手足口病の初期症状、見逃さないためのポイント

2025.10.07

保育園や幼稚園に通う乳幼児に多い「手足口病」は、初期症状が風邪と似ているため見逃されがちです。しかし、適切な初期対応ができるかどうかで、子どもの症状の進行度や家族・周囲への感染リスクが大きく変わってきます。本記事では、手足口病の初期症状を正しく見抜くためのポイントや、家庭でできるケア、予防策を小児科専門の知見を元に詳しく解説します。特に乳幼児を育てるご家庭では、早期発見と感染対策の知識が非常に重要です。

1. 手足口病とは?原因ウイルスと流行時期

手足口病は、主に乳幼児を中心に発症する急性ウイルス性疾患で、名前の通り「手」「足」「口の中」に特徴的な発疹や水疱が現れます。風邪のような症状と軽視されがちですが、集団生活をしている子どもたちの間では非常に感染力が強く、注意が必要です。

◾ 原因となるウイルス

手足口病の原因ウイルスには複数の種類があり、それぞれ症状や重症度が異なります。

ウイルス名特徴
コクサッキーウイルスA16一般的な手足口病の主な原因。症状は比較的軽め。
エンテロウイルス71(EV71)重症化のリスクがある。まれに中枢神経系(脳炎、無菌性髄膜炎)に合併することがある。
コクサッキーウイルスA6発疹が広範囲に出る傾向があり、回復後に皮膚の剥離を伴うことも。

◾ 感染経路と感染力

  • 飛沫感染:くしゃみや咳によるウイルスの拡散
  • 接触感染:おもちゃやドアノブ、食器などを通じた間接感染
  • 糞口感染:排泄物に含まれるウイルスが手指や物を介して口に入る

感染力は非常に強く、発症前日から発疹消失後1週間程度まで感染のリスクがあります。また、排泄物からのウイルス排出は2〜4週間続くこともあるため、オムツ交換時の注意が重要です。

◾ 流行時期

  • 6月~8月の夏季を中心に流行しますが、地域によっては春や秋に発生することもあります。
  • 梅雨時期から初夏にかけて急増する傾向があり、保育園・幼稚園・小学校などで集団感染を起こすケースも多数報告されています。

2. 初期症状と見逃されやすいサイン

手足口病の初期症状は風邪や夏風邪と非常によく似ており、明確な発疹が出る前の見極めが非常に重要です。特に症状を言葉でうまく表現できない乳幼児においては、保護者の観察が鍵を握ります。

◾ 初期の典型症状

症状内容
微熱または平熱37℃台前半の発熱が多く、熱が出ない場合もある。
食欲の低下特に口内の痛みが強くなると、突然食事を拒否することがある。
喉の違和感のどに痛みや違和感があるが、子どもは言葉にできないため機嫌の悪化で表れる。
よだれの増加口腔内の潰瘍や水疱が原因で唾液の分泌が増えることがある。

◾ 見逃されやすいサイン

  • 指や足の裏を触ると痛がる
  • 突然「冷たいもの」しか欲しがらなくなる
  • 発熱前からよだれが異常に多くなる
  • 夜中に頻繁に目覚める/眠りが浅い

これらのサインは「口腔内に水疱ができ始めている」「足裏がチクチクする」「喉がイガイガする」といった体の異変の初期信号です。

◾ 発疹の出現パターン

  • 発症から1~2日で、手のひら、足の裏、口の中に小さな水疱が現れます。
  • 発疹はかゆみよりも「ピリピリとした痛み」を伴い、触れるのを嫌がる子どもも多いです。
  • お尻、膝、肘、背中にまで広がることもあります。

3. 病院を受診すべきタイミング

手足口病は多くの場合、自然経過で改善しますが、次のような症状がある場合は速やかな医療機関の受診が必要です。

◾ 医師に相談すべき症状

  • 39℃以上の高熱が続く(2日以上)
  • 水分を受け付けず、尿量が極端に減る
  • 嘔吐を繰り返す、下痢が止まらない
  • 発疹が急激に広がる/血が混じっている
  • 呼びかけに反応しない/元気が極端にない

◾ 合併症への警戒

手足口病は軽症で済むことが多い反面、一部のウイルス型(特にEV71)では重症化の恐れがあります。以下のような合併症に注意が必要です。

  • 無菌性髄膜炎:強い頭痛、嘔吐、項部硬直
  • 脳炎:けいれん、意識混濁
  • 心筋炎:呼吸困難、動悸、顔色不良

これらは極めて稀ですが、念のため、「いつもと違う」と感じたら早めの受診が安心です

医者

4. 家庭でのケアと過ごし方のポイント

手足口病の治療は、ウイルスに対する特効薬が存在しないため、症状に合わせた「対症療法」が基本となります。以下のような具体的な対応を心がけましょう。

◾ 発熱時の看病

  • 適度に体を冷やす:冷却シートや氷枕を使う。冷房は25〜27℃程度で。
  • 解熱剤は医師の指示で使用:自己判断で市販薬を使うのは避け、アセトアミノフェン系が第一選択。
  • 水分補給を最優先:お茶、湯冷まし、OS-1、リンゴジュースなど、子どもが好む飲み物をこまめに。

