血管腫(赤アザ・血管性腫瘍など)は、生まれつきあるケースや幼少期に現れるケースがあり、見た目の悩みや機能的な問題を抱える人も少なくありません。しかし近年、レーザー治療技術の進歩により、「目立たなくする」ことが相当数可能になってきています。本記事では、レーザー治療が血管腫に対してなぜ効果を発揮するのか、どのような種類の血管腫に適応するか、治療手順、効果・限界、リスクやメンテナンスの視点まで、専門性を持って丁寧に解説します。
1. 血管腫とは何か:分類と病態
血管腫 vs 血管奇形
「血管腫(hemangioma)」と呼ばれる病変には、実際には 血管腫(良性の血管性腫瘍) と 血管奇形(vascular malformation) が含まれることがあります。これらは発症時期・進展パターン・治療反応性などで異なります。
- 乳児血管腫(いちご状血管腫):出生後に発生・増大し、数年で自然縮小することが多いもの。
- 単純性血管腫(毛細血管奇形に相当):平坦な赤あざとして出生時から存在し、自然消失しないケースが多い。
- 海綿状血管腫、複合型、混合型 等:病変が皮膚深部や皮下に及ぶタイプ。これらはレーザー反応性が低いこともあります。
病態のポイント:なぜ赤く見えるのか
血管腫(特に表在性の場合)は、皮膚の近くに拡張した毛細血管が多量に存在し、皮膚を通じて赤血球(酸化ヘモグロビン)の赤色が透けて見えることが主因です。レーザー治療はこの赤色(ヘモグロビン)をターゲットにして、選択的に異常血管を破壊・閉塞させることを狙います。
ただし、血管の深さ・太さ、血管網の複雑さ、血流速度、皮膚の厚さなどがレーザー反応性に大きく関わります。深いところにある血管や太い径のものには反応しにくいことがあります。
2. レーザー治療の原理と種類
レーザー原理(選択的光吸収・熱作用)
レーザー治療は、「光‐熱変換原理」に基づきます。ターゲット(この場合は血管中の赤血球中のヘモグロビン)が特定波長の光を吸収し、それが熱エネルギーに変換されます。その熱で血管壁を傷害し、最終的に血管が閉塞または壊変して目立たなくなるという流れです。
この際、レーザー光が周囲に過度なダメージを与えないよう、パルス幅(照射時間)やクーリング機構(冷却装置)を併用し、皮膚側の障害を抑えることが重要です。
主なレーザー種類・装置
以下のようなレーザー装置・方式が、血管腫治療に用いられています:
| 装置/方式 | 特徴・用途 |
| ロングパルス色素レーザー(Pulsed Dye Laser, PDL/可変パルス幅型) | 赤あざ治療の基本機器。595 nm付近などが使われ、浅層から中層の毛細血管に効果を発揮。 |
| Nd:YAGレーザー | より深部の血管まで届くが、熱拡散や副作用リスクも高め。乳児血管腫や複雑型に併用されることも。 |
| 可変式ロングパルス色素レーザー | パルス幅を可変でき、血管径や皮膚厚さに合わせて最適化可能。 |
| ピコ秒レーザー | 従来より照射時間を極端に短くできるため、熱ダメージを抑えやすく、ダウンタイムを短縮できる可能性があります。さいたま赤十字病院ではピコレーザー導入例あり。 |
レーザー装置はひととおり万能ではなく、波長・パルス幅・出力・照射モードなどを適切に設定することが治療成功の鍵になります。
3. 適応血管腫と治療開始のタイミング
適応となる血管腫の例
レーザー治療は必ずしもすべての血管腫に適応するわけではありません。以下は比較的レーザー治療が期待される例です:
一方、以下のようなケースではレーザー単独では十分な効果が得られにくいことがあります:
- 深部血管に及ぶタイプ
- 太い血管径を持つ血管網
- 盛り上がり・腫瘤化した部分(表皮の肥厚や結合組織変化を伴うもの)
- 高流速血流を持つ病変
こうしたケースでは、レーザー治療と薬物療法(例:プロプラノロール内服)を併用する戦略も取られています。
治療を始める適切なタイミング
