手足口病や咽頭炎の原因となるエンテロウイルス検査や登園停止はある?

2025.10.21

夏から秋にかけて流行する「手足口病」や「咽頭炎」は、子どもに多く見られる感染症です。これらの原因となるのが「エンテロウイルス」と呼ばれるウイルス群です。感染力が強いため、学校や保育園などで集団感染が起こることも少なくありません。本記事では、エンテロウイルスによる代表的な病気や症状、検査の有無、登園停止の基準、さらに家庭での対応や予防方法について詳しく解説します。

1. エンテロウイルスとは?

1-1 定義と種類

エンテロウイルス(Enterovirus)は、ピコルナウイルス科に属する小型のRNAウイルスの総称です。直径はわずか20~30ナノメートル程度と非常に小さく、顕微鏡でも確認が難しいほどです。

このグループには100種類以上の型が確認されており、代表的なものには次のようなものがあります。

  • ポリオウイルス:かつて世界中で小児麻痺を引き起こし問題となったウイルス。現在はワクチン普及により多くの国で根絶。
  • コクサッキーウイルス:手足口病やヘルパンギーナ(夏かぜ)などの原因になる。
  • エコーウイルス:無菌性髄膜炎や発疹を伴う発熱などを起こすことがある。
  • エンテロウイルスD68型:呼吸器症状を中心に流行を起こすことがあり、重症例では喘息発作のような症状を誘発することもある。

エンテロウイルスの大きな特徴は、小児に感染しやすいことです。これは、子どもが大人に比べて免疫が未発達で、初めて感染するウイルスに対する防御力が弱いためです。消化管で増殖したあと、血液やリンパを通じて全身へ広がり、さまざまな臓器や組織に影響を及ぼします。

1-2 感染経路

エンテロウイルスは、非常に感染力が強いウイルスです。主な感染経路は次の3つです。

① 飛沫感染

感染した人が咳やくしゃみをすると、唾液や鼻水に含まれるウイルスが空気中に飛び散り、周囲の人がそれを吸い込むことで感染します。特に保育園や学校など、子どもが近い距離で過ごす場所では広がりやすいです。

② 接触感染

ウイルスに汚染された物(おもちゃ、ドアノブ、手すり、タオルなど)を触った手で口や鼻をこすると、体内にウイルスが入ります。小さな子どもは無意識に手を口へ持っていくため、接触感染が起こりやすい傾向があります。

③ 糞口感染

便に含まれるウイルスが、排泄やおむつ交換の際に手を介して口に入ることで感染します。症状が治まった後もしばらく便中にウイルスが排出されるため、回復後も数週間は注意が必要です。

1-3 なぜ集団生活で注意が必要か?

エンテロウイルスは、家庭内だけでなく、保育園・幼稚園・小学校など集団生活の場で爆発的に広がりやすい特徴があります。

その理由は以下の通りです。

  • 子ども同士が距離を取らずに遊ぶため、飛沫感染が起きやすい
  • おもちゃや絵本を共有することで接触感染が頻発する
  • トイレトレーニング中の子どもでは、おむつ交換で糞口感染が起こりやすい
  • 子どもはこまめな手洗いやうがいが難しいため、感染予防が不十分になりがち

そのため、流行期には学級閉鎖や登園自粛が必要になることもあるのです。

2. エンテロウイルスが原因となる主な病気

2-1 手足口病

手足口病は、エンテロウイルス(特にコクサッキーウイルスA16型やエンテロウイルス71型など)によって引き起こされる代表的な感染症です。

主な症状

  • 発疹や水疱:手のひら、足の裏、口の中に小さな赤い発疹や水疱が出るのが特徴です。お尻や膝、肘などに広がることもあります。
  • 発熱:37〜38℃程度の軽い熱が出ることが多いですが、40℃近い高熱になることもあります。
  • 口の痛み:口内にできる水疱は食事や飲み物を摂るときに強い痛みを伴い、子どもが食欲をなくす原因になります。

経過と注意点

多くは1週間ほどで自然に回復しますが、まれに以下のような合併症が起こることがあります。

  • 髄膜炎(頭痛、嘔吐、意識障害を伴う)
  • 脳炎(けいれん、意識障害)
  • 心筋炎(息切れ、動悸)

こうした合併症は頻度は低いものの、発症すると命に関わることがあるため注意が必要です。

2-2 咽頭炎(ヘルパンギーナ)

