梅毒

この記事でわかること

  • 梅毒がどのような病気で、なぜ近年になって感染者が増えているのか
  • 第1期・第2期など病期ごとに症状がどう変化し、なぜ一時的に消えるのか
  • 血液検査による診断の流れと、ペニシリンを使った治療方法
  • 放置した場合のリスクと、パートナー同時検査・予防の考え方

梅毒とは(近年の感染増加)

梅毒は、梅毒トレポネーマという細菌が全身に広がる感染症です。かつては減少していましたが、いまは注意すべき身近な病気になっています。

原因となる細菌は梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)という、らせん状の形をした細菌です。主に性的な接触によって、皮膚や粘膜の小さな傷口から体内へ入り込みます。

侵入した細菌は感染部位にとどまらず、血液の流れに乗って全身へと運ばれていきます。そのため症状は皮膚だけでなく、全身のさまざまな場所にあらわれるのが特徴です。

日本国内の報告数は近年大きく増えました。2023年には全国で約1万5千人と過去最多を記録し、翌2024年も1万4千人台と高い水準が続いています。

感染はかつて特定の集団に多いとされていましたが、いまは男女を問わず、幅広い年代で報告されています。若い女性での増加も指摘されているのが実情。

診察をしていて感じるのは、「自分には関係ない」と思っていた方ほど、検査結果に驚かれるという点です。感染経路に心当たりがあれば、早めの検査をおすすめしたいところですが、まずは正しい知識から確認していきましょう。

梅毒の病期ごとの症状

梅毒の症状は、感染からの時間経過とともに第1期・第2期・潜伏期・晩期へと段階的に移り変わります。しかも途中で症状が自然に消えるため、治ったと誤解しやすい病気です。

感染してもすぐに症状は出ません。潜伏期間は一般に感染後およそ3週間とされ、数日から3か月程度まで個人差があります。

症状が出る場所や見え方は人によって異なります。ここでは、一般に知られている典型的な経過を病期ごとに整理します。

第1期(感染からおよそ3週間)

細菌が入り込んだ部位に、最初のしるしがあらわれる時期です。感染した場所に限って症状が出ます。

性器・口の中・唇・肛門など、接触のあった部位に硬いしこり(初期硬結)や、中央がえぐれた潰瘍ができます。足の付け根のリンパ節が腫れることもあります。

この病変は痛みやかゆみを伴わないことが多いのが特徴です。そのため気づかない方や、放っておく方が少なくありません。症状の乏しい、静かな始まり。

やっかいなのは、これらの症状が治療をしなくても数週間で自然に消えてしまう点です。消えても体内の細菌は残ったままで、病気は次の段階へ進みます。

第2期(感染から数か月)

細菌が血流に乗って全身へ広がり、皮膚などに多彩な症状が出る時期です。第1期の症状が消えたあと、しばらくしてあらわれます。

代表的なのが、手のひらや足の裏を含む全身に出る赤い発疹(バラ疹)です。かゆみが乏しく、風邪や湿疹と間違われることもあります。

ほかに発熱・倦怠感・のどの痛み・リンパ節の腫れ・脱毛など、全身の症状が出ることもあります。肛門や陰部に、いぼ状の隆起(扁平コンジローマ)ができる場合もあります。

第2期の症状もまた、数週間から数か月で自然に軽快します。この自然消失こそが、受診を遅らせる大きな落とし穴です。

潜伏期(無症状の時期)

症状が消えていても、体内に細菌がひそんでいる時期です。見た目には健康そのものに見えます。

この時期は血液検査でしか感染を確認できません。感染から1年以内を早期潜伏、それ以降を後期潜伏と区別します。症状がないぶん、他の人へうつしていることに気づきにくい状態です。

晩期(数年から数十年後)

治療を受けないまま長い年月が過ぎると、重い臓器障害につながることがある時期です。現在は治療が普及し、ここまで進む例は減っています。

皮膚や骨、内臓にゴム腫と呼ばれる病変ができたり、心臓の血管や神経がおかされたりすることがあります。神経がおかされる神経梅毒は、実はどの病期でも起こりうると考えられています。

病期 おおよその時期 主な症状
第1期 感染後およそ3週間 感染部位の硬いしこり・痛みの少ない潰瘍、リンパ節の腫れ。数週間で自然消失
第2期 感染後数か月 手のひら・足の裏を含む全身の発疹(バラ疹)、発熱、倦怠感、脱毛など
潜伏期 症状消失後 自覚症状なし。血液検査でのみ確認できる
晩期 数年〜数十年後 皮膚・骨・内臓のゴム腫、心血管や神経の障害(現在はまれ)

