17p12 deletion syndrome

Posted on 2026年 1月 20日

別名・関連疾患名

  • 圧迫麻痺性遺伝性ニューロパチー(Hereditary Neuropathy with liability to Pressure Palsies; HNPP)
  • 遺伝性圧脆弱性ニューロパチー
  • トマキュラニューロパチー(Tomaculous neuropathy)
  • PMP22欠失症候群(PMP22 deletion syndrome)
  • 17p12モノソミー(Monosomy 17p12)

※重要な位置づけ:

「17p12 deletion syndrome」という染色体異常の名称は、臨床現場では「圧迫麻痺性遺伝性ニューロパチー(HNPP)」という疾患名で呼ばれることがほとんどです。

本記事では、17p12領域の欠失によって引き起こされるHNPPの病態を中心に解説します。ちなみに、全く同じ領域が「重複(欠失の逆)」すると、「シャルコー・マリー・トゥース病 1A型(CMT1A)」という別の神経疾患になります。

対象染色体領域

17番染色体 短腕(p)12領域

本疾患は、ヒトの17番染色体の短腕にある「12」と呼ばれるバンド領域において、約1.4メガベース(Mb)のDNA配列が欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じます。

【ゲノム上の詳細と責任遺伝子】

この欠失領域には、末梢神経の機能維持に決定的な役割を果たす遺伝子が含まれています。

  • PMP22 (Peripheral Myelin Protein 22):
    • 本症候群の症状を引き起こす主役(責任遺伝子)です。
    • PMP22遺伝子は、末梢神経の「軸索(電線)」を取り巻く「髄鞘(ミエリン:絶縁体のカバー)」を構成するタンパク質を作ります。
    • 17p12欠失により、この遺伝子が片方失われると、作られるPMP22タンパク質の量が半分になります(ハプロ不全)。
    • その結果、ミエリンの構造が不安定になり、物理的な圧力に対して極端に弱くなってしまいます。

発生頻度

比較的頻度は高いが、見逃されている(過少診断)可能性が高い

希少疾患の中では比較的頻度が高い疾患ですが、症状が軽微であったり、一過性であったりするため、診断に至っていない「隠れた患者さん」が多く存在すると考えられています。

  • 推定頻度: 人口10万人あたり約2〜5人、あるいは50,000人に1人程度という報告があります。

CMT1Aとの比較: 同じ領域の重複であるCMT1A(シャルコー・マリー・トゥース病1A型)の方が臨床的には頻度が高く報告されていますが、これはCMT1Aの方が症状が持続的で診断されやすいためであり、潜在的なHNPPの頻度はもっと高いと推測されています。

臨床的特徴(症状)

17p12 deletion syndrome(HNPP)の最大の特徴は、疾患名が示す通り「機械的な圧迫(Pressure)に対して、神経麻痺(Palsy)を起こしやすい(Liability)」という点です。

日常生活の些細な動作がきっかけで、手足のしびれや脱力が生じます。

1. 反復性の末梢神経麻痺(中核症状)

軽微な圧迫や牽引によって、急に(急性)、痛みなく(無痛性)、単一の神経が麻痺(単ニューロパチー)し、数日から数週間かけて自然に回復する、というエピソードを繰り返します。

  • 好発部位と症状:
    • 腓骨神経(ひざの外側):
      • きっかけ: 足を組んで座る、あぐらをかく、正座、長靴のゴムによる圧迫など。
      • 症状: 下垂足(Drop foot)。足首が上に反らせなくなり、歩くときに足先を引きずるようになります。
    • 尺骨神経(ひじの内側):
      • きっかけ: 机に肘をついて本を読む、肘を曲げたまま長時間電話をする、固いアームレストに腕を置くなど。
      • 症状: 小指と薬指のしびれ、手の力が入りにくい(鷲手変形)。
    • 橈骨神経(二の腕):
      • きっかけ: 腕枕をして寝る(ハネムーン麻痺)、椅子に腕をかけて寝る(サタデーナイト麻痺)。
      • 症状: 下垂手(Wrist drop)。手首がダラリと下がり、持ち上げられなくなります。
    • 正中神経(手首):
      • きっかけ: キーボード操作などの手首の酷使。
      • 症状: 手根管症候群(親指から中指のしびれ)。本症候群では両側性に発症しやすい特徴があります。
  • 経過:
    • 多くの麻痺は、圧迫の原因を取り除けば、数日〜数週間、長い場合は数ヶ月かけて自然に回復します。
    • しかし、何度も繰り返すと完全に回復せず、軽度の筋力低下や感覚鈍麻が残ることがあります。

