鼻水や咳など、風邪のような症状から始まり、重症化すると肺炎や髄膜炎、敗血症を起こすこともある「肺炎球菌」。
とくに乳幼児や高齢者は免疫が未熟・低下しているため、感染すると重い症状を引き起こすことがあります。
この記事では、肺炎球菌とはどんな細菌なのか、感染経路や症状、そして予防のためにできることをわかりやすく解説します。
1. 肺炎球菌とは?基本的な特徴
肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)は、顕微鏡で見ると2つの球状の細菌がペアになって並んでいる特徴的な形をしています。この細菌は、健康な人の鼻や喉の奥(鼻咽頭)にすみついていることがあり、普段は「常在菌」として症状を起こしません。
しかし、免疫力が下がったときや、風邪やインフルエンザなどのウイルス感染後には、肺や中耳、血液など本来いないはずの場所に侵入し、感染症を引き起こすことがあります。これが「肺炎球菌感染症」です。
肺炎球菌には現在、90種類以上の型(血清型)が確認されており、それぞれが少しずつ異なる性質を持っています。感染を防ぐためのワクチンは、その中でも発症しやすい型をカバーするように作られています。
たとえば、日本で使われている小児用ワクチン「PCV13」は13種類の型に対応しており、重症化しやすい髄膜炎や敗血症の発症を大幅に減らしています。
この細菌のやっかいな点は、抗菌薬(抗生物質)に対する耐性を持つ株が増えていることです。以前はペニシリンで簡単に治療できた肺炎球菌も、現在では薬が効きにくい「耐性肺炎球菌(PRSP)」が問題となっています。そのため、医師は検査結果や地域の流行状況をもとに、より適切な抗菌薬を慎重に選んで治療を行います。
肺炎球菌は、冬から春にかけて特に流行しやすく、空気が乾燥する季節には鼻や喉の粘膜が傷つきやすくなるため、感染のリスクが高まります。また、乳幼児や高齢者では免疫機能が十分でないため、感染すると急激に症状が進むことも少なくありません。
とはいえ、肺炎球菌が存在しても必ず病気を起こすわけではなく、多くの場合は体の免疫がしっかりと守ってくれています。大切なのは、「免疫が落ちたときにどのように備えるか」という点です。
ワクチンによる予防と、日常的な手洗い・うがい、十分な睡眠と栄養が、肺炎球菌感染を防ぐための基本になります。
2. 感染経路とかかりやすい人
肺炎球菌は、主に飛沫感染と接触感染によって人から人へうつります。
感染者が咳やくしゃみをした際に放出された細かいしぶき(飛沫)の中に肺炎球菌が含まれており、それを周囲の人が口や鼻から吸い込むことで感染します。
また、飛沫が手やドアノブ、おもちゃなどに付着し、それを介して口や鼻に触れることで感染が広がることもあります。これが接触感染です。
肺炎球菌は、健康な人の鼻や喉の奥にも「すみついている」ことがあるため、感染しても必ず症状が出るわけではありません。
特に保育園や幼稚園など、子ども同士が密に接する環境では、互いに菌を持っていても無症状のことが多く、気づかないうちに菌をやり取りしているケースもあります。
そのため、鼻水や咳が長引くときや、家族に同じような症状の人がいるときは、肺炎球菌を原因とする感染症の可能性も考えられます。
感染を起こしやすいタイミング
肺炎球菌は普段は静かに存在していますが、体の抵抗力が落ちたときに「攻撃的」に変化します。
たとえば、
- 風邪やインフルエンザにかかったあと
- 睡眠不足やストレスが続いたとき
- 栄養バランスが崩れているとき
などには、菌が増殖して肺や耳、中耳、血液などに入り込み、症状を引き起こします。
特にウイルス感染のあとに肺炎球菌が重なって感染すると、二次感染による肺炎を発症しやすく、入院が必要になることもあります。
かかりやすい人
肺炎球菌に感染しても健康な成人では軽症で済むことが多いのに対し、以下のような人では重症化するリスクが高くなります。
- 5歳未満の乳幼児
免疫機能がまだ十分に発達していないため、感染が広がりやすく、肺炎や髄膜炎を起こすことがあります。
特に1歳未満の赤ちゃんは抵抗力が弱く、発熱やぐったりした症状が出た場合には早めの受診が必要です。 - 65歳以上の高齢者
加齢により免疫力が低下し、肺や気道の防御機能も弱まるため、肺炎球菌による肺炎や敗血症の危険が高まります。 - 慢性疾患を持つ人
心臓、肺、肝臓、腎臓などに慢性的な疾患がある場合や、糖尿病、がんなどの治療中の人も免疫力が下がりやすく、重症化のリスクが高いとされています。 - 免疫抑制状態の人
ステロイド治療中や臓器移植後、自己免疫疾患などで免疫を抑える薬を使用している人も注意が必要です。
季節性と集団生活での注意点
肺炎球菌は一年を通してみられますが、冬から春にかけての乾燥期に増える傾向があります。
