子どもの水疱瘡(みずぼうそう)は、ほとんどの人が幼少期に経験する感染症ですが、大人に感染すると重症化することがあるのをご存じでしょうか?
さらに、同じウイルスが原因で帯状疱疹(たいじょうほうしん)を引き起こすことも。
本記事では、子どもの水疱瘡が大人にうつるリスクや、帯状疱疹との関係、そして家庭でのケアや予防方法を専門的かつわかりやすく解説します。
1. 水疱瘡とは?原因と感染経路
水疱瘡(正式名称:水痘)は、水痘・帯状疱疹ウイルス(Varicella Zoster Virus: VZV)が原因で起こる感染症です。
感染力が非常に強く、家庭内で一人がかかると、約9割の家族に感染するといわれています。
● 主な感染経路
- 空気感染:ウイルスを含む微粒子を吸い込むことで感染。
- 飛沫感染:咳やくしゃみに含まれるウイルスで感染。
- 接触感染:水疱の中の液体に触れることで感染。
感染後、約10〜21日間の潜伏期間を経て、発疹と発熱が現れます。
発疹は赤い点から水ぶくれ、かさぶたへと変化し、1週間ほどで治癒します。
2. 大人にうつると危険?重症化のリスク
水疱瘡は多くの人が子どものうちに感染して免疫を獲得しますが、成人してから初めて感染すると、症状が強く出やすく重症化のリスクが高いことが知られています。
これは、大人になると免疫反応がより激しくなり、炎症や発熱などの症状が強く現れるためです。
● 大人の主な症状
- 38〜40℃の高熱:数日間続くことが多く、体力の消耗が激しくなります。
- 全身に広がる多数の水疱:子どもの場合よりも発疹数が多く、顔・体幹・腕・脚などほぼ全身に広がります。
- 強い倦怠感・頭痛・関節痛:発疹のかゆみだけでなく、全身の筋肉痛や関節痛を伴うこともあります。
- 肺炎・肝炎・脳炎などの合併症:特に免疫が低下している人では、水痘肺炎を合併しやすく、咳や息苦しさが強くなるケースも。まれに肝機能障害や脳炎を発症することもあります。
発疹は水ぶくれの後にかさぶたとなり治癒しますが、炎症が強いと跡が残る(瘢痕化する)こともあります。
そのため、発疹をかかないようにすることと、早期治療が重要です。
● 免疫が低下している人・妊婦は特に注意
糖尿病、悪性腫瘍の治療中、ステロイド薬や免疫抑制剤を使用している方などは、免疫力が低下しているため、重症化や合併症のリスクが高まります。
発症後は症状が急速に悪化する場合もあるため、早期に抗ウイルス薬の投与が必要です。
● 妊娠中の感染リスク
妊娠中に水疱瘡に感染すると、母体だけでなく胎児への影響も問題になります。
特に、妊娠初期と出産前後の感染は注意が必要です。
妊娠初期(〜妊娠20週ごろ)の感染
妊娠初期に母体が感染すると、胎児に先天性水痘症候群(Congenital Varicella Syndrome)を引き起こすことがあります。
これは、ウイルスが胎盤を通じて胎児に感染し、次のような症状を起こす可能性がある病態です。
- 四肢の形成異常(手足の萎縮や欠損)
- 皮膚の瘢痕(線状・帯状のあと)
- 小頭症や脳の発達遅延
- 眼の異常(白内障・網膜炎)
- 低体重、発達遅延
発症率は感染時期によって異なり、妊娠13〜20週の感染では約2%前後とされていますが、万が一の影響を考えると予防が極めて重要です。
妊娠後期〜出産直前の感染
妊娠後期、特に出産の5日前から2日後の間に母親が水疱瘡を発症すると、母体の免疫が胎児に十分移行せず、新生児水痘を発症するおそれがあります。
新生児水痘は重篤化しやすく、肺炎や多臓器障害を引き起こすこともあり、致死率が高い感染症です。
そのため、この時期に母親が感染した場合は、抗体製剤(VZIG:水痘免疫グロブリン)の投与や母子の隔離管理が行われることもあります。
● 妊婦の予防と対応
- 妊娠を希望する女性は、妊娠前に水痘ワクチンを2回接種しておくことが望まれます。
- 妊娠中は生ワクチンを接種できないため、感染者との接触を避けることが最優先です。
