は、乳幼児にとって身近でありながら非常に感染力の強いウイルス感染症です。特効薬がないこの病気に対して、最も効果的なのが「感染を予防するための衛生管理」です。しかし、日常生活のなかで具体的にどうすればいいのか、悩む保護者の方も多いのではないでしょうか。本記事では、手足口病の流行期にこそ実践してほしい家庭での衛生習慣を、小児科の専門的な視点からわかりやすくご紹介します。

1. 手足口病とは?ウイルスの特徴と感染経路

● 概要と原因ウイルス

手足口病とは、主に5歳以下の乳幼児に多く発症するウイルス性の感染症です。複数のウイルスが原因となりますが、特に以下のものが代表的です。

ウイルス名主な特徴
コクサッキーウイルスA16型日本で多く、典型的な症状を起こす
エンテロウイルス71型高熱や重症化(髄膜炎など)しやすいことも
コクサッキーウイルスA6型爪がはがれる、発疹が広がるなどの特徴

これらのウイルスは、湿度と気温の高い夏から初秋にかけて活動が活発になり、毎年6〜9月ごろに流行のピークを迎えます。

● 主な症状

  • 発熱(微熱〜高熱)
  • 手のひら、足の裏、膝、臀部、口の中の発疹・水疱
  • 口内炎(アフタ性口内炎):食事・水分摂取困難の原因に
  • ぐったりする、機嫌が悪くなる、よだれが増える
  • 爪が後日脱落することも(A6型)

通常は3〜5日ほどで回復しますが、口内炎による脱水や二次感染に注意が必要です。

● 感染経路と感染力の特徴

手足口病のウイルスは非常に感染力が強く、以下のような経路で家庭内・保育園などを介して拡がります。

  1. 飛沫感染:咳やくしゃみによる唾液・鼻水から
  2. 接触感染:ウイルスのついた手、タオル、食器、玩具を通じて
  3. 糞口感染:便中のウイルスが手指や物品を介して口に入る

ウイルスは発症前から排泄され始め、回復後も2〜4週間は便に含まれているため、発症者が元気になってからも感染予防が求められます。

2. 感染を防ぐために必要な家庭での衛生習慣

家庭での予防は「徹底した衛生管理」が最も重要です。特効薬やワクチンがない手足口病だからこそ、以下のような習慣を“日常のルール”として家族で実践しましょう。

● 石けんと流水による手洗いの徹底

感染予防の要です。特に以下のタイミングでの手洗いを習慣にしましょう。

  • 外から帰ったとき
  • 食事やおやつの前
  • トイレ・オムツ交換後
  • くしゃみや鼻をかんだ後
  • 発症者のお世話をした後

ポイント:指の間、爪の間、手首まで丁寧に。アルコール消毒よりも石けんと流水がウイルスに対して効果的です。

● うがいの習慣(2歳以上)

  • 外出後や帰宅後、必ずうがい
  • 「ブクブクうがい」でも効果あり
  • 小さな子には遊び感覚でうがい習慣を身につけさせる

● 清潔な生活環境の維持

衛生管理対象対応方法
タオル家族で共有せず、個別に使用。1日1回は交換。
歯ブラシ共用厳禁。定期的に交換。
食器・コップ患児用とその他で分ける。
おもちゃ使用後はハイターなどで定期的に消毒。
ドアノブ・リモコン1日1回以上消毒。次亜塩素酸ナトリウムが有効。

3. 子どもとの日常生活で気をつけるべきこと

乳幼児は自己管理が難しいため、大人が環境や行動を整えてあげることが大切です。

● 口に入れる行動のコントロール

  • おしゃぶり、ぬいぐるみ、ブロックなどを頻繁に口に入れる子どもは、唾液を通じてウイルスの媒介者になります。
  • 家の中でよく使う玩具は、毎日洗浄・消毒することが理想です。

