「ただのシミやできものだと思っていたら、実は皮膚がんだった」——そんなケースが少なくありません。基底細胞癌(きていさいぼうがん)は皮膚がんの中で最も多く、日本でも増加傾向にある病気です。特徴的なのは、進行が比較的ゆるやかであるものの、放置すれば皮膚や組織を破壊し、生活の質に大きな影響を及ぼすことです。本記事では、見た目の変化から疑うべき基底細胞癌の症状を詳しく解説し、早期発見・早期治療のための知識をお届けします。
基底細胞癌とは? ― 皮膚がんの中で最も多いタイプ
基底細胞癌は皮膚の最も外側にある表皮の「基底細胞」ががん化することで発生します。悪性腫瘍ではありますが、悪性黒色腫のように全身へ転移することは稀です。しかし進行すると皮膚や周囲の組織を深く侵食し、顔面の変形や機能障害を引き起こすことがあります。
日本皮膚科学会の統計によれば、皮膚がん全体の約3〜4割を占めており、高齢化に伴って患者数は増えています。紫外線による慢性的なダメージが主な原因とされ、特に顔・頭皮・首など日光にさらされやすい部位に多く発症します。
基底細胞癌の特徴を理解し、見た目の変化に敏感になることが早期発見の第一歩です。
見た目で疑うべき基底細胞癌の初期症状
1. 光沢を帯びた小さな結節
基底細胞癌の初期には、半透明で光沢のある小さな結節(しこり)が出現します。色は皮膚色に近いこともあれば、薄いピンクや褐色を帯びる場合もあります。一見するとニキビやイボのように見えるため、気づかず放置してしまうことが多いのです。
2. 血管が浮き出るように見える
腫瘍の表面に毛細血管が樹枝状に浮かび上がるのも基底細胞癌の特徴です。これは腫瘍が皮膚の血管を新しく形成し、栄養を取り込もうとするために起こる現象です。一般的なシミやホクロには見られない所見であり、注意すべきサインといえます。
3. かさぶたや潰瘍を繰り返す
表面にかさぶたができても、しばらくすると自然に剥がれて再び出血したり、潰瘍を形成したりするのが典型的です。「治りかけてはまた悪化する」というサイクルを繰り返す場合、皮膚の単なる炎症ではなく基底細胞癌を疑う必要があります。
進行した基底細胞癌の特徴
1. 潰瘍が拡大し、周囲が盛り上がる
進行すると、中央に潰瘍を形成し、その周囲がドーナツ状に盛り上がることがあります。これを「潰瘍型基底細胞癌」と呼び、周辺組織への浸潤が始まっているサインです。
2. 黒っぽい色素沈着を伴う場合もある
一部の基底細胞癌はメラニン色素を含むため黒褐色を呈することがあります。悪性黒色腫と誤診されるケースもありますが、専門医によるダーモスコピー(拡大観察装置)で鑑別が可能です。
3. 放置すると顔面の変形や組織破壊へ
基底細胞癌は進行が緩やかな分、数年単位で大きくなることがあります。顔や鼻にできた場合は、組織を深く破壊し、再建手術が必要になることもあります。「命に直結しないから」と放置するのは大変危険です。
基底細胞癌のリスク要因
基底細胞癌を発症しやすい人にはいくつかの共通点があります。
- 紫外線を長期間浴びてきた人(屋外での仕事や趣味が多い方)
- 高齢者(加齢により皮膚の修復力が低下するため)
- 色白で日焼けに弱い肌質の人
- 免疫抑制剤を使用している人(臓器移植後など)
- 放射線治療を受けた既往がある人
これらの条件に当てはまる方は、特に皮膚の変化に注意を払い、自己チェックや定期的な皮膚科受診を意識する必要があります。
基底細胞癌と間違えやすい皮膚疾患
基底細胞癌は、以下のような皮膚の良性疾患と見た目が似ているため、誤解されることがあります。
- ホクロ(母斑):通常は安定しており、大きさや形が急に変化しません。
- 脂漏性角化症(老人性イボ):茶色〜黒色で表面がざらつき、かさぶたのように見えます。
- 尋常性疣贅(ウイルス性イボ):盛り上がりがあり、角化が目立ちます。
- 湿疹や皮膚炎:炎症による赤みやかゆみを伴いますが、時間の経過で改善する傾向があります。
見た目だけで区別するのは困難であり、自己判断ではなく医師の診断が不可欠です。
自分でできるチェックポイント
- ニキビのようなできものが数か月以上治らない
- 出血やかさぶたを繰り返す部位がある
- 皮膚に光沢のある結節や黒っぽい斑点がある
- シミやホクロに変化(大きさ・色・形)が出てきた
これらのサインが見られる場合は、皮膚科での早期受診が推奨されます。特に50歳以上、紫外線を多く浴びる習慣がある方は要注意です。
