子どもがマイコプラズマにかかったら 治療法や登園のめやす

2025.10.07

秋から冬にかけて流行しやすい「マイコプラズマ感染症」。咳が長引き、熱が下がらないなど、保護者を悩ませる感染症のひとつです。特に幼児や学童期の子どもに多く見られ、集団生活で広がりやすいことから、家庭内でのケアや登園のタイミングが重要です。この記事では、マイコプラズマにかかった子どもの治療法、家庭での対応、登園の目安について、わかりやすく解説します。

1. マイコプラズマ感染症とは?

マイコプラズマ感染症とは、Mycoplasma pneumoniae(マイコプラズマ・ニューモニエ)という非常に小さな病原体によって引き起こされる呼吸器感染症です。
マイコプラズマは細菌の一種ですが、細胞壁を持たないという特徴があり、一般的な細菌とは異なる性質を持ちます。このため、通常の風邪や肺炎に使われるペニシリン系・セフェム系抗生物質が効かないのが大きな特徴です。

年齢と感染しやすい時期

主に5歳〜15歳の学童期の子どもに多くみられ、秋から冬にかけて流行します。ただし、保育園児や高校生・大人にも感染することがあり、家庭内や学校など人が密集する環境で広がりやすい傾向があります。

感染経路は主に飛沫感染と接触感染で、感染者の咳やくしゃみのしぶきに含まれる病原体を吸い込むことで感染します。また、潜伏期間は2〜3週間と比較的長いため、知らないうちに家庭内や園内で広がることも珍しくありません。

症状の特徴

マイコプラズマ感染症の初期症状は、いわゆる「かぜ」と似ています。

  • 発熱(38〜39℃前後)
  • のどの痛み
  • 倦怠感
  • 頭痛
    といった一般的な症状から始まり、その後乾いた咳(空咳)がしつこく続くのが特徴です。特に夜間や明け方に咳き込みやすく、睡眠を妨げるほど強い咳が続くケースもあります。

熱は数日で下がっても咳だけが2〜3週間続くこともあり、「長引く咳が止まらない」「風邪薬を飲んでも改善しない」という場合、マイコプラズマ感染が疑われます。

肺炎を引き起こすことも

マイコプラズマ感染は、気管支炎や肺炎の原因になることがあります。特に肺炎を起こした場合は「マイコプラズマ肺炎」と呼ばれ、日本の小児肺炎の約2〜3割を占めるとされています。
マイコプラズマ肺炎は一般的な肺炎に比べて症状が軽いことも多いですが、咳が長引くため**「歩く肺炎(walking pneumonia)」**とも呼ばれています。

重症化することはまれですが、免疫力の弱い乳幼児や基礎疾患のある子どもでは、高熱が続く・呼吸が苦しい・咳で食事や睡眠が取れないといった症状がみられることもあります。

感染拡大を防ぐために

マイコプラズマ感染症は、ワクチンが存在しないため、手洗い・うがい・咳エチケット・換気などの基本的な感染対策が重要です。
発熱や咳がある場合は、登園・登校を控え、早めに小児科を受診することで、周囲への感染拡大を防ぐことができます。

2. 診断と検査の流れ

小児科では、症状と経過をもとにマイコプラズマ感染を疑った場合、迅速検査や血液検査、胸部レントゲンを行います。

よく行われる検査

  1. 迅速抗原検査:鼻や喉のぬぐい液を使ってマイコプラズマ抗原を検出します。数十分で結果がわかります。
  2. 抗体検査(PA法など):感染初期では陰性となることもあるため、経過を追って実施します。
  3. 胸部レントゲン:肺炎の程度を確認します。

症状が典型的な場合は臨床的判断で治療を開始することもあります。特に咳が長く、他の家族やクラスで流行している場合は、マイコプラズマの可能性が高まります。

医者

3. 治療法と回復までの流れ

抗菌薬治療

マイコプラズマは一般的な抗生物質(ペニシリン系・セフェム系)では効果がありません。
そのため、**マクロライド系(クラリスロマイシン、アジスロマイシンなど)**が第一選択となります。

ただし、近年ではマクロライド耐性菌も増加しており、効果がみられない場合はテトラサイクリン系(ミノサイクリン)やニューキノロン系に変更されることもあります(※年齢や症状により判断)。

