別名・関連疾患名
- 16q22欠失症候群
- 16q22微細欠失症候群(16q22 microdeletion syndrome)
- 16q22モノソミー(Monosomy 16q22)
- 部分的モノソミー16q22(Partial monosomy 16q22)
- 16q22間質性欠失(Interstitial deletion of 16q22)
- 関連:CTCF関連神経発達障害(CTCF-related neurodevelopmental disorder)
- ※16q22.1領域に含まれる主要な原因遺伝子CTCFの機能不全による疾患概念であり、臨床的に大きく重複します。
対象染色体領域
16番染色体 長腕(q)22領域(16q22.1 – 16q22.3)
本疾患は、ヒトの16番染色体の長腕(qアーム)の中ほどに位置する「22」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じます。
【領域の遺伝学的詳細】
16q22領域は、遺伝子が比較的密集している領域であり、欠失の範囲(サイズ)と位置(場所)によって症状が異なります。この領域はさらに細かいバンド(q22.1、q22.2、q22.3)に分かれています。
- 16q22.1領域の重要性:
この領域には、細胞のDNA構造を制御する「マスターレギュレーター」とも呼ばれるCTCF遺伝子や、細胞接着に関わるCDH1遺伝子が含まれています。多くの「16q22欠失症候群」の報告例は、この領域を含んでおり、知的障害や小頭症、成長障害といった中核的な症状を引き起こします。 - 欠失のタイプ:
染色体の末端が欠ける「末端欠失」ではなく、染色体の途中の部分が抜ける「間質性欠失(Interstitial deletion)」であることが一般的です。欠失サイズは数百キロベース(kb)の微細なものから、数メガベース(Mb)に及ぶ大きなものまで様々です。
発生頻度
非常に稀(Rare)
16q22欠失症候群は、希少染色体異常(Rare Chromosome Disorder)の一つです。
正確な疫学的な頻度は確立されていませんが、世界的な医学文献での報告数は数十例から百例規模にとどまり、一般集団における頻度は数万〜数十万人に1人未満と推測されます。
ただし、従来の染色体検査(Gバンド法)では検出できないような微細な欠失が、近年のマイクロアレイ染色体検査(CMA)の普及によって発見されるようになり、診断数は徐々に増加しています。
原因不明の発達遅滞や小頭症を持つ患者さんの中に、未診断のまま含まれている可能性があります。
臨床的特徴(症状)
16q22欠失症候群の症状は、「どの遺伝子が、どれくらいの範囲で欠失しているか」によって個人差(可変表現性)がありますが、多くの症例で共通して見られる特徴があります。
特に「出生前からの成長の遅れ」「小頭症」「知的発達の遅れ」が三大徴候とされています。
1. 成長障害・栄養
- 子宮内発育不全(IUGR): 妊娠中から胎児の体重が増えにくく、予定日に対して小さく生まれる(SGA: Small for Gestational Age)ことが多いです。
- 出生後の成長障害: 生まれてからも身長の伸びや体重増加が緩やかで、成長曲線の下限を下回る低身長が見られることが一般的です。
- 摂食障害: 乳児期にミルクを飲む力が弱い(哺乳不良)、吐き戻しが多い(胃食道逆流)、固形物を飲み込めないといった問題が生じやすく、経管栄養などのサポートが必要になる場合があります。
2. 神経発達・認知機能
ほぼ全例で何らかの発達への影響が見られます。
- 知的障害(ID): 軽度から重度まで幅がありますが、中等度〜重度の知的障害を伴うことが多いと報告されています。
- 全般的な発達遅滞(GDD):
- 運動: 首すわり、お座り、歩行開始などのマイルストーンが遅れます。
- 言語: 言葉の遅れが顕著な傾向があります。理解(受容言語)に比べて、発語(表出言語)が遅れることが多く、数語の単語のみ、あるいは非言語的なコミュニケーションが中心となる場合もあります。
- 筋緊張低下(Hypotonia): 乳幼児期に体が柔らかく、ぐにゃぐにゃしている(フロッピーインファント)状態が見られることがあります。これは運動発達の遅れの一因となります。
3. 頭部・顔貌の特徴(Craniofacial features)
「小頭症」は本疾患の非常に重要な特徴です。
- 小頭症(Microcephaly): 頭囲が成長曲線の下限(-2SD)を下回ることが多く、年齢とともにその差が目立つようになる(進行性)ことがあります。これは脳の容量が小さいことを示唆しており、CTCF遺伝子の欠失と強く関連しています。
