子どもの咳がなかなか治まらないとき、保護者がまず心配するのは「ただの風邪なのか、それとも百日咳のような感染症なのか」という点です。百日咳は強い咳発作を繰り返し、特に乳幼児にとっては重症化のリスクもある感染症です。診断には特有の検査が必要となり、適切な受診と早期対応が不可欠です。本記事では、百日咳検査の流れ、検査を受ける目安、家庭で注意すべき点について、専門的な視点から詳しく解説します。
1. 百日咳とは?症状と特徴
百日咳(Pertussis)は、ボルデテラ・パータシス(Bordetella pertussis) という細菌が原因で起こる急性の呼吸器感染症です。日本でもワクチン接種の普及により発症率は減少していますが、乳児やワクチン未接種児、免疫が低下した高齢者では依然として注意が必要な疾患です。
百日咳の臨床経過(3つの段階)
- カタル期(1〜2週間)
- 鼻水や軽い咳など風邪に似た症状
- この時期は診断が難しいが、菌を最も排出している時期
- 鼻水や軽い咳など風邪に似た症状
- 痙咳期(2〜6週間)
- 特徴的な「発作性の咳」が出現
- 咳が連続して止まらず、息を吸うときに「ヒューッ」という音(笛声様吸気音)が出る
- 咳の後に嘔吐を伴うことも多い
- 特徴的な「発作性の咳」が出現
- 回復期(2〜8週間)
- 徐々に咳が軽快するが、完全に治るまで数か月かかる場合もある
- 徐々に咳が軽快するが、完全に治るまで数か月かかる場合もある
乳児に多い重症例
- 無呼吸発作
- チアノーゼ(顔色が紫になる)
- 肺炎や脳症など合併症
とくに生後6か月未満の赤ちゃんは症状が急速に悪化することがあり、早期診断・入院管理が求められます。
2. 咳が長引くときに百日咳を疑うポイント
「風邪だと思っていた咳がなかなか治らない」というとき、次の特徴が見られる場合は百日咳を疑います。
百日咳を疑うべきサイン
- 咳が2週間以上続いている
- 発作的に咳が連続して出る(特に夜間に悪化)
- 咳の後に嘔吐する
- 咳の後に息を吸うとき、ヒューッという音がする
- 乳児では呼吸が止まったように見える
また、家庭や保育園で百日咳患者が発生している場合は特に注意が必要です。ワクチン未接種児や免疫が弱い人に感染が広がりやすく、集団生活の場では流行につながる危険があります。
3. 百日咳検査の種類と流れ
百日咳の診断は、臨床症状に加えて検査による確定が大切です。以下の検査が行われます。
(1)PCR検査(遺伝子検査)
- 方法:鼻咽頭ぬぐい(長い綿棒で鼻の奥を擦る)を採取
- 特徴:菌の遺伝子を増幅して検出する方法で、感度・特異度ともに高い
- メリット:数時間〜1日で結果が出る、確定診断に有用
- デメリット:発症から時間が経ちすぎると陰性になる場合がある
(2)抗原迅速検査
- 方法:同じく鼻咽頭ぬぐいを用いて、専用キットで抗原を検出
- 特徴:数十分で結果が判明
- メリット:迅速に判断でき、外来でのスクリーニングに有効
- デメリット:感度が低く、陰性でも百日咳を否定できない
(3)血清抗体検査
- 方法:採血で百日咳菌に対する抗体の有無を調べる
- 特徴:感染から2〜3週間後に抗体が上昇してくるため、急性期診断には不向き
- 活用:過去に百日咳にかかったかどうか、流行の調査などに用いられる
検査の流れ(小児科外来)
- 医師が症状・家族歴・ワクチン接種歴を確認
- 鼻咽頭ぬぐいを採取(数秒で終了、少し痛みや涙が出る程度)
- 検査方法に応じて、即日〜数日で結果が判明
- 陽性なら抗菌薬治療を開始し、感染拡大防止のため登園・登校を控える
4. 小児科受診時に伝えるべき情報
診断のためには、保護者からの情報提供が重要です。
- 咳の期間・性質(発作性かどうか)
- 嘔吐の有無
- 家族や園内での流行状況
- 予防接種歴(DPT・五種混合ワクチンの接種有無)
これらを正確に伝えることで、検査・診断がスムーズになります。
5. 検査結果の見方と診断の進め方
PCR陽性であれば百日咳と診断されますが、抗原検査では偽陰性もあるため、臨床症状との組み合わせで診断されます。検査の陰性結果でも、医師が「百日咳の可能性が高い」と判断する場合は治療が開始されることもあります。
6. 百日咳と似た症状の疾患との鑑別
百日咳と間違えやすい疾患には以下があります。
- RSウイルス感染症
- マイコプラズマ肺炎
