水疱瘡 妊婦は重症化に要注意 赤ちゃんへの影響は?

2026.01.20

水疱瘡(すいほうそう/みずぼうそう)は、子どものころに一度は耳にする身近な感染症です。しかし、妊娠中に感染すると母体や胎児に深刻な影響を及ぼすことがあるため注意が必要です。
特に妊娠初期や出産直前の感染はリスクが高く、赤ちゃんに先天異常や新生児水痘を引き起こすこともあります。
この記事では、妊婦が水疱瘡に感染した場合のリスクや赤ちゃんへの影響、予防方法について、小児科の立場からやさしく解説します。

1. 水疱瘡とは?ウイルスの特徴と感染経路

水疱瘡(すいほうそう)は、水痘・帯状疱疹ウイルス(Varicella Zoster Virus:VZV)というウイルスによって起こる感染症です。VZVは「ヘルペスウイルス科」に属しており、同じウイルスが将来的に再活性化すると帯状疱疹を引き起こすことでも知られています。つまり、一度かかっても体内から完全に消えるわけではなく、神経節の中に潜伏し、免疫が落ちたときに再び活動を始めるという性質を持っています。

感染経路と感染力の強さ

水疱瘡の感染経路は非常に多様で、飛沫感染・接触感染・空気感染のすべてが成立します。
特に空気感染を起こす点が特徴で、同じ部屋にいるだけでも感染する可能性があります。例えば、保育園や学校で一人発症すると、数日のうちに複数の子どもに感染が広がることも少なくありません。感染力は麻疹(はしか)に次いで強いといわれ、免疫を持たない人の約90%が感染すると報告されています。

感染から発症までの**潜伏期間はおよそ10〜21日(平均2週間前後)**です。この期間中にもウイルスはすでに体内で増殖しており、発疹が出る1〜2日前からすでに他人にうつす力を持ちます。つまり、見た目に症状がなくても感染を広げてしまうことがあるため、家庭や職場などでの拡大を防ぐのが難しい病気です。

主な症状と経過

典型的な症状は、まず発熱(38℃前後)と倦怠感から始まり、その後、体や顔にかゆみを伴う発疹が出現します。発疹は「紅斑 → 水疱 → かさぶた」と変化していき、最終的に1〜2週間で自然に治癒します。発疹は頭皮や口の中、陰部などにもできることがあり、かゆみが強いため、かきむしってしまうと跡が残ることもあります。

一般的に子どもが感染した場合は軽症で済むことが多いものの、大人や妊婦、免疫力が低下している人では重症化することがあります。発熱が長引いたり、水疱が全身に広がったりするほか、肺炎や脳炎、肝炎などの合併症を引き起こすケースもあります。

免疫と再感染の可能性

一度水疱瘡にかかると、体はウイルスに対する免疫(抗体)を獲得します。そのため、基本的には一生に一度しか発症しない病気とされています。ただし、免疫力が著しく低下した場合(がんの治療中、ステロイド長期使用、高齢など)には、まれに再感染することがあります。また、先に述べたように、体内に潜伏していたウイルスが再び活性化し、帯状疱疹を起こすこともあります。

2. 妊婦が感染した場合のリスクと症状

妊娠中に水疱瘡(すいほうそう)に感染すると、通常よりも重症化しやすいことが知られています。これは、妊娠中の体が胎児を守るために免疫機能が一時的に抑制される仕組みになっているためです。いわば、母体の免疫が“おだやか”になっている状態であり、外から侵入したウイルスに対して十分に防御できないことがあるのです。

妊婦が重症化しやすい理由

水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)は肺や肝臓、脳などのさまざまな臓器に炎症を起こすことがあります。
特に妊娠後期では肺への負担が大きく、感染によって「妊婦水痘肺炎」と呼ばれる重い肺炎を発症するケースがあります。
妊婦水痘肺炎は、呼吸困難・高熱・咳・倦怠感などが急激に進行し、入院・酸素投与・抗ウイルス薬の点滴などが必要になることもあります。
報告によっては、妊婦が水疱瘡に感染した場合の約10〜20%に肺炎を合併し、そのうち数%が重症化するというデータもあります。免疫が低下している場合や喫煙歴のある方ではさらにリスクが高まります。

妊娠週数によるリスクの違い

妊娠中に水疱瘡に感染した場合、その時期によって母体や胎児への影響が異なります。

  • 妊娠初期(〜妊娠12週):母体の発熱や炎症が強いと流産のリスクがわずかに上昇します。胎児への影響(先天性水痘症候群)もこの時期に起こりやすく、発症率は低いものの注意が必要です。
  • 妊娠中期(13〜27週):母体が発症しても胎児に影響することは比較的少ないとされていますが、肺炎や肝炎などの全身症状には注意が必要です。
  • 妊娠後期(28週以降):出産直前(特に出産5日前〜出産2日後)の感染は最も危険です。この期間に感染すると、母体から胎児へ抗体が十分に移行しないため、生まれた赤ちゃんが新生児水痘を発症しやすくなります。

妊婦の主な症状と経過

妊婦が水疱瘡に感染すると、通常の発疹や発熱に加えて次のような症状が見られることがあります。

  • 高熱(38〜39℃前後)が数日続く
  • 強い倦怠感や関節痛
  • 咳や息苦しさ(肺炎の兆候)
  • 肝機能障害(だるさや食欲低下)
  • 発疹の範囲が広く、水疱が大きく化膿しやすい