2. 発症年齢と経過

  • 発症時期: 10代〜20代の思春期から若年成人期に最初の麻痺エピソードを経験することが多いですが、小児期に発症する場合や、高齢になって初めて診断される場合もあります。
  • 個人差: 全く無症状のまま生涯を過ごす人から、頻繁に麻痺を繰り返して日常生活に支障をきたす人まで、同じ欠失を持っていても症状の程度には幅があります(可変表現性)。

3. 慢性的な神経症状

繰り返す麻痺とは別に、慢性的な神経障害が見られることがあります。

  • シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)様の症状:
    • 軽度の高アーチ足(凹足:Pes cavus)
    • 腱反射の消失(膝やアキレス腱を叩いても反応しない)
    • 遠位筋(手足の先)の軽度の筋力低下や筋萎縮
    • これらはCMT1Aに似ていますが、一般的にHNPPの方が症状は軽度です。

4. 感覚障害

  • 多くの患者さんで、麻痺部位以外の広範囲にわたって軽度の感覚低下(触った感じが鈍いなど)が見られることがありますが、生活に支障がないレベルであることが多く、本人も気づいていない場合があります。
  • 通常、痛み(神経障害性疼痛)は伴いませんが、稀に痛みを訴えるケースもあります。

5. その他の稀な症状

  • 脳神経障害: 極めて稀ですが、顔面神経麻痺や難聴などが報告されています。
  • 中枢神経症状: 通常は中枢神経(脳・脊髄)は侵されませんが、稀に脳の白質にMRI上の変化が見られることがあります(症状とは直結しないことが多いです)。

原因

17番染色体短腕(17p12)の1.4Mb欠失による、PMP22遺伝子のハプロ不全が原因です。

1. PMP22遺伝子とミエリンの役割

神経を電線に例えると、中心の銅線が「軸索」、周りのゴム被膜が「ミエリン(髄鞘)」です。

PMP22は、このミエリンを多層に巻き付け、コンパクトに安定させるための「接着剤」や「留め具」のような役割を果たしています。

2. なぜ「圧迫」に弱くなるのか?

  • ハプロ不全: 遺伝子が欠失してPMP22タンパク質の量が半分になると、ミエリンの巻き方が緩くなります。
  • トマキュラ(Tomacula)形成:
    • 顕微鏡で神経を観察すると、ミエリンが部分的にソーセージのように分厚く膨らんでいる構造が見られます。これを「トマキュラ(Tomacula)」と呼びます(ラテン語でソーセージの意味)。
    • 一見、分厚くて丈夫そうに見えますが、実は構造的に非常に脆く、神経の通り道が狭い場所(手首や肘など)を通る際や、外から圧力がかかった際に、容易にミエリンが崩壊したり、電気信号がブロックされたりしてしまいます。これが「圧脆弱性」の正体です。

3. 遺伝形式

  • 常染色体顕性(優性)遺伝:
    • 親から子へ50%の確率で遺伝します。
    • 患者さんの約80%は親からの遺伝であり、約20%はDe novo(突然変異)です。
    • 親が診断されておらず、子供が診断された後に親を調べると、実は親もHNPPだった(「よく足がしびれる体質だと思っていた」)というケースが頻繁にあります。

診断方法

「痺れやすい」という症状だけでは診断が難しいため、以下の検査が行われます。

  • 神経伝導速度検査(NCS):
    • 最も重要なスクリーニング検査です。
    • 麻痺していない神経を含め、全身的に「遠位潜時の延長(手足の末端での伝導遅延)」や「伝導ブロック(圧迫部位での信号途絶)」という特徴的なパターンが見られます。
  • 遺伝学的検査(FISH法 / マイクロアレイ法):
    • 17p12領域の欠失を確認することで確定診断となります。現在ではこれがゴールドスタンダードです。
  • 神経生検(以前の方法):
    • 足の神経の一部を採取して顕微鏡で見る検査です。特徴的な「トマキュラ(ソーセージ様肥厚)」が確認できますが、遺伝子検査が普及した現在は、侵襲性が高いため行われることは少なくなりました。