◾ 食事の工夫と口内炎ケア

  • 避けるべき食品
    • 熱いもの
    • 酸っぱいもの(みかん、ポン酢など)
    • 塩辛いもの(梅干し、味噌汁の具など)
  • おすすめ食品
    • ヨーグルトやプリン
    • 冷やしうどん(具なし)
    • おかゆ、白米のとぎ汁
    • 冷たいゼリーやバナナ
  • ストローやスプーンは柔らかいものを使用:金属製は避け、プラスチックやシリコン製を推奨。

◾ 睡眠環境の整備

  • 静かな室内で睡眠を確保:咳や痛みで眠れないこともあるため、昼寝も含めて十分な休養を。
  • 暗めの照明、テレビはオフに:刺激を減らし、自然な睡眠を誘導します。
  • ぬいぐるみやタオルで安心感を:不安や痛みを紛らわすサポートになります。

◾ 生活の注意点

  • 入浴は解熱後、全身状態を見てから:無理に入れる必要はなく、蒸しタオルで体を拭くだけでも十分。
  • 兄弟姉妹との接触制限:特に未就学児は感染しやすいため、遊びを一時的に制限するのも対策の一つ。

5. 登園・登校の目安と注意点

厚生労働省によれば、手足口病は学校保健安全法に基づく「第三種感染症」に分類されており、明確な登園停止基準はありません。しかし、以下の条件を満たすまでは登園・登校を控えることが望ましいとされています。

登園・登校再開の目安

  • 解熱後24時間以上経過している
  • 食事・水分が普通に摂れる
  • 全身状態が良く、活動できる
  • 発疹が乾燥し、かさぶた状になっている

園や学校によって対応が異なるため、医師の意見書の提出を求められることもあります。

6. 家庭内での感染予防と再感染への対応

手足口病は非常に感染力の強いウイルス性感染症であり、特に乳幼児が複数いる家庭や、兄弟姉妹で密に生活している環境では家庭内感染が拡がりやすい特徴があります。感染を広げないためには、症状が軽い場合でも早期に予防行動をとることが極めて重要です。

感染経路別・家庭でできる具体的な対策

① 飛沫感染対策

  • 患児が咳やくしゃみをする際にはマスクの着用(2歳以上推奨)。できない年齢の場合は看病者が必ず着用。
  • 咳エチケットの徹底:口を手ではなくティッシュや袖で覆う習慣を教える。
  • 看病する人以外の家族はできるだけ接触を控える

② 接触感染対策

  • おもちゃ、食器、ドアノブ、テーブル、リモコンなどの共用物は毎日消毒。
    • 推奨:家庭用次亜塩素酸ナトリウム液(0.05〜0.1%)やアルコール除菌シート。
  • タオルや歯ブラシの共用は厳禁。家族それぞれのものを分けて使い、使用後は毎回洗濯・消毒。
  • スマホ、タブレットなどの電子機器類も忘れず拭き取り清掃

③ 糞口感染対策(最も重要)

  • オムツ交換の際は手袋着用+使い捨てペーパーで処理
  • おむつはビニール袋に密閉して即廃棄
  • オムツ交換後、トイレ後、食事前には30秒以上の石けん手洗い
  • 便中に含まれるウイルスは症状消失後も2〜4週間排出されるため、完治後もしばらく注意が必要。

感染予防において大切な姿勢

最後に重要なのは、「症状が軽いから」と油断せず、家庭内の“全員が感染源になり得る”という視点で生活を設計することです。

  • 完治後も数週間ウイルスが便中に残る
  • 症状が出ないまま感染している「不顕性感染」もある
  • 集団生活再開後の二次感染リスクにも注意

これらを踏まえ、家庭内全体で感染管理を“日常的な習慣”にすることが、再感染・再拡大の最大の防御策となります。

7. Q&A:保護者が知っておきたい疑問と回答

Q1. 手足口病は何回もかかるの?
→ はい。原因ウイルスが複数あるため、再感染することがあります。

Q2. 熱がないけど発疹がある。手足口病?
→ 熱が出ないケースもあります。発疹と口内炎があれば可能性が高いです。

Q3. 大人にも感染しますか?
→ まれですが感染します。大人は症状が重くなる場合もあります。

Q4. 妊婦が感染すると胎児に影響はありますか?
→ 基本的に重篤な影響は少ないとされていますが、念のため主治医に相談してください。

Q5. 発疹が痒そうだけど薬を塗ってもいい?
→ 原則として自然治癒しますが、強いかゆみや痛みがある場合は医師に相談しましょう。

Q6. 兄弟にうつらないようにするには?
→ 食器・タオルを分ける、手洗いを徹底する、排泄物の処理後はすぐ手を洗うことが重要です。

Q7. 病院で治療薬は出されますか?
→ 対症療法として解熱剤や口内炎用の塗り薬が処方されることがありますが、ウイルスを直接治す薬はありません。

8. まとめ:初期対応が感染拡大を防ぐ鍵

手足口病は軽症で済むことも多い反面、見逃されやすい初期症状から始まり、家族や園内での集団感染を引き起こすリスクもある感染症です。特に次のポイントを押さえることが、症状の悪化を防ぎ、周囲への感染拡大を抑える鍵となります。

  • 口の中の痛み・食欲低下を初期サインとして見逃さない
  • 発疹の場所や特徴をしっかり観察
  • 水分と栄養の確保を第一にした家庭ケアを行う
  • 家庭内での衛生管理を徹底する
  • 園や学校との連携を怠らない

子どもの健康と安全のために、手足口病に対する正しい知識と冷静な対応を家庭で備えておくことが大切です。