お子さんの健康を守るために欠かせないのが「定期予防接種」です。定期予防接種は法律で定められ、国や自治体が費用を負担して受けられるワクチン接種のことを指します。予防接種は単に病気にかかりにくくするだけでなく、重症化を防ぎ、社会全体で感染を広げない役割を担っています。本記事では、定期予防接種の種類や対象年齢、そして受ける意味について、小児科の視点からわかりやすく解説します。
1. 定期予防接種とは?基本的な仕組み
1-1 予防接種の目的と社会的意義
予防接種は、感染症に対してあらかじめ免疫をつけることを目的とした医療行為です。ウイルスや細菌の一部を弱めたり無毒化した「ワクチン」を接種することで、体がその病原体を記憶し、将来感染した際に重症化を防ぐ仕組みです。
特に定期予防接種は、個人を守るだけでなく「社会全体を守る」という役割があります。多くの人が予防接種を受けることで集団免疫が形成され、ワクチンを接種できない乳児や基礎疾患を持つ人々を守ることにもつながります。
1-2 定期予防接種と任意接種の違い
日本における予防接種は大きく 「定期接種」 と 「任意接種」 に分けられます。
- 定期接種:予防接種法に基づいて国が接種を推奨し、公費で費用が負担されるもの。対象年齢内であれば原則無料で受けられます。
- 任意接種:法的な義務はなく、希望者が自己負担で受ける接種。例として、インフルエンザワクチンやおたふくかぜワクチンがあります。
定期接種は、感染症が社会全体に与える影響や重症化リスクの高さを考慮し、「国が公衆衛生上不可欠」と判断したもの です。
1-3 定期予防接種の対象者と年齢区分
対象者は主に乳幼児・小児ですが、思春期や成人、高齢者まで幅広く含まれます。代表例として以下のように年齢ごとに区分されています。
- 乳児期(生後2か月〜1歳前後):ヒブ、小児用肺炎球菌、四種混合、B型肝炎、ロタなど
- 幼児期(1歳〜6歳):MRワクチン(水痘、日本脳炎なども含む)
- 学童期〜思春期:二種混合(DT)、HPVワクチンなど
- 高齢者:肺炎球菌ワクチン、インフルエンザワクチン
このように対象年齢が細かく決められており、接種時期を逃すと自己負担になる場合があるため、母子手帳での確認と計画的な接種 が重要です。
1-4 予防接種法と接種義務の位置づけ
定期予防接種は予防接種法で定められており、自治体には住民に接種を受けさせる「努力義務」があります。保護者も子どもに接種させる「努力義務」を負っています。ただし、強制ではなく、医師の判断や体調により延期や中止も可能です。
この仕組みにより、個人の自由を尊重しながら公衆衛生を維持するバランス が保たれています。
1-5 接種方法と安全性の確保
定期予防接種は通常、小児科や指定医療機関で実施されます。
- 接種前には問診票で体調を確認し、医師による診察を受けます。
- ワクチンは注射または経口で投与され、副反応のリスクについても説明を受けます。
- 接種後は数分〜30分程度、体調変化がないか観察されます。
副反応の報告体制も整っており、厚生労働省が全国的に情報を収集し、安全性の確保に努めています。このように定期予防接種は、「個人の健康」と「社会全体の安全」 を両立させるための仕組みであり、公費で受けられる大きなメリットがあります。
2. 定期予防接種の種類と対象年齢
厚生労働省が定める定期予防接種は、多岐にわたります。以下では代表的なワクチンを年齢別にまとめます。
2-1 乳児期に接種するワクチン
- 小児用肺炎球菌ワクチン:肺炎や中耳炎の原因菌から守ります。
- 五種混合ワクチン(ジフテリア・百日せき・破傷風・ポリオ・ヒブ):生後2か月から接種し、複数回の追加接種で免疫を強化。
- B型肝炎ワクチン:母子感染や将来的な肝がん予防に有効。
- ロタウイルスワクチン:重症の胃腸炎を防ぐ。経口ワクチンであり、生後早期に接種。
- BCGワクチン:生後5か月から接種。結核を予防する。
2-2 幼児期に接種するワクチン
- MRワクチン(麻しん・風しん混合):1歳で1回目、小学校入学前に2回目。先天性風しん症候群の予防にも重要。
- 水痘ワクチン(水ぼうそう):1歳から2回接種で重症化を防ぐ。
- 日本脳炎ワクチン:3歳から接種開始。蚊を媒介とする感染症を予防。
- おたふくかぜワクチン(任意だが推奨):難聴など重い合併症を防ぐため接種が望ましい。
2-3 学童期・思春期以降のワクチン
- HPVワクチン(子宮頸がん予防ワクチン):小学校6年生〜高校1年生相当の女子が対象。9価ワクチンも普及。
- 二種混合ワクチン(DT:ジフテリア・破傷風):11歳〜12歳で追加接種。
- 成人・高齢者のワクチン:高齢者の肺炎球菌、インフルエンザ定期接種も対象。
3. なぜ定期予防接種は必要なのか?
