「子どもの咳がずっと止まらない」「熱が何日も続いていて心配」――そんな経験はありませんか?
マイコプラズマ感染症は、風邪に似た症状から始まるため気づきにくいのですが、咳が長引くことが特徴の感染症です。大きな流行になることもあり、学校や園でも話題にのぼることが多い病気です。ここでは、マイコプラズマ感染症の特徴と、受診の目安、家庭でできる工夫について、保護者の方にも分かりやすくまとめました。
マイコプラズマ感染症ってどんな病気?
マイコプラズマ感染症は、「マイコプラズマ・ニューモニエ」という非常に小さな病原体が原因で起こる呼吸器の病気です。細菌とウイルスのちょうど中間のような特徴を持ち、一般的な風邪ウイルスや細菌とは少し違ったふるまいをします。
特徴
- 細胞壁がない
普通の細菌にはある「細胞壁」という殻を持っていません。そのため、一般的な抗生物質(ペニシリン系やセフェム系)は効かず、専用の抗菌薬(マクロライド系など)が必要になります。 - 潜伏期間が長い
感染してから症状が出るまでに2〜3週間かかることがあり、知らないうちに家族や友達にうつしてしまうこともあります。 - 年齢による違い
小学生〜中学生くらいの子どもに多くみられますが、乳幼児や大人もかかります。大人では咳が長引き、子どもよりつらく感じることもあります。
どんな症状が出るの?
初めは「風邪かな?」と思うような軽い症状で始まりますが、徐々に特徴的な咳が出てきます。
- 初期症状:微熱、喉の痛み、頭痛、だるさ
- 進行後:乾いた咳が長く続く(2〜3週間以上)、熱が上がる、胸が痛む、息苦しさ
特に咳が長引くのが大きな特徴で、夜眠れなかったり、学校生活に支障が出たりします。
どうやって広がるの?
咳やくしゃみで飛び散った飛沫を吸い込んで感染します。家庭内や学校など、人が集まる場でうつりやすいのが特徴です。さらに、咳が始まる前から感染力を持つこともあるため、流行が広がりやすいのです。
なぜ「歩く肺炎」と呼ばれるの?
マイコプラズマ感染症は、肺炎を起こしていても子どもが比較的元気に動き回れることから「ウォーキングニューモニア(歩く肺炎)」とも呼ばれます。ただし、油断すると重症化することもあるため注意が必要です。
重症化や合併症のリスク
ほとんどは自然に治るか、抗菌薬で回復しますが、まれに以下のような合併症が起こることがあります。
- 気管支炎や中耳炎
- 肺炎(強い咳や高熱が続く場合)
- ごくまれに、脳炎や心筋炎など全身の合併症
特に乳幼児や高齢者、持病のある方では注意が必要です。
症状の流れ
マイコプラズマ感染症は、最初は風邪に似た軽い症状で始まりますが、日ごとに特徴的な変化が見られます。症状の経過を時系列で整理すると次のようになります。
発症初期(1〜3日目)
- 微熱(37〜38℃程度)が出る
- 喉の痛みや違和感、頭痛
- 倦怠感やだるさを感じる
- 食欲が少し落ちることもある
この時期は「ちょっとした風邪かな」と思いやすく、学校や園に行ってしまうことも多いです。
発症中期(3〜7日目)
- 熱が続いたり、時に38℃以上になる
- 乾いた咳が出始める
- 咳は少しずつ強くなり、日中よりも夜間に悪化することが多い
- 胸の奥がチクチクするような痛みを訴える子もいる
- 喉の痛みは落ち着く一方で、咳が主体の症状に変わっていく
この時期から「風邪ではないかも?」と感じる保護者が増えます。
発症後期(1〜2週間目)
- 咳がますます強くなり、夜眠れないほどになることがある
- 咳き込みすぎて吐いてしまう子もいる
- 発熱はおさまっても、咳だけがしつこく残る
- 体力を消耗し、疲れやすくなる
ここで医療機関を受診すると「マイコプラズマ肺炎」と診断されるケースが多くあります。
長引く経過(2〜3週間以上)
- 発熱は下がっても咳だけが長く残る
- 学校生活や日常に支障が出る
- 咳のせいで睡眠不足や食欲低下が続く
- まれに肺炎が悪化し、強い息苦しさを訴えることもある
咳が3週間以上続く場合、マイコプラズマ感染症以外の病気(百日咳、気管支喘息など)との区別も必要になってきます。
受診の目安
「受診すべきかどうか迷う」場面は多いですよね。次のような場合は医療機関を受診してください。
- 咳が1週間以上続いている
- 38℃以上の熱が何日も続く
- 息が苦しそう、ゼーゼー音が聞こえる
- 顔色が悪い、ぐったりしている
- 小さなお子さん(乳幼児)や持病のある方、高齢者で症状が出ている
「ただの風邪だろう」と様子を見すぎず、心配なら早めに相談することが安心につながります。
診断と治療について
診断方法
マイコプラズマ感染症は、症状だけでは風邪やインフルエンザと区別しにくいため、医療機関ではいくつかの検査を組み合わせて診断します。
- 問診・診察
咳の経過や熱の様子、家族や学校での流行状況を確認します。聴診器で肺の音を聞き、ゼーゼー・ゴロゴロといった異常がないかを調べます。 - 胸部X線検査
肺に影が出ていないかを調べる検査です。肺炎に進んでいるかどうかの判断に役立ちます。 - 血液検査
炎症の強さや、白血球・CRPといった値を確認します。強い炎症反応があれば肺炎の可能性が高まります。 - 迅速検査・PCR検査