保育園や学校では、咳や鼻水があるときにマスクを着用し、鼻をかんだティッシュはすぐに捨てる、手をこまめに洗うなどの基本的な衛生習慣を徹底することが大切です。
また、家庭内では兄弟姉妹や祖父母への感染を防ぐため、タオルや食器を共有しない、こまめに換気をするなど、身近な環境からの対策も効果的です。
3. 肺炎球菌が引き起こす主な病気
肺炎球菌は、さまざまな部位に感染を起こすことがあります。
① 肺炎
最も多い感染症です。高熱・咳・呼吸困難などを起こします。
X線検査で肺の一部が白くうつり、抗菌薬による治療が必要です。
② 中耳炎
乳幼児で非常に多く、耳の痛みや発熱を伴います。
繰り返すと聴力に影響することもあります。
③ 副鼻腔炎
鼻づまりや膿のような鼻水が続きます。慢性化すると頭痛や集中力低下を招くことも。
④ 髄膜炎
脳や脊髄を包む膜に感染が広がる病気で、命に関わることもあります。
強い頭痛、嘔吐、意識障害、けいれんなどを伴い、緊急治療が必要です。
⑤ 敗血症
血液中に菌が広がる状態で、高熱・意識低下・手足の冷感などを引き起こします。
重症化するとショック状態に陥ることがあり、集中治療が必要になります。
4. 診断と治療の流れ
肺炎球菌感染症が疑われる場合、医師は症状の確認とともに、胸部レントゲン、血液検査、喀痰検査などを行います。
重症の場合は、髄液検査や血液培養で菌の特定を行うこともあります。
治療法
主に抗菌薬(抗生物質)を使用します。
ペニシリン系、セフェム系、マクロライド系など、症状の重さや耐性菌の有無に応じて使い分けられます。
ただし、近年では抗菌薬が効きにくい「耐性肺炎球菌」が増加しており、適切な薬の選択が重要です。
医師の指示どおりにきちんと服用を続けることが、治療成功のカギになります。
5. 肺炎球菌ワクチンによる予防
肺炎球菌感染症を防ぐ最も効果的な方法がワクチン接種です。
小児向けワクチン:PCV13(13価肺炎球菌ワクチン)
13種類の型に対応しており、日本では生後2か月から定期接種として接種が始まります。
接種スケジュールは以下の通りです。
- 初回:生後2・3・4か月の3回
- 追加:12〜15か月で1回
このワクチンにより、髄膜炎や敗血症などの重症例が大幅に減少しました。

高齢者向けワクチン:PPV23(23価肺炎球菌ワクチン)
23種類の型に対応し、成人や高齢者の肺炎予防に効果があります。
1回の接種で約5年程度効果が持続し、再接種が推奨されることもあります。
ワクチンの効果
- 肺炎球菌による重症感染症の発症を防ぐ
- 保菌率を減らし、家庭内感染を抑える
- 集団免疫の形成に貢献
副反応としては、注射部位の腫れや軽い発熱などが一時的に見られますが、いずれも自然に治まることがほとんどです。
6. 日常生活での感染予防ポイント
ワクチンに加えて、日常生活での予防意識も大切です。
手洗い・うがいの習慣
外出後や食事前には、石けんで20秒以上手を洗いましょう。
小さな子どもには歌をうたいながら楽しく習慣づけるのがおすすめです。
十分な睡眠と栄養
免疫力を保つために、バランスの取れた食事と十分な睡眠を心がけましょう。
咳エチケット
咳やくしゃみをするときは、ティッシュや肘で口を覆い、周囲への飛沫を防ぎます。
保育園・学校での配慮
発熱や強い咳がある場合は無理をせず休ませ、回復を待ちましょう。
感染症が流行している時期は、おもちゃやドアノブの消毒も有効です。
7. まとめ
肺炎球菌は、日常生活の中で誰もが接する可能性のある細菌ですが、体調や免疫力が落ちたときに重症化しやすいという特徴があります。
特に乳幼児や高齢者では、肺炎、髄膜炎、敗血症など命に関わる病気を起こすこともあるため、早期発見と予防が重要です。
ワクチン接種によって多くの重症例を防ぐことができるようになりました。
定期接種のスケジュールを守り、かかりつけ医と相談しながら予防を進めましょう。
また、日々の生活の中でも「手洗い」「栄養」「休養」といった基本的な習慣が、感染予防の第一歩です。
肺炎球菌を正しく理解し、家族みんなが安心して過ごせるよう、日常の小さな予防を積み重ねていきましょう。
医師・医学博士 / ヒロクリニック岡山駅前院 院長
資格・所属
- 日本小児科学会 小児科専門医
- 日本小児科学会認定 出生前コンサルト小児科医
この記事は、ヒロクリニック小児科の編集・監修体制にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
医師 / ヒロクリニック札幌駅前院 院長
資格・所属
- 日本小児科学会 小児科専門医
- 日本アレルギー学会 所属
この記事は、ヒロクリニック小児科の編集・監修体制にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。