定期予防接種は単に「病気を防ぐ」ためだけではなく、子どもの命を守り、社会全体の健康を維持し、将来の医療負担を減らすという複合的な目的を持っています。ここではその意義を多角的に解説します。
3-1 個人の命と健康を守るため
乳幼児や小児は、免疫システムが未成熟で感染症にかかりやすく、また重症化しやすい傾向があります。例えば、細菌性髄膜炎や百日せきは、数日で命に関わる状態に進行することもあります。
ワクチンを接種していれば、
- 感染そのものを防ぐ効果(発症予防効果)
- 感染しても症状を軽く済ませる効果(重症化予防効果)
が期待できます。特に日本で定期接種として導入されたワクチンは、いずれも「重篤な合併症や死亡のリスクが高い感染症」に対して有効性が認められたものです。
つまり、定期予防接種は 子どもの命を守るための最前線の医療手段 といえるのです。
3-2 集団免疫を形成し社会全体を守るため
予防接種が重要とされる理由の一つが「集団免疫」です。
ある病気に対して人口の一定割合以上が免疫を持つと、病原体が社会に広がりにくくなり、接種できない人(乳児・妊婦・免疫不全の人など)を守ることができます。
例:
- 麻しん(はしか) は感染力が非常に強く、集団免疫を成立させるには人口の95%以上の接種率が必要とされています。
- 風しん は妊婦が感染すると胎児に「先天性風しん症候群」を引き起こす可能性があるため、社会全体で流行を抑えることが特に重要です。
集団免疫は「自分のため」だけでなく 「社会全体を守る責任」 に基づいた仕組みといえます。
3-3 将来の合併症や慢性疾患を防ぐため
一部の感染症は、単なる急性の発症にとどまらず、将来的に重篤な病気を引き起こすリスクがあります。
- B型肝炎ウイルス:乳幼児期に感染すると、慢性肝炎や肝硬変、肝がんのリスクが高くなります。
- HPV(ヒトパピローマウイルス):子宮頸がん、肛門がん、咽頭がんなどの原因となります。
- 水痘ウイルス:幼少期に感染すると体内に潜伏し、成人以降に帯状疱疹として再活性化することがあります。
予防接種は「現在の健康」だけでなく 「将来の健康リスク」まで予防する長期的な効果 を持っています。
3-4 医療費・社会的負担を軽減するため
感染症の流行は、医療費の増大や社会生活への影響をもたらします。
- 入院や重症治療が必要になれば医療費は膨大になります。
- 保護者は看病のために仕事を休まざるを得ず、社会的・経済的損失が生じます。
- 大規模な流行は医療機関の逼迫を引き起こし、他の患者の治療にも影響します。
ワクチン接種にかかる費用は、公費負担で軽減されており、結果として 社会全体の医療コスト削減に寄与 しています。世界保健機関(WHO)も「予防接種は最も費用対効果の高い医療介入」と位置づけています。
3-5 感染症の根絶や制御に寄与するため
予防接種は、歴史的に感染症を根絶・制御してきた実績があります。
- 天然痘:ワクチン普及により1980年に世界根絶。
- ポリオ:日本では1975年以降の国内感染が報告されておらず、WHOも世界的根絶を目指しています。
- 麻しん:国内では一時的に排除状態にありましたが、海外からの持ち込み例で流行が再燃することもあります。
ワクチンは「個人予防」だけでなく、人類全体の感染症制御に貢献する手段 でもあるのです。
3-6 接種しないリスクと「ワクチンギャップ」
一方で、定期予防接種を受けないと、以下のようなリスクが生じます。
- 流行地域に行った際に感染する
- 接種を控えた集団でアウトブレイクが発生する
- 社会的に弱い立場の人々に感染が広がる
実際、接種率が一時的に低下したHPVワクチンや風しんでは、社会的問題が顕在化しました。こうした 「ワクチンギャップ」 があると、再び感染症が流行する恐れがあります。
