別名・関連疾患名
- 16p11.2-p12.2欠失症候群
- 16p11.2-p12.2大規模欠失(Large interstitial deletion 16p11.2-p12.2)
- 16p11.2-p12.2 contiguous gene deletion syndrome(16p11.2-p12.2隣接遺伝子欠失症候群)
- Monosomy 16p11.2-p12.2(16p11.2-p12.2モノソミー)
対象染色体領域
16番染色体 短腕(p)11.2領域から12.2領域にかけて
この疾患は、16番染色体の短腕(p)にある「11.2」から「12.2」に至るまでの、比較的広範囲なDNA配列が欠失することによって生じます。
【領域の重要性:複数の重要領域を含む大規模欠失】
16番染色体短腕には、「16p11.2(近位)」、「16p11.2(遠位)」、「16p12.1」、「16p12.2」といった、それぞれ単独でも疾患を引き起こすことが知られている「好発欠失領域(ホットスポット)」が並んでいます。
「16p11.2-p12.2 microdeletion」は、これらの領域の複数、あるいはその間の領域を含んでごっそりと欠失している状態を指すことが一般的です。
- 欠失サイズ: 数メガベース(Mb)〜約9Mbに及ぶことがあり、通常の微細欠失(約0.6Mb)に比べて非常に大きいです。
- 遺伝子: この範囲には数十〜百以上の遺伝子が含まれており、その中には脳の発達、心臓の形成、成長に関わる重要な遺伝子(KCTD13, TBX6, SH2B1, CDR2, EEF2Kなど)が多数存在します。これらがまとめて失われる(ハプロ不全になる)ことで、症状が多岐にわたります。
※注意点: 診断書などで単に「16p欠失」と書かれていても、その範囲(座標)によって分類が変わります。本項では、p11.2からp12.2にまたがる広範囲欠失について解説します。
発生頻度
非常に稀(Very Rare)
個別の「16p11.2欠失(約2,000人に1人)」や「16p12.2欠失」と比較して、この広範囲にわたる欠失の発生頻度は極めて低いです。
世界的な症例報告も限られており、正確な統計的頻度は確立されていませんが、希少染色体異常(Rare Chromosome Disorder)の一つに分類されます。
臨床的特徴(症状)
この症候群は、欠失の範囲が広いため、「隣接遺伝子症候群(Contiguous gene syndrome)」としての性質を持ちます。つまり、個別の微細欠失症候群(16p11.2欠失や16p12.2欠失など)の特徴を併せ持ち、さらにそれらよりも重篤な症状を呈する傾向があります。
ただし、欠失の正確な開始点と終了点(ブレイクポイント)は患者さんごとに異なるため、症状の出方には個人差があります。
1. 成長障害・身体的特徴
多くのケースで、出生前後からの成長の遅れが見られます。
- 子宮内発育不全: 妊娠中から胎児が小さい傾向があります。
- 低身長・体重増加不良: 出生後も身長の伸びが悪く、体重が増えにくい(Failure to thrive)ことがあり、経管栄養などの栄養管理が必要になる場合があります。これは16p11.2欠失(単独)が「肥満」傾向を示すのと対照的であり、欠失範囲が広がることでより深刻な成長障害が生じていると考えられます。
- 特徴的な顔貌:
- 平坦な顔立ち(Flat facies)
- 眼間開離(目が離れている)
- 眼瞼裂斜下(目が外側に下がっているタレ目傾向)
- 低い鼻梁、小さな顎(小顎症)
- 耳の形や位置の異常(低位付着耳、変形)
- 口蓋裂や口唇裂(16p12.2領域の欠失に関連)
2. 神経発達・精神遅滞
ほぼ全例で中等度から重度の発達への影響が見られます。
- 知的障害(ID): 中等度〜重度の知的障害を伴うことが多いです。
- 言語発達の重篤な遅れ: 言葉が出るのが非常に遅い、あるいは発語がほとんど見られない(Non-verbal)場合もあります。表現言語(話すこと)だけでなく、受容言語(理解すること)にも支援が必要なケースがあります。
- 運動発達遅滞: 首のすわり、お座り、歩行などの運動マイルストーンが遅れます。筋緊張低下(Hypotonia)が背景にあることが多いです。
3. 行動・精神面の特性
- 自閉スペクトラム症(ASD): 社会的相互作用の困難や反復行動など、自閉症特性を示す頻度が高いです。
- その他の行動障害: 多動、衝動性、攻撃性、自傷行動、睡眠障害などが見られることがあり、環境調整や行動療法が必要になります。
4. 先天性奇形・合併症
広範囲な遺伝子欠失により、複数の臓器に合併症が生じることがあります。
- 心疾患: 心室中隔欠損症(VSD)、心房中隔欠損症(ASD)、ファロー四徴症などの先天性心疾患のリスクがあります。
- 骨格異常: 脊柱側弯症、椎骨の形態異常、内反足、指の奇形(短指症など)が見られることがあります。
その他: 腎臓の奇形、免疫系の問題(感染を繰り返しやすい)、てんかん発作などが報告されています。
原因
16番染色体短腕(16p)における広範囲な欠失が原因です。
発生機序
16番染色体の短腕には、低コピー反復配列(LCR: Low Copy Repeats)と呼ばれる、DNAの塩基配列が非常に似通ったブロックが多数散らばっています(LCR16aなど)。
通常、これらのLCRは、16p11.2欠失などの「小さな」欠失を引き起こす原因となりますが、稀に離れた位置にあるLCR同士(例:p11.2にあるLCRとp12.2にあるLCR)が減数分裂の際に誤って結びつき、その間の広大な領域が欠失してしまうことがあります。
これをNAHR(非アリル間同源組換え)と呼びます。
また、LCRに関係なく、染色体のランダムな切断によって生じる場合もあります。
遺伝子量効果(Gene Dosage Effect)
この欠失により、多くの遺伝子が片方の染色体から失われます(ハプロ不全)。
- 16p11.2領域の遺伝子: KCTD13, MAPK3などが失われると、自閉症特性や発達遅滞のリスクとなります。
- 16p12.2領域の遺伝子: CDR2, EEF2Kなどが失われると、顔貌の特徴や成長障害、口蓋裂などのリスクが高まります。