梅毒の感染経路と原因

梅毒は主に性的な接触を通じて、粘膜や皮膚の傷口から感染します。第1期・第2期の病変には細菌が多く、この時期は特にうつりやすいと考えられています。

感染の中心となるのは、性交渉やオーラルセックス、アナルセックスなどの性的接触です。粘膜どうしや、皮膚の小さな傷を介して細菌が移動します。

口を使った行為でものどや唇に感染するため、性器だけでなく口の中に病変が出ることもあります。コンドームは接触しない部分をすべて覆えるわけではなく、防ぎきれない場合があります。

まれに、感染者の体液や血液に直接触れることで、皮膚の傷口や粘膜からうつることもあります。日常的な握手や、入浴・食器の共用などで簡単にうつる病気ではありません。

もう一つ見落とせないのが、妊娠中の母親から胎児への感染です。胎盤を通じて赤ちゃんにうつる経路については、放置のリスクの章でくわしく説明します。

梅毒の検査・診断(血液検査)

梅毒の診断は、主に血液検査で抗体を調べて行います。ただし感染直後は検査に出にくいため、時期を考えた判断が必要です。

検査では、性質の異なる2種類の抗体を組み合わせて調べるのが一般的です。それぞれ役割が違い、両方をあわせて総合的に評価します。

一つは病気の勢いをみる検査で、治療がうまくいくと数値が下がっていきます。もう一つは感染したことがあるかどうかをみる検査で、こちらは治ったあとも陽性が続くことが多いものです。

注意したいのが、感染してまもない時期の検査です。抗体がまだ十分にできておらず、感染していても陰性になる(偽陰性)ことがあります。

そのため、感染の機会から日が浅い場合は、2〜4週間ほど期間をあけて再検査することがあります。症状などから感染が強く疑われるときは、検査が陰性でも治療を始める場合があります。

ヒロクリニックなんば心斎橋院では男女ともに診療しており、女性の検体採取は女性看護師が担当します。人目や周囲の目が気になる方に配慮し、秘匿性を重視した自費(実費)診療にも対応しています。

検査の種類 調べること 治療後の変化
非トレポネーマ検査(RPRなど) 病気の活動性・治療効果の判定 治療がうまくいくと数値が低下する
トレポネーマ検査(TP抗体など) 過去も含めた感染の有無 治ったあとも陽性が続くことが多い

梅毒の治療方法

梅毒はペニシリン系の抗菌薬による治療で対応できる病気です。病期に応じて、内服または注射で治療を進めます。

治療の中心となるのはペニシリン系の抗菌薬です。長く使われてきた実績があり、いまも第一選択と位置づけられています。

内服による治療では、アモキシシリンなどの抗菌薬を、病期に応じて数週間しっかり飲みきります。自己判断で途中でやめると、治療が不十分になるおそれがあります。

注射による治療では、持続性ペニシリン製剤の筋肉注射を使います。この製剤は2022年に国内で発売され、世界的にも標準とされる治療です。

注射の場合、早期の梅毒では1回の注射で、進行した後期の梅毒では週1回を計3回行います。飲み忘れの心配が少なく、通院回数を抑えられるのも利点。

ペニシリンにアレルギーがある方には、別の系統の抗菌薬を用いることもあります。治療を始めた直後に、発熱などの一過性の反応が出る場合があり、あらかじめ説明を受けておくと安心です。

治療の効果は、血液検査で抗体の数値が十分に下がったかどうかで確認します。数値が下がりきるまで、性交渉は控えてください。パートナーへの感染や、治りきらないうちの再感染を避けるためです。

治療法 方法の目安 特徴
内服(飲み薬) 抗菌薬を病期に応じて数週間服用 毎日欠かさず飲みきる必要がある
注射(筋肉注射) 早期は単回、後期は週1回を計3回 通院回数が少なく、飲み忘れの心配が少ない

梅毒を放置するとどうなる

梅毒は自然に治る病気ではなく、放置すると全身の重い障害や母子感染につながるおそれがあります。症状が消えても、体内で進行し続けるためです。

治療をしないまま何年も経つと、心臓の血管や神経がおかされ、生活に支障をきたすことがあります。神経梅毒では、麻痺や物忘れといった症状が出る場合もあります。

もう一つ深刻なのが、妊娠中の母親から赤ちゃんへの感染です。胎盤を通じて胎児にうつると、先天梅毒となり、流産・早産・死産や、生まれた赤ちゃんの発育・神経の異常につながることがあります。