ヘルパンギーナは、夏かぜの代表格とも呼ばれる病気で、コクサッキーウイルスA群が主な原因です。

主な症状

  • 突然の高熱:38〜40℃の熱が突然出るのが特徴です。発熱は2〜3日で下がることが多いですが、子どもの体力を奪います。
  • 喉の水疱や潰瘍:喉の奥(特に口蓋垂や軟口蓋周辺)に小さな水疱ができ、破れると潰瘍となり強い痛みを伴います。
  • 食欲不振・脱水:痛みのために食べたり飲んだりすることを嫌がり、結果として脱水症状を引き起こしやすくなります。

経過と注意点

通常は数日で自然に回復しますが、

  • 水分がほとんど取れない
  • 嘔吐やぐったり感が強い
    場合には、点滴などの処置が必要になるため早めの受診が推奨されます。

2-3 その他の疾患

エンテロウイルスは、手足口病やヘルパンギーナ以外にもさまざまな病気を引き起こすことがあります。

無菌性髄膜炎

  • 頭痛、発熱、嘔吐、首の硬直などを引き起こします。
  • 細菌性の髄膜炎とは異なり予後は比較的良好ですが、強い症状が出るため入院が必要になることがあります。

心筋炎

  • ウイルスが心臓に感染すると心筋炎を起こすことがあります。
  • 息切れ、動悸、胸の痛みなどが見られ、重症化すると心不全に至ることもあるため非常に注意が必要です。

結膜炎

  • 目の充血や痛み、涙や目やにが出ることがあります。
  • 感染力が強いため、プールやタオルの共用で広がることがあります(「プール熱」と呼ばれることも)。

3. 検査方法はある?

エンテロウイルスの感染を確定するためには、咽頭ぬぐい液や便を使ったPCR検査が有効です。ただし、日常診療においては「症状から臨床診断されること」が多く、重症例や入院が必要なケースを除いて積極的に検査されることは少ないのが現状です。

3-1 検査が行われるケース

  • 髄膜炎や脳炎が疑われる場合
  • 入院管理が必要な重症例
  • 集団感染の原因ウイルスを特定する必要がある場合

4. 登園・登校停止は必要?

4-1 手足口病の場合

法律上の「学校保健安全法」による登園停止の対象疾患ではありません。しかし、発熱や口内炎で飲食が困難な場合や全身状態が悪い場合は自宅療養が望ましいとされます。発疹や水疱がある期間はウイルスを排出しているため、登園は医師の指示に従うことが推奨されます。

4-2 咽頭炎(ヘルパンギーナ)の場合

こちらも法的な登園停止疾患には含まれていません。症状が落ち着き、熱が下がり食事や水分が摂れるようになれば登園可能とされるのが一般的です。

4-3 注意点

いずれの場合も、感染力は発症から1週間程度が最も強いため、集団生活に戻る際は医師の判断を仰ぐことが重要です。

5. 家庭でできるケアと注意点

5-1 水分補給

発熱や口内炎があると水分摂取量が減りやすく、脱水症状のリスクが高まります。経口補水液やイオン飲料、冷たい麦茶などを少量ずつ、こまめに与えることが大切です。ストローやスプーンを使うと飲みやすい場合があります。

5-2 食事

喉や口内に炎症がある場合、刺激の強い食べ物は痛みを悪化させます。

  • おすすめの食べ物:ゼリー、プリン、ヨーグルト、おかゆ、スープ、うどんなど柔らかくて冷たいもの
  • 避けたい食べ物:柑橘類や炭酸飲料、香辛料の強い料理、熱すぎる食べ物

とくにヘルパンギーナでは口内炎が強い痛みを伴うため、食欲低下や水分不足になりやすいため注意が必要です。

5-3 発熱時の対応

38.5℃以上の高熱が続く場合、体力消耗を防ぐため解熱剤を使用することがあります。ただし、自己判断ではなく医師の指示に従うことが原則です。冷却シートやぬるめのタオルで体を拭くなど、体を冷やす工夫も併用するとよいでしょう。

5-4 発疹や口内炎が出たときの対応

手足口病の発疹

  • 発疹はかゆみや痛みを伴うことがありますが、多くは自然に治まります。
  • 引っかいたり潰したりすると細菌感染を起こす恐れがあるため、なるべく触らないようにしましょう。
  • かゆみが強い場合は、医師が抗ヒスタミン薬やかゆみ止めの外用薬を処方することもあります。