- その間の遺伝子: この2つのホットスポットの間にある遺伝子群も失われるため、症状が複合的かつ重篤になります。
遺伝形式
- De novo(新生突然変異): 多くの症例は、両親からの遺伝ではなく、受精の過程で偶発的に生じた突然変異です。この場合、次子への再発リスクは一般集団とほぼ変わりません(非常に低いです)。
家族性: 稀に、親が「均衡型転座(染色体の場所が入れ替わっているが量は正常)」を持っており、そこから不均衡な欠失が生じて子供に遺伝する場合があります。また、親がモザイク(体の一部細胞だけ変異を持つ)の場合もあります。
治療方法
失われた染色体領域を修復する根本治療法はありません。治療は、現れている症状に対する対症療法と、生活の質(QOL)を高めるための包括的な療育支援が中心となります。
多職種によるチーム医療が不可欠です。
1. 早期介入と療育(ハビリテーション)
診断後、できるだけ早期からの療育開始が推奨されます。
- 理学療法(PT): 筋緊張低下や運動発達の遅れに対し、粗大運動の獲得を促します。歩行器や装具の使用を検討することもあります。
- 作業療法(OT): 手指の巧緻性(不器用さの改善)、日常生活動作(着替え、食事)、感覚統合へのアプローチを行います。
- 言語聴覚療法(ST): ことばの遅れに対し、発生練習だけでなく、サイン言語、絵カード、タブレット端末(AAC)などを用いた代替コミュニケーション手段の獲得を支援します。摂食嚥下障害(飲み込みにくさ)がある場合もSTが対応します。
2. 医学的管理とサーベイランス
診断時および定期的に、全身の合併症チェックを行います。
- 循環器: 心エコー検査で心疾患の有無を確認し、必要に応じて手術や投薬管理を行います。
- 形成外科・口腔外科: 口唇口蓋裂がある場合、形成手術や言語治療を計画的に行います。
- 整形外科: 側弯症や関節の問題に対し、定期的なレントゲン撮影や装具療法を行います。
- 神経内科: てんかん発作がある場合、脳波検査を行い、抗てんかん薬によるコントロールを行います。
- 栄養管理: 体重増加不良に対し、高カロリー食の指導や、場合によっては経管栄養の管理を行います。
3. 教育・生活支援
- 特別支援教育: 知的障害や身体的ケアの必要性に応じ、特別支援学校や特別支援学級など、適切な教育環境を選択します。個別の教育支援計画(IEP)に基づき、身辺自立や社会性の向上を目指します。
- 福祉サービスの利用: 児童発達支援、放課後等デイサービス、レスパイトケア(短期入所)などを活用し、家族の負担軽減と本人の社会参加を促します。
4. 家族支援と遺伝カウンセリング
- 詳細な診断: 欠失の範囲を正確に知るために、マイクロアレイ染色体検査(CMA)が必須です。
- 遺伝カウンセリング: 次子の再発リスク評価のために、両親の染色体検査を行うかどうかを相談します。広範囲な欠失であるため、親が均衡型転座保因者である可能性も考慮し、慎重なカウンセリングが行われます。
心理的サポート: 希少疾患であり、長期的なケアが必要となるため、家族への心理的サポートや、同じ境遇の家族会(患者会)情報の提供が重要です。
まとめ
16p11.2-p12.2 microdeletion syndromeは、16番染色体短腕の比較的広い範囲が欠失することで起こる先天性の疾患です。
一般によく知られる「16p11.2欠失」よりも範囲が広く、多くの遺伝子が関与するため、発達の遅れや身体的な特徴がよりはっきりと現れる傾向があります。
症状は一人ひとり異なりますが、心臓や成長、発達面での課題に対して、医療・療育・教育・福祉が連携して長期的にサポートしていく体制が不可欠です。希少な疾患ですが、それぞれの症状に合わせた適切なケアを行うことで、お子さんの持っている可能性を最大限に引き出すことができます。
参考文献
- Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 16p11.2 deletions (Typically focuses on the small deletion, but references larger deletions in extended guides).
- Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 16p12 deletions (Contains information on contiguous deletions).
- Ballif BC, et al. (2007). Identification of a previously unrecognized microdeletion syndrome of 16p11.2-p12.2. Nature Genetics, 39(9), 1071-1073.
- (※本疾患の概念を確立した重要な論文の一つ。p11.2-p12.2領域の大規模欠失と臨床像の関連を報告しています)
- Battaglia A, et al. (2009). Further characterization of the new microdeletion syndrome of 16p11.2-p12.2. American Journal of Medical Genetics Part A, 149A(6), 1200-1204.
- ClinGen Dosage Sensitivity Curation: 16p11.2 region / 16p12.2 region.
- DECIPHER Database: Genomic coordinates and phenotype data for 16p11.2-p12.2 deletions.
- Sanna-Cherchi S, et al. (2012). The chromosome 16p11.2 deletion syndrome: phenotypes and candidate genes. (Discusses the variability and extended deletions).
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