- 家族に水疱瘡の発症者がいる場合は、産婦人科または感染症専門医へ早急に相談してください。
- 必要に応じて、曝露後72時間以内に抗体製剤(VZIG)を投与することで重症化を防ぐことができます。

3. 水疱瘡と帯状疱疹の関係
水疱瘡の原因である水痘・帯状疱疹ウイルス(Varicella Zoster Virus:VZV)は、初感染の際に全身の皮膚に水疱を作るだけでなく、その後も体内に潜伏し続ける性質を持っています。
一度治癒したように見えても、ウイルスは完全に排除されるわけではなく、脊髄の神経節(感覚神経の根元)にひっそりと潜んでいます。
● 帯状疱疹が発症する仕組み
通常、健康なときは免疫力によってウイルスが抑え込まれています。
しかし、次のような状態になると免疫の働きが低下し、潜伏していたVZVが再活性化することがあります。
- 加齢(50歳以上で発症率が急上昇)
- 強いストレス・過労
- 睡眠不足・栄養不良
- 糖尿病などの慢性疾患
- がん治療やステロイド薬使用による免疫低下
再活性化したウイルスは神経の通り道(神経線維)を伝って皮膚表面へと移動し、痛みを伴う発疹を生じます。
これが「帯状疱疹」です。
● 帯状疱疹の主な症状と経過
- 前駆期(発疹が出る前)
体の片側に、ピリピリ・チクチクとした痛みや違和感が出ます。発疹がまだないため、神経痛や筋肉痛と勘違いされやすい時期です。 - 皮疹期
数日後、痛みのあった部分に赤い発疹が現れ、やがて小さな水疱となります。
水疱は体の左右どちらか一方に帯状に並ぶのが特徴で、顔・胸・背中・腹部・首など、神経の走行に沿って出ます。 - 治癒期
水疱が破れてかさぶたになり、約2〜4週間で治癒します。
ただし、ウイルスによって神経が損傷しているため、痛みだけが残ること(帯状疱疹後神経痛)があります。
● 帯状疱疹後神経痛(PHN:Postherpetic Neuralgia)
帯状疱疹の発疹が治った後も、神経がダメージを受け続けることで痛みが長期間残ることがあります。
この慢性的な痛みは「帯状疱疹後神経痛」と呼ばれ、次のような特徴があります。
- 皮膚が触れるだけでも強い痛みを感じる
- 服が当たる、風が吹くだけでもズキズキ痛む
- 夜眠れないほどの痛みが数か月〜1年以上続く場合もある
特に高齢者(60歳以上)や糖尿病などの基礎疾患を持つ人では発症リスクが高く、生活の質(QOL)を著しく下げることがあります。
● 特殊な部位に起こる帯状疱疹
帯状疱疹は体のどこにでも発症する可能性がありますが、神経の支配領域によって重症化しやすい部位があります。
顔面・目の周囲(眼帯状疱疹)
三叉神経(顔面の感覚神経)に沿って発症します。
目の周囲に水疱ができ、角膜炎や結膜炎を起こすと視力障害や失明のリスクがあります。
耳・口周囲(ラムゼイ・ハント症候群)
耳や口の中に水疱ができ、顔面神経麻痺(顔の片側が動かない)や難聴を引き起こすことがあります。
芸能人の例でも知られており、早期治療が極めて重要です。
● 帯状疱疹の治療
① 抗ウイルス薬
再活性化したVZVの増殖を抑える薬です。
発疹が出てから72時間以内に投与を開始することで、皮疹・痛み・神経障害の程度を軽減できます。
代表的な薬:
- アシクロビル(ゾビラックス)
- バラシクロビル(バルトレックス)
- ファムシクロビル(ファムビル)
重症例では点滴治療(入院管理)が必要なこともあります。
② 痛みの治療
- 鎮痛薬(ロキソニン、アセトアミノフェン)
- 神経痛治療薬(プレガバリン、ガバペンチンなど)
- 局所麻酔薬・神経ブロック注射
- ビタミンB12製剤(神経修復を助ける)
痛みを我慢すると慢性化するため、早期からの痛みコントロールが大切です。
● 帯状疱疹の予防 ― ワクチンの重要性
帯状疱疹は再感染ではなく、体内のウイルスが再活性化する病気です。
そのため、ウイルスを「眠らせ続ける」ために免疫力を維持することが重要です。