解熱剤や咳止めの併用

発熱や強い咳に対しては、症状を和らげる目的で解熱鎮痛薬や鎮咳薬を併用します。ただし、咳を完全に止めることは難しく、気道を刺激しないような環境づくりが大切です。

回復までの目安

  • 軽症の場合:発熱は3〜5日で下がり、咳は1〜2週間で改善
  • 肺炎を伴う場合:完治まで2〜3週間かかることも

熱が下がっても咳が長く続くケースが多く、体力の回復を見ながら登園のタイミングを判断することが大切です。

4. 家庭でできるケアと注意点

体を休める

マイコプラズマ感染は体力を消耗しやすいため、十分な休息が必要です。
睡眠をしっかりとり、無理に登園や外出を再開しないようにしましょう。

水分補給

咳や発熱で脱水になりやすいので、こまめな水分補給を心がけましょう。麦茶、経口補水液、スープなどを少しずつ頻回に与えると良いです。

室内環境

  • 室内の湿度を50〜60%に保つ
  • ほこりやタバコの煙を避ける
  • 咳き込みやすい夜は枕を少し高くして呼吸を楽に

家族への感染予防

  • 咳エチケット(マスクの着用)
  • 手洗い・うがいの徹底
  • タオル・食器を共有しない
  • 換気を定期的に行う

マイコプラズマは潜伏期間が1〜3週間あり、感染力も比較的長いため、家族内感染にも注意が必要です。

5. 登園・登校の目安

医師の判断を優先する

マイコプラズマ感染症は、学校保健安全法で出席停止の指定感染症には含まれていません
しかし、発熱や咳が強い間は周囲への感染を防ぐためにも登園・登校は控えるのが望ましいです。

一般的な目安としては:

  • 熱が下がってから2〜3日経過
  • 咳が落ち着き、体力が戻っていること

園や学校によって登園基準が異なる場合があるため、医師の診断書や登園許可書を求められることもあります。医師と相談しながら無理なく再登園を判断しましょう。

6. こんなときは再受診を

以下のような症状がある場合は、再度小児科を受診してください。

  • 3日以上高熱が続く
  • 咳がひどくなり夜眠れない
  • 呼吸が浅く、ゼーゼー・ヒューヒューする
  • 顔色が悪くぐったりしている
  • 食欲や水分摂取ができない

肺炎に進行している可能性もあるため、早めの対応が重要です。

7. 回復後の体力回復と再発予防

マイコプラズマ感染後は、体の免疫力が低下しています。
完治後もしばらくは、次のような点に気をつけてください。

  • 栄養バランスの良い食事をとる
  • 睡眠を十分に確保する
  • 外出や運動は少しずつ再開する

また、咳が完全に止まるまでには時間がかかるため、咳き込みが続くからといって登園を急がないことも大切です。

8. まとめ:焦らず回復を見守ることが大切

マイコプラズマ感染症は、いわゆる「軽い風邪」と誤解されやすい一方で、症状が長引きやすく、回復に時間のかかる病気です。特に咳は体力を消耗し、夜眠れない日が続くことで子どもも保護者も疲れてしまうことがあります。
しかし、焦って登園・登校を急ぐよりも、ゆっくりと体力と免疫力を取り戻す期間を設けることが、最終的には早い回復につながります。

治療では、医師が処方する抗菌薬を指示通りに最後まで飲み切ることが最も重要です。マイコプラズマは途中で薬をやめてしまうと菌が残り、再燃したり耐性菌を増やしたりする恐れがあります。発熱が下がっても自己判断で中止せず、必ず医師の指示に従いましょう。
また、薬の効果が出るまで数日かかることもあるため、「すぐに咳が止まらない=効いていない」と思わず、経過を観察しながら焦らず対応することが大切です。

家庭では、安静と十分な睡眠、水分補給を心がけ、部屋の湿度(50〜60%)を保つことで気道への刺激を和らげられます。
咳が続くときは、寝具を少し高くして呼吸をしやすくする、加湿器を使う、ほこりを減らすなど、環境面の配慮も効果的です。
また、子ども自身が「早く学校に行きたい」と焦る気持ちを持つこともありますが、無理に外出させると再発の原因になることもあります。「もう少し休んで体を大切にしようね」と声をかけ、心の安心を支えることも保護者にできる大切なケアです。

さらに、家庭内で感染を広げないためには、咳エチケットや手洗いの習慣を家族全員で徹底することが欠かせません。マイコプラズマは長期間体内にとどまることがあり、治ったと思っても咳を通じて感染を広げる可能性があります。
兄弟姉妹がいる家庭では、食器やタオルの共有を避ける、寝室を分ける、換気をこまめに行うなどの対策を心がけましょう。

登園・登校の再開は、**「熱が下がって2〜3日経過し、咳が落ち着いて元気が戻ってきた頃」**が一つの目安です。園や学校によっては医師の登園許可書を求める場合もあるため、必ず医師の指導に従って判断してください。
無理に復帰を急ぐと、完治しないまま症状がぶり返すこともあります。医師と保護者が連携し、子どもの体調を第一に考えたスケジュールで進めましょう。

マイコプラズマ感染症は、正しく対応すればほとんどの場合は合併症を残さず回復します。
大切なのは、焦らず、無理をさせず、子どもの「回復する力」を信じて支えること。保護者の落ち着いた対応が、子どもにとって最大の安心につながります。
「治るまでの時間も治療の一部」と考え、家庭全体でゆったりとした気持ちで見守ることが、完全な回復へのいちばんの近道です。