治療方法・管理

17p12欠失そのものを修復する根本治療法はありません。

治療の最大の柱は、「予防(生活指導)」と「対症療法」です。

「自分の神経が物理的に脆い」ことを理解し、神経を守る生活習慣を身につけることが何よりの治療となります。

1. 生活指導・予防(最も重要)

日常生活の中で、神経への圧迫や牽引を避ける動作を徹底します。

  • 避けるべき動作:
    • 足を組む、正座、あぐら、横座り。
    • 頬杖をつく、机に肘を強く当てる。
    • 重い荷物を肩にかける、リュックサックを長時間背負う。
    • 腕枕をする、固い床で寝る。
    • 長時間の同じ姿勢(デスクワークなどでは頻繁に休憩をとる)。
  • 環境調整:
    • 肘や膝にクッション性の高いサポーター(パッド)を着用する。
    • デスクワークの際、アームレストに柔らかいジェルパッドを敷く。
    • 寝具を工夫する。

2. 急性期の麻痺への対応

  • 保存的療法: 麻痺が出た場合、基本的には自然回復を待ちます。無理に動かさず、かといって固定しすぎず、過度な圧迫を避けて安静にします。
  • 装具療法:
    • 下垂足: 足首を支える装具(AFO: 短下肢装具)やオルトップを使用し、転倒を防止します。
    • 下垂手: 手首を支えるスプリントを使用し、手の機能を補助します。

3. 手術についての注意点

  • 通常の手根管症候群などでは減圧手術(神経の通り道を広げる手術)が行われますが、HNPPの患者さんの場合、手術の効果については議論があります。
  • 手術自体が神経への侵襲となったり、傷跡が新たな圧迫源になったりするリスクがあるため、慎重に判断されます。一般的には、保存的療法で改善しない重度の場合にのみ検討されます。

4. 遺伝カウンセリング

  • 家族内発症が多い疾患であるため、血縁者(親、兄弟、子)への影響について話し合います。
  • 無症状の家族が検査を受けるメリット(予防行動がとれる)とデメリット(将来の不安)を整理します。

まとめ

17p12 deletion syndrome(HNPP:圧迫麻痺性遺伝性ニューロパチー)は、17番染色体の一部が欠けることで、神経のカバー(ミエリン)が圧力に対してデリケートになってしまう体質です。

「ちょっと肘をついただけ」「足を組んだだけ」で麻痺が起きるため、最初は驚かれるかもしれませんが、この病気の最大の特徴は「回復する力を持っている」ことです。

多くの麻痺は一時的なものであり、適切な知識を持って「神経を圧迫しない生活スタイル」を身につければ、重篤な障害を残すことなく、仕事や趣味を楽しみながら一生涯を過ごすことが十分に可能です。

「神経を守る工夫」を日常に取り入れ、もし麻痺が起きたときは焦らず専門医と相談しながら回復を待つ。その付き合い方を知ることが、この体質とうまく生きていく鍵となります。

参考文献

  • GeneReviews® [Internet]: Hereditary Neuropathy with Liability to Pressure Palsies. Initial Posting: September 28, 1998; Last Update: September 24, 2020. Authors: Bird TD.
    • (※HNPPの臨床マネジメント、遺伝学に関する最も信頼できる包括的なガイドライン。)
  • Li, J., et al. (2013). 17p12 Deletions. In: Pagon RA, et al., editors. GeneReviews®.
  • Chance, P.F., et al. (1993). DNA deletion associated with hereditary neuropathy with liability to pressure palsies. Cell, 72(1), 143-151.
    • (※17p12欠失とHNPPの関連、およびCMT1Aとの相反関係(reciprocal nature)を解明した歴史的かつ基礎的な論文。)
  • Tyson, J., et al. (1996). Hereditary neuropathy with liability to pressure palsies: a clinical, electrophysiological and genetic study of a large Welsh family. Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry.
  • Mouton, P., et al. (1999). Spectrum of clinical and electrophysiologic features in HNPP patients with the 17p11.2 deletion. Neurology.
    • (※遺伝子学的に確認されたHNPP患者における臨床症状の多様性と電気生理学的特徴を解析した研究。※注:論文タイトル等で古い表記として17p11.2とされることがありますが、現在の地図では17p12領域のPMP22を指します。)
  • ClinGen Dosage Sensitivity Curation: PMP22 (Haploinsufficiency score: 3 – Sufficient evidence).
    • (PMP22遺伝子のハプロ不全が疾患を引き起こすことの科学的根拠評価。)

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