一般的に、子どもの水疱瘡が「数日で治る軽い病気」と思われがちな一方で、妊婦では発熱期間が長く、回復までに1〜2週間かかることもあります。症状が急速に悪化することもあるため、自己判断で様子を見るのではなく、早めに産婦人科または内科を受診することが大切です。

医療機関での対応

妊娠中の水疱瘡では、症状の重さや妊娠週数に応じて治療方針が変わります。
早期に抗ウイルス薬(アシクロビルやバラシクロビルなど)を使用することで、重症化や肺炎の予防効果が期待できます。
また、感染直後や発症初期には免疫グロブリン製剤(VZIG:水痘免疫グロブリン)**を投与することで、症状を軽くすることが可能です。VZIGは特に妊娠初期〜中期に感染が確認された際に有効とされます。

治療中は母体の安静と十分な水分摂取、そして皮膚症状のケアが重要です。
発疹部分をかきむしると細菌感染を起こすおそれがあるため、入浴時には清潔を保ちつつ刺激を避け、発疹がかさぶたになるまでは他人との接触を最小限にします。

3. 胎児・新生児への影響と時期別リスク

水疱瘡の感染時期によって、赤ちゃんへの影響は大きく異なります。

妊娠初期(〜妊娠12週)

ウイルスが胎児に感染すると、まれに先天性水痘症候群を引き起こすことがあります。
これは、手足の形成異常、皮膚の瘢痕(あと)、眼の異常(白内障など)、中枢神経の発達障害を伴う可能性のある症候群です。発症率は1〜2%と低いものの、影響は深刻です。

妊娠中期(13〜27週)

胎児への感染はさらにまれになりますが、感染時の母体症状が重い場合は胎盤機能の低下発育遅延を招くことがあります。

妊娠後期〜出産直前(28週〜分娩)

特に注意が必要なのは、出産5日前から出産2日後の感染です。
この時期に母親が感染すると、母体から十分な抗体が赤ちゃんに移行できないため、新生児水痘を発症します。新生児水痘は重症化しやすく、肺炎や肝障害、敗血症を起こすことがあります。致死率は20〜30%に達することもあります。

医者

4. 感染を防ぐための予防策と抗体検査

妊娠を希望する女性や妊婦の家族にとって、水痘の予防接種と抗体確認は非常に大切です。

妊娠前の抗体検査

過去に水疱瘡にかかったことがない、またはワクチン接種歴が不明な場合は、血液検査で抗体価を確認することをおすすめします。
抗体がない場合は、妊娠前に2回のワクチン接種を受けることで高い予防効果が得られます。

妊娠中はワクチン接種不可

生ワクチンのため、妊娠中の接種はできません。誤って接種した場合も胎児への影響は報告されていませんが、基本的には避けるべきです。
そのため、妊娠を計画している段階で接種を完了させ、2回目の接種後は1か月以上避妊期間を設けることが推奨されています。

家族も予防が大切

家庭内感染を防ぐには、同居家族のワクチン接種も重要です。特に小さな子どもがいる家庭では、保育園などから持ち込むケースが多く見られます。

5. もし妊娠中に水疱瘡にかかったら?対応と治療

妊娠中に感染が確認された場合、まずは医療機関での早期受診が不可欠です。
治療には、抗ウイルス薬(アシクロビルなど)が使用されます。妊娠中でも安全に使用できる場合が多く、重症化を防ぐ効果が期待されます。

発症後24時間以内の投与がより効果的とされるため、発疹が出た時点ですぐに受診しましょう。
また、発症初期には免疫グロブリン製剤(VZIG)を投与することもあります。これは、感染後でも重症化を防ぐ目的で使用されます。

発疹がかさぶたになるまでは感染力があるため、外出を控え、家族間での接触も最小限にするようにします。
特に免疫が低い子どもや妊婦との接触は避けましょう。

6. 家族や医療関係者が知っておくべきポイント

妊婦の水疱瘡は、単なる皮膚の病気ではなく、母体と胎児の双方に影響を及ぼす全身感染症です。
家族や周囲の人が正しい知識を持つことで、予防と早期対応が可能になります。

  • 妊婦が感染したら、早急に主治医に連絡
  • 過去の感染歴や抗体の有無を確認
  • 家族全員が予防接種を受けておく
  • 出産直前に感染した場合は、母子ともに入院管理が必要

これらを理解しておくことで、母体と赤ちゃんを守ることができます。

まとめ

水疱瘡は子どもの病気と思われがちですが、妊婦にとっては重症化や胎児への影響が懸念される感染症です。
感染力が非常に強いため、日常生活の中で予防策を徹底することが大切です。

  • 妊娠前の抗体検査とワクチン接種でリスクを減らす
  • 妊娠中の感染が疑われたら、早めに医師へ相談
  • 家族全体で予防意識を持ち、感染拡大を防ぐ

医療機関では、妊娠中の感染に対応するための治療法やサポート体制が整っています。
「もし感染したらどうしよう」と不安になる前に、正しい知識と準備で母子の健康を守ることができます。