レーザー治療を早期に始めた方が、赤みや血管拡張が深くならないうちに対応でき、目立たない仕上がりが得られやすいと考えられています。
ただし、乳児血管腫の場合は自然縮小傾向もあるため、慎重に判断する必要があります。多くは「待機観察(watchful waiting)」戦略をとるケースもあります。
特に、整容的・機能的に問題が予想される部位(顔面・眼周囲・口唇・耳など)は早期治療を検討すべき例とされています。
4. 治療の流れとプロトコル
レーザー治療を受ける際の一般的なプロセスを以下に示します。
1. 初診・診察・評価
- 問診(発症経過、拡大傾向、出血・潰瘍化履歴など)
- 視覚的観察、写真記録
- 血流評価、深度評価(場合によっては超音波やダーモスコピーなど)
- 適応判断と治療計画立案
この段階でレーザー治療可能かどうか、併用治療の必要性などを決定します。
2. 前準備・注意事項
- 日焼けや皮膚炎がある場合は、先にそれを落ち着かせる
- 施術部位のメイク・日焼け止めを除去
- 患部の冷却や、必要に応じて麻酔クリーム・麻酔テープの使用
- 保護装置(アイシールドなど)の装着
3. 照射(レーザー治療)
- 医師が設定した出力・パルス幅・スポット径でレーザー照射
- 照射中、冷却装置や冷風吹き付けなどで皮膚保護
- 照射後に治療部位に軟膏を塗布、ガーゼで覆うことも
痛みは「輪ゴムで弾かれたような刺激」と表現されることが多く、冷却併用で軽減されることが一般的です。

4. アフターケア・フォロー
- 照射後:腫れ、発赤、内出血、小さなかさぶた、水疱などが生じることあり
- 軟膏の塗布・保護(ガーゼ等)
- 入浴は原則翌日から可能(強くこすらない、熱湯不可)
- 紫外線対策(遮光・日焼け止め)
- 再来院による経過観察、次回照射の可否判断
5. 繰り返し照射と間隔
実例:Vビーム治療の流れ(四谷見附クリニック例)
同クリニックでは、半年に1回程度の間隔で 色素レーザー(Vビームプリマ) を照射し、5~7回の施術で赤みがかなり軽減された例が報告されています。
5. 効果の目安、限界と再発要因
効果の目安
- 照射を重ねるごとに「赤みの低減」「血管径の縮小」「視覚的な改善」が見られる
- 多くの施設では “ほぼ目立たなくなる” 段階まで至る例も報告されています(ただし完全消失は必ずしも保証されない)
- 症例によっては、浅い毛細血管部分は良好に改善し、深部血管部分のみ薄く残ることもあります。
限界・再発要因
レーザー治療には、原理上および臨床的に次のような限界があります:
- 深部血管へのアクセス限界
深層の血管には光が届きにくく、反応が弱くなることがあります。 - 再通過・再開通
一度閉塞した血管が時間の経過とともに再び通じる現象も報告されています。 - 色素再発
赤みを失っても、時間が経つとまたピンク~赤みが戻ることがあります。特に加齢、血管新生の影響、紫外線暴露などが関与。 - 多数の血管径や分布のばらつき
太さや深さが異なる血管が混在するタイプでは、一律の設定では対応しきれないことがあります。 - 治療効果の頭打ち
照射を重ねても、ある回数を越えると著効が出にくくなることがあります。 - 瘢痕化や皮膚変化(肥厚など)
特に長期放置された血管腫では皮膚変化が起きており、レーザーで対応しにくいケースもあります。
これらを踏まえつつ、照射計画を個々に最適化することがとても重要です。
6. リスク・合併症と注意点
レーザー治療は比較的安全な治療とされていますが、次のようなリスクや合併症が報告されています。
主なリスク・合併症
- 発赤・腫脹・内出血:一般的で、治療後1~2週間程度持続することあり
- 痂皮・かさぶた形成:治癒過程で現れることが多い
- 水疱・びらん:高出力設定や熱ストレスが強い場合に起こる可能性
- 色素沈着・炎症後色素沈着:治療後、一時的に皮膚がくすんだり茶色くなることがある
- 色素脱失(色素が抜ける)や白斑化
- 瘢痕(傷あと)やひきつれ・皮膚肥厚