- 特徴的な顔貌:
- 成長とともに顔つきの特徴がはっきりすることがあります。
- 長く平坦な人中(鼻の下の溝)
- 薄い上唇(Thin upper lip)
- 耳の位置が低い、または耳の形の異常
- 眼瞼裂斜下(タレ目傾向)や眼間開離
- 口蓋裂(口の中の天井が割れている)や口唇裂:これは16q22.1にあるCDH1遺伝子の欠失に関連して起こるリスクがあります。
4. 行動・精神面の特性
- 自閉スペクトラム症(ASD)様行動: 視線を合わせにくい、反復行動、こだわり、対人関係の構築が苦手といった特徴が見られることがあります。
- その他の行動特性: 多動、注意欠陥(ADHD)、感覚過敏、睡眠障害、かんしゃく、攻撃的行動などが報告されています。性格的には、人懐っこく社交的な一面を持つお子さんもいます。
5. 身体的合併症・奇形
欠失範囲によっては、内臓の形成に影響が出ることがあります。
- 心疾患: 心室中隔欠損症(VSD)や心房中隔欠損症(ASD)などの先天性心疾患が約20〜30%に見られます。
- 腎・尿路系: 水腎症や腎臓の形態異常が見られることがあります。
- 骨格: 側弯症、指の変形(第5指の湾曲や短縮)、関節の緩さ、あるいは逆に関節拘縮が見られることがあります。
その他: 肛門閉鎖などの消化管奇形が稀に報告されています。
原因
16番染色体長腕(16q22)における遺伝子の欠失(ハプロ不全)が原因です。
なぜ、この欠失が上記のような多様な症状を引き起こすのかについて、主要な責任遺伝子の働きから解説します。
1. 主要原因遺伝子:CTCF
16q22.1領域に含まれるCTCF遺伝子は、本症候群の症状形成において最も中心的な役割を果たしていると考えられています。
- 役割: CTCFタンパク質は、DNAの立体構造(クロマチン構造)を制御する「建築家」のような役割を担っています。DNAを適切なループ状に折りたたむことで、何千もの他の遺伝子のスイッチをONにしたりOFFにしたりする(遺伝子発現制御)極めて重要な機能を持ちます。
- 欠失の影響: CTCFが半分になると(ハプロ不全)、細胞内の多くの遺伝子の制御バランスが崩れます。特に脳の神経細胞の発達や増殖に影響を与え、小頭症や知的障害を引き起こす直接的な原因となります。
2. その他の関連遺伝子
16q22領域には他にも多くの遺伝子が含まれており、これらが一緒に失われることで症状が修飾されます(隣接遺伝子症候群)。
- CDH1 / CDH3 (Cadherin): 細胞同士を接着させるタンパク質を作ります。この遺伝子の欠失は、口唇口蓋裂の発生リスクを高めることが知られています。
- NUDT21: 神経精神症状に関与している可能性が研究されています。
- ZNF469: 角膜や皮膚の結合組織に関わります(通常は両方の欠失で脆性角膜症候群になりますが、片方の欠失でも軽微な影響がある可能性があります)。
3. 発生機序
- De novo(新生突然変異): 16q22欠失症候群のほとんどのケースは、両親からの遺伝ではなく、受精の過程(精子や卵子が作られる時、または受精直後)で偶然生じた突然変異です。この場合、両親の染色体は正常であり、次子への再発リスクは非常に低い(一般集団と同程度)とされています。
- 家族性(親の転座): 稀に、親が「均衡型転座(染色体の場所が入れ替わっているが量は正常)」を持っており、そこから不均衡な欠失が生じて遺伝する場合があります。この場合は、次子への再発リスクが高くなるため、詳細な検査と遺伝カウンセリングが必要です。
治療方法
現時点で、欠失した染色体領域を修復するような根本的な遺伝子治療法は確立されていません。
治療は、患者さん一人ひとりの症状に合わせた対症療法と、持っている能力を最大限に引き出すための療育的支援が中心となります。多職種によるチーム医療が重要です。
1. 成長・栄養管理
- 栄養サポート: 乳児期の哺乳不良や体重増加不良に対しては、高カロリーミルクの使用や、必要に応じて経管栄養(鼻チューブや胃ろう)を行い、脳と体の成長に必要な栄養を確保します。
- 摂食指導: 嚥下機能に合わせた食事形態の調整や、摂食訓練を行います。
2. 発達・教育的支援(早期療育)
診断後、早期からの介入(Early Intervention)が予後を改善します。
- 理学療法(PT): 筋緊張低下や運動発達の遅れに対し、姿勢保持や歩行に向けた訓練を行います。
- 作業療法(OT): 手先の不器用さ(微細運動)の改善や、感覚統合療法、日常生活動作(着替え、食事)の自立支援を行います。
