別名・関連疾患名
- Distal 16p11.2 microdeletion syndrome — 16p11.2 の distal(末端側)領域における微小欠失による染色体異常症候群。(orpha.net)
- 16p11.2 distal deletion syndrome — 同義語として使われる別名。(rarediseases.info.nih.gov)
- 16p11.2 BP2-BP3 deletion — 遠位 BP2-BP3 部分を欠失する CNV(コピー数変異)の名称として文献で使われることがある。(Simons Searchlight)
※本症候群は 16p11.2 領域の欠失のうち、特に BP2(breakpoint 2)〜BP3 間の distal(遠位)側に当たる領域の微小欠失を指します(典型的な BP4-BP5 より distal)。(Simons Searchlight)
対象染色体領域
第16番染色体短腕(p)の distal 領域、16p11.2 の BP2〜BP3 範囲における微小欠失(recurrent distal microdeletion)。(Simons Searchlight)
- この部位は 16p11.2 内でも典型的な CNV ホットスポットで、BP2 と BP3 という低コピー反復配列(LCR)の間に位置するため、非アリル間同源組換え(NAHR)が起こりやすく、再発性欠失が生じます。(Simons Searchlight)
- BP2-BP3 の欠失は長さが数百キロベース(kb)程度で、欠失される遺伝子数は症例によりやや異なるものの、神経発達に関連する遺伝子を含むと考えられています。(Simons Searchlight)
発生頻度
16p11.2 deletion 全般(主に proximal BP4-BP5 区間)は比較的頻度が高く、出生1/2000 前後 と推定されていますが、これは proximal 部分の値です。(PMC)
一方、distal(BP2-BP3) deletion はより稀で、多くの症例が個別報告レベルにとどまっています:
- Simons Searchlight による参加例は 75例以上 に達しており、世界中で検出が進むにつれてさらなる症例が同定されつつあります。(Simons Searchlight)
- Case-control 研究では、distal 16p11.2 deletion は臨床集団で検出され、対照集団よりも有意に高いオッズ比を示すと報告されています(13/13,850 vs 3/19,954)。(ClinGen)
しかし、一般人口における正確な発生頻度の数値は現時点で確立していません(CNV の同定が検査普及に依存するため)。(orpha.net)
臨床的特徴(症状)
1. 神経発達・知的特性
- 発達遅延(developmental delay) — 幼児期から運動・言語の遅れが見られることが多い。(rarediseases.info.nih.gov)
- 知的障害(intellectual disability) — 軽度〜中等度の知的機能低下を示す例が多数報告されています。(rarediseases.info.nih.gov)
- 言語・コミュニケーション障害 — 言語獲得の遅れや発話の困難、コミュニケーションスキルの発達遅延等を伴います(Simons Searchlight まとめ)。(Simons Searchlight)
これらは 16p11.2 deletion 全般に共通する神経発達異常の1つの側面であり、distal deletion でも同様に観察されます。(orpha.net)
2. 自閉スペクトラム症(ASD)・行動特性
- ASD(自閉スペクトラム障害) — 発達障害の一部として高い頻度で合併することが報告されており、社交性や行動の特徴が出現する例があります。(rarediseases.info.nih.gov)
- 注意欠陥多動性障害(ADHD) や 情緒面の課題 など、行動学的な問題を示すことがあるとされています。(rarediseases.info.nih.gov)
※これらの神経行動的特徴は 16p11.2 deletion 全般の多数研究でも報告されており、distal deletion でも同様の行動特性を示す可能性が示唆されています。(PMC)
3. てんかん / 発作
- 一部の症例にててんかん発作・癲癇(epilepsy)が観察されています。16p11.2 deletion 全般でも発作が一定頻度で見られ、distal deletion でも同様の神経過敏性を呈する報告があります。(rarediseases.info.nih.gov)
- 典型的にはトニック-クロニック発作や欠神発作など多様な発作型が報告されています(一般的な削除例の観察)。(neurology.org)
4. 体格・成長異常
