16p11.2 duplication (proximal) syndrome

Posted on 2026年 1月 19日

別名・関連疾患名

  • 16p11.2重複症候群(16p11.2 duplication syndrome)
  • 16p11.2微細重複症候群(16p11.2 microduplication syndrome)
  • 16p11.2反復領域重複(BP4-BP5)(16p11.2 recurrent duplication, BP4-BP5)
  • Dup16p11.2

対象染色体領域

16番染色体 短腕(p)11.2領域(Proximal:近位部)

本疾患は、ヒトの16番染色体の短腕にある「11.2」と呼ばれる領域において、約600キロベース(kb)のDNA配列が重複(コピー数が増加)することによって生じます。

具体的には、染色体上のBP4(Breakpoint 4)からBP5(Breakpoint 5)と呼ばれる特定の反復配列(LCRs)に挟まれた区間を指します。

  • ゲノム座標(GRCh37/hg19): chr16: 29,600,000 – 30,200,000 付近
  • 含まれる遺伝子: 約25〜29個のタンパク質コード遺伝子

この領域は、16p11.2欠失症候群で失われる領域と全く同じ場所です。つまり、欠失症候群では遺伝子が「1コピー(ハプロ不全)」になるのに対し、本重複症候群では遺伝子が「3コピー(過剰)」になることで、遺伝子の発現バランスが崩れ、様々な症状が引き起こされます。

含まれる遺伝子には、脳の発達、細胞のシグナル伝達、エネルギー代謝に関わる重要なものが多数存在します。

  • KCTD13: 頭囲(脳のサイズ)や体重調節に関与すると考えられている重要な遺伝子です。
  • MAPK3 / MVP / ALDOA / TBX6: 細胞増殖や骨格形成、神経機能に関与します。

※注意: 16p11.2領域には「遠位(Distal / BP2-BP3)」の重複も存在しますが、一般的に医学文献や臨床現場で単に「16p11.2重複」と言及される場合、この「近位(Proximal / BP4-BP5)」の重複を指すことが大半です。本記事でもこのBP4-BP5領域について詳述します。

発生頻度

約1,000人〜2,500人に1人(頻度は高いが診断されていない例が多い)

16p11.2重複は、染色体マイクロアレイ検査(CMA)で検出されるコピー数変異(CNV)の中で、最も頻度の高いものの一つです。

しかし、後述するように症状には非常に大きな個人差があり、全く症状がない(無症候性)まま生活している成人も多数存在するため、正確な頻度の把握は困難です。

  • 一般集団での推計: 出生児の約1/1,000〜1/2,500程度と推測されています。
  • 臨床集団での検出率:
    • 自閉スペクトラム症(ASD)患者の約0.5〜1%
    • 統合失調症患者の約0.5%
    • 発達遅滞や知的障害、多発奇形を持つ小児の検査においてもしばしば検出されます。

臨床的特徴(症状)

16p11.2重複症候群の最大の特徴は、「不完全浸透(Incomplete Penetrance)」と「可変表現性(Variable Expressivity)」です。

これは、「重複を持っていても必ずしも発症するわけではない(不完全浸透)」し、「発症しても症状の重さや種類は人によって全く異なる(可変表現性)」ことを意味します。

重度の発達障害を持つお子さんもいれば、通常学級に通い大学へ進学するお子さんもおり、また親御さんが検査を受けて初めて自身も同じ重複を持っていたことが判明する(親は無症状または軽微)ケースも非常に多く見られます。

主な臨床的特徴は以下の通りですが、これら全てが全員に当てはまるわけではありません。

1. 16p11.2欠失症候群との「鏡像関係(Mirror Phenotype)」

同じ領域の「欠失」と「重複」は、いくつかの身体的特徴において正反対(鏡写し)の症状を示すことが知られています。

  • 体重: 欠失が「肥満」になりやすいのに対し、重複は「低体重(痩身傾向)」になりやすい傾向があります。乳幼児期の哺乳不良や体重増加不良(Failure to thrive)が見られることがあります。
  • 頭囲: 欠失が「大頭症(頭が大きい)」になりやすいのに対し、重複は「小頭症(頭が小さい)」の傾向があります。ただし、極端な小頭症になることは稀で、平均よりやや小さめ程度であることが多いです。