4. 接種スケジュールと注意点
4-1 接種スケジュールの複雑さ
乳幼児期は短期間に複数のワクチンを接種する必要があります。スケジュールを守ることが感染症から確実に守る第一歩です。
母子手帳には接種予定が記載されており、必ず確認しましょう。
4-2 副反応への理解
予防接種には発熱や接種部位の腫れなどの軽い副反応が出る場合があります。まれに重い副反応もありますが、発症リスクと比べると予防接種を受ける利益の方が大きいとされています。
4-3 接種を控えるべき場合
高熱がある場合や、医師が体調不良と判断した場合は延期されます。必ず接種前に小児科医に相談しましょう。

5. 定期予防接種に関するよくある質問(Q&A)
Q1. 定期接種は無料ですか?
A. 定期接種は公費で受けられるため、原則無料です。ただし対象年齢を過ぎると自己負担になります。
Q2. ワクチンは同時接種して大丈夫?
A. 小児科では複数のワクチンを同日に接種することが一般的で、安全性も確認されています。
Q3. 「副反応が怖いから、接種しない方が安全では?」
A. 副反応は確かに存在します。接種部位の腫れや一時的な発熱など軽度の症状が多く、数日で自然に治まることがほとんどです。まれに重い副反応が報告されることもありますが、その発生頻度は極めて低く、感染症にかかった場合の重症化リスクと比較すると、予防接種の利益がはるかに大きいと科学的に証明されています。
接種を避けることで「副反応のリスク」を減らしても、結果的に「感染症そのものによるリスク」が格段に高くなるのです。
Q4. 「自然に免疫をつけた方が強いのでは?」
A. 自然感染で免疫を獲得できることは事実ですが、その過程で重症化したり、合併症を起こす可能性があります。例えば麻しんは肺炎や脳炎を引き起こし、死亡率も高い感染症です。水痘も自然感染すると重症肺炎や脳炎を合併するケースがあります。
ワクチンは「病気にかからずに免疫をつける方法」であり、自然感染よりも 安全かつ確実に免疫を獲得 できるのです。
Q5. 「同時に複数のワクチンを打つと体に負担では?」
A. 日本小児科学会やWHOは、複数ワクチンの同時接種を推奨しています。すでに世界中で安全性が確認されており、子どもの免疫システムは複数の病原体に同時に対応できる力を持っています。
むしろスケジュールを守らず接種を遅らせる方が、感染リスクが高まり危険です。
Q6. 「病気はもう流行していないから、接種しなくても大丈夫?」
A. 日本では天然痘やポリオなど過去に流行した感染症が根絶・制御されていますが、それはワクチン接種率が高く維持されているからです。接種をやめれば、再び流行する可能性があります。実際、風しんは接種率低下に伴い再流行し、妊婦や胎児に影響が出た事例があります。
「流行していない」=「必要ない」ではなく、「流行していない」=「予防接種が効いている証拠」 です。
Q7. 「副反応の責任は誰が負ってくれるの?」
A. 万一、重い副反応が起こった場合には「予防接種健康被害救済制度」によって医療費や補償が受けられます。国と自治体が責任を持って制度を運営しており、安心して接種を受けられる仕組みが整っています。
まとめ:定期予防接種は子どもを守る大切な医療
定期予防接種は、感染症からお子さんを守る最も有効な手段です。乳幼児期から計画的に接種を進めることで、重症化や合併症を防ぎ、社会全体の感染拡大を抑える効果もあります。副反応についての不安もありますが、医師と相談しながら進めることで安全に接種できます。
親としての最大の役割は、子どもが安心して成長できる環境を整えること。その第一歩として、定期予防接種をしっかりと受けさせることが重要です。