だからこそ、妊婦健診では梅毒の血液検査が行われます。妊娠を考えている方やパートナーは、早めに感染の有無を確かめておくと安心につながります。

さらに、梅毒があるとHIVなど他の性感染症にも感染しやすくなると指摘されています。皮膚や粘膜に病変があることで、別の病原体が入り込みやすくなるためです。

外来で診ていると、症状が自然に消えたことで安心してしまい、受診が遅れる方に少なからず出会います。症状が消えても治ったわけではないという点を、ぜひ覚えておいてください。

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予防とパートナーの検査

梅毒の予防は、感染機会を減らす工夫と、パートナーと一緒に検査・治療を受けることが柱になります。片方だけ治しても、再びうつし合うおそれがあるためです。

基本となるのは、性的接触のときにコンドームを正しく使うことです。ただし覆えない部分の接触では防ぎきれないため、過信は禁物といえます。

感染がわかったら、パートナーも一緒に検査・治療を受けてください。自分だけ治療しても、パートナーが感染していれば再びうつされてしまいます。これをピンポン感染と呼びます。

見落としやすいのが、複数の性感染症に同時にかかっているケースです。梅毒が見つかった際には、クラミジア淋菌感染症などの検査もあわせて検討します。皮膚や粘膜に症状が出る性器ヘルペスとの区別が必要なこともあります。

そして何より、早期に検査を受けることが最大の予防につながります。早い段階で見つけて治療すれば、体への負担も、周囲へ広げるリスクも小さく抑えられます。

心当たりがあっても症状がない、周囲に知られたくない、という方もいらっしゃるはずです。当院ではオンライン診療や秘匿性に配慮した診療にも対応していますので、一人で悩まず相談してください。

よくある質問

梅毒について、外来で患者さんからよく寄せられる質問をまとめました。受診前の不安を減らす手がかりにしてください。

Q. 症状が自然に消えたのですが、治ったのでしょうか?

いいえ、症状が消えても治ったわけではありません。梅毒は第1期や第2期の症状が自然に消えても、体内に細菌が残り、病気は進行を続けます。症状がなくなったときこそ、検査を受けてほしい時期です。

Q. 潜伏期間はどのくらいですか?

一般に、感染してからおよそ3週間で最初の症状が出るとされます。ただし数日から3か月程度まで個人差があります。症状が出るまでの間も他の人にうつす可能性があるため、心当たりがあれば早めに検査を受けてください。

Q. のどや口にもうつりますか?

はい、口を使った性的接触によって、のどや唇、口の中に感染することがあります。性器に症状がなくても、口の中に病変が出る場合があります。オーラルセックスも感染経路になる点を知っておいてください。

Q. 一度治れば、もう感染しませんか?

いいえ、梅毒は治ったあとでも、再び感染することがあります。感染歴があっても十分な免疫は残りません。治療後もコンドームの使用やパートナーとの同時検査といった予防を続けてください。

Q. パートナーに症状がなければ検査は不要ですか?

いいえ、症状がなくても検査を受けてください。梅毒は無症状の潜伏期があり、症状がないまま感染していることがあります。片方だけ治療しても再びうつし合うため、パートナーも一緒に検査・治療を受けてください。

Q. 検査結果が陰性でしたが安心してよいですか?

感染してまもない時期は、感染していても陰性(偽陰性)になることがあります。感染の機会から日が浅い場合は、2〜4週間あけて再検査をすることがあります。症状や心当たりがあるときは、結果にかかわらず医師に相談してください。

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監修医師

畠中 聡(ヒロクリニックなんば心斎橋院 院長/日本泌尿器科学会 泌尿器科専門医)


関連情報(検査・女性の視点)

梅毒は、性感染症検査専門サイトや女性向けの解説もあわせてご覧いただけます。

医師監修 監修日:2023年7月4日

畠山 聡先生 (はたやま さとし)

医師・医学博士 ヒロクリニック医師

略歴

  • 2016年 大阪市立大学(現:大阪公立大学)卒業
  • 2016年 育和会記念病院
  • 2019年 大阪鉄道病院
  • 2021年 大阪公立大学附属病院
  • 2022年 大阪鉄道病院医長
  • 2023年 ヒロクリニックなんば心斎橋院院長

資格・所属

  • 日本泌尿器科学会認定の泌尿器科専門医

この記事は、ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。