2. 神経発達・認知機能

  • 発達遅滞: 運動発達(歩き始めなど)や言語発達の遅れが見られることがあります。特に、言葉の遅れ(発語遅延)や、構音(発音)の不明瞭さが受診のきっかけになることが多いです。
  • 知的機能: 知能指数(IQ)の分布は非常に幅広いです。平均的な知能を持つ方も多いですが、重複を持たない家族と比較すると、IQスコアが平均して10〜20ポイント程度低くなる傾向があると報告されています。中等度〜重度の知的障害を伴うケースは、欠失症候群に比べると少ない傾向にあります。
  • 学習障害(LD): 知的障害がなくても、読み書きや計算などの特定の学習スキルに困難さを抱える場合があります。

3. 行動特性・精神医学的特徴

16p11.2重複症候群において、最も注意深く観察が必要なのがこの精神・行動面の特徴です。

  • 自閉スペクトラム症(ASD): 患者さんの約20〜25%にASDの診断がつくとされています。社会的なコミュニケーションの難しさや、こだわり行動が見られることがあります。
  • 注意欠陥・多動性障害(ADHD): 注意散漫、多動、衝動性などの特徴が高い頻度で見られます。
  • 統合失調症(Schizophrenia)のリスク:
    これが本疾患の医学的に最も重要な特徴の一つです。16p11.2重複を持つ人は、持たない人に比べて、将来的に統合失調症を発症するリスクが高まることが分かっています(一般人口のリスク約1%に対し、数倍〜10倍程度のリスク上昇という研究もあります)。
    もちろん、重複を持つ人全員が発症するわけではありませんが、思春期から成人期にかけての精神的な変化には留意が必要です。
  • その他の精神症状: 不安障害、双極性障害、うつ傾向などが報告されています。

4. 身体的合併症・その他

身体的な奇形や合併症は、他の染色体疾患に比べると目立たないことが多いです。

  • てんかん発作: 約10〜20%程度の患者さんにてんかん発作が見られます。発作のタイプは様々ですが、薬物療法でコントロール可能なケースが多いです。
  • 微細な形態異常: 顔つきの特徴(平坦な顔貌、深い眼窩など)や、手指の異常などが報告されることがありますが、特定の「顔貌」だけで診断できるほど特徴的ではありません。

腎臓・尿路系の異常: 稀に水腎症などの腎奇形が見られることがあります。

原因

16番染色体短腕(16p11.2 BP4-BP5)における、約600kbの微細重複が原因です。

発生メカニズム:非アリル間同源組換え(NAHR)

ヒトの細胞内で精子や卵子が作られる「減数分裂」の過程において、染色体の組換えエラーが起こることが原因です。

16p11.2領域には、LCR(低コピー反復配列)と呼ばれる、DNA配列が互いによく似たブロックが複数存在します。これらの似た配列同士が誤ってペアを作ってしまい、その状態で組換えが起こると、一方の染色体には「欠失(Deletion)」が、もう一方の染色体には「重複(Duplication)」が生じます。

これをNAHR(Non-Allelic Homologous Recombination)と呼びます。

遺伝子量効果(Dosage Effect)

通常、常染色体の遺伝子は2つのコピー(父由来・母由来)を持っていますが、重複症候群ではこれが3つになります。

遺伝子の数が増えると、そこから作られるタンパク質の量も過剰になります。この過剰なタンパク質が、脳の神経回路の形成やシナプスの機能、細胞のシグナル伝達の微妙なバランスを乱すことで、様々な症状が引き起こされると考えられています。

特に、KCTD13遺伝子の過剰発現は、神経細胞の生成やアポトーシス(細胞死)の制御に影響を与え、脳のサイズ(小頭症)や体重制御(痩せ)に関与しているという研究結果が示されています。

遺伝形式と家族性

  • 家族性(遺伝)の割合が高い: 16p11.2欠失症候群の多くがDe novo(突然変異)であるのに対し、重複症候群では親からの遺伝であるケースが比較的多い(約60〜70%とも報告される)のが特徴です。
  • これは、重複症候群の症状が比較的マイルドで、親自身が診断されずに結婚・出産をしているケースが多いためです。
  • De novo(新生): もちろん、両親は持っておらず、その子で初めて発生した突然変異のケースもあります。

