16p13.3 duplication syndrome

Posted on 2026年 1月 20日

別名・関連疾患名

  • 16p13.3重複症候群
  • 16p13.3微細重複症候群(16p13.3 microduplication syndrome)
  • CREBBP重複症候群(CREBBP duplication syndrome)
  • 部分的トリソミー16p13.3(Partial trisomy 16p13.3)
  • 16p13.3コピー数変異(重複)(16p13.3 copy number variant, duplication)

対象染色体領域

16番染色体 短腕(p)13.3領域

本疾患は、16番染色体の最も末端(テロメア側)に位置する「13.3」バンドにおいて、DNA配列の一部が重複(コピー数が通常の2本から3本に増加)することによって生じます。

この領域は遺伝子密度が非常に高いことで知られており、重複の範囲によって含まれる遺伝子の数が異なりますが、疾患の主要な原因となるのはCREBBP遺伝子であると考えられています。

【領域の遺伝学的特徴】

16p13.3領域は、染色体の構造上、遺伝子の欠失や重複が生じやすい「ホットスポット」ではありませんが、稀に発生します。

この領域の「欠失(deletion)」は、有名な「Rubinstein-Taybi症候群(ルビンシュタイン・テイビ症候群)」を引き起こします。本疾患はその「逆(reciprocal)」の状態であり、同じ遺伝子が増えることで全く異なる、しかし重篤な症状を引き起こします。

  • 責任遺伝子(CREBBP):
    • CREBBP(CREB binding protein)遺伝子は、細胞内で他の多くの遺伝子の働きを調節する「転写共役因子」という重要な役割を担っています。
    • 欠失するとタンパク質が足りなくなり(ハプロ不全)、重複するとタンパク質が過剰になります(遺伝子量効果)。どちらの場合も、脳や体の正常な発生プロセスが阻害されます。

他にもDNASE1TRAP1などの遺伝子が含まれることがありますが、症状への寄与度はCREBBPが最も大きいとされています。

発生頻度

非常に稀(Very Rare)

16p13.3欠失症候群(Rubinstein-Taybi症候群)に比べると、この重複症候群の報告数はさらに少なく、希少疾患の中でも特に稀な部類に入ります。

正確な統計的頻度は確立されていませんが、世界での報告例は数十例〜百例程度の規模(文献レベル)であり、100万人に1人未満の頻度である可能性があります。ただし、診断技術(マイクロアレイ検査)の進歩により、これまで原因不明とされていた知的障害や先天異常の患者さんの中から発見されるケースが増えており、実際の頻度はもう少し高い可能性があります。

臨床的特徴(症状)

16p13.3重複症候群の症状は、患者さんによって程度に差がありますが、「特徴的な顔貌」「手足の指の異常」「知的障害」の3つが中核的な特徴とされています。

特に手足の特徴は、同じ領域の欠失であるRubinstein-Taybi症候群(幅広の親指)とは対照的であり、診断の重要な手がかりとなります。

1. 手指・四肢の特徴(Arthrogryposis / Camptodactyly)

本疾患において最も特徴的で見分けやすい症状の一つです。

  • 長く細い指(Arachnodactyly): くも状指とも呼ばれ、指が細長い形状をしています。
  • 屈曲指(Camptodactyly): 指の関節(特に近位指節間関節)が曲がったまま伸びにくい状態が見られることが多いです。
  • 親指の異常: Rubinstein-Taybi症候群では「幅広で短い親指」になりますが、重複症候群では「近位付着(Proximally placed thumb)」といって、親指の付け根が手首に近い位置にあり、親指自体も細長い形状をしていることが多いです。
  • 関節拘縮(Arthrogryposis): 生まれつき複数の関節が固まって動きにくい状態(多発性関節拘縮)が見られることがあり、手首や足首の可動域制限を伴うことがあります。
  • 内反足: 足の裏が内側を向いている状態が見られることがあります。

2. 特徴的な顔貌(Craniofacial features)

顔つきにも共通した特徴が見られますが、成長とともに変化することもあります。

  • 頭蓋形状: 長頭(頭が前後に長い)や、前頭部(おでこ)の突出が見られることがあります。小頭症を伴う場合もあります。
  • 目: 眼瞼裂(目の横幅)が狭い、眼瞼下垂(まぶたが下がっている)、眼間開離(目が離れている)、深い眼窩などが報告されています。
  • 鼻: 鼻根部(鼻の付け根)が幅広く、鼻先が丸い(球根状)傾向があります。
  • 口元: 上唇が薄い、口蓋裂や口蓋高アーチ(口の中の天井が高い)が見られることがあります。
  • 耳: 耳の位置が低い(低位付着耳)、耳の形がいびつであるなどの特徴があります。

3. 神経発達・精神遅滞

ほぼ全例で中等度から重度の影響が見られます。

  • 知的障害(ID): 多くのケースで中等度〜重度の知的障害を伴います。
  • 発達遅滞: 首すわりやお座りなどの運動発達、言葉の理解や表出において顕著な遅れが見られます。特に言葉が出ない(Non-verbal)か、単語のみの発語にとどまるケースも報告されています。
  • 筋緊張低下(Hypotonia): 乳児期には体が柔らかく、哺乳力が弱い(ミルクを吸う力が弱い)ことが多く、成長に伴って筋緊張が高まる(痙性)こともあります。

4. 成長・栄養

  • 成長障害: 出生時の身長・体重は正常範囲内であることが多いですが、出生後に体重増加不良(Failure to thrive)を来すことが一般的です。これは摂食障害(飲み込みにくさや胃食道逆流)が関係していることが多いです。

低身長: 幼児期以降、低身長になる傾向があります。

5. 合併症(臓器障害)