体験談:治らないニキビだと思っていたら…
50代女性のAさんは、鼻の横に小さなできものができました。最初は「ニキビかな」と思い、市販の軟膏を塗って様子を見ていました。しかし数か月経っても治らず、むしろ少しずつ大きくなり、かさぶたを繰り返すようになりました。
「顔だから気になるし、でも大げさに病院に行くのも…」と悩んでいましたが、ある日テレビで「治らない皮膚のしこりは皮膚がんの可能性もある」という情報を見て受診を決意。皮膚科でダーモスコピー検査を受けたところ、基底細胞癌と診断されました。
幸い早期だったため手術で取り切ることができ、傷跡も小さく済みました。Aさんは「もっと早く受診していれば、不安な時間を過ごさずに済んだのに」と話しています。
このように、治らないニキビやしこり、出血を繰り返す皮膚病変は基底細胞癌のサインかもしれないのです。

診断と治療の流れ
1. ダーモスコピー検査
皮膚科では、ダーモスコピーという拡大鏡を用いて病変のパターンを観察します。毛細血管の走行や色素沈着の有無を確認し、基底細胞癌かどうかを見極めます。
2. 病理検査(生検)
最終的な診断は、病変の一部を切り取って顕微鏡で調べる病理検査によって行われます。
3. 治療方法
- 手術による切除:最も確実な方法。再発予防のため、腫瘍とその周囲の皮膚を一定範囲切除します。
- モーズ顕微鏡手術:顕微鏡で確認しながら病変を取り除く方法。再発率が低く、顔面の基底細胞癌に適しています。
- 放射線治療:高齢や持病で手術が難しい場合に用いられます。
- 外用薬(イミキモドなど):早期・表在型に使用されることがあります。
受診のタイミングと心構え
「もしかして…」と不安を感じても、受診をためらう人は少なくありません。しかし基底細胞癌は早く診断できればできるほど、傷跡を小さく抑えられる病気です。
- 1〜2か月以上続く皮膚の異常は必ず医師に相談する
- 気になる部位は写真で記録して変化を追う
- 医師に伝えるときはいつから症状があるかを具体的に説明する
これらを心がけることで、診断の精度も高まります。
早期発見のために心がけたいこと
- 紫外線対策を徹底する
日焼け止めや帽子、日傘を使用し、慢性的な紫外線ダメージを避けることが重要です。 - 定期的な皮膚チェックを習慣に
鏡で顔・頭皮・首・手の甲などを確認し、「治らないできもの」がないか意識しましょう。 - 専門医に相談する勇気を持つ
「たいしたことない」と自己判断せず、少しでも疑わしい変化があれば皮膚科に相談してください。
顔のしこりと基底細胞癌
顔にしこりができると、多くの人は「脂肪の塊(粉瘤)かな」「ただのイボだろう」と思いがちです。しかし基底細胞癌は顔面に発生することが多い皮膚がんであり、鼻・まぶた・頬にできやすい特徴があります。
検索でも「顔のしこり 皮膚がん」というキーワードが多く見られるように、実際に顔の変化から受診する方が少なくありません。
治らないニキビとの違い
「治らないニキビ」という悩みで皮膚科を受診し、実は基底細胞癌だったというケースもあります。ニキビは通常、数週間で改善するものですが、基底細胞癌は数か月以上持続し、かさぶたや出血を繰り返すのが大きな違いです。
シミやホクロとの見分け方
検索で多い「シミ 皮膚がん 見分け方」という疑問についても触れておきます。シミやホクロは基本的に安定しており、急激な大きさの変化はありません。大きくなる・色が濃くなる・形がいびつになるといった変化がある場合は基底細胞癌や悪性黒色腫を疑う必要があります。
読者へのメッセージ
皮膚の小さな変化は「たいしたことない」と見過ごされがちです。しかし、早期に見つけて治療すれば傷跡も最小限に抑えられるのが基底細胞癌です。
もし「顔に治らないニキビのようなものがある」「シミが大きくなっている」「繰り返し出血するしこりがある」と感じたら、それは皮膚からのサインかもしれません。どうか迷わず、専門医に相談してください。
まとめ
基底細胞癌は皮膚がんの中で最も多いタイプでありながら、見た目の変化に気づけば早期に治療できる病気です。光沢のある結節や血管の浮き出し、繰り返すかさぶたや潰瘍などは注意すべきサインです。放置すれば組織破壊につながる可能性があるため、「いつもと違う皮膚の変化」を感じたら早めに皮膚科を受診しましょう。