優性遺伝形式: 親が重複を持っている場合、子に遺伝する確率は50%です。

治療方法

現時点で、余分な染色体領域を取り除くような根本的な遺伝子治療法は存在しません。

治療の目的は、個々の患者さんに現れている症状を緩和し、持っている能力を最大限に伸ばすための「対症療法」と「療育的・教育的支援」になります。

1. 早期療育と教育的支援

診断がついた時点で、発達の評価を行い、必要に応じた支援を開始します。

  • 言語聴覚療法(ST): 言葉の遅れや発音の問題に対して介入します。コミュニケーションの手段を確保することは、かんしゃくや行動問題の軽減にもつながります。
  • 作業療法(OT)/ 理学療法(PT): 微細運動(手先)や粗大運動の不器用さがある場合、体の使い方を練習します。感覚過敏がある場合もOTが対応します。
  • 学習支援: 学校生活においては、知的な遅れがなくても「読み書きが苦手」「集中力が続かない」といった特性がある場合があります。通級指導や個別の指導計画(IEP)を活用し、その子に合った学習環境を整えます。

2. 精神・行動面のサポート(ライフステージに応じた対応)

  • 小児期: ASDやADHDの特性に対して、応用行動分析(ABA)などの療育的アプローチや、ペアレント・トレーニングによる環境調整が有効です。必要に応じて薬物療法も検討されます。
  • 思春期以降(重要): 統合失調症などの精神疾患のリスクを考慮し、メンタルヘルスのモニタリングが推奨されます。急激な引きこもり、幻聴、妄想的な言動、極端な不安などが見られた場合は、早期に精神科専門医へ相談できる体制を作っておくことが大切です。早期発見・早期治療介入により、予後を改善できる可能性があります。

3. 身体的管理

  • 成長・栄養管理: 乳幼児期に体重増加不良がある場合、栄養指導を行います。ただし、成長とともに改善することが多いです。
  • てんかん管理: 発作が疑われる場合は脳波検査を行い、抗てんかん薬による治療を行います。
  • 定期健診: 視力・聴力検査や、側弯症などのチェックを通常の健診の中で行います。

4. 遺伝カウンセリングと家族支援

  • 家族への遺伝子検査: 診断がついた場合、両親の遺伝子検査(保因者診断)を行うことが推奨されます。これは、次子の再発リスク評価だけでなく、他のきょうだいや親自身の健康管理(潜在的な精神疾患リスクや特性の理解)にも役立つためです。
  • 「不完全浸透」の説明: 親が同じ重複を持っていた場合、「自分のせいで」と罪悪感を感じてしまうことがありますが、この重複を持っていても健康に社会生活を送っている人は大勢います。専門家(臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラー)から、正しい情報と心理的なサポートを受けることが重要です。

患者会・ピアサポート: Simons SearchlightやUniqueなどの患者団体やコミュニティに参加し、情報交換を行うことは家族の大きな支えになります。

まとめ

16p11.2 duplication (proximal) syndromeは、16番染色体の一部の情報が増えることで生じる体質です。この体質を持つ人は、言葉の遅れや学習の苦手さ、ASDなどの発達特性を持つことがありますが、一方で際立った才能を持っていたり、全く症状がなく社会で活躍していたりすることも珍しくありません。

「重複がある=重い障害」と直結するわけではなく、症状の幅が非常に広いことが最大の特徴です。

ただし、将来的なメンタルヘルスの不調のリスクが少し高いことが分かっています。そのため、早期からその子の特性を理解し、発達支援を行うとともに、思春期以降も継続的に心身の健康を見守っていく、息の長いサポーティブな環境づくりが大切です。

参考文献

  • GeneReviews® [Internet]: 16p11.2 Recurrent Deletion / Duplication. Initial Posting: February 21, 2008; Last Update: December 10, 2020. Author: Rainey L, et al.
  • Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 16p11.2 Microduplications (BP4-BP5). Comprehensive guide for families.
  • Simons Searchlight: 16p11.2 duplication syndrome Information Guide.
  • ClinGen Dosage Sensitivity Curation: 16p11.2 recurrent region (proximal, BP4-BP5).
  • Niarchou M, et al. (2019). Psychiatric disorders in children with 16p11.2 deletion and duplication. Translational Psychiatry.
  • D’Angelo, et al. (2016). The 16p11.2 deletion and duplication: Understanding the genetic causes of autism and schizophrenia. Trends in Neurosciences.
  • Jacquemont S, et al. (2011). Mirror extreme BMI phenotypes associated with gene dosage at the chromosome 16p11.2 locus. Nature.
  • McCarthy SE, et al. (2009). Microduplications of 16p11.2 are associated with schizophrenia. Nature Genetics.

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