- 一部の遺伝子欠失に起因する巨頭症(macrocephaly)が 16p11.2 distal deletion 例で見られることがあります。(rarediseases.info.nih.gov)
- 肥満傾向(obesity) — 16p11.2 deletion 全般で体重増加や BMI 上昇が一部例で観察され、distal deletion でも報告されています。(NCBI)
5. 骨格・脊椎などの構造異常
- 脊椎奇形や脊柱側弯(scoliosis)などの 骨格特異所見 が報告されることがあります(16p11.2 CNV 全般で)。(Nature)
6. 合併異常
- 一部症例で 泌尿生殖器系異常(例:片側腎欠損)、消化管神経発達異常(神経原性腸疾患)などもあわせて報告されています。(NCBI)
- これらは必ず出現するものではなく、欠失範囲・他の環境/遺伝背景により個人差が大きい所見です。(NCBI)
原因
16p11.2 deletion (distal) syndrome の原因は、16番染色体短腕(p)の distal 16p11.2 領域の一部が欠失することです。(orpha.net)
遺伝的機序
- 欠失は 非アリル間同源組換え(NAHR) の結果として生じやすい部位に発生し、欠失された遺伝子が1コピー欠失(haploinsufficiency) の状態となることで、発達や精神・身体機能に影響を及ぼします。(Simons Searchlight)
- 16p11.2 distal deletion では 9 程度の遺伝子が欠失される場合が多く、これらの遺伝子が神経発達や代謝、行動制御に関与することが想定されています(Simons Searchlight 説明)。(Simons Searchlight)
遺伝形式
- 多くの場合 de novo(新生変異) で出現しますが、親からの遺伝が報告される例もあります(CNV の母性/父性伝播)。(PMC)
- ただし、同じ欠失があっても症状を示さない家族例の報告があり、「不完全浸透」や「可変表現性」が特徴です。(PMC)
治療方法
現時点では、16p11.2 deletion (distal) syndrome に対する根本的な遺伝子治療は存在しません。治療は合併症や症状ごとの管理・支持療法(サポートケア)が中心です。
1. 発達支援・療育
- 理学療法(PT):運動発達遅延や協調運動の課題に対応。
- 作業療法(OT):日常生活動作・感覚統合支援。
- 言語療法(ST):言語・コミュニケーションの発達支援。
- 早期から多職種連携で介入することが、長期的な機能改善につながると考えられています。
2. 行動・精神支援
- 行動療法(ASD または行動課題に対する介入)
- 心理・精神科支援(不安、注意欠陥、情緒面のサポート)
- 必要に応じて 薬物療法 を併用することもあります(例:ADHD・てんかんなど臨床的評価に応じて)。
3. てんかん・神経症状管理
- てんかんがある場合は 抗てんかん薬(AED) の投与
- EEG などの検査で発作型を評価し、適切な薬剤選択が重要です。
4. 合併症・身体症状への対応
- 肥満・代謝異常:栄養・運動指導、生活習慣改善支援。
- 骨格異常:整形外科評価・管理。
- 泌尿生殖器異常:必要に応じて外科的修正。
5. 定期フォローと健康管理
- 発育評価(身長・体重・言語)
- 視覚・聴覚検査
- 精神神経評価
- 定期的な内科・神経科フォロー
まとめ
16p11.2 deletion (distal) syndrome は、16番染色体短腕 p11.2 の distal 領域で生じる微小欠失による 極めて稀な染色体異常症候群 で、発達遅延・知的障害・言語・コミュニケーション障害、自閉スペクトラム特性、てんかん、肥満傾向、骨格異常など多彩な臨床像を示します。多様な症状は欠失領域の遺伝子喪失による haploinsufficiency が関与すると考えられますが、浸透率が不完全で可変表現性が大きいため、同じ欠失でも症状は個体差があります。治療は根本治療ではなく 多職種による支持療法と症状管理 が中心となります。(orpha.net)
参考文献元
- Orpha.net: Distal 16p11.2 microdeletion syndrome — 疾患概要。(orpha.net)
- NIH GARD: Distal 16p11.2 microdeletion syndrome — 変異と症状。(rarediseases.info.nih.gov)
- Simons Searchlight: 16p11.2 Distal Deletion Syndrome — 症状サマリー。(Simons Searchlight)
- Guha et al. (ClinGen): 16p11.2 recurrent region (distal) — ケース/コントロール頻度比較。(ClinGen)
- Additional neurodevelopment CNV review — 16p11.2 CNV の広い影響。(PMC)