- 気管支喘息
鑑別のためにも、正確な検査と問診が必要です。

7. 百日咳の治療と家庭でのサポート
治療にはマクロライド系抗菌薬(クラリスロマイシン、アジスロマイシンなど)が用いられます。治療は咳の軽快というより、感染拡大防止の意味合いが大きいです。
家庭でのサポートとしては:
- 部屋の湿度を保つ
- 咳き込み時に体を起こしてあげる
- 水分補給をこまめに行う
8. 検査・治療における注意点
- 検査は咳が出始めてから早期に行うほど診断率が高い
- 抗菌薬は自己中断せず、処方通りに服用する
- 乳児は重症化しやすいため入院管理が必要になる場合がある
9. 予防接種(ワクチン)の重要性
百日咳はワクチンで予防可能です。日本ではDPT(ジフテリア・百日咳・破傷風)や五種混合ワクチンに含まれており、定期接種として生後3か月から開始します。接種率を高めることが集団感染防止につながります。
10. 保護者ができる予防と感染拡大防止策
百日咳は飛沫感染や接触感染で広がるため、家庭内での対策と地域社会での拡大防止の両方が重要です。
(1)ワクチン接種の徹底
- 日本では 四種混合ワクチン(ジフテリア・百日咳・破傷風・ポリオ) が定期接種として導入されています。
- 乳児は生後3か月から複数回接種を行い、さらに就学前や思春期で追加接種が推奨されています。
- 接種スケジュールが遅れないように母子手帳で管理し、未接種のまま集団生活に入らないよう注意しましょう。
(2)家庭内での感染拡大防止
- 咳エチケット:咳やくしゃみをするときはティッシュや肘で口を覆い、使用後はすぐに廃棄。
- マスクの着用:可能であれば感染者・同居家族ともにマスクを着用する。
- 手洗いの徹底:流水と石けんで20秒以上洗う。特に食事前、トイレ後、看病後は必須。
- 共有物の管理:食器やタオルの共用を避ける。
(3)登園・登校の対応
- 百日咳と診断された場合、抗菌薬を最低5日間内服するまでは登園・登校を控える必要があります。
- 完治しても数週間は咳が残ることがあるため、保護者や学校側と連携しながら復帰の目安を相談します。
(4)家庭内の環境整備
- 部屋を適度な湿度(40〜60%)に保つことで咳の刺激を和らげる。
- 睡眠環境を整え、咳き込み時に体を起こしやすいように枕の高さを工夫する。
- 水分をこまめに与え、脱水予防を徹底する。
(5)保護者自身の予防
- 実は百日咳は大人でも発症する病気で、軽症のまま子どもにうつすケースも少なくありません。
- 特に乳児を育てる家庭では、保護者自身も 追加ワクチン接種(成人向けDTaPワクチンなど) を検討することが推奨されています。
11. よくあるQ&A
Q1. 咳が3週間続けば必ず百日咳ですか?
A. いいえ。他の呼吸器感染症でも長引くことがあります。医師による診断が必要です。
Q2. 検査は痛いですか?
A. 鼻咽頭ぬぐいは多少の刺激がありますが、数秒で終わります。大きな痛みはありません。
Q3. 百日咳にかかると一生免疫がつきますか?
A. 完全な終生免疫は得られません。再感染する可能性があります。
Q4. 大人も検査や治療を受けられますか?
A. はい。思春期や成人でも百日咳は発症します。咳が長引く場合は医療機関を受診してください。
12. まとめ
百日咳は「百日も咳が続く」と言われるほど長引く感染症であり、特に乳幼児にとっては重症化のリスクが高い疾患です。
本記事のポイント
- 百日咳の特徴:発作性の咳、咳後の嘔吐、吸気時の笛声様音
- 検査方法:PCR検査が確定診断に有用、抗原検査は迅速性が高い
- 治療:マクロライド系抗菌薬で感染拡大を防止、家庭では湿度管理・水分補給を徹底
- 予防:定期接種ワクチンが最も有効、家庭内や園での感染防止対策も欠かせない
保護者へのメッセージ
お子さんの咳が長引くとき、「ただの風邪だから大丈夫」と自己判断するのは危険です。百日咳は初期には風邪と見分けがつきにくいため、**「咳が2週間以上続く」「咳発作で嘔吐する」「家族や園で流行がある」**といったサインがあれば、早めに小児科を受診してください。
また、ワクチンで予防できる疾患であることから、接種スケジュールの遵守と家族全体での感染対策が何より重要です。保護者が正しい知識を持ち、早期に対応することで、お子さんの健康と安心した生活を守ることができます。