鼻や喉の粘膜を綿棒でぬぐって、マイコプラズマの遺伝子や抗体を調べます。結果が出るまでに少し時間がかかる場合もあります。
これらを総合して、「ただの風邪か」「マイコプラズマ肺炎か」を判断します。
治療方法
マイコプラズマ感染症は、自然に治ることもありますが、症状がつらい場合や肺炎が疑われる場合は抗菌薬の内服が必要になります。
- 抗菌薬(抗生物質)
マイコプラズマは特殊な菌のため、一般的なペニシリン系・セフェム系の抗生物質は効きません。
治療には次のような薬が使われます。
- マクロライド系(クラリスロマイシン、アジスロマイシンなど):子どもにもよく使われる安全性の高い薬。
- テトラサイクリン系(ドキシサイクリンなど):小児には制限があるため主に中学生以上や大人に使用。
- ニューキノロン系(レボフロキサシンなど):成人に使われることが多い。
ただし、近年は「マクロライド耐性菌」が増えてきており、薬が効きにくい場合もあります。その際は別の種類の抗菌薬を選択します。
- 対症療法
抗菌薬で原因菌を抑えると同時に、つらい症状をやわらげるための薬を併用します。
- 解熱薬(高熱でぐったりしているとき)
- 鎮咳薬(咳止め)
- 去痰薬(痰を出しやすくする薬)
- 家庭でのサポート
薬の効果を助け、体力を回復させるために以下が大切です。- 水分をこまめにとる(発熱や咳で脱水しやすいため)
- 加湿器や濡れタオルで部屋を加湿する(乾燥すると咳が悪化)
- 無理をさせず、十分に睡眠と休養をとらせる
- 食欲がないときは消化のよい食事を少量ずつ与える
治療期間と経過
- 抗菌薬を開始すると、熱は数日で下がることが多いです。
- ただし咳はすぐには消えず、2〜3週間残ることもあります。
- 学校や園への復帰は、熱が下がって体調が安定してから。医師の判断に従うことが大切です。
家庭でできる工夫
マイコプラズマ感染症は病院での治療が大切ですが、家庭での過ごし方も回復のスピードや子どもの安心感に大きく関わります。以下の工夫を取り入れることで、症状を少しでも楽にし、合併症を防ぐことができます。
1. 十分な休養と睡眠
- 発熱や咳で体力を消耗するため、無理に登校・登園させず、自宅で安静に過ごすことが大切です。
- 睡眠不足は免疫力の低下につながるため、昼寝を取り入れて休ませましょう。
- 咳で眠れないときは枕を少し高めにすると楽になることがあります。
2. 水分補給をこまめに
- 発熱や咳で体の水分が失われやすいため、こまめな水分補給が重要です。
- 水や麦茶、経口補水液などが適しています。糖分の多いジュースや炭酸飲料は避け、のどにやさしい温度で与えましょう。
- 咳き込みで一度に飲みにくい場合は、スプーンで少しずつ与えるのも効果的です。
3. 食事の工夫
- 食欲が落ちやすいため、無理にたくさん食べさせる必要はありません。
- 消化の良いもの(おかゆ、うどん、スープ、ゼリーなど)を少量ずつ与えましょう。
- たんぱく質(卵、豆腐、鶏肉など)やビタミン(果物、野菜)をバランスよく取り入れると回復を助けます。
- 強い咳で吐いてしまった後は、少し休んでから再び少量ずつ与えると安心です。
4. 室内環境の整え方
- 加湿:乾燥は咳を悪化させるため、加湿器や濡れタオルを利用して湿度50〜60%を目安に保ちましょう。
- 換気:1〜2時間に1回、短時間の換気で空気を入れ替え、感染拡大や空気のよどみを防ぎます。
- 温度管理:急な寒暖差は体に負担となるため、室温を一定に保つ工夫も大切です。
5. 咳への工夫
- 夜間の咳で眠れない場合は、頭を少し高くして寝かせると楽になります。
- 温かい飲み物(はちみつ湯など)は咳を和らげる効果があります。ただし、1歳未満には蜂蜜は与えないよう注意してください。
- 入浴は高熱がなく体調が落ち着いていれば問題ありません。入浴で気道の湿度が上がり、咳が和らぐこともあります。
6. 心のケア
- 長引く咳で子どもが不安になったり、眠れないことにイライラすることもあります。
- 「大丈夫だよ」「少しずつよくなってるよ」と声をかけ、安心感を与えることが大切です。
- 学校や友達と遊べないことを寂しく感じる子には、本を読んだり絵を描いたりと、無理のない範囲で気分転換をさせてあげましょう。

7. 家族内での感染予防
- 手洗い・うがいを徹底し、タオルやコップは共用しないようにします。
- 家族もマスクを着用して、二次感染を防ぎましょう。
- きょうだいが同じ部屋で寝る場合は、できれば一時的に別室で寝かせると安心です。
予防のポイント
完全に防ぐのは難しいですが、次の工夫が役立ちます。
- 手洗い・うがいを習慣に
- マスクで咳やくしゃみを防ぐ
- 食器やタオルの共有は避ける
- 学校や園では流行時に無理をさせず休ませる
まとめ
マイコプラズマ感染症は、最初は風邪のようでも咳が長引くことが特徴です。多くは軽症で済みますが、熱や咳が続くとき、息苦しさがあるときには早めの受診が安心です。
家庭での工夫と医療機関での治療を組み合わせて、子どもの体調をサポートしていきましょう。