  • 先天性心疾患: 約半数の患者さんに心疾患(心房中隔欠損症、心室中隔欠損症、動脈管開存症、ファロー四徴症など)が見られます。
  • 泌尿生殖器系: 男児では停留精巣、女児では小陰唇の低形成などが見られるほか、水腎症や腎奇形が合併することがあります。

その他: 鼠径ヘルニア、てんかん発作、斜視などの眼科的異常が報告されています。

原因

16番染色体短腕(16p13.3)における遺伝子の重複(コピー数増加)が原因です。

1. 遺伝子量効果(Gene Dosage Effect)

通常、ヒトの細胞には遺伝子が2つ(父由来・母由来)ずつ存在し、適切な量のタンパク質を作ることで生命活動を維持しています。

重複によって遺伝子が3つになると、タンパク質が過剰に作られてしまいます。

CREBBP遺伝子は、転写共役因子としてDNAの読み取りを広範囲に制御する「司令塔」のような役割を持っています。この司令塔が過剰になると、細胞の増殖や分化のバランスが崩れ、以下のような影響が出ると考えられています。

  • 骨格形成: 指や関節の形成シグナルが乱れ、関節拘縮や指の形態異常が生じます。
  • 脳発達: 神経細胞のネットワーク形成がうまくいかず、知的障害や発達遅滞が生じます。

2. 発生機序

  • De novo(新生突然変異): 多くの症例は、両親の染色体は正常で、受精卵ができる過程で偶然生じた突然変異です。
  • 家族性(親の転座): 稀に、親が「均衡型転座」の保因者である場合があります。
    • 親の染色体の一部が入れ替わっているだけであれば、遺伝子の「量」は正常なので親は無症状です。
    • しかし、子供に染色体が受け継がれる際、バランスが崩れて「16p13.3部分の重複」が生じることがあります。
    • この場合、次子への再発リスクが高くなるため、遺伝カウンセリングが非常に重要になります。

治療方法

過剰な染色体領域を取り除くような根本的な遺伝子治療法は現時点ではありません。

治療は、現れている症状を緩和し、機能を最大限に引き出すための対症療法と包括的なリハビリテーションが中心となります。

1. 療育・リハビリテーション(極めて重要)

  • 理学療法(PT): 関節拘縮や筋緊張低下がある場合、関節の可動域を維持・拡大するためのストレッチや、運動発達を促す訓練を行います。装具(短下肢装具など)を使用することもあります。
  • 作業療法(OT): 手指の変形や使いにくさに対し、遊びを通じた微細運動の訓練や、日常生活用具の工夫(持ちやすいスプーンなど)を指導します。
  • 言語聴覚療法(ST): 言葉の遅れに対し、コミュニケーションの手段(ジェスチャー、絵カード、AAC機器)を確保する支援を行います。また、摂食嚥下障害がある場合は、安全な食事形態や食べ方の指導を行います。

2. 整形外科的治療

  • 関節拘縮・内反足: 生後早期からギプス矯正や装具療法を行い、必要に応じて手術(腱延長術など)を検討します。
  • 側弯症: 成長に伴い背骨が曲がってくる場合があるため、定期的なチェックと、進行度に応じた装具療法を行います。

3. 内科的・外科的管理

  • 心疾患: 軽度であれば経過観察となりますが、手術が必要な場合は循環器外科で対応します。
  • 栄養管理: 哺乳不良や体重増加不良が著しい場合、高カロリーミルクの使用や、一時的に経管栄養(鼻チューブや胃ろう)を用いて十分な栄養を確保し、成長を支えます。胃食道逆流に対しては薬物療法や外科的治療が行われることもあります。
  • その他: 停留精巣やヘルニアに対する手術、てんかんに対する薬物療法など、合併症に応じた治療を行います。

4. 家族支援と遺伝カウンセリング

  • 本疾患は希少であり、情報が少ない中で育児をする家族への心理的・社会的サポートが不可欠です。
  • 次子の妊娠を考えている場合など、親の染色体検査を行うかどうかを含め、専門家(臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラー)と相談する機会を持つことが推奨されます。

まとめ

16p13.3 duplication syndromeは、16番染色体末端の遺伝子(主にCREBBP)が増えることで生じる先天性の体質です。

「Rubinstein-Taybi症候群(欠失)」の逆の状態ですが、症状は異なり、細長い指や関節の動かしにくさ、ゆっくりとした発達などが特徴です。

根本的な治療法はありませんが、早期から心臓や関節などのケアを行い、理学療法や作業療法などの療育を継続することで、お子さんの持っている力を伸ばし、生活の質を高めていくことができます。希少な疾患だからこそ、医療チームと連携し、長期的な視点でのサポート体制を作っていくことが大切です。

参考文献

  • Thienpont B, et al. (2010). The recurrent 16p13.3 microduplication syndrome: delineation of the clinical phenotype and involvement of the CREBBP gene. American Journal of Human Genetics, 86(4), 523-531.
    • (※本疾患の臨床像と原因遺伝子CREBBPとの関連を明確に定義づけた、最も重要かつ基本的な論文です)
  • Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 16p13.3 microduplications (2018).
    • (患者家族向けのガイドライン。生活面でのアドバイスや詳細な症状が網羅されています)
  • Ciaccio, et al. (2017). Duplication 16p13.3 and the CREBBP gene: Confirmation of the phenotype. European Journal of Medical Genetics.
  • ClinGen Dosage Sensitivity Curation: CREBBP (Triplosensitivity score: 3 – Sufficient evidence).
    • (CREBBP遺伝子が重複(3コピー)になることで病原性を持つことを裏付ける専門データベース評価)
  • Mattina T, et al. (2012). The 16p13.3 duplication syndrome. Orphanet Encyclopedia.
  • DECIPHER Database: Genomic coordinates and phenotype data for 16p13.3 duplications.

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