● 飲食に関するポイント

  • 食器、スプーン、フォークなどの共有はNG
  • 取り分け食事をするときも、親の使った箸では与えない
  • 噛み砕いて与える「噛み与え」も避ける

● 鼻水やよだれの拭き取りと処理

  • よだれかけ・ハンカチはこまめに取り替える
  • 拭いたティッシュはすぐに捨て、手指も洗浄
  • 鼻水の吸引器を使ったあとは、洗浄・消毒を忘れずに

● トイレ・オムツ交換の徹底管理

  • 使い捨て手袋の使用も有効
  • おむつはビニール袋に密閉して処分
  • トイレ後の子どもには手洗いを徹底指導

4. 兄弟や家族内での感染予防の工夫

家庭内感染を防ぐためには、家庭内での“ゾーニング”や、物理的・生活習慣的な分離が効果的です。

● 家族内ゾーニングの導入

  • 発症している子どもはできるだけ別室で看病
  • 難しい場合は、寝具を分け、空間をカーテンなどで仕切る
  • 食卓でも隣り合わない配置を意識

● タオル・食器・寝具の分離

  • 「タオルは家族で共有しない」が鉄則
  • 食器は熱湯消毒・洗剤で洗浄を徹底
  • 発症児の枕・布団カバーは毎日取り替えが理想

● 看病する大人の対策

  • 看病時はマスク・エプロンを着用
  • 看病後は必ず手洗いと、顔を洗う習慣を
  • 小さい子どもを複数育てている家庭では、看病担当者を固定するのも一案

● 感染後の再拡散防止策

  • 回復して元気に見えても、便中ウイルスは数週間排泄される
  • トイレ後の手洗い習慣は継続
  • 兄弟間での共有物(ゲーム機、ぬいぐるみなど)も消毒対象に

5. 園や外出時のマナーと対応策

手足口病は保育園や幼稚園などの集団生活を通じて急速に感染が広がることが多く、流行期には特に「家庭と園の連携」が重要です。園や外出先でのマナーや、発症時の正しい対応を知っておくことで、自分の子どもだけでなく、周囲の子どもたちを守ることにもつながります。

登園

● 登園の可否判断:いつから登園できる?

日本小児科学会のガイドラインでは、手足口病は「出席停止の対象外」とされています。しかし、登園の可否は症状の有無や園の方針により異なります。

一般的な登園再開の目安:

  • 発熱がなくなっている
  • 食事・水分が摂取できている
  • 機嫌が良く、日常生活が可能
  • 発疹がかさぶたになる必要はないが、口内炎の痛みが改善している

園ごとに基準が異なるため、必ず主治医の診断と園への相談を行いましょう。

● 園への報告・共有の重要性

  • 発症が判明したら即日、園に連絡
  • 兄弟や家族の感染が確認された場合も報告
  • 潜伏期間中(感染しても症状が出ない時期)もウイルスを拡散する恐れがあるため、早期報告が感染拡大防止につながります

園からの連絡帳や一斉メールで感染状況が通知された際は、家庭内での注意を高めましょう。

● 外出時のマナーと感染予防

症状が落ち着いても、便中のウイルス排出は2〜4週間続くため、流行期や回復期の外出にも配慮が必要です。

外出時の注意点:

シーン注意点
公園・遊具使用後は手洗い、他の子と距離を取る
スーパー・公共施設マスク着用(年齢に応じて)、人混みは避ける
飲食店子どもの手洗い・消毒の徹底、できれば個室利用
公共交通機関長時間の使用は避け、短時間利用を

外出後は、衣服の着替えおもちゃ・持ち物の消毒も忘れずに行いましょう。

6. Q&A:親からよくある質問への回答

Q1. 手足口病は何度もかかるのですか?
→はい。原因となるウイルスは複数あり、型が異なれば再感染することがあります。

Q2. 発症していない兄弟は登園していい?
→本人に症状がなければ基本的に登園可能ですが、園の方針や感染拡大状況により制限されることもあります。

Q3. アルコール消毒は有効ですか?
→手足口病のウイルスはアルコールに強いため、「石けんと流水による手洗い」が最も有効とされています。

Q4. 発症からどれくらいで外出していい?
→口内炎や発疹が落ち着き、食事・水分が取れて元気が戻ったら可能です。ただし、便中のウイルスは数週間出るため、引き続き衛生管理を徹底しましょう。

Q5. 家族全員が感染しないようにするには?
→患児のタオル・食器・寝具を分け、共用を避ける。看病する人はマスクと手洗いを徹底。部屋の換気も重要です。

7. まとめ:家庭全体で取り組む衛生習慣が子どもを守る鍵

手足口病は、一見すると軽症のウイルス感染症に思えるかもしれませんが、感染力が非常に強く、乳幼児にとっては食事ができなくなる・水分が摂れなくなるなど、日常生活に大きな影響を及ぼす病気です。

● 家庭内での「予防」が最も有効な防御策

現在、手足口病には特効薬や予防ワクチンが存在しません。そのため、感染拡大を防ぐ最も効果的な方法は、「ウイルスを持ち込まない」「家庭内で広げない」ことに尽きます。

そのためにできることは:

  • 毎日の手洗い・うがいの習慣化
  • おもちゃや食器など接触物の消毒
  • 兄弟間・家族間の物の共用を避ける
  • オムツ交換や排泄後の糞口感染対策
  • 回復後も続ける便中ウイルスの管理

こうしたひとつひとつの地道な衛生習慣の積み重ねが、家庭内感染を防ぎ、地域全体への感染拡大を抑える第一歩となります。

● 親の意識が、子どもの「未来の健康リテラシー」を育てる

親が日頃から衛生意識を持ち、子どもに対して「なぜ手を洗うのか」「なぜおもちゃを共有しないのか」をやさしく伝えていくことは、将来的に子ども自身が自らの健康を守る力を育てることにもつながります。

● 園や医療機関との連携も大切に

子どもを育てる環境は家庭だけではありません。保育園・幼稚園、医療機関、地域社会と連携しながら、正確な知識と情報を得て、家庭内の衛生対策に役立てていきましょう。