日本では、50歳以上を対象に帯状疱疹予防ワクチンが推奨されています。
| ワクチン名 | 種類 | 対象年齢 | 接種回数 | 特徴 |
| シングリックス | 不活化ワクチン | 50歳以上 | 2回(2〜6か月間隔) | 効果90%以上。免疫低下者にも可 |
| 乾燥弱毒性水痘ワクチン(ビケンなど) | 生ワクチン | 50歳以上 | 1回 | 効果約50〜60%。免疫正常者向け |
効果の持続はシングリックス:約10年、生ワクチン:約5年程度とされており、特に免疫が低下しやすい年代では積極的な接種が推奨されています。
● 帯状疱疹の再発と予後
帯状疱疹は基本的に1回きりですが、**再発率は約5〜6%**と報告されています。
再発しやすい人の特徴は以下の通りです。
- 高齢(60歳以上)
- 慢性的なストレス・不眠
- 糖尿病、悪性腫瘍などの持病
- 免疫抑制薬やステロイドの使用中
発症後は多くの人が回復しますが、神経痛が長引くケース(PHN)や、まれに視覚・聴覚障害などの後遺症を残すこともあるため、早期受診が鍵となります。
4. 感染した場合の治療とケア
● 大人が感染した場合
症状を軽くするために、抗ウイルス薬(アシクロビル・バラシクロビルなど)を早期に使用します。
発疹が出てから48時間以内の治療開始が効果的です。
高熱や強い倦怠感がある場合は、安静と十分な水分補給を行いましょう。
● 帯状疱疹の治療
発症初期に抗ウイルス薬を使用すると、痛みや神経後遺症の軽減につながります。
痛みが強い場合には鎮痛薬や神経ブロック療法が併用されることもあります。
ヒロクリニック小児科医からのコメント
水疱瘡は一見軽い病気に思えますが、免疫がない大人にうつると重症化のリスクがあります。
特に妊婦さんや持病のある方は注意が必要です。
また、水痘ワクチンと帯状疱疹ワクチンはいずれも安全性が高く、感染予防と重症化防止に有効です。
家族全体での感染予防と、免疫を守る生活習慣(十分な睡眠・栄養・ストレス管理)が大切です。
Q&A:水疱瘡と帯状疱疹の疑問に答えます
Q1. 子どもが水疱瘡になったとき、親はどのくらいの期間注意すればいいですか?
発疹が出てから**すべてかさぶたになるまで(約7日間)**は感染力があります。その期間は接触を最小限にしましょう。
Q2. 一度水疱瘡にかかった大人でも、再び感染しますか?
基本的には再感染しませんが、免疫が極端に低下した場合に再発することがあります。ただし、その場合は帯状疱疹として現れることが多いです。
Q3. 帯状疱疹は他人にうつりますか?
帯状疱疹自体はうつりませんが、発疹から出るウイルスに触れると、免疫のない人に水疱瘡として感染します。
Q4. 水疱瘡の予防接種を受けたのに感染することはありますか?
まれに軽症の水疱瘡にかかることがありますが、重症化を防ぐ効果は非常に高いです。
Q5. 水疱瘡にかかったとき、お風呂に入ってもいいですか?
熱がなく元気があれば入浴して構いません。
ただし、発疹をこすらず短時間で済ませ、清潔なタオルを使いましょう。
Q6. 帯状疱疹は何日くらいで治りますか?
軽症なら2〜3週間ほどで治りますが、神経痛が残ることもあります。早めの治療開始が重要です。
Q7. 帯状疱疹の痛みが強い場合、どうすればいいですか?
鎮痛薬、神経ブロック、ビタミンB12製剤などで痛みを軽減します。自己判断せず医師に相談しましょう。
Q8. 水疱瘡とコロナやインフルエンザの同時感染はありますか?
まれにあります。免疫が落ちると複数の感染症が重なることがあるため、体調管理が重要です。
まとめ
水疱瘡は子どものうちに経験することが多い病気ですが、免疫を持たない大人が感染すると重症化しやすく、帯状疱疹の原因にもなる感染症です。
家庭での感染対策、ワクチン接種、そして免疫を維持する生活習慣が何よりの予防になります。
家族の誰かが感染したときは、早めに医療機関へ相談し、適切な対応をとりましょう。