- 感染のリスク
- まれに熱傷(やけど)
- 周囲組織へのダメージ(例:眉毛の脱毛、周囲毛細血管への影響)
注意点と対策
- 適切な冷却装置を使用して熱ダメージを最小化
- 出力やパルス設定は慎重に段階的に調整
- 照射後のケア(軟膏・ガーゼ・遮光など)を徹底
- 紫外線対策を必ず行う
- 日焼け肌・過敏肌・皮膚炎がある場合は慎重対応
- 特定部位(眼周囲、口唇、粘膜近傍など)は専門的配慮が必要
- 小児や乳児の場合は麻酔や鎮痛管理を併用
- 治療後の経過を長期に観察し、トラブルを早期に対応
これらを理解して治療に臨むことで、リスクを抑えつつ良好な治療結果を得る可能性を高められます。
7. 保険適用・費用・メンテナンス
保険適用の可否
日本において、以下のような血管腫・赤あざに対しては、健康保険を適用してレーザー治療を行う施設が存在します。
- 単純性血管腫
- いちご状血管腫
- 毛細血管拡張症(赤ら顔など)
施設によっては形成外科・皮膚科・美容皮膚科で保険診療対応が可能です。
ただし、保険適用となる条件や点数体系(レーザー処置料、部位・面積加算など)はクリニックによって異なります。
費用の目安
例として、秋葉原スキンクリニックでは以下のような点数・費用例が示されています。
- 10 cm² 以内:2,170点(約21,700円相当、3割負担なら6,500円程度)
- 部位や年齢、照射面積の加算あり
- 施術料に加えて、初診料・再診料・薬剤代等が別途かかる
四谷見附クリニックでも、10 cm²程度の赤あざに対して8,100円程度の例が掲載されています(保険適用時3割負担)
ただし、自由診療(保険外)を選択するクリニックでは、より高額となる場合があります。
メンテナンスと追加治療
- 治療後も長期観察が必要。再発傾向があるので、定期的なチェックが推奨
- 再照射を必要とするケースもあり、将来にわたってメンテナンス治療を行うことが珍しくありません
- 紫外線管理、皮膚刺激管理、生活習慣管理(血行改善・皮膚保護など)が再発抑制に寄与
8. よくある質問(Q&A)
Q1. レーザー治療をすれば完全に消えますか?
A. 多くの場合「目立たなくなる」状態には近づけますが、完全消失を保証できるわけではありません。特に深部血管や太い血管、再通過性の高いケースでは、わずかな赤みが残ることもあります。
Q2. 治療は痛いですか?
A. 感覚としては「輪ゴムで弾かれたような軽い衝撃」が一般的に言われますが、冷却装置や麻酔クリームを併用して痛みを軽減することが可能です。
Q3. 何回くらい通院する必要がありますか?
A. 多くは複数回(5〜10回程度)照射が必要で、最適な間隔(3~6か月程度)で行われます。
Q4. どれくらいで効果が出ますか?
A. 最初の照射から「赤みが薄くなる」「血管径が縮小する」変化が見られることがありますが、目立たない状態になるまでには数回の治療を要します。
Q5. 子ども(乳児)でも治療できますか?
A. はい。ただし乳児では自然縮小傾向もあるため、慎重な判断が必要です。また、プロプラノロール内服療法と併用されるケースも多くあります。
Q6. 日焼けしていても治療できますか?
A. 強い日焼けをしている場合は、レーザー光がメラニンに吸収されやすくなり治療効果が落ちたり合併症が起こりやすくなるため、日焼けが落ち着いてから行うことが推奨されます。
9. まとめと今後展望
レーザー治療は「目立たなくする」血管腫治療において、非常に有効な選択肢の一つです。特に浅層性・表在性の血管腫に対しては顕著な改善が期待できます。ただし、深部や複雑な血管病変には限界があり、再発や通過性・再開通のリスクも考慮する必要があります。将来的には、より低リスク・高精度なレーザー技術の発展、併用療法(薬物療法・血管新生制御療法など)の最適化、細胞レベルでの血管構造制御を目指す研究などが進む可能性があります。