ヘルパンギーナの口内炎

  • 口内炎が原因で食事や水分摂取が難しくなることがあります。
  • 痛みが強い場合は、医師が口内炎用の塗り薬やうがい薬を処方することがあります。
  • 食べる際は、冷たいゼリーやアイスクリームなど、痛みを和らげつつ栄養や水分を補える食品が有効です。

5-5 受診の目安

以下のような症状がある場合は、速やかに小児科などの医療機関を受診しましょう。

  • 発熱が翌日になっても下がらない場合(高熱が続いてぐったりしているときは特に注意)
  • 高熱が3日以上続く場合
  • 発疹が急に出た場合や、広がって悪化している場合
  • 発疹が膿んでいる、または強いかゆみで眠れない
  • 水分がほとんど取れず、尿の回数や量が極端に少ない
  • 嘔吐やけいれんを伴う
  • 意識がぼんやりする、呼びかけへの反応が鈍い

ポイント

  • 手足口病やヘルパンギーナでは、発熱が1〜2日で治まることが多いため、翌日も高熱が続く場合は注意が必要です。
  • 発疹自体は自然に出るものですが、急に悪化する・膿む・広がるといった異常がある場合は二次感染の可能性があるため、必ず受診をおすすめします。
医者

6. 予防策と家庭での対策

6-1 手洗いの徹底

石けんと流水による手洗いは、エンテロウイルス予防の基本です。

  • 必ず手洗いをするタイミング
    • トイレの後、おむつ交換の後
    • 食事の前後、おやつの前
    • 帰宅時
    • 嘔吐や便の処理後
  • 子どもが実践しやすくする工夫
    • 手洗い用の踏み台を置く
    • ハンドソープを泡タイプにする
    • 歌を歌いながら20秒以上洗う習慣をつける

6-2 消毒

エンテロウイルスはアルコールに強く、効きにくいのが特徴です。そのため次亜塩素酸ナトリウム(家庭用漂白剤を薄めたもの)による消毒が推奨されます。

  • 便や嘔吐物の処理方法
    • 使い捨て手袋とマスクを着用
    • ティッシュやペーパータオルで拭き取り、ビニール袋で密封
    • 拭いた場所を「家庭用漂白剤(塩素濃度0.1〜0.5%)」で消毒
  • 消毒が必要な物
    • トイレの便座や床
    • おむつ交換台
    • 食卓や子どものおもちゃ(プラスチック製は特に)

注意:漂白剤は金属や布に使うと変色や腐食するので、対象物によっては石けん洗浄で代用しましょう。

6-3 咳エチケット

飛沫感染を防ぐための習慣づけが大切です。

  • マスクの着用(特に咳やくしゃみがあるとき)
  • 咳やくしゃみをするときは、ティッシュや腕の内側で口を覆う
  • 使用済みティッシュはすぐにゴミ箱に捨てる
  • 小さい子どもには「くしゃみや咳をしたら手を洗う」ことを繰り返し教える

6-4 家庭内でできる工夫

  • タオルや食器の共用を避ける:家族それぞれに専用のタオル、コップを用意
  • おもちゃや絵本の消毒:アルコールに弱いので石けん洗浄や日光消毒も有効
  • 換気:1時間に1回以上、窓を開けて空気を入れ替える
  • 洗濯:汚れた衣類やシーツは速やかに洗濯し、可能であれば日光に干す

6-5 学校・保育園での対策

  • 子どもに「鼻水やよだれはすぐに拭く」「人の食べ物を共有しない」ことを教える
  • 先生や保育士に「感染症が流行していること」を共有してもらう
  • 流行期には登園・登校の目安を医師と相談する

まとめ

エンテロウイルスは子どもに多い感染症の原因となり、手足口病や咽頭炎を引き起こします。通常は自然に回復しますが、まれに重篤な合併症を伴うことがあるため注意が必要です。検査は重症例で行われることが多く、登園停止は法律上義務ではありませんが、症状が強い場合は自宅療養が望まれます。日常的な手洗いや消毒を徹底し、体調がすぐれない場合は無理せず休ませることが、集団感染を防ぐための最も有効な方法です。