- 言語聴覚療法(ST): 言葉の遅れに対し、発語の練習だけでなく、サイン言語、絵カード、AAC(補助代替コミュニケーション)機器などを活用し、コミュニケーション手段を確立します。
- 教育環境: 知的障害の程度に合わせ、特別支援学級や特別支援学校など、個々の特性に応じた教育プラン(IEP)を作成します。
3. 合併症の治療
- 外科的治療: 口唇口蓋裂、先天性心疾患、停留精巣などがある場合、適切な時期に手術を行います。
- てんかん: 脳波異常や発作がある場合、抗てんかん薬による治療を行います。
- 眼科・耳鼻科: 斜視や難聴(中耳炎によるものを含む)に対し、眼鏡や補聴器、定期的なフォローアップを行います。
4. 心理・行動面のサポート
- 行動療法: かんしゃくや多動、自閉傾向に対し、応用行動分析(ABA)などのアプローチが有効な場合があります。
- 環境調整: 刺激に敏感な場合、落ち着ける環境作りを行います。睡眠障害がある場合は、生活リズムの調整や薬物療法を検討します。
5. 遺伝カウンセリング
- 本疾患は希少であり、情報の少なさや将来への不安を持つご家族への心理的サポートが不可欠です。
- 次子の妊娠を考えている場合など、親の染色体検査(転座の有無の確認)を含め、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーと相談する機会を持つことが推奨されます。
まとめ
16q22 deletion syndromeは、16番染色体の一部(主にCTCF遺伝子を含む領域)が欠失することで生じる希少な疾患です。
子宮内からの成長のゆっくりさ、小頭症、発達の遅れが主な特徴ですが、症状の程度は一人ひとり異なります。
言葉の発達に時間がかかることが多いですが、理解する力はゆっくりと育っていきます。また、人懐っこい笑顔を見せてくれるお子さんもたくさんいます。
根本的な治療法はありませんが、合併症(心疾患や口蓋裂など)への適切な医療ケアと、早期からの療育(PT/OT/ST)を継続することで、その子らしい成長と自立を支えていくことができます。ご家族だけで抱え込まず、医療・福祉・教育の専門家と連携しながら、長い目で成長を見守っていくことが大切です。
参考文献
- Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 16q deletions from 16q22. (Patients guide).
- (※患者家族向けに最も詳細かつ分かりやすく書かれたガイドライン。16q22領域の欠失に伴う症状や生活上のアドバイスが網羅されています。)
- Gregor, A., et al. (2013). De novo mutations in the genome organizer CTCF cause intellectual disability. American Journal of Human Genetics, 93(1), 124-131.
- (※16q22.1領域のCTCF遺伝子が知的障害と小頭症の主要な原因であることを特定した重要論文。)
- Hiraide, T., et al. (2019). De novo CTCF mutations in phenotypic spectrum of intellectual disability. Journal of Human Genetics.
- (※CTCF関連障害の臨床的特徴(成長障害、小頭症、特徴的顔貌)についての詳細な報告。)
- ClinGen Dosage Sensitivity Curation: CTCF (Haploinsufficiency score: 3 – Sufficient evidence).
- (CTCF遺伝子のハプロ不全(欠失)が疾患を引き起こすことの科学的根拠を評価したデータベース。)
- DECIPHER Database: Genomic coordinates and phenotype data for 16q22 deletions.
- Zweier, M., et al. (2019). Clinical and mutational spectrum of neurodevelopmental disorders caused by CTCF loss-of-function variants. Genetics in Medicine.
- (※16q22.1欠失症候群とCTCF点変異症例の比較や、臨床像のスペクトラムについての